29話 クラスメイトが推しだった(渡視点)
私は昔から負けず嫌いだった。
何をするにしても周りから下に見られたく無い、その思いが私を成長させる。
ある時、テストの点数を比べられた。
もちろん友達間のちょっとした会話のはずだったが、その時の言葉がずっと胸に引っかかった。
悔しい、この感情が生まれたのはこの時期だったと思う。
それから勉強をしまくった、友達に勝ち誇りたかったからだ。
次のテストで自慢げにその友達と比べ、結果は全教科私の圧勝だった。
友達は泣き出し、それからは一度も話すことなく関係は自然消滅。
ある時、絵をバカにされた。
その友達は絵が趣味で周りよりも頭ひとつ抜けた画力を持っていた。
悔しい、そう感じた私はまた負けず嫌いの血が騒いだ。
頭では分かっているが、バカにされた相手に勝たないとこの気持ちが収まらない。
まさかこの時、馬鹿にされたことで今後の人生を大きく変えるとは思わなかった。
そんな人生を歩み続けたことで、中学からは委員長キャラになってしまった。
文武両道、誰よりもトップを目指すその姿は近寄り難いオーラを放っていたようだ。
気付けば周りには友達はおらず、部下のような人で溢れてしまった。
周りから見た私では想像もつかないようなオタク部屋、パソコンの前にだらしない格好の私が配信を見ていた。
「今日の推しも可愛いなぁ〜」
画面に映る不安げな表情で必死に話を繋げる九尾狐狐ちゃん。
イラストを描ける私はネットで依頼を受け、描いて欲しいキャラを描いてお金をもらうことでお小遣い稼ぎをしていた。
その時に「このVtuberさんを描いてください!」と依頼をもらったのがVtuberにハマるきっかけとなった。
何も知らない私が見たのはMonster Live三期生デビュー配信。
そこで見た狐狐ちゃん、私の保護欲を掻き立てるVtuberだった。
私はデビュー配信を見ながら狐狐ちゃんのファンアートを描き始める。
その絵が有名になり、ココ友の中でも一際目立つ存在になることができた。
そんな日常を送っていると、とあることに気付いた。
クラスメイトの鷲川歩さん、彼女が凄まじいレベルで狐狐ちゃんに似ているのだ。
声、話し方、性格...狐狐ちゃんが歩さんに化けているのではと思うほど...
どうにかして近付きたい、そう思って行動を追ってみると昼休みには一人で屋上に行くことが分かった。
(誰とも話さず、この広い屋上で端っこに...)
どうにかきっかけを見つけなくては...
歩さんは迫る私に気付いていないのか、スマホに夢中だった。
画面を見ると私のイラストを見ていた、これだ!と思い声を掛ける。
結論から言うと歩さんは狐狐ちゃんで間違いなかった。
少し揺さぶるだけで目が泳ぎ、バレたかと思うと目を見開くか諦めたように目を瞑る。
もう自分からバラしているような感覚だった。
「あの様子だとクラスの他の子にバレるのも時間の問題だよな〜...」
私はとある計画を考えた。
私が歩さんと仲良くなり、Vtuberであることがバレそうになったら私がフォローに入る。
そうすれば歩さんも配信に支障が出ない学校生活を送れるだろう。
配信では野生の公式として応援する、リアルではクラスメイトとして学校生活をサポートする。
きっと歩さんの性格上、バレたりしたら配信をしなくなってしまう可能性があるだろう。
私がサポートしなくては...
『それでは皆さんおつここ〜』
そうこうしているうちに、配信が終わったようだ。
狐狐ちゃんの配信が終わり、エンディング画面に切り替えられた。
のだが...
『ふぅ〜...』
息を吐く音が聞こえる。
配信切り忘れというよく切り抜きで見る出来事が今目の前に起こっている。
電話で教えたいが私にVtuberがバレていると言うことは隠さなくてはいけない...
一体どうやって知らせれば...
夏花⭐︎【狐狐ちゃん配信切り忘れてる!!】
コメントが恐ろしい速度で流れる。
おそらく歩さんは独り言はしないタイプだと思うが、万が一何か個人情報を話すとまずい。
コメントでは画面も切り替えていることもあり、気付くことはないだろう...
その時、一つの案が思い浮かんだ。
私は大急ぎで歩さんに電話を掛ける。
『プルルル♪』
【電話!?】
【三期生か!?】
【配信が切れていない事を誰か知らせてくれ!】
『もしもし、どうしたんですか?...』
「今ね、狐狐ちゃんが配信切り忘れてるんだけど、配信見てる?」
『うぇ!?嘘...そ、そうなんだ』
「結構レアだから見てないなら見たほうがいいかもね!」
『そ、そうだね...ありがとう...』
「うん、また学校でね!」
『うん、また...』
こうすれば歩さんを狐狐ちゃんだと知っていなくても、配信切り忘れを共有したいオタク仲間として知らせることができるはず...
作戦は成功し、狐狐ちゃんは「切り忘れました」と一言残して配信を切る。
コメントでは珍しいと言う意見が多かったが、先日のアップデートで仕様が少し変わってしまったようで、他の配信者も切り忘れが多発していた。
「よかった...多分上手くいったよね...?」
今日の昼休みの揺さぶりの反応や今の配信を見改めて誓う。
狐狐ちゃんは私がサポートするんだ。
狐狐がVtuberバレしていることに気付くのはまだまだ先になりそうである。




