51話 都会最終日①
楽しかった日々はあっという間に過ぎていき、今日が都会最後の日。
明日の朝の飛行機で帰るため今日は空港近くのホテルに泊まる予定だ。
雑談配信もゲーム配信もやって、カラオケ配信も大盛り上がりだった。
何か他にやりたいことがないか考えるが内容の濃い日々を送ってきたせいか、何も思い浮かばない。
「もう歩ちゃん帰っちゃうのか〜...」
「寂しくなるわね...」
「うん...」
一緒に最後のお昼ご飯を食べ終わると、三人が悲しげな表情で僕を見る。
そんな目をされたら僕も悲しい気持ちになってしまう。
僕はハッと思い出したように切り出す。
「えっと...さ、最後に観光したいな...!」
都会に来たのに観光をしていなかった。
買い物や外食で外には出ていたが、イベントや配信で頭がいっぱいで有名な観光名所に行けていない。
僕は有名なタワーを思い浮かべながら三人に提案する。
「そうね、一番の名所に行ってなかったわね」
「歩ちゃんは高所恐怖症じゃない?大丈夫?」
「僕は安全って分かれば大丈夫かな」
「その気持ち分かるわ」
「私も高い所大丈夫」
「そうと決まれば行くぞ〜!」
僕はお世話になった成美ちゃんの両親にお礼を言って、忘れ物の無いように家を出た。
大きめのキャリーケースを転がしながら、成美ちゃんの案内の元タワーを目指す。
「おぉ...!」
電車に揺られること十数分、窓の外に映るのはテレビでよく見るタワー。
生で見るのは初めてで、自然と窓に吸い付くように見てしまう。
「実際に見るのは初めてなのよね?」
「うん、テレビではよく見るんだけど」
徐々にタワーに近付き、僕のテンションも上がっていく。
やがて電車はタワー近くの駅に到着する。
相変わらずの人混みを四人で進み、駅を出ると目の前には巨大なタワーがそこに建っていた。
「でっかい...」
「うん、すごく高い」
下から眺めているだけでも圧巻の存在感だ。
「早速登ろう!」
恵ちゃんに引っ張られるように僕達はタワーに入場していくのだった。
中は既に結構な人数が入場検査を受けている。
有名な観光地なせいか、警備がばっちりだ。
ふと前にいる人に目を向けると、キャリーケースの中も確認しているようだった。
「え...キャリーケースも見せるの?」
「まあ、爆弾とか持ち込まれてしまったら大変だからね」
「そんな人はいないと思うけど、確実にいないとは言えないからね〜」
「女性の警備員がいるから大丈夫」
「うん...」
流石にキャリーケース自体を持ってくる人は少ない。
だが、スムーズに行われていた検査がキャリーケースを持った人で一度止まる。
そんな状況を目の前に見ながら、僕の番が来た。
「失礼します」
「あ...お願いします...」
キャリーケースの中を慣れた手つきで調べる。
かなり速い動きなのだが、見る場所が多いため普通の人以上に時間が掛かる。
後ろから視線を感じる錯覚を起こす。
僕は冷や汗を額に浮かべ、体感数十分の検査を終えるのだった。
「怖かった...」
「大丈夫?」
「そんなに怯えなくて大丈夫よ」
「そうそう、もしもの時は守ってあげるからね〜」
そう言いながら恵ちゃんが僕の頭を撫でる。
朝整えた髪がくしゃくしゃになってしまう。
「撫でないで...!」
「ほら、エレベーターに乗るわよ」
警備員に連れられて来たのは、豪華な作りの扉をしたエレベーター。
本当は何組かが同時に乗るらしいが、検査が長引いているのか僕達の後ろに誰もいない。
まさかの貸切でエレベーターに乗る。
「歩ちゃん運良いね」
「貸切は初めてだわ」
「こうしてみるとこのエレベーター広いね」
「そろそろ動き始めるわよ」
成美ちゃんの声に合わせるように、少し体に圧を感じエレベーターが動き始めた。
タワーの説明がアナウンスで流れ、扉上にある画面にタワーの映像が映る。
凄まじい速度で登り、かなり高いタワーをものの数分で登り切った。
『到着いたしました』
そのアナウンスで扉が開く。
その先にはガラス張りの壁、辺り一面の大空が視界に広がった。
「凄い...!」
「凄いよね、下見てみてよ」
恵ちゃんに言われるまま下に視線を向ける。
僕が迷い迷った都会、その街並みが広がっていた。
入り乱れた道、行き交う電車がまるで作り物のように感じる。
それほど高い場所にいるのだと改めて実感した。
「歩ちゃん、こっち来て」
「どうしたの?」
「ここ立てる?」
優里ちゃんの足元にはガラス張りの床、高所恐怖症にはとんでもない場所だ。
でも僕は大丈夫、そう思って立ち下を見る。
恐怖よりも凄いといった感情が湧き上がった。
「どうかしら?初めてのタワーは」
「来てよかった...!」
「良かった良かった!」
「お土産も買っていくといい」
タワーの絵が描かれたクッキーやタワーの写真がついたケースに入ったチョコなど、このタワー限定のお土産が多く置かれていた。
僕は思い出にと欲しいものを買っていく。
あげる人もいないので自分が欲しいものだけが買える。
「歩ちゃんそろそろ移動する?」
「もうちょっと時間はあると思うけど...」
「また迷ったら大変よ」
「う...早めに移動します...」
「よろしい!」
景色も堪能してお土産も買った。
大満足でまたエレベーターに乗る。
「時間が経つのはあっという間だね〜」
「うん、早い」
「でもすごく充実していたわ」
「ずっと楽しかった...!」
近付く別れの時間を忘れるように思い出話に花を咲かせるのだった。




