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お気に入り小説1

黒騎士レグザスの片想い。マリーディア様に会いたい…

作者: ユミヨシ

「レグザス。いるのでしょう?出て来てわたくしを慰めなさい。」


誇り高きマリーディア皇女様。

あのお方に呼ばれましたら、慰めぬ訳にはいきません。


私は、この皇宮の奥殿に住む、黒騎士の死霊、レグザス。


彷徨っておりましたら、マリーディア皇女様と私は顔見知りになりました。

この歴史あるキーリス帝国。その偉大なる皇宮の奥殿に、宝物庫があります。

そこには皇帝陛下の命で属国から集められたお宝が眠っているのですが、

私はそのお宝の何かに憑いてきたのでしょう。


気が付いたらこの皇宮におりました。

黒騎士の姿で夜な夜な皇宮の奥殿を彷徨う日々。


そこで、マリーディア皇女様と出会ったのです。

廊下で寝間着のまま、立つ月明かりに照らされた皇女様はそれはもう美しくて。

波打つ艶やかな黒髪が…赤い唇が…

思わず私は見とれてしまいました。


「貴方は誰?あら…人ではないのね。」


「私は黒騎士レグザス。気が付いたらここにおりました。」


「兜に隠れて顔が見えないわ。わたくしによく顔を見せて頂戴。」


私は兜を取りました。


マリーディア様は笑いながら。


「あら、顔は骸骨なのね。とても素敵よ。」


「私は死霊ですから。」


マリーディア様は背伸びをして、私の骸骨の頬を撫でて下さいました。


「うふふふふ。話し相手が欲しかったの。ここは本当に…

疲れる所…。学園も同様に疲れますわ。わたくしの立場は皇女。

誰よりも誇り高く、誰よりも高貴に生きなければなりませんから。」


「大変なのですね。」


「ええ…だから、貴方に命じます。わたくしが呼んだら現れてわたくしを慰めなさい。

良いですわね?」


私は騎士の礼を取り、跪いて、


「承知いたしました。皇女様。」


「わたくしの名はマリーディア。マリーディアよ。」


「マリーディア様。」


差し出されたその手の甲に口づけを落とします。

唇は無く、骸骨ですけれども。



そして、今宵、マリーディア様に呼び出されました。

マリーディア様は忙しい方。

なかなか私には会いに来てくれませんけれども、何か悩み事がある時は、

奥殿に来て、私を呼んで下さいます。


「レグザス。聞いて頂戴。ライル様ったら、浮気しておりますのよ。」


「ライル様?確か、婚約者と言っておりましたね。」


廊下で、マリーディア様とお話をします。


マリーディア様は美しき顔を歪めて。


「ええ。あのお方は我が父、皇帝陛下の願いで、婚約を結んだカーティリス公爵家のご長男なの。わたくしという者がありながら、許せませんわ。浮気相手はアリス・メルトラム伯爵令嬢。皇家の陰に命じて殺してしまおうかしら。」


「それはいけません。アリス嬢が不審死なさったら、貴方の仕業だとライル様はすぐに気が付くでしょう。」


「では、我慢しろと言うの?」


ああ…マリーディア様が涙を流していらっしゃる。

この方は流す涙すらも美しい。


私はマリーディア様を諭します。


「貴方様は幸いにも、この帝国で一番力のある皇帝陛下の娘でございます。

ですから、証拠を集めて不貞を理由に婚約を破棄なされては如何でしょう。それとも…

ライル様を愛しておいでですか?それならば…話し合いを持たれては如何でしょう。」


マリーディア様は首を振ります。


「愛している訳ないでしょう?政略と言う名の結婚なんて…わたくしは、例え、ライルと婚約破棄したとしても、政略の元、愛してもいない相手と結婚しなければならないのだわ。」


