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思い出したよ、まさか私に前世の記憶って噓でしょ本当にあるんだぶっちゃけそんなの本の中でしかありえないんじゃ、え?その本を読んでたのも前世の記憶?......えー(混乱)




 

 記憶を思い出す前、なにしてましたっけ......


 えーっと、そうだ、本を投げられました。

 本は投げるものではありません。小さい子供だって知ってます。でも私は自他共に認める本の虫、()()()もので。その時はとっさに落とさないよう受け取ろうとして無防備に手を触れてしまったんですよね。

 本を投げた相手は後で先生にチクってやる、そう思って。


 なのに投げてきた相手が悪かったんです。変人なんですよ、変な攻撃魔法を作る黒魔術士の変人。最近新たに術をかけるのに成功したとかで、生徒の間でも随分話題になっていたように思います。本を読む時間が勿体ないから、対象の本に術をかけて触るだけであら不思議とばかりに頭にその内容が入るというわけです。確かに便利ですが、一度に内容全部流れてきても処理出来るのなんて僅かだろうと、そう思った覚えがあります。

 ですがまさか、その術をかけた本を戦闘中に投げるなんて思います?それ攻撃ですか?


 そうして触れた指先からビリっと痺れるように震えたと思ったら、あっという間に体の中を突き抜けるように膨大な情報が襲ってきまして、処理しきれないその一つ一つが頭の中で行き場を失い踊り回わ跳ね回るわそれはもう、言い表せない程大変な状態でした。


 で、それでも何とか処理しようと頑張った結果、どこかがプツンと開いたようで。

 そういった経緯でこの度、めでたく前世とかいう情報をひっぱり出す事に成功しました。


 わー、こんな事あるんだ、というか前世って。笑っちゃいそうです。

 とはいえ、前世の自分自身の記憶はさっぱりです。確か女だった、という事とある程度の年齢だった、という位。まぁ今後思い出すかもしれません。

 あ、ごめんなさい話がまとまってませんかね。やっぱりまだ混乱してるのかな?

 でもこんな時になんなんですが、ちょっとお話聞いていただけませんか?私の為に。



 現在の私は見ての通りとても平凡で地味そのもの。あまり自分に関心がないので身だしなみに気を使っているとは言えませんが、面倒でも毎日長い茶色の髪を櫛で梳かし、後ろで一つにまとめる位はしておりますよ?

 それ以外に特筆する事がほとんどない、眼鏡と学園の制服が似合う現世でも性別女の種族は人です。年齢は16で学生、それも特待生です。今年も残すところ後半年で学園は卒業ですが既に仕事もしております。仕事内容はと聞かれたら前世の職業で言えば魔法使い、ですね。

 え?魔法使いなんてゲームや空想の職業?

 まあ確かに現実にはなかった、うん、魔法は無かったですね。でもみんな知ってるでしょう?魔法使い。わかりますよね?呪文を唱えて攻撃したり、人を回復したりする職業。正直ゲーム要素とかオリジナル魔法が強すぎでしかも混ざってて数も多いときて、自分で言うの微妙なんですよねぇいわゆる前世でいう魔法使い。

 まあ今の私には違いを説明する事もバッチリ可能なんですけど。

 

 攻撃系の魔法や属性のある魔法は基本、黒魔術という括りなんですよ。

 回復魔法や防御系の補助魔法、ゲームでいう所のバフ?そのあたりは白魔術です。

 じゃあデバフは?攻撃魔法でしょ?ってなりますよね。違うんですよ、それはここの世界では呪術。

 対象に呪いという名の魔法をかけて、目を見えなくしたり病気にしたり、毒や魅了、石化といった身体に効果的な呪術もあれば、その土地を不毛の大地に変えてしまったりだとか、物に呪いをかけて使用者の手にそれがある事で継続的に発動し、人を媒介する間に強くなる類いもあったりします。死の大地、呪いの人形、いわく付きの宝石なんか前世では有名ですね。


 で、ですね。

 えー、私は魔法使いと言いましたが、呪術は使えません。

 というか、先程挙げた例のどれにも当てはまりません。理由は呪術返士だから。何が出来るってそのまま読んだ字のごとく、呪術をはね返せます。これが微妙だと言った理由です。


 誰かが呪術の対象になった時、傍にいればその呪術を跳ね返す呪文を使えます。被弾前に察知できるなんてすごいでしょう?

