35話 三期生のお泊まり会
お風呂から上がり、みんなからほのかに良い香りがする。
もちろん僕からも...
半袖半ズボンの可愛らしいパジャマに身を包んだ僕たちは歯磨きなど済ませ、成美ちゃんの部屋に戻る。
扉を開けると、床に4枚の布団が敷かれていた。
ご丁寧に三期生全員のイメージカラーの布団だ。
ちなみに鳴子ちゃんが黄色、奈女々ちゃんが赤色、ドクロちゃんが青色、僕が白色になっている。
「もう...私が準備するって言っておいたのに...」
「成美ちゃんの親は過保護だね〜」
「ありがたいことにね」
そういう成美ちゃんは満更でもなさそうな表情を浮かべていた。
とりあえず僕は自分の色の布団に向かう。
「歩ちゃんもう寝る?」
「う、うん...明日お出かけするんだよね?」
「まあ、家を出るのは昼前だけどね」
「あ、そうなの...?」
「というわけで...!」
恵ちゃんがカバンからお菓子をガサゴソと取り出し、部屋の隅に退けられていた机を布団の近くに運ぶ。
そして袋をひっくり返すといろんなお菓子が机に広がった。
「お菓子パーティーだ!」
「私は遠慮しようかしら...夜遅いし...」
「え」
「私も、太る...」
「えっ...」
「ぼ、僕も眠いかな...」
「そ...そんなぁ...」
「そうだ、明日オフ雑談配信で食べましょう」
「お菓子パーティー配信」
「うぅ...そうする...」
「そ、そうすれば、視聴者さんとお菓子食べられるしね...!」
「歩ちゃんのフォローが温かいな〜...」
「今日はもう寝るわよ」
「はーい」
成美ちゃんが電気のスイッチを切る。
ゆっくりと部屋が暗くなり、やがて真っ暗になった。
「おやすみなさい」
「おやすみ〜」
「おやすみ」
「お、おやすみ...なさい...」
僕は瞳を閉じ、眠りにつく...
ことなんてできる訳なく、未だ眠れずにいた。
お風呂に入って眠かったはずなのに、今の状況で目が冴えてしまう。
赤鬼ド狐の順番で並んで寝ているので僕は端にいる。
すぐ横から寝息が聞こえるのだ。
思えば誰かと寝ることなんて家族以外初めてなのだ。
しかも明日...時間的に今日だが...美人さん達とお出かけをする、しかも同僚ではあるが推しているVtuberである。
更に明後日は巨大な会場でトークイベントだ。
そこには推しの先輩達、そして最推しのルドラさんまでいるのだ。
そう考えるとより緊張と期待から眠れなくなる。
(と、とりあえず目だけでも閉じて休もう...)
そこから体感数時間、眠気が来なかったがやがて自然と眠りに落ちていくのだった。
明るくなっていく窓の外、カーテンの隙間から入った光が部屋を薄暗く照らす。
慣れない環境に深い眠りに着けなかったのか、目が覚める。
スマホを見るとまだ朝6時だ。
寝ぼけた頭でぐるりと周りを見渡す。
(そうだった、成美ちゃんの家だ...)
見慣れない天井で今の状況を思い出した。
三期生でお泊まり会をしてて...
ふと横を見る。
「すぅ...すぅ...」
優里ちゃんの寝顔がこちらを向いていた。
隙間なく並べられた四枚の布団、距離が近くなるのは当然のことだ。
手を伸ばせば届く距離に可愛らしい寝顔が映る。
僕はすぐさま反対方向に顔を向けた。
自分でも照れて顔が熱くなっているのがわかる。
(ま、まだみんな寝てるしもうちょっと寝ていよう...)
僕はもう一度目を閉じて、二度寝をする。
遠くから話し声が聞こえる...
なんか僕の名前呼んでいるような...
カシャッ!
「う...うぇ...?」
「あぁ、起きちゃった...」
「え...みんな、起きて...」
「うん、おはよう」
「おはよう歩ちゃん」
「寝顔が可愛かったから撮っちゃった」
徐々に覚醒する頭、目の前にはスマホを持ってこちらに向けている恵ちゃんが...
「ね、寝顔撮ったの...?」
「うん、可愛い寝顔だったよ」
「消して...!」
「なんで〜、こんなに可愛いのに」
恵ちゃんが僕の寝顔の写真を見せてくる。
いくら自分が美少女に生まれ変わったとは言っても、寝顔は恥ずかしい。
僕は恵ちゃんのスマホを取ろうとする。
「消して...恥ずかしい...!」
「ほっ!取れるかな?」
高身長の恵ちゃんがスマホを持った手を目一杯伸ばす。
身長の低い僕が届くはずもなく、両手を必死に伸ばしてピョンピョンと跳ねる。
「もう歩ちゃん可愛すぎる!!」
「ひゃぁあああ!!」
いきなり恵ちゃんが僕を抱きしめる。
立派な胸と女性の香りが僕を襲い、思わず大きな声を出してしまう。
だが恵ちゃんは離す様子はなく、僕は頭の処理が追いつかなくなりフリーズしてしまった。
「あ...あぅ...そ、その...」
「可愛いな〜」
「朝からいじめないの...」
「歩ちゃん、可愛い」
「うぅ...は、離してぇ...」
未だに僕を抱きしめ、撫でる恵ちゃん。
成美ちゃんが間に入ってくれるまでの数分、僕はフリーズしたままだった。
離れた後でも胸の感触と匂いが残り、僕はボーッとしてしまう。
「歩ちゃん大丈夫...?」
「顔真っ赤」
「う、えと...その...」
「ハグされるのは初めてだったかな?」
「うん...」
「...なんかそんなに照れられると私まで照れちゃいそう」
「はい、イチャイチャしないの、もうすぐお店も開く時間だから着替えて準備するわよ」
「いっぱい遊ぶ」
「う、うん分かった」
「了解!」
僕は顔を洗って気持ちをリセットさせ、お出かけの準備を始めるのだった。




