20話 Monster Live大運動会・後編
「ないす!」
「ソラさんもナイス!」
「わ、私が...負けた...」
「パン先輩、ごめんなさい」
「い、良いのよ...私も足引っ張っちゃった...」
ミニゲーム対決は五分五分の戦いだったか、無事に勝利することができた。
結果は5対4、最後は4対4になり緊張感に包まれみんなが静まった場面もあったが、ドクロちゃんの集中力が切れてしまったのか凡ミスをしてしまい白チームの勝利となった。
ドクロちゃんの声もどこか申し訳なさそうだ。
「悔しいわね...勝ちたかった」
「ふふふ...私と狐狐ちゃんペアに勝とうなんて百年早いわ!」
「悔しい」
「ホラゲで驚かしてきた仕返しだ...!」
「次は勝つ...!」
「良い対決だったね、お疲れ様!」
二種目目は白チームにポイントが入り、コメントでもお疲れ様の文字が流れる。
三種目目のゲームをする前に十分程休憩をすることになり、一度配信を離席用の画面に切り替えマイクをミュートにした。
「いや〜狐狐ちゃん強いね」
「ソラさんがサポートしてくれたからだよ」
「赤チームも白チームも良い勝負するね!」
「一種目目はニコが速すぎたがな...」
「手を抜くなんてことはしませんからね」
「イオだって頑張っていたのだ...!」
「私はちょっとお手洗い行ってくる〜」
「私も」
「行ってらっしゃい」
僕も水を取りに行くついでにトイレを済ませる。
この体になって十数年、もうトイレの仕方も完璧だ。
過去に数回やらかしたことがあるが今は話さなくてもいいだろう。
部屋に戻ろうと階段を登る時、リビングからお母さんが顔を覗かせる。
「狐狐ちゃん、ファイト!」
「う、うるさい...!ま、まぁ頑張るけど...」
「応援してるよ!」
「ありがとう...」
お母さんに応援され、部屋に戻ってイヤホンを付ける。
休憩時間もちょうどよく終わり、ルーさんの合図で全員画面を切り替えた。
「さあ、みんな準備はできたかい?三種目目だ!」
【頑張れー!!】
【赤チームも白チームも応援してる】
コメントも僕達も大盛り上がりで、大会は進んでいった。
そして迎えた最終種目、バラエティ番組などでは最後に勝ったら勝ちみたいな展開がお決まりだが、なんと赤チームと白チームの得点が並んでいる。
最終種目は代表者による格闘ゲーム対決。
格闘ゲームとは言ってもリアルな感じではなく、アニメっぽい可愛らしい雰囲気のゲームだ。
「各チーム代表者を決めてくれ!」
「赤チームはやっぱりニコさんじゃないかな?」
「私ですか?」
「ニコさん、凄く活躍してる」
「僕もニコちゃんが良いと思うな」
「いいでしょう、代表者として赤チームを勝利に導きましょう」
「赤チームの代表者ニコ・ウラナ選手!
さて、白チームは誰を代表者にするのかい?」
「どうしようか...」
「相手はニコですよ...」
「今日活躍してるのって...」
今までの戦績を見ると一番ポイントを稼いでいるのが僕。
前世でゲームしか友達がいなかったのがこんなところで役に立つとは思わなかった。
僕は今まで配信で見てきたニコさんのゲームセンスに挑みたくなり、白チームのみんなの声とコメントに応える。
「僕が代表者になる...!」
「狐狐ちゃん...!」
「うむ、頑張れ狐狐」
「任せたよ!」
「狐狐ちゃんなら勝てるのだ!」
「頑張れー」
「どうやら決まったようだね!
