63話 イベント前配信
イベント一週間前、参加できる人が参加して行う実質リハーサル配信が行われることになった。
僕は学生なので夜は大抵時間がある。
既に運営の方は準備を済ませており、カスタムマッチのサーバーを立てていた。
僕も配信三十分前に配信準備を終わらせて、サーバーに入ることにする。
シャベルの4Kテレビのグループには工作さんが既に入室してた。
前回の顔合わせ、その他にも何度か練習で話しているので打ち解けてはいる...はずだ。
僕は一度深呼吸をして通話部屋に入る。
入室音が聞こえた後、工作さんの声が聞こえた。
「あ、狐狐さん!こんばんは!」
「はい、こんばんはです」
僕はコミュ障で何を話せばいいか分からず、工作さんも女の人と話し慣れていないのか僕達の間に静かな時間が流れる。
静寂に耐えきれなかった工作さんが口を開く。
「イベントまでもう一週間前ですか...」
「ですね、気が付いたらすぐ本番です...」
「既に俺緊張してますよ...」
「僕もです...」
お互いに緊張が伝わるような元気のない声。
でもどこかワクワクしたような感情も声から伝わってきた。
そしてまた少しの間お互いが話さなくなり、再度工作さんが話を切り出す。
「そういえば今日はレヴィさんがお休みみたいですね」
「あ、はい、僕の方にも連絡来ました」
「今回のカスタムマッチは四人パーティーですか...」
「人数差大きいですからね、このゲーム...」
「まあでも、練習なので気楽に楽しみましょう」
「そうですね...!」
そこで入室音が聞こえた。
どうやらキラリちゃんがやって来たようで、元気いっぱいの声が響く。
「こんばんは〜!」
「吉良さん、こんばんは」
「こんばんは」
「工作さん、狐狐ちゃんと二人っきりで何話してたの〜?」
「え?い、いや...緊張して何にも話せなかったけど...
で、ですよね?狐狐さん」
「う、うん...!」
「本当かな〜?
狐狐ちゃんは可愛いから、モデリングにしか興味がないって言われてる工作さんも狙ってるんじゃないかなって」
「モデリングしかしてこなかった男がいきなり女性と話せると思わない事です...!」
工作さんのオドオドしたような声から顔が赤くなっていると予想がつく。
「まあ、私は狐狐ちゃん狙ってるけどね!」
「なっ!?」
「狐狐ちゃんこのイベント終わった後もコラボしよ〜!」
「い、いいです...けど...」
「やった!その時は工作さんも誘うから!」
「お、俺もですか?」
「当たり前だよ!4Kテレビはこのイベントだけで終わらせないぞ!」
キラリちゃんの宣言が聞こえた数秒後、きのこさんが通話部屋に入室してきた。
配信開始十分前である。
「結構危なかったのです...こんばんはなのです...」
「きのこさんこんばんは」
「きのこちゃんこんばんは〜!」
「あ、こんばんは」
「これでみんな揃ったね!」
「配信待機場はもう作ってるのです」
僕も待機場は作っており、時間になれば配信開始をするだけだ。
なんだかんだでまもなく配信開始、僕はトイッターで告知する。
【ML杯カスタム】練習でも勝ちたい...!【九尾狐狐/吉良キラリ/工作造/このきのこ】配信中
@九尾狐狐 Monster Live三期生
練習カスタム始まります!
エイム練習の成果が出て欲しい...
通話部屋にきたスタッフさんから本配信が開始された。
練習だというのに、解説実況を任されているVtuberさんも配信をするとのこと。
僕は待機画面から四人のアバターが映るゲーム画面に切り替え、四人で視聴者挨拶する。
「「「「ここにちは〜」」」」
【ここにちは〜!】
【ここにちは!】
【ここにちは】
【レヴィちゃんはお休みか】
「今日はリハーサルを兼ねた練習カスタムということで、できればいい戦績残したいですね」
「レヴィちゃんがお休みだから四人での参加になるんだよね〜...」
「レヴィちゃんも忙しいのです」
「本番当日は参加できるそうなので、今日はこの四人で頑張りましょう」
「が、頑張りましょう...!」
少しトークを繋いでいると、運営からゲーム開始のチャットが送られてきた。
パーティーリーダーの僕が準備完了と返事する。
全部のパーティーが準備完了したのか、カウントダウンが始まった。
画面はロビーから鳥の背中に移り変わり、何組かのパーティーは即降下していく。
「よし...行きましょう!」
「了解!」
「頑張りましょう!」
「いくのです」
僕達のパーティーもマップの少し端で降下し、戦場へ向かうのだった。
配信開始から数時間、最後の試合が終わりパーティーも次々にサーバーから抜けていく。
結果をいうと、僕達のパーティーは良くも悪くもない戦績となった。
強いかと言われれば強いかもしれないが、脅威ではないくらいの印象だろう。
今回の試合ではやはりと言うべきか、ニコさんのパーティーがかなりの差をつけてトップだった。
ニコさんの別ゲームで鍛えた素早い操作、ゲームセンス、勝負感の強さがほぼ全てのパーティーに刺さっていた印象だ。
優勝候補予想はニコさんのパーティーだろう...
「みんな強かったですね...」
「そうですね...俺なにもできなかったですよ...」
「一回ニコさんのパーティーと戦ったけどあれ強すぎでしょ...」
「やばかったのです...」
【みんな疲れとる...w】
【でも悪くはないんじゃない?】
【伸びしろはある】
【キラリちゃんを活かす立ち回りすればワンチャン?】
コメント欄にさまざまな作戦や立ち回りのアドバイスが書かれる。
そのコメントをボーッと読む。
僕達は試合の疲労もあり、解散することにした。
「とりあえず配信終わりますか」
「終わりましょうか」
「じゃあ、最後の挨拶は元気に行こ!」
「そうですね、せーのでいくのです」
「せーの...」
「「「「おつここ〜」」」」
【おつここ〜!】
【おつここ!本番頑張れ!】
【おつここ!】
【おつここ〜】
@九尾狐狐 Monster Live三期生
今日はお疲れ様でした
楽しかったけどやっぱり勝ちたいですね...
本番までにまた練習配信しようかな...