 でも完璧ではないんですよねぇこれが。

 私の反応速度が遅いと私自身にその呪いを受けたりもするので、魔術科4クラスの内黒魔術士、白魔術士、呪術士と比べると明らかにポンコツ扱いなんですよ。逆に他のクラスの皆さんは呪術返しが使えません。同じ魔力持ちなのにいわゆる適性というものがハッキリとあるようなんです。でもこの呪術返士の適性持ちだけがポンコツ。戦闘に挑む際、パーティ組むのに一番呼ばれないやつ。敵に厄介な呪術士がいたら、居た方が便利じゃない?って程度。でも第一線で働いて活躍してる呪術返士もいるんですよ?ドラゴン相手の討伐とか必須ですよ?ぶっちゃけ相手の鱗が固い内は状態異常なんて返した所でかかってくれませんけど、それは呪術士がいても一緒だし。そんなポンコツでもひとつのクラスとして成り立つ理由はあって、それが魔道具製作なんです。

 魔道具とは?それは日用品や装飾品など様々な物に魔方陣を刻み、そこへ流した魔力を原動力に特定の効果を発揮するいわゆるマジックアイテムです!きゃ~!なんだかファンタジー感が一気に増しましたね!興奮しますね!

 え、この世界では常識?ありふれてる?

 ......ちょっとそこに正座して過去の呪術返士たちに詫びなさい。戦闘力にならない事実を前に腐る事なく技術を磨き邁進した彼らがいたからこそ!地位の確立及び向上それと共に現在の魔道具の普及にも繋がったというのに!正座ついでに土下座しなさいまったくもう。人がせっかく魔法のある世界にテンション上げてるっていうのに。

 まぁそれ以外に強いてあげる事があるとすれば、呪術返士は戦闘の時に前線にいることが多い、ですね。

 役立たずのポンコツが一番前にいる理由。戦闘系クラスのいない魔術士同士のパーティの中で、後ろにいても前にいても私達は狙われ標的にされます。呪いや魔術を引き寄せやすい体質みたいなんで始めから前にいるだけなんですが。

 『身代わり人形』と言えば分かりやすいですか?よく陰でそう言われます。そしてそれを弾き返すことが出来る魔力持ち。それが呪術返士の一般常識です。

 おそらくですが、その体質ゆえに生存本能が働きそれに特化した結果、ここまでに至ったのではないかと推測しております。


 でも、誰が言いだしたんでしょうね。()()()()返せない、なんて。

 今なら攻撃魔法も防御魔法も感知出来るんで、返し方が分かればそれらも返せるようになるでしょう。今まで出来なかったのに何で?と聞かれると、私もなぜかは分かりませんが......固定観念、ですかね?呪術士は呪術返しは使えない、それと同じです。目で見れば相手がなにか術を練っている。でも見る前に術を肌で感じてはいた。その理由に()の私が気が付いただけの事。まあ、これ終わったらあとで練習してみましょう。

 

 後回しにした理由は今が戦闘の真っ最中だからです。

 三対三の公式戦。戦闘の申し込みはあちらからで事後報告でした。私に拒否権?ありませんよ?なので相手方のお名前も知りません。

 その場で居合わせた黒と白の魔術士のお二人が、一方的な試合を見かねて私とパーティを組んで下さったのは幸運でした。おそらく特待生で女の呪術返士なんて目障りだったから、とかまぁそんなお相手の理由を推察するのは今どうでもいいですかね。

 ちょっと別の事考える余裕なんてホントはないけど、一通り説明してたら頭の中が整理できました。あ、言っときますが説明してる間もずっと私は自分の役割をしっかりこなしてますからね?


 そんな一人漫才の一人ツッコミで架空の誰かに説明しながら自分を落ち着かせている内に、対戦相手のローブを頭から被った三人が何だかザワつき始めてますね。戦闘中の着用が義務の、何の術士か一目で分かるよう色分けされたローブ。黒魔術士が赤に金の刺繍、呪術士が黒のローブに銀の、私と同じ呪術返士は緑のローブに白銀で刺繍された三人一組のパーティ。

 制服の上に着るといかにも魔術士らしくなるアレです。もちろん私も着ていますよ。茶色の髪に緑のローブなんてとっても目に優しいと思いませんか?地味に気に入ってます。私と同じパーティの白魔術士はイメージ通り白のローブなんですが、刺繍は白金でいかにも聖女な見た目のデザインとなっており大変可愛らしいのです。女子率の高さと人気、共にダントツです。その点緑のローブは平凡オブザイヤーでナンバーワンに輝くこと間違いなしです。

 話は逸れましたが、彼らもそろそろおかしいと思い始めたでしょうか。


 きっかけをありがとう、それからごめんなさい。

 お礼は本で攻撃してきた変人に。投げられた本は本人に直接返さず、審判の先生を通しますからご心配なく。この本が今投げられなければきっと思い出す事もなかった前世です。きっかけがこのR18指定のエロ本であっても感謝してますよホントに(死ねばいいのに)

