40話 イベント開催!
遂にイベント当日...
僕達は早めにアラームを設定しておき、余裕を持って起床する。
みんなイベントが楽しみだったのか、目覚めが良くすぐに準備に取り掛かった。
「成美ちゃん、これ忘れてる」
「ありがとう、優里ちゃんはもう準備出来てるのかしら?」
「ばっちり」
「私も大丈夫だよ!」
「歩ちゃんは?」
「うん、僕も準備できた」
昨日の内にカバンに入れていたものを再確認する。
飲み物、のど飴、貴重品類忘れているものはないはずだ。
僕達は成美ちゃんの家を出て電車に乗り移動を開始する。
このイベントは少し遅めに開始されるので、ファンの人達も十分な睡眠をとってイベントに来ることができる。
移動も慌てなくて良いし。
僕もいつかこのイベントの抽選に当たる日を夢見ていたが、まさかイベント主催側になるとは予想も付かなかっただろう。
昔の自分に言っても何の冗談だとバカにされるに違いない。
そんなことを思いながら電車に揺られる。
会場には既に並んでいるファン達がいた。
流石に並んでいる人達を横目に会場に入れば中の人だとバレてしまう。
ライバー達は会場から少し離れた集合場所でマネージャーの車に乗り、会場に入る。
集合場所には既に葵さんの車があった。
「おはようございます」
「「「「おはようございます」」」」
「葵さん早いですね」
「正直私も緊張していて、早めに目が覚めてしまっただけです」
「そうなんですわね、任せてください!
今日のイベントは成功させますわ!」
「あんまり気を張りすぎないようにお願いしますね、気楽に楽しんでください。
......特に歩さん」
「え、ぼ、僕ですか...?」
急に名前を呼ばれ、ビクリとしてしまう。
確かに緊張はしているが程よい緊張感だと自分では感じていた。
「本番が始まると想像以上にプレッシャーが掛かるものです。焦ってしまわないように、もし焦って頭が真っ白になったら深呼吸をしてください」
「分かりました...!」
「それでは、行きましょうか」
葵さんの車に乗り会場へ向かう。
会場に着くとスタッフ用の裏道のような場所に入り、小さな入り口に通される。
ここには誰も入れないよう警備員が見張っていた。
中に入り昨日と同じ控室に着くと、既に先輩達は揃っている。
「お、来たのだ!」
身長の低い可愛らしい女の子、イオさんだ。
実はイオさんは中学生らしく、明るい性格の裏にはちょっとした事情があるそうだ。
だが本人は割り切っているのか、一期生、二期生の人達は事情を知っている。
三期生にもいつか説明したいとイオさん本人から言われた。
でも今日はイベント当日なのでそっちに集中しようということになっている。
「それじゃ、歩ちゃん頑張って!」
「落ち着くのよ」
「ファイト」
僕はアナウンスをするので事前に放送室に向かう。
アナウンスは開催30分前、20分前、10分前、開催宣言の四回。
今回はルーさん、ニコさん、ルドラさん、そして僕がアナウンスを行う。
このことは既に告知されており、トイッターではルドラさんと僕の並びに心配の声が多く届いた。
放送室では会場の様子がモニターに映り、そのモニターを見ながら待機していると開催30分前になった。
慣れた足取りでマイクの前にルーさんが座る。
ざわざわとしている会場にルーさんの声が響いた。
『やあみんな!ルーだ、今日は来てくれてありがとう!
開催30分前のお知らせと注意事項の説明だ。
このイベントは写真撮影、録画が禁止されているから怪しまれるような行為もやめるんだぞ、イベント中に通知が来ないよう携帯はマナーモードにしておくように!
それじゃあ、今日を最高の一日にしよう!』
いつもの通る声でアナウンスを終えたルーさんが控室に戻る。
10分間は短く、すぐに20分前のアナウンスの時間になった。
『皆さんおはようございます、ニコ・ウラナです。
今日はMonster talk Liveに来ていただきありがとうございます。
注意事項は先程ルーさんが説明した通りです。
ルールを守って今日という日を最高の一日にしましょう。
それでは開催までもうしばらくお待ちください。』
次の次が僕の番だ...
この10分間、時よ止まってくれと思うがすぐに時間は過ぎ去っていく。
『皆の者、ラゴン・ルドラだ。
もうすぐイベントが始まるな、楽しいからと言ってハメを外し過ぎるのはダメだぞ。
何度も言うがこのイベントは撮影禁止だ。
後日全アーカイブが配信されるからそれを見てくれ。
それでは、まもなく開催宣言だ。
後少しだけ待ってくれ』
ルドラさんもアナウンスを終え、いよいよ僕の番になる。
葵さんに言われた通り、いざやるとなると緊張が凄いことになっていた。
呼吸が上手くできず、自然と額に汗が浮かぶ。
「狐狐、落ち着いて話せば大丈夫だ」
「る、ルドラさん...」
「応援しているぞ」
「は、はい...!」
ルドラさんはそう言うと放送室を出た。
そして開催宣言の時間が訪れる。
「狐狐さん、開催宣言をお願いします!」
「ひゃいっ!?」
緊張感に包まれている時に大きな声を掛けられたせいで変な声が出てしまった。
僕はどうにか呼吸をしながら椅子に座る。
昨日練習したようにボタンを押して声を出した。
『も、Monster Liveファンの皆さん...!
こ、ここ...ここにちは!!
今日は、来ていただきありがとうございます!
は、早く推しに会いたいですよね...?
ということで、お待たせ致しました...!
それでは、Monster talk Live開催です...!』
会場から歓声が響き渡った。
僕は緊張から解き放たれ、気を緩ませてしまった。
『緊張したぁ...』
「.......!?」
さりげなく呟いた声が会場に響いた。
手元を見るとまだマイクが入ったまま...
僕は一瞬でパニックになってしまう。
ファンの人達は今か今かと開催を待っていて、遂に開催されると言う時に僕のこのミスである。
『あ...えっと...す、すみません...!
その...』
その時、静寂に包まれていた会場から声が聞こえた。
「狐狐ちゃん!!!落ち着いてぇえ!!!」
『あ、え...』
「狐狐ちゃんもう一回!!!」
「狐狐ちゃんかわいいぞぉ!!結婚してくれぇ!!」
『あ、結婚はお断りします...』
僕がそう言うと会場が笑いに包まれた。
僕は温かい雰囲気に思わず泣きそうになるが堪えて、もう一度開催宣言をする。
『すみません、テイク2行きます。
Monster talk Live!開催です!』
会場はまた歓声に包まれた。
いよいよ、イベントが始まる。




