50話 三期生カラオケ配信②(ドクロ視点)
「お疲れ様〜!」
「う...けほっ...」
「無理しないでね」
二曲目を歌った狐狐ちゃんが咳き込む。
声を聞く感じやっぱり歌い慣れていないんだろう。
コメントでも無理しないでほしいと言ったコメントが見える。
水を飲んで喉の痛みが落ち着いたのか、狐狐ちゃんはしょんぼりとしながら背中を丸めた。
「狐狐ちゃん、いっぱい歌って上手くなろう」
「うん...頑張る...」
我ながら良いフォローだと思う。
目の前にいる小動物のような可愛らしい少女、九尾狐狐のモデルが人間に化けたらこうなると思わせるほど作られたような可愛さだ。
鷲川歩ちゃん、コミュ障を克服して友達を増やす為にVtuberになった行動力のすごいコミュ障。
私も狐狐ちゃんと一緒に友達を増やせたら良いな。
私があまり感情が表に出なくなったのは小学生の頃からだ。
どうしてか分からないが、他人に恐怖心を抱いてしまうようになった。
目が合えば考えを見透かされるのではないか、体が触れれば傷つけられるのではないか。
次第に私は感情を隠すようになり、話す事も減っていった。
元から目がぱっちりと開いていた訳でもなく、表情豊かに顔が動く訳でもなく。
感情が伝わりにくいと言われていた顔はより一層固まっていった。
月日は流れ、私は高校を卒業。
親からは無理して働かなくても良いと言われるが、さすがにお金は稼がなくてはいけない。
「優里ちゃんは休みの日何してるの?」
「...テレビを見ます」
「そうなんだ〜」
私はコンビニでバイトをしながら、自分でもやっていけそうな仕事を探していた。
とある日、バイト先の先輩が休み時間にスマホを見せてきた、これが全ての始まりだ。
「優里ちゃんはVtuberって知ってる?」
画面に映っていたのはアニメに出てくるような二次元の女の子が本当にゲームをしながら配信をしているような光景。
私は久しぶりに自分で分かるくらいに顔が動いた。
私は人と対面するのが苦手だ、でもVtuberなら?
相手はコメントを打ってくるだけ、私がネットに流す個人情報は声だけ。
その日から食い入るようにVtuberの沼にハマるのだった。
そんなある日に見た配信、それがMonster Live三期生オーディションの告知だった。
私は迷わず応募する。
何か武器がなくてはこの時代最先端をいくコンテンツの一員になることは不可能だろう。
そこで思い付いたのが、ホラー耐性だった。
しかも三期生のコンセプト、妖怪にもマッチしている。
一次審査に受かり、面接でも淡々と回答していった。
緊張は元からしない体質なお陰で、全て完璧に答えられたと思う。
結果はコンビニのバイト中に届いた。
『合格』
その文字を見て、私は静かに高鳴る鼓動を抑える。
後日、そのコンビニのバイトを辞めた。
お世話になった先輩に何も言わずに辞めてしまったことが心残りだが、Vtuber活動に専念しようと思う。
モデルも完成していざ初配信だと意気込んで同僚との顔合わせに向かった。
そこで印象的な出会いをしたのが九尾狐狐だ。
本当に配信で話せるのかこっちまで不安に感じる。
だが、逆に言えば今までにないVtuberとなる。
デビューするVtuberはみんな初めからスラスラと一言一句間違う事なく話すのだ。
そんな中、超有名なVtuberグループのMonster Liveから現れるのが狐狐ちゃんだ、私の予想通り狐狐ちゃんは衝撃的な配信で一気に名を轟かせた。
「次はドクロちゃん歌う?」
少し昔のことを考えていると鳴子ちゃんがマイクを差し出してきた。
私は静かに受け取って、机に置かれたもう一本のマイクを狐狐ちゃんに渡す。
「え...?」
キョトンと目を丸くする狐狐ちゃん。
私はただ大丈夫と言って、狐狐ちゃんも分かる曲を入れた。
優しい応援歌のような曲。
イントロが始まると、狐狐ちゃんは体にギュッと力を入れて緊張し始める。
目は血走りそうなほど画面を凝視し、歌詞が出始めるのを待っているようだった。
私は静かに手を狐狐ちゃんの手のひらに重ねる。
「ひゃっ!?」
びっくりして手を引く狐狐ちゃん。
そして驚きの表情から一気に申し訳なさそうな顔に変わった。
きっと私の手を振り払ってしまったと思っているんだろう。
私は静かに手を差し伸べた。
「......」
「楽しもう」
狐狐ちゃんは静かに頷いて手を私の手に近付けた。
私と同じくらい小さな狐狐ちゃんの手が重なる。
狐狐ちゃんは顔を真っ赤にしながらも、手の力を抜いてくれた。
強張っていた体もリラックスできたのか少しダランとしている。
私がリードしよう、そう思っていつもよりも大きな声を出して歌う。
コメントでは奈女々ちゃんが運営チャットでバラしたのか、私と狐狐ちゃんが手を繋いで歌っていることが知れ渡っていた。
コメント欄はてぇてぇ弾幕が流れ、一部の界隈では筆が進んでいるらしい。
そんな凄まじい量の弾幕に埋もれるように一つのコメントが一瞬だけ流れた。
【楽しんでね、ドクロちゃん】
とある一人のアルバイト店員が一人のVtuberに向けて送ったコメントは弾幕に流されていく。
きっと見ている人はなんでもないコメントだと気にも留めないだろう。
だが、奇跡とは案外簡単に起こってしまうもので、私はその一瞬を見ることができ誰が書いたコメントか理解できた。
私の人生を変えてくれた先輩、冷たく接してしまった私に対しても変わらず温かく接してくれた。
あの時言えなかったお礼を伝えたい。
曲の最後、たった五文字に私の感情を包んでいた長い長い冬は終わりを告げようとしていた。
「「ありがとう」」
私の声は微かに震えていた。
ついに50話です!!
いつも読んでくださりありがとうございます!!




