41話 イベント午前の部
会場のライトが薄暗くなり、ファン達は静まった。
ステージに置かれた特大なスクリーンに光が灯る。
そこに映し出されたのは一期生の四人、ファン達は歓声を上げた。
『みんな〜!今日は来てくれてありがとう〜!』
ソラさんがファン達に手を振る。
それに応えるようにファン達はペンライトを振った。
イントロが流れ始め、興奮を表すようにペンライトが激しく揺れ動く。
モニターに映る一期生が歌い出す、まるで現実のように動くスカートやまるでそこにいるようなモデルの動き、ファン達の合いの手も相まって一瞬にして会場のボルテージはMAXになった。
一曲目のラスト、四人が綺麗にポーズを決めて曲が終わった。
会場を歓声が包み四人はリラックスした体勢になり話し始める。
『改めまして、みんな今日は来てくれてありがとう!』
『一曲目、どうだった?』
ソラさん、レミさんの声に大きな声で応えるファン達。
歌いながら動く為、休憩として曲の間にトークを挟む。
『遂に始まりましたね、Monster talk Live』
『今回は三期生も全員参加だから大人数だね〜』
『うむ、今まで以上に盛り上がりそうだな』
『そうだね、私たちも盛り上げよう』
数分のトークの後二曲目に入る。
二曲目はゆったりとした曲調の曲でペンライトの色も淡い色に変わりファン達もゆっくりとペンライトを振る。
一期生の先輩達はイキイキとした様子でライブを進めていった。
『それじゃあ次は二期生にバトンタッチです、二期生のみなさんよろしくお願いします』
『は〜い!』
ニコさんの声に元気に返事するパンさん。
二期生達が一期生達と入れ替わるようにモニターに映る。
ファン達は今日何度目かの歓声を上げ、二期生を向かい入れた。
『やあみんな、早速一曲目を披露するよ!』
ルーさんがそう言うと曲が流れ始める。
動物園で流れそうな楽しげな曲、二期生のテーマソングが流れペンライトが大きく揺れた。
『一曲目、二期生のテーマソングでしたー』
『イオの歌声はどうだったのだ?』
『いっぱい練習したもんねー』
『れ、練習なんてしていないのだ!
イオは天才なのだ〜!』
日頃は配信の小さな画面でしか見ることのできないてぇてぇ光景、それが今巨大なモニターでリアルタイムで映し出されている。
ファン達、そして僕はてぇてぇを感じ限界オタクになっていた。
『最後の曲行くよー』
『最後は私達Monster Liveのテーマソング!』
『『『『Monster Live!』』』』
その曲名にファン達は今日一番の声を上げた。
イントロが流れる間に一期生が画面の端から登場し、二期生達と混ざり合い八人が並ぶ。
その光景にファン達はペンライトで興奮を伝える。
僕は控室のモニターに釘付けになっていた。
気付けば目には涙が溜まり、自然と涙が溢れる。
「こ、狐狐ちゃん...!?」
「え?あ、ご...ごめん...」
「Monster Liveに入ってよかったね...」
「うん...」
「ほら、みんなで先輩達の姿を見るわよ」
僕達三期生は肩を並べて先輩達の姿を見ていた。
遠くにいるような存在、でも実際はすぐ近くにいる。
...いつか僕も、先輩達のように輝けるのかな
最後の曲が終わり、一期生二期生がトークをしている間に僕達もスタジオの方に移動する。
そこには体にバンドのようなものを巻いた先輩達が額に汗を浮かべていた。
三期生は午前の部は声と立ち絵のみの登場だ。
「それでは、ライブを終える前に三期生の皆さんを呼びましょう」
「そうだな」
「三期生のみんなおいで〜!」
ソラさんの合図で、事前に付けていたマイクの電源が入る。
今から話せば会場に声が届くだろう。
「みんな〜!楽しんでるか〜!」
奈女々ちゃんが早速大声を上げる。
ファン達もその声に乗せられるように大きな声で返した。
「三期生の赤桶奈女々だぞ〜!」
「鬼野鳴子よ」
「ガシャ=ド=クロです」
「きゅ、九尾...狐狐...です」
「まだ3Dの体がないから今は声だけの登場」
「いつかこの12人でライブをしたいのだ!」
「そうだねー」
「三期生は初めてのイベントよね?
私達のライブを見てどうだった?」
パンさんが僕達三期生に視線を送る。
僕達は目を合わせ、鳴子ちゃんから感想を言うことにした。
「そうね...私は先輩達の姿を見て、憧れを覚えたわ。
同じグループ、同じVtuberだけど凄く遠い存在に見えた...だけど私も先輩達と同じ舞台に立ちたいって、そう思ったの。
本当に最高のライブでしたわ」
「ふっふっふ...僕達はいつでも君達を歓迎するよ、いつか一緒にライブをしようじゃないか!」
「私は正直これがライブか〜って思ったな。
今までアーティストさんとかのライブに参加したことなかったから、今日こうやってファン達と一緒に盛り上がっている空間が新鮮に感じて、鳴子ちゃんと似てるけど私もライブする側で盛り上げたいなって思った。
先輩のみんなお疲れ様!最高だった!」
「ありがとう!そうだね、ライブは準備とか練習とか大変だけど最っ高に楽しいからずっとやっていたいんだよ!待ってるからね、三期生!」
「私は、本当に凄いと思った。
みんなダンスも上手いし歌も上手くて。
流石、先輩達だと感じた。
ライブお疲れ様でした、最高だった」
「ありがとうございます。
後輩達に良い姿を見せることができたようでよかったです」
三人が感想を言い終え、みんなの視線が僕に集まる。
僕は深呼吸をして話し始めた。
「ぼ、僕は今まで画面越しでしかこのイベントを見ることができなくて、いつか参加したいと思っていたんですけど、まさか自分が主催側になるとは思ってなくて、でも今こうやって先輩の皆さんや同期のみんなに支えられてここに立っていてもう、なんか...その...ありがとうございます...
本当に生まれてくれてありがとうございます...」
「はは、相変わらずだな。
狐狐もいつか私達と共に盛り上げていくんだぞ」
「ひゃ...」
ルドラさんの手が僕の頭に乗せられる。
僕は思わず声が漏れてしまった。
その後はルーさんを主体にいい感じにトークをまとめ、ライブは大盛り上がりで締め括られる。
昼前に一度解散となり、会場は立ち入り禁止となる。
その間ファン達は外食したり、外にあるグッズ販売場でグッズを買い揃えていた。
そして...
「狐狐ちゃん...本当に行くの...?」
「も、もちろん...!今回のイベント限定グッズを揃えるんだ...!」
僕もグッズ販売場に行こうとしていた。
それをドクロちゃんに腕を掴まれ引き止められる。
「人凄い、狐狐ちゃん押し潰される」
「が、頑張る...」
「スタッフさんに言えば買ってもらえるんじゃないの?」
「そうなのかな...」
「狐狐ちゃんグッズ買いに行きたいの?」
ソラさんが覗き込んでくる。
僕は驚きで体をビクつかせながらも頷いた。
「ファンなら声とか仕草で身バレする可能性あるからスタッフさんに言った方が確実だと思うよ」
「そうなんですね...」
「じゃあ早速スタッフさんにお願いしちゃおうか」
「あ、ちょっと...」
ソラさんに腕を引っ張られて手の空いているスタッフさんの元に連れて行かれた。
事情を説明するとスタッフさんは分かりました!と言い残し、ファンで溢れる販売場に向かう。
「大丈夫かな...」
「大丈夫じゃないかな...」
僕達は控室に戻る。
スタッフさんの無事を願いながら...




