145話 新たな楽しみ
「歩さん、最近コラボ頑張ってるよね〜」
「うん、忙しいけど楽しいよ」
学校の屋上でお弁当を食べながら、渡さんと雑談する。
雑談と言うだけでコラボ配信を思い浮かべるくらい配信脳になっている自分に驚く。
「また体調崩さないようにね?」
「そこは今まで以上に気を付けてるから大丈夫...!」
「なら良かった...」
渡さんがホッと胸を撫で下ろすように息を吐いた。
僕は少し申し訳ない気持ちになる。
最近は体調に気をつけて十分な睡眠時間を取るようにしている。
多分もう大丈夫だと思う...多分...
「そういえば昨日の配信見たよ〜
Monster Live LOST...クオリティ凄かったね...」
「凄すぎて結構キツかった...」
「だよね〜...見てる私も心に来るものがあったよ...」
「渡さんもダウンロードするの?」
「え、あれ無料だったの?」
「うん、無料なんだって」
実は昨日配信したMonster Live LOSTは無料ダウンロードできるのだ。
あのクオリティで無料はヤバいとネットで大騒ぎになった。
むしろそこが狙いなのかもしれないけど...
しかも配信も自由である。
話題性のあるグループのゲーム、きっと大勢の配信者がプレイするだろう。
そうすればMonster Liveを知らない視聴者にも存在が知られるかもしれない。
「確かにいろんな層の視聴者に届きそうだね」
「そうなんだけど、これで僕の配信に新しく来てくれた人にゲームのイメージと違うとか言われたらどうしよう...」
「大丈夫大丈夫!
狐狐ちゃんはそのままで良いんだから!」
「そ、そうかな...ありがとう...」
つい照れ臭くて笑って誤魔化す。
渡さんも恥ずかしくなったのか、顔を逸らしている。
少し間を空けて渡さんが話題を変えた。
「そういえばもう寒くなってきたね〜」
「そうだね」
色もかなり変わってきた山の木々を見ながら呟く。
吹き抜ける風も冷たさを増し、「涼しい」から「寒い」へと変わろうとしていた。
「鳴子ちゃんが冬にはオフのお泊まりしたいって言ってたけど、予定とか決まってるの?」
「うーん、何も聞いてないな...」
「じゃあ話が来てからのお楽しみだね〜
やっぱりみんなに会うの楽しみ?」
「う、うん...みんな優しい」
「ふふ、狐狐ちゃんは愛されてるね〜」
「ん...撫でないでよ...」
「ごめんごめん」
渡さんがポンポンと僕の頭を撫でた。
少し嬉しいような恥ずかしいような、なんとも言えない感情に包まれる。
渡さんの手をそっと掴んで頭から退かした。
自分でも顔が赤くなっているのが分かる。
その時、タイミングがいいのか悪いのか昼休み終了のチャイムが鳴った。
「...教室戻ろっか」
「う、うん...」
僕は渡さんの斜め後ろに着いて歩いた。
静かな僕が委員長の渡さんと仲がいいことが判明した時はみんな驚いていたが、今や僕達の邪魔はしてはいけないと言う暗黙の了解がクラスで決まっている...ような気がする。
確信はないのだが、僕と渡さんが一緒にいる時やけにクラスのみんなが暖かい視線を送りながら距離を空けるのだ。
人付き合いが苦手な僕からしたら無理に絡まれるよりはありがたい。
慌てて自分の教室に向かう生徒たちで賑わう廊下を2人で歩く。
僕達の教室に入った瞬間、クラスの数人がこちらを見て軽く微笑んだ。
......これは確実にそういう目で見られてるのかも?
家に帰り着き、習慣となった手洗いうがいと着替えを済ませ自室に戻る。
お母さんはまた新しい仕事が来たのか部屋に篭っている。
僕とお母さんの親子バレ以降、お母さんは吹っ切れたように配信で僕のことを話す。
話出しそうな雰囲気を感じた瞬間、携帯でメッセージを送って止めるのだが...
そんなことはさておき、今日は明日の『Monster Live LOST』前の雑談配信をしようと思っている。
パソコンの起動を待ちながら今日出た宿題を机に広げた。
多分集中すれば30分くらいかな、今日学んだ部分の復習だし。
(...ん?)
パソコンの起動が完了し画面が表示されると、シャベルに通知が来ていることが分かった。
もちろんMonster Liveのグループだ。
そういえば携帯でも同じアカウントでシャベルにログインしているが、渡さんとの話に夢中で確認していなかった。
僕はメッセージを確認する。
幸い急を要する内容ではなかったみたいだ、というのも鳴子ちゃんが三期生みんなに宛てたメッセージ......
『狐狐ちゃんが冬休みに入ったらお泊まり会をしましょう』
そのメッセージには写真と地図が添付されており、木々に囲まれたログハウスが映っていた。
内装も木目の綺麗な壁、天井の高い室内、良い家でしか見ないようなプロペラ?も天井から吊るされていた。
「わぁ...」
自然と声が漏れるほど綺麗な家、数枚ある室内の写真をまじまじと見つめてしまう。
僕は考えることもなく、返信する。
冬休みは今の所予定は全く無かった、いつものように配信をして年越ししようと思っていた。
(みんなで年越しかぁ...)
気が付くとニヤニヤが止まらなくなっていた。
今まで家族以外と年越しなんて考えもしなかった、ましてやお泊まり会だなんて...
まだまだ先の話だというのに、僕は初めて都会に行った時に使用したキャリーバッグを押入れから引っ張り出すのだった。
読んでいただきありがとうございます!
誤字脱字等ありましたら報告していただけると助かります...!
Twitter作ってみました!
気軽にフォロー、DMなどどうぞ!
感想やご意見など励みになります!
@_Kamu_Kamu




