31話 いざ現地へ!②
(わぁ...飛んだ...!)
窓際の最後尾の一人席を予約してよかった、遠ざかって行く地面が窓の外に見える。
初めて乗る飛行機に興奮を覚え、取り憑かれたように窓の外を眺めていた。
数分すると機体が安定したのかシートベルトのランプが消え、数人がトイレに席を立つ。
僕はシートベルトを外してゆったりしながらスマホで音楽を聴く。
音楽のアプリはオフラインなので大丈夫なはずだ。
聞くのはもちろん、先輩方のテーマ曲である。
再生ボタンを押し聞き慣れた先輩方の歌声が聴こえた。
僕もいつか3D化したら歌って踊ることになるのかな...
大好きな曲を聴きながら外を眺めていると前から綺麗なお姉さんがカートを押してこちらまで近付いてくる。
CAさんが飲み物をサービスしてくれるのだ。
「お飲み物はいりませんか?」
周りに考慮した小声、僕は流石に無視はダメだとイヤホンを外し、緊張しながら飲み物をもらうことにする。
カートを見るとジュース類やお茶、コーヒーがあるようだ。
「その、お、お茶...ください...」
「はい、かしこまりました」
なんとか言えたぞ...!
でも変な声になってしまって、変に思われていないかが心配だった。
注がれたお茶は前の座席に付いている小さいテーブルの紙コップがちょうど入る丸い穴にはめる。
一礼したCAさんは後ろ側に入って行って見えなくなった。
見知らぬ人と受け答えができて、僕は成長を感じながら一眠りする。
ポーン...とシートベルト着用のランプが付いた音で目が覚めた。
どうやら遂に目的地に着いたようだ。
僕は目を擦りながらシートベルトを付ける。
イヤホンからは何周目か分からないMonster Liveの曲が流れていた。
もうすぐ着陸だし、スマホも切っておこう...
(充電...10%...!?)
アプリの設定で失敗したのか、ずっと画面が付いたまま音楽を流していたみたいだ。
僕のスマホケースは手帳型なので全く気付かなかった...
(ま、まあモバイルバッテリー持ってきてるし...)
僕はモバイルバッテリーを持って行きなさいと助言してくれたお母さんに心の中で感謝した。
飛行機はどんどん下降していき窓の外は雲が無くなり、下に都会の街並みが映る。
初めての都会、もし僕に尻尾があったらブンブンと振り回していたに違いない。
それくらい気分が舞い上がっていた。
それから少しの揺れとタイヤが地面に接触する音で着陸したと分かった。
この運転技術は流石と言わざるを得ないだろう。
着陸して数分、降り口のある場所まで移動が完了しアナウンスが流れる。
荷物を持った客達がずらずらと降り口に向かう。
僕は人混みを避けるように全員が降りるのを待って最後尾の人に着いて行くように歩く。
(待って...これどこに向かえばいいの...!?)
地元の空港とは桁違いの大きさ、平坦なエスカレーター?を初めて見た。
他の客は慣れた足取りでどんどん進む。
僕は短い足を懸命に動かして迷わないように前の人について行く。
「はぁ...はぁ...」
冷房が効いているのだが、額には汗が滲んでいた。
それでも懸命に追っていると、よくテレビで見る荷物が流れてくるレーンがある場所に着く。
上がった息を整えて壁際で自分の荷物を待つ。
(流れてきた...!)
キャリーバッグや大きいバッグ、普通のバッグもどんどん流れてくる。
自分の荷物を見つけると足早に取り、出口に向かう人達。
人の隙間から自分のキャリーバッグを探す事数分、僕の黒いキャリーバッグが流れてきた。
(よいしょ...出口はあっちか)
荷物を回収し、付いていた札を用意されていたゴミ箱に入れ遂に外に出た。
そこに広がっていたのは、まさに異世界だった。
(車線多っ!?人も多い...!
何あの建物!?どこ見ても建物が高い!
ば、バス停がデジタル!?ってか数多い...!)
僕は田舎者丸出しでキョロキョロとしながら、移動を再開するのだった。
一度空港内に戻る。
というのも空港の地下が地下鉄になっているからだ。
その地下鉄からどんどん乗り継いで鳴子ちゃんの家に向かう。
優しい駅員さんの顔を思い浮かべながら、駅のマップを見た。
(......巨大迷宮?)
これでもかと入り乱れたライン、色分けされているとは言え凄まじい量の駅が書かれていた。
とりあえずスマホで調べてどの電車に乗ればいいかを検索する。
目の前のマップを見ながらルートを確認していると、誰かと肩がぶつかった。
「あ、す...すいませ「邪魔です」」
通路の中途半端な場所にいたせいか、邪魔になっていたみたいだ。
きっとぶつかった人も慌てていて言葉がキツくなったのだろう。
うんきっとそうだ...
(だから今目に浮かんでいるのは汗なんだ...)
僕は既に家が恋しくなっていた。
三期生のグループチャットに反応があり、みんなからメロンカードを買っておいた方がいいと言われた。
このカードにお金を入れておけばいちいち切符を買わなくても改札でカードをスキャンする事でお金を支払えるというものだ。
早速購入しお金をチャージする。
さあ、ここからが本番だ...!
最初は簡単だ、一本しかない電車に乗るだけ。
そこから目的の駅で降りて別の電車に乗る。
どの電車に乗るかはスクショしておいた、あとは電車に揺られていれば鳴子ちゃん達とご対面だ...!




