32話 いざ現地へ!③(鳴子視点)
『今から電車乗り継いで向かうね!』
狐狐ちゃんが書き込んだチャットから楽しそうな感情が伝わってくる。
私はお泊まり会用に片付けした自室でパソコンを眺めていた。
「三期生オフコラボ...既に凄い盛り上がりね...」
実はオフコラボをイベント二週間前に奈女々ちゃんのチャンネルで告知していたのだ。
反応は様々で「楽しみ」という意見が大多数の中、「狐狐ちゃんは大丈夫なのか」と狐狐ちゃんを心配する声があった。
確かに狐狐ちゃんは身近に接してきた私でも心配になる程他人が苦手だ。
初配信に比べたらすごく成長はしているけど...
「ちょっと鳴子ちゃん聞いてる?」
「聞いてるわよ」
「リアル狐狐ちゃん楽しみだね〜」
「全く...あなたは人の部屋にいるってことを分かってるのかしら...」
「分かってるよ〜」
今私の後ろで寝っ転がっている女性。
モデルさんのような整った顔、出てるとこは出て引っ込むところは引っ込んでいる絵に描いたような美人がだらしなくスマホをいじっていた。
どうしてこんなにも美しい人が“あの”赤桶奈女々なのだろう...
「おや、そんなに私を見ちゃって...惚れた?」
「惚れるわけないわよ」
「私と結婚して養ってよ〜」
「絶対に嫌よ、それに私は自分で稼いだお金で暮らして行くつもりだから」
「努力家だね」
私、鬼野鳴子はリアルでは大手会社の社長の娘である。
この広い自室も両親の積み上げてきたものがあってこその物だった。
でもそれが私は苦手だ。
恵まれた環境を恨まれ、妬まれ過ごして行くうちに私自身の実力で何かを成し遂げたいと思うようになった。
と言っても両親が嫌いというわけではなく、家族も仲がいい。
今では大学に通いプログラム系を勉強している。
進んでいく技術に興味を持ったからだ。
今Vtuberをしているのも、技術を使ったエンターテイメントを経験したいとオーディションに応募した。
まさか自分でもこんなにハマるとは思わなかったが...
「それにしても狐狐ちゃんここまで来れるかな...」
「一応私が迎えにいくつもり」
「私も着いていこうかな」
「そうね...じゃあ連絡が来たら駅まで迎えにいきましょう」
「やった〜!」
私と奈女々は既に何度か会っていて、家族も喜んで家に招く友人となっていた。
何気ない会話をしながらお昼ご飯を食べる。
私が作ったオムライスが机に並ぶ。
「ハート描いて」
「嫌よ」
「いいじゃん減るもんじゃないし」
「減るものはないけど描きたくないわ」
「残念...」
なんだかんだ言って美味しそうに食べてくれる奈女々ちゃん、あっという間に二人とも完食した。
食器洗いも二人で済ませて自室でくつろぐ。
「明日のオフコラボなにする予定?」
「そうね、普通に雑談配信でも良さそうだけど」
「雑談だけでも面白そうだね〜
特に狐狐ちゃんとか面白くなりそう」
「あんまりいじめてあげないでよ?」
「程々にする〜」
「そこはいじめないって言いなさいよ...」
おかしい、既に時計の針は八時を回り到着予定の六時を大きく過ぎている。
ドクロちゃんも合流し駅で待っているが事前に送られた服の写真と一致する人がいない。
連絡も付かないのだ。
まさか何か事件に巻き込まれたのか...?
トイッターで狐狐ちゃんの反応がないか調べるも、昨日の「オフコラボ緊張してます」と投稿した後何も更新していない。
狐狐ちゃんが迷っていることを書き込んで投稿すると、♯狐狐はどこ?というタグが生まれファンの人達がコメントを書き込んでいた。
しかも迷って涙目の狐狐が皺くちゃの地図を持っているイラストまで投稿されている。
「狐狐ちゃん大丈夫かしら...」
「心配...」
「私近くの駅回ってくるね」
「うん、何かあったら連絡頂戴」
「了解!」
「私も何かしたい」
心配そうな表情をする女の子、ドクロちゃんだ。
落ち着いた真面目そうな雰囲気を醸し出す整った容姿、小さめの身長だがどこか頼りになる感じがした。
あまり表情は動かない子だが、よく見ると感情がほんのり伝わってくる。
今はかなり狐狐ちゃんを心配しているようだった。
「そうね...連絡も着かないからどうしようもないんだけれど、奈女々とは反対側の駅に向かってくれないかしら」
「分かった」
「私はここに残っておくから何かあったら連絡頂戴ね」
「うん、行ってくる」
ドクロちゃんも捜索に向かい、一人で駅の中をジロジロと見ていた。
何人かに変な目で見られるが気にしていられない。
狐狐ちゃんが心配だ。
あの性格だと何かに巻き込まれたらとことん巻き込まれるだろう。
嫌なことも声を出して否定することが苦手なはずだ。
早く保護しなくては...
さらに時間が経ち、遂に十時を回った。
奈女々ちゃんもドクロちゃんも駅に帰ってきている。
両親から手伝おうかと連絡が来るが、社長が捜索する人なんて知れ渡ったら狐狐ちゃんが可哀想だと思い断った。
だが、今私たちに何もすることはできない。
狐狐ちゃんがたどり着くのを信じて待つ。
そこからさらに一時間が経ちもうすぐ日が変わりそうな時、人が少ない駅中からガラガラと音が聞こえる。
駅から出てきたのはもらった写真全く同じ服装をした可愛らしい少女だった。
しかし、枯れた花のようにしなしなになり泣く寸前のような表情をしていた。
私達はすぐさま駆け寄る。
「狐狐ちゃん...?」
「え、あ...この声...鳴子ちゃん...?」
捨てられた犬のような少女が私の顔を見る。
その瞬間少女の目から涙が溢れた。
「や“っ”と“つ”い“た”ぁ“......!!」
少女...狐狐ちゃんは子供のように泣き出してしまった。
私達はリアルの姿での自己紹介をする間も無く、狐狐ちゃんを慰めるのだった。