それじゃあ、キャラを選んでいざ最終決戦だ!」
まずは各自トレーニングモードで操作を確かめる。
操作はどことなくやったことがある感覚だった、このゲームは僕もニコさんも初見らしいがニコさんはコツを掴むのが凄まじく早い。
でも僕は負けられない、確かめているとトレーニング時間が終了する。
「最終種目だ!みんな盛り上がっていくよ!!」
ルーさんの声に合わせるようにみんなが盛り上がる。
コメント欄も過去最高速で流れていった。
キャラクター選択画面になり、僕はバランスタイプを選びニコさんは双剣のキャラを選んだ。
初見なのでどんなパターンがあるのか分からない。
「それじゃ対戦開始だ!」
カウントダウンが0になり、キャラクターを操作可能になる。
その瞬間ニコさんが一気に距離を詰めた、咄嗟にガードを張ると掴み技を掛けられHPが削られた。
一発のダメージの少なさとキャラの速さでスピードタイプのキャラだということが分かる。
「狐狐ちゃん頑張れ!」
「ニコさん強い...」
「私のキャラクターはスピードタイプですので、手数で攻めさせてもらいます!」
ニコさんのキャラに攻撃を当てられるとそのままコンボを決められ、HPが削れる。
しかしよく見るとコンボに派生する攻撃の一撃目が同じであることに気付いた。
僕はモーションを見極め勘でガードを張る、すると金属音のようなSEと同時にジャストガードの文字が表示された。
「どうやら気付かれたみたいですね」
「もうHPギリギリだけどね...!」
ニコさんの嬉しそうな声が聞こえた。
僕はニコさんの動きを見極めるのに必死だというのに、ニコさんはゲームの状況を話しながら僕を追い込んでいく。
格の違いを感じ、心が折れそうになるが負けるわけにはいかない...
僕はキャラのリーチの長い攻撃を利用してニコさんに少しずつダメージを与える。
それでも全ての攻撃を防げるわけではなく、徐々にHPが削れて一戦目は敗北した。
「1試合目はニコの勝利!」
「とりあえず王手ですね」
「めちゃくちゃ悔しい...」
「ですが一戦目であそこまで動きを読まれるとは思いませんでした」
「次は勝ちます...!」
仲間の応援の声、応援のコメントに励まされながら二戦目に挑む。
二戦目も一戦目と同じくニコさんの動きに合わせてカウンターをするが、やはり徐々に追い込まれる。
僕は流れを掴むべく自分から攻める動きをした、ニコさんはペースが少し乱れたのか大きなダメージを与えることに成功する。
コメント、みんなの声が盛り上がっているのが聞こえる、このまま流れを掴もうと攻めていたのだが流石と言った所か、ニコさんはすぐに対処法を見つけ逆にカウンターを食らってしまう。
そして、ニコさんのHPがもうすぐで無くなるという所で僕のキャラクターがダウンした。
「勝者!ニコ!
そして第一回Monster Live大運動会勝利チームは赤チーム!」
ルーさんの声が遠くから聞こえる...
僕は悔しさや申し訳なさ、あらゆる感情が溢れて涙が止まらなくなってしまった。
代表者みたいなチームを背負うことが初めてで、頼られたのに勝てなかったという事実でより一層涙が溢れる。
ここで泣くのは子供っぽいと思っているのに、どうしても我慢することが出来なかった。
「狐狐ちゃんお疲れ様!ニコさん強かったね...」
「う“ん”...つ“よ”か“っ”た“...」
「狐狐ちゃん!?」
「だ、大丈夫よ狐狐ちゃん!ニコがありえないくらい強いだけだから!」
「うん、狐狐ちゃんも強かった」
「狐狐、大丈夫だ!ニコがこんなに生き生きとしているのは初めてだぞ」
「はい、こんなに楽しい戦いをできたのは久しぶりです」
その後エンディングトークしている間になんとか涙が止まり、締めの挨拶に参加できた。
沢山のお疲れ様コメントを見ながら配信は終了する。
【コラボ】Monster Live全員集合!白チームで頑張るぞ!【Monster Live大運動会/九尾狐狐】配信終了
@九尾狐狐 Monster Live三期生
今日はお疲れ様でした!
最後泣いてしまってすみませんでした...
悔しかったけど楽しかったです!
♯狐狐ライブ
♯Monster Live大運動会
「みんなお疲れ様!」
「お疲れ様でした」
「お疲れ様」
「お疲れ様でした〜」
配信終了後の通話部屋、何人かはお風呂や晩御飯などで既に落ちている。
僕も泣いてしまったことを謝りながら落ちようとした時、ニコさんに声をかけられた。
「狐狐さん、また戦いましょう。
あなたとの戦いが今までで一番楽しかったです」
「うん...またやろう...!」
僕は悔しさが無くなり、その気持ちは闘争心に変わった。
次やる時は絶対に勝ちたい、そう思いながら通話部屋を抜ける。
イヤホンからの音が無くなり、部屋が今まで以上に静かに感じる。
僕は顔を洗いに洗面台まで行くと、お母さんが顔を見せにきた。
「歩、お疲れ様」
「お母さん...」
「楽しかった...?」
「うん、すっごく楽しかった...!」
その言葉は心の底から出た言葉だった。




