134話 重大なミス
規則正しい生活を始めて数日、目元の疲れがかなり取れた気がした。
体の疲れや怠さも無くなり、万全の体調になっていた。
この状態でずっと休暇をもらうのも申し訳ないと思い、休暇をもう少しで終えようと思っている。
休暇最後の土日、僕は早めに目が覚めた。
早起きが習慣化してきたのかもしれない。
朝食には早いので少し水を飲んで部屋でゆっくりしようと階段を降りた時、お母さんの仕事部屋から何かが倒れる音が聞こえた。
(お母さん...!?)
悪い想像が一気に頭を埋め尽くす。
また仕事で徹夜して倒れてしまったのでは?
もし躓いて倒れて打ち所が悪かったら?
僕は大急ぎでお母さんの部屋の扉を開けた。
「お母さん...?」
暗い部屋、パソコンの明かりが机に頭を乗せたお母さんの姿を照らす。
画面はパッと見た感じホラーゲームのように見えた。
(!?)
2台目のモニターに配信画面が映し出されていた。
コメントの流れは遅く、みんなも寝落ちしているのだろう。
画面の下にあるタイマーが12時間を超えて時を刻んでいる。
昨日僕が晩御飯を食べ終わったのが昨日の6時なのでそこからずっとやっていたのだろうか。
ふと嫌な予感がしてコメント欄を見る。
そう、今お母さんはセブンママとして配信をしているのだ。
その配信に僕、九尾狐狐の声が入ったら...
マイクが拾っていないことを祈りながらコメントを読む。
【セブンママ!?】
【ぶっ倒れた...!?】
【誰?】
【誰か入ってきた!?】
【家族か...?】
【娘さんだ!?】
【セブンママの娘さん起こしてあげて〜!】
【待って?なんか聞いたことあるけど流石に似てるだけだよな...?】
【俺も一瞬狐狐ちゃんの声に聞こえた!】
【流石に似てるだけだろ...】
【もしそうなら狐狐ちゃんのママはお母さんってことになるぞw】
【ママがお母さんってもうわかんねぇなw】
どうやら似ているだけだと思ってくれたらしい。
流石にセブンママの娘が僕だとは思わないだろう。
どうにか配信を閉じてもらわなければ...
僕はマイクを一旦ミュートにしようとボタンに手を伸ばした時だった。
お母さんの目がゆっくりと開く。
「あ、おあよ〜...」
(よし、名前は言わなかった...!)
僕は急いでマイクのミュートボタンを押した。
ランプが緑から赤に変わったことを確認しお母さんを揺らして起こす。
「お母さん、びっくりしたよ...
急に倒れたような音がしたから...」
「ん?あぁ...ごめん...
ホラゲの耐久やってて、昨日あんまり寝てないのに調子に乗っちゃった...」
「この前僕に体調管理はしっかりしてって言ってたのに...」
「ごめんね...つい面白くって...
でもこんなにムービーが多いゲームとは思わなかったのよ〜...」
お母さんが申し訳なさそうに目を擦りながら謝る。
楽しむのもいいが体調には気をつけて欲しい。
僕も人のことは言えないが...
とりあえず配信を閉じてもらうことにする。
「配信はとりあえず中断しようよ」
「そうね...そうする....」
「ほら、マイクミュートしてるから解除して締めて」
僕がマイクを指差しながらそう言うと、お母さんははてなマークを浮かべるような表情で僕を見てきた。
「マイクこっちに買い替えたんだけど...」
お母さんの体で気付かなかったが、小型のマイクが机に乗っていた。
え、でもランプが赤色に...
「あー、コード刺したままだったから電源入ってたのね〜...
入力機器に設定してるのはこっちのマイクだよ」
「ちょっと待って!?」
僕は首が捩じ切れんばかりの勢いでコメント欄を見る。
マイクがミュートできていないってことは...
【セブンママ既婚者だったんか...】
【しかも娘が狐狐ちゃん...】
【俺もこの家庭に産まれてぇ...!!】
【マジでどう言うこと?】
【狐狐ちゃんのママはお母さんだったってこと...?】
【理解が追いつかんw】
【狐狐ちゃん元気してる〜?】
【狐狐ちゃんの環境やっべぇなこれw】
(あ、あぁ...)
僕は自分が灰になっていく感覚を味わいながら床に座り込む。
お母さんは目が覚めたのか、パソコンを操作し始める。
「えっと...よし、バレちゃったものは仕方ない!
私の自慢の娘!現在休暇中の九尾狐狐ちゃんです!どうぞ〜!」
「どうぞじゃない!」
つい紹介されて突っ込んでしまう。
一瞬でも早く配信を閉じて欲しいのだが、娘バレして振り切ってしまったのか僕の話を始める。
「そう!コメントの君見る目あるね〜。
狐狐ちゃん頑張り屋さんなんだよ〜!
MG杯の時なんてね〜...」
「お母さん!配信閉じよう!」
「うぅ、分かったから揺らさないで〜
とりあえず今日はここで配信終わるね〜
ここまで見てくれた人はありがとう!」
お母さんは配信を終え、配信ソフト諸々を閉じた。
部屋は一気に静まり返る。
僕は絞り出すように声を出した。
「お母さん...」
「どうしたのそんな不安そうな顔して...」
「だって...僕が娘だってバレたじゃん...」
「うん、バレちゃったね...」
「大丈夫なの...?」
僕は不安に押し潰されそうになる。
これでお母さんの力で僕がMonster Liveに入ったと思われてMonster Liveに居られなくなったら...
みんなの顔が頭に浮かび僕を軽蔑するような表情に変わっていく。
気が付けば僕の瞳からは大量の涙が溢れていた。
「歩、大丈夫...泣かないの
歩が狐狐ちゃんとしてデビューが決まった“後”で私がお母さんだって言ってあるから。
それに、もしバレてしまっても親子でコラボしたら面白いと思いますって後押しもしてもらったんだよ?」
「ほ、本当...?」
「うん、本当。
確かに嫌なことを言う人もいると思う。
でもそれ以上に応援してくれる人がいるから。
だから大丈夫だよ」
お母さんにハグされて心が落ち着いていく。
僕は悪い方に考えすぎていたのかもしれない...
少しずつでも良い方に考え方を変えようと思った。
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