ああ…胸を痛めているマリーディア様。

なんてお気の毒な。


「色々な方と交流を持たれてはいかがでしょう。マリーディア様の良さを解って下さる方が出てくるかもしれません。」


「ありがとう。皆、わたくしが皇女というだけで、距離を置きたがるものだけれども、

努力してみるわ。」



ああ…私が貴族の生きた人間だったら、愛しのマリーディア様を誰にも渡しはしないのに。

私は力のない死霊の黒騎士。


こうして、お傍でマリーディア様の愚痴を聞き、時にはアドバイスをして、幸せを願う事しか出来ない。




それから、しばらく、マリーディア様から呼ばれる事も無く、

私は奥殿の宝物庫前の廊下で、マリーディア様が会いに来てくれるのを待つ日々。


サビシイ。サビシイ。サビシイ。


マリーディア様、どうか会いに来て欲しい。

私はここでいつも貴方の事を待っているのに…



「レグザス。いるのでしょう?今日は、とてもいい報告をしたいの。」


とある日、久しぶりにマリーディア様が奥殿に来て下さいました。


「マリーディア様。私はいつでもここにおります。」


月明かりが差し込む廊下で、マリーディア様は微笑んで。


「交流を色々と増やしてみたわ。そうしたら、とても素敵な方に出会ったの。

隣国の皇太子殿下フィルオス様。わたくしはお父様に頼んだわ。

どうか、フィルオス様と婚約したいって。そうしたらお父様も賛成して下さって。

フィルオス様もわたくしと婚約したいって言って下さいましたのよ。

フィルオス様の国、リリアン帝国は我が帝国の属国。それはもう、わたくしが、嫁入りすれば、向こうとしても安心でしょう。

フィルオス様はそれはもう素敵な方で。わたくしは…

レグザス。喜んで頂戴。」


マリーディア様が隣国へ行ってしまう。

もう、ここへは帰ってこないだろう。


いやそれよりも、何だか嫌な予感がする…


「マリーディア様。本当にフィルオス様は信頼できるお方ですか?リリアン帝国は安心なのですか?」


「あら。心配してくれているの?それとも焼きもち?」


「私はただ…マリーディア様の事が心配で。」


「うふふふふ。大丈夫よ。あのお方はとても素敵な方。わたくし、幸せになるわ。

向こうへ行く前に貴方に会いに来るから。本当にいままで有難う。レグザス。」


涙がこぼれる。


マリーディア様…


マリーディア様が行ってしまう…本当に大丈夫なのであろうか。

どうか、あの方が幸せになりますように。


それから、マリーディア様は私に会いに来てくれる事も無く、

隣国へ行ってしまった…




それから季節は過ぎて、一人ぼっちで宝物庫でぼんやりと過ごす日々。


あの方は幸せにしているのだろうか?


あの美しきお顔を、鈴が鳴るようなお声を、もう一度、お会いしたい。

マリーディア様。


そんなとある日、荒々しく大勢の人々が奥殿に入って来た。

そして、扉を開けて、中を荒らして…


「フィルオス皇帝陛下。凄いですねぇ。さすがキーリス帝国。お宝が山のようにありますぜ。」


「ああ、これ程までとは。さすが悪名高いキーリス帝国の奥殿だ。

これらの宝は元の持ち主へ、各国も喜ぶであろう。」


これはただ事ではない…フィルオス皇帝陛下??マリーディア様が嫁ぐと言っていた隣国の皇太子が、皇帝陛下?何があった?マリーディア様は?この国はどうなったのだ?」


その時、フィルオス皇帝の声がした。


「おや、この黒水晶のブローチは、凝った作りだな。どこの国の物だ?」


黒水晶のブローチ??


ああ…そうだ…私は…


レグザスは思い出した。

遠い日に仕えたあの愛しい高貴なお方を…


そう、私はあのブローチに憑いていたのか…何でいままであんなに愛した方を忘れていたのだろう。愛したあの方の持ち物であったブローチに憑いていたというのに。

マリーディア様は昔、仕えていた高貴な方に似ていたのだ。

だから…心が動かされて、愛しくて愛しくてたまらなくて…


フィルオス皇帝に問いかける。


「マリーディア様はどうなったのだ?」


しかし、フィルオス皇帝も、他の人達も、レグザスの姿は見えないようだった。


何故だ?マリーディア様は私の姿が見えたのに、私と話をすることが出来たのに…

何故??


