30話 いざ現地へ!①
遂にイベントが開催される。
僕は今空港に向かって大きなキャリーバッグを持って移動していた。
夏休みに入ったこともあり、家族連れやカップルを多く見かける。
そんな中僕は一人、大きなキャリーバッグを持って寂しく現地へ向かっていた。
(田舎でもこの多さ...都会とか人どうなるんだろう...)
不安だらけの移動が今始まった。
家を出たのは朝六時くらい、夕方か夜くらいには鳴子ちゃんの家に到着する予定だ。
奈女々ちゃんとドクロちゃんは結構都心に近い場所に住んでいるらしく、移動時間はそこまで掛からないらしい。
お母さんに駅まで送ってもらったのだが、僕は慣れない切符購入に苦戦していた。
(空港行き...どれになるんだろう...)
スマホで空港行きの電車を調べながら切符を買おうとする。
昨日調べたはずなのに緊張からか全て頭から飛んでしまった。
パンフレット的な物を用意しておけばよかったかもしれない...
「お困りですか?」
「ひゃっ...」
切符売り場近くをうろうろしていたら駅員さんに声を掛けられた。
思わず変な声を上げてしまう。
「驚かせてごめんね、すごく困っているようだったから」
「えっと...その...」
「どこに行きたいのかな?」
駅員さんは僕は話すことが苦手だと察すると分かりやすいマップを持ってきてくれた。
空港を指差すと「わかった」と言って切符売り場に一緒に来てくれる。
「これを買えば行けるよ」
「あ、ありがとう...ございます...」
「うん、気を付けてね」
僕は一礼して電車に乗る、早めに駅に来たのに切符を買う頃には電車が来ていた。
空港の駅はこの電車の終点なので、寝ても大丈夫だが楽しみな気分と不安で眠気を感じなかった...
朝早いため三期生のチャットに書き込むのも申し訳ないと感じて、僕は着くまでの間ゲームで暇を潰す。
(人生初の...空港...)
駅を降りて少し移動すると巨大な建物が見えた。
あまり外出しない僕にとっては大きな建物というだけで緊張してしまう。
広々とした空間に多くの人が行き来している中、僕は荷物を先に預けようとカウンターに向かった。
そこには既に何人か並んでおり、重さを測っていたり中に危険な物が入っていないか確認をしている。
予約した飛行機まで時間があるので荷物を預けて、空港内にあるお店で朝ごはんを済ませる予定だ。
「お願いします」
「はい、お預かりしますね」
前のお客さんの手続きが終わり、僕の番が来る。
受付員の笑顔が僕を出迎えた。
「おはようございます、お荷物をこちらにお願いします」
「...はぃ」
頑張って声を出したつもりだがか細い声が出るだけだった。
慣れた手付きで手続きを進めるお姉さん。
あっという間に僕のキャリーバッグに札が付けられ、後ろにあるレーンに流れていった。
「では、お荷物の方お預かりします」
「お、お願い...します...」
お姉さんの満面の笑みが眩しかった...
大きな荷物を預け、僕は空港内の飲食店のスペースに足を運ぶ。
特に好き嫌いがある訳ではないが、この体はものすごく少食だ。
お子様ランチで腹八分目まで行くくらい...
歩いていると美味しそうな炒飯が写る看板がラーメン屋の前に立っていた。
しかもミニサイズの炒飯まである、迷うことなく扉を開け入店する。
「いらっしゃーせー!」
店員さんの声にびっくりして体が震えた。
気を取り直して食券売り場に行くと、看板に書かれたメニュー通りミニ炒飯がある。
小さいし値段も安い、僕の朝ごはんが決定した瞬間だった。
食券のお店のどこが良いのかというと、話さなくてもメニューを頼めるということだ。
何せ食券に書いているのだから。
「小炒飯一丁!」
食券を受け取った店員さんが厨房に叫ぶ。
凄まじいエネルギーを感じる...朝からそんなに飛ばしていたら夜ぶっ倒れるんじゃないか...?
時間も経っているので三期生グループに連絡を入れる。
と言っても夏休みなのは僕だけなのですぐに返事が来ることは期待していない。
奈女々ちゃんは実は社会人という事を初めて聞かされたときはとんでもない声を出してしまった記憶がある...
鳴子ちゃんは大学生で、ドクロちゃんは通信制の学校だから学ぶ授業がない日は休みなんだとか。
『今空港で朝ごはん食べてるよ!』
僕は返事を待つ間に炒飯が机に運ばれてきた。
お客さんも今は少ないので料理がすぐに作れるのだろう。
でもおかしい、明らかにミニじゃない量の炒飯が今目の前にある。
確かにお皿は小さいが盛られた炒飯の立体感が凄い。
「あ、あの...」
「はいなんでしょう!」
「えっと、これ、量が...」
「サービスです!」
「え、あ...ありがとう、ございます...」
曇りひとつない笑顔でそう言われて、僕は何も言えなかった。
この空港は笑顔で溢れているのか...?
それはさておき、僕はこの炒飯を食べ切れる自信がない。
でもせっかく用意してくれたのだ、完食したい...
(うわ、すごく美味しい...)
一口目で一気に口に広がる旨味、僕は小さな口でどんどん食べ進めていく。
結構な量の炒飯だったがあまりの美味しさに手は休む事なく動き、全てが胃に収まった。
(ご馳走様でした...美味しかった)
手を合わせてお皿を返却口に置いてお店を出る。
気付けばちょうどいい時間になっており、僕は飛行機に乗るべく移動をするのだった。




