25話 野生の公式は裏の顔
「行ってきまーす」
「はーい、気を付けてね」
乗り慣れた自転車に乗り、学校を目指す。
数十分風を浴びながら山道を下り、田畑に囲まれた道を進む。
田舎の道から街中に入り同じ制服の学生がちらほらと見え始めた。
大声で話しながら登校する男子生徒、たまに見合って笑い合うカップル、学校に着く頃には賑やかな声が周りに溢れる。
いつも通り端に自転車を置き、誰とも目を合わせないよう俯いて教室へ入る。
教室には何人かいるが僕に声を掛ける人はいない、もちろん僕が近付かないでオーラを出しているからである。
この教室での生活も結構経つが、その中で僕が話したのはプリントの受け渡しで前の人と授業の発表の時......くらいしか思い浮かばない。
持ってきた小説を読んでいると始業のチャイムがなった。
周りをチラッと見ると、眠そうな生徒達ばかりでいつもはシャキッとしている委員長ですらうつらうつらしている。
そんな生徒のことは気にもせず今日も授業が進んでいく。
四時間目終了のチャイムがなり、売店に生徒が走る。
売店は行ってみたいのだが、あの量の人の中に入っていく自信は全くない。
人気商品はアニメでもよく見る焼きそばパンだとか...
僕は弁当箱を入れた袋にスマホを入れて屋上に行く、前世の高校は屋上が立ち入り禁止だったため屋上で食べる弁当が新鮮なのだ。
ちなみに、この学校は緊急時の連絡手段として携帯の持ち込みは良いらしいが、授業中などに触ったり通知音がなると注意か没収される。
いつものように屋上に行くとアニメでよく見るベンチや花壇があり、僕お気に入りの端にあるベンチの端に座って弁当を食べ始める。
毎日同じ流れを繰り返す中、今日は少し違った感覚がした。
(コミュ障...結局治ってない...)
昨日の賑やかな配信を思い出し、今静かにご飯を食べている事が寂しく感じる。
だからといって既にできたグループに入るのはまず無理だし、近付かないでオーラを出しているので話しかけられることもないだろう。
Vtuber好きを探して仲良くなろうかと思ったが、僕が九尾狐狐とバレるのだけは避けたい...
(配信とかで話せてもコミュ障は治らないのかな...)
そう思いつつ小さな弁当を食べ進める。
前世では大きい二段弁当を簡単に平らげてたのに今は手のひらより若干大きいくらいのお弁当がちょうどいい。
一口もかなり小さくなっていて、食べる速度もかなり遅くなっている。
弁当を食べ終え、周りに人がいないことを確認してスマホでエゴサする。
トイッターでは昨日の記念配信のことや新衣装のことで盛り上がっているようだった。
すると、見覚えのあるユーザーが新衣装のイラストを投稿していた。
(summer flowerさんだ!イラストやっぱり可愛いなぁ...)
まるで狐狐とデートをしているような構図で新衣装が描かれていて、僕は迷わず保存させてもらった。
思わず見惚れるほどのイラストだった...
周りが見えなくなるくらい...
「九尾狐狐のファンアートですか?」
「ぇ...」
振り返ると委員長がいた。
校則に従った歪み一つない制服、誰が見ても委員長だと分かるほどの容姿、掛けているメガネがより一層そう思わせる。
容姿だけでなく、性格も真面目で成績は常にトップレベル。
スポーツも万能という超人なのだ。
そんな人に狐狐のイラストを見ている所を見られてしまった...
「ぁ...ぇと...」
「歩さんはVtuberとか見るんですか?」
「み...見ます、た、たまに...ですけど...」
「九尾狐狐ってVtuberは知っていますか?
そのイラストの子なんですけど」
「い、一応...(ぼ、僕です...)」
「同士がいたぁ...!」
「ひゃっ!?」
委員長はガシッと僕の手を掴んで上下に振る。
その目は新しいおもちゃを見る子供のように輝いていた。
話を聞くと委員長はオタク趣味に最近目覚めたらしいが自分の委員長キャラが邪魔をしてオタクトークができなかったらしい。
そんな中僕が狐狐のイラストを見ていたので周りに人がいないことをいいことに、僕に話しかけたそうだ。
僕なら言いふらさないと思われたのかもしれない...
「まさか歩さんがVtuberを見てるなんてね〜
風に当たろうと思って屋上に来てよかった〜」
「ぅ...うん...」
「あ、ちょっと自慢しちゃっていい...?」
「う、うん...」
「この絵描いたの私」
「へっ...?」
あまりの衝撃で変な声が漏れる。
「びっくりした...?
昔絵が下手って言われたのが悔しくてすっごく練習したんだよね」
「そ、そうなんだ...」
ってことは、今目の前にいる人がsummer flowerさん...!?
あのオープニングを描いたのも...!?
驚いて何も言えなくなった僕を気にせず、委員長はVtuberトークを続ける。
委員長の話は昼休み終わり五分前のチャイムが鳴るまで続いた。
「いやぁ、久しぶりに自分を出せて楽しかった...!ずっと私だけ喋っちゃってごめんね、よければまた話しに来てもいいかな...」
「え、あ...うん...」
「やった!ありがとう!あとこの事は内緒でね」
「うん...」
「じゃあまた教室で!」
そう言い残し、委員長は屋上から姿を消す。
僕と話し終えた瞬間、委員長モードになったのかスッと感情が消えたように見えた。
(ど、どうしよう...バレてなさそうだけど、絶対いつかバレる...)
僕は初めての友達(?)ができると同時に、狐狐であることを隠さなければと改めて心に誓うこととなったのだ。