悔しい悔しい悔しい…


無力な死霊の自分が、愛する人の行方も解らない自分が悔しくて悔しくて。


レグザスは悲しみのあまり泣いた。




あれからどの位、経ったのか…

レグザスが気が付いた時は、見知らぬ場所にいた。

どこかの王宮?立派な建物の中である。


あのブローチは新しい持ち主の手に渡ったのだ。


廊下から声が聞こえてくる。


「ここも悪くはないわね。さすがお母様の母国。とても素敵だわ。」


「そうでしょう。マリーディア。」


え?マリーディア?


マリーディア様が生きていらっしゃるのか…



フラフラ廊下を歩いていて、ふと、廊下に飾ってある肖像画が目に入って来た。


ああ…そうだ。私はあの方を愛したのだ。


遠い日々、騎士として仕えたのだ。


その肖像画には、美しい黒髪の王冠を被るドレス姿の女性が描かれていた。


女帝アレクシアナ一世。


肖像画に見とれていたら、背後から声をかけられた。


「あら。又、会ったわね。レグザス。」


「マリーディア様。」


生きていた。マリーディア様が生きていた…

艶やかな美しさ…あの鈴が鳴ったような声で、私を魅了してやまないマリーディア様。


「こうしてお会いできて嬉しいです。マリーディア様。」


跪いて、その手の甲に口づけを落とす。


「わたくしも嬉しくてよ。貴方が心配した通り、フィルオス様は他の国と図ってキーリス帝国を滅ぼしたわ。わたくしは人質に取られたのですけれども、わたくしの母の母国がわたくしと母を助けてくれましたわ。

この肖像画はわたくしのおばあ様。女帝アレクシアナ一世ですのよ。」


ああ…それで私はマリーディア様に惹かれたのだ。

アレクシアナ様に似ているマリーディア様に…


マリーディア様は、当然のように私に命じました。


「命令です。レグザス。これからも、わたくしの愚痴を聞いてもらっていいかしら?」


「ええ。勿論です。マリーディア様。」




私はとてもマリーディア様の事を愛しておりましたが、死霊の身である私と、

マリーディア様がどう頑張っても結ばれるはずもなく、いえ、例え、私が生きた人間だったとしても、身分差という壁がありまして…


マリーディア様は、それから、あっけなく、この国の高位貴族の令息と結婚してしまいました。


その時、私は男泣きに、アレクシアナ様の肖像画に縋って泣きましたとも。



また、しばらくほっておかれました。

とある日、久しぶりにマリーディア様に呼ばれました。


「ねぇ、今日は報告があるの。レグザス。出てらっしゃい。」


「何でございましょう?マリーディア様。」


「わたくし、子供が出来たの。お祝いしてくれないかしら。」


「それはおめでとうございます。」


「それで、これはお願い。もし、わたくしと同じように、貴方の姿が、この子にも見えたら、又、相談に乗ってあげて頂戴。レグザスはわたくしの大事な相談相手なのですから。」


相談相手…。


思えば、アレクシアナ女王陛下は、愚痴一つこぼさぬ強い方で、それはそれで寂しくもあった。

しかし、マリーディア様には随分と甘えて頂いた。


マリーディア様と共にいられた時は、私にとって宝物だった。


「承知しました…。マリーディア様。このレグザス。お約束致します。」


「ああ。有難う。とても嬉しいわ。」



マリーディア様のお腹の中にいる小さな命が、私と会う日が来るのであろうか?



「貴方は誰?うわーーーん。なんだかおっかない物がいるっ??」



だなんて、数年後、出会った途端、逃げられる可愛い令嬢と出会える未来が待っているのだが、今のレグザスは予想出来るはずもなく、ただただ、今は、こうしてマリーディア様の傍にいられる幸せを味わうレグザスであった。


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