 

 謝罪は以前の自分自身に、ですかね。

 前世を思い出した私はきっと、周囲から性格が大きく変わったように見えるでしょうから。私は人一倍臆病で、めったに戦闘に参加しない癖に痛いのも苦しいのも絶対に嫌、という理由だけで強制参加の戦闘では呪術を返し損ねる事がないと有名になったものだから、変に目立ってましたからね。それが前世の性格や考え方に引っ張られた事と今日の戦闘でさらに悪目立ちする事でしょう。ほんと、ごめんね以前の私。臆病な自分の性格も愛してたんだけど。

 はぁ~あ。

 さてとそれじゃあ前世の記憶を思い出した事ですし、そろそろこの地味な戦闘は終わらせてしまいましょうか。

 あ、ため息の理由ですか?見ての通りですよ。飛び交う魔術のどれもが本当に地味なんです。こちらの魔法の何が地味かって、前世想像していたような華やかさや派手さが少ない事です。もう本当ガッカリ......七色に輝くエフェクトも派手なアクションもない、ただの小手先だけの術の応酬を繰り返す戦闘なんて、アニメやゲームが身近なものとして育った前世の私からすれば物足りなさを強く感じずにはいられません。そりゃあ記憶を思い出した当初は自分が自然と呪術返し出来ている事に感動しましたよ?でも単なる魔術の応戦は、慣れてしまえば公園でするキャッチボールと大差ないのですよ。

 それに以前からいちいち呪文唱えて弾き返すの非効率だなって思ってたんですよね、察知は出来るんだしあちこちに打ち返さず、こっちに溜めときましょ~ってな感じで飛んで来る呪術すべて魔力増幅用に持っていた手持ちの魔石にどんどん溜めてみれば出来ました。即席身代わりの石です。やったぜ!

 それで相手はザワザワしてるんです。ひとつも呪術が返されないのに、私が身代わりにもなってない上、全員無傷だから。あ、味方もちょっとおかしいって思ってますね。

 そろそろ溜めている魔石の強度も心配だし、私の魔力も限界だし、うん、いくつも術投げてきてホント鬱陶しいし、頃合いですね。被っているフードで顔が見えないけど、この呪術士の人絶対嫌いですよね?私の事。

 あっちにも呪術返士はいるけど、「なぜだ!」「相殺された!?」って集中力切らしてるうちに、全員に今まで使われた呪術お返ししときましょ。そぉ~れっと。


 ドサッと音を立てて相手のパーティ全員が息を合わせたように仲良く崩れ落ちました。っふふ、ちょっと面白い。



 全員戦闘不能で勝負あり、ですね。

 審判の先生が「そ、それまで!」と言っています。


 ......わーぉ、自分が返しておいて何ですが、えげつない事に。

 眠り混乱とスタン毒発熱腹痛火傷に部分石化。眠たいのに痛みで起きて動けなくて苦しんで気絶して、ゲーゲーと全員吐いてまぁ大変。あ、あちらが呪術返しに成功したのはどうやら魅了だけ、のようです。精神攻撃系は体にあまり影響が出ないから、できればそれ以外を返したかった事でしょうにあーあー、のたうち回ってお可哀想に。

 以前の臆病な私なら、これは見てるだけで失神ものですねぇ。今の私には他人事です。

 ふーん、結構強力な効果の呪術ばかりに見えます。重ね掛けしていたのかも。これだけの数使いこなせる所を見るに、相手の呪術士は同じ学生なのにとても優秀なんですね。

 淡々と分析しつつ今までよく自陣に被害出さずに返していたと思い感心してたら、相手の惨劇に震えていた味方からも労われました。今日は優しい人にパーティ組んでもらえて本当に良かった。でもどうやって溜めてから返したのかと一人は聞きたそうに、もう一人は不思議そうにしてます。まま、勝ちは勝ちなんで。


 後は解呪の専門の先生方にお願いして、私達はさっさと退室しますよ~、と彼らに背中を向け歩いていた時でした。


 チリッと首のあたりで呪術を感知して、私は冷静に振り向き戦闘態勢に戻ります。余程頭に来たんでしょうね、三人のうち黒いローブの呪術士がふらつきながら体を起こし、特大の呪術をぶん投げてきました。ローブを地面に付けたとお怒りなのか、いやゲロまみれになったせいか。おそらく自分でいくつか解呪したんでしょうが、ダメージはまだまだ強く残っているのは明らかでそれが更に怒りへと繋がっているのだとお察しします。

 でも試合終了後に呪術を使うのは反則なんですよ?もちろんコレもきちんとお返しするつもりですとも。......まぁ、鬼って一体誰の事ですか?


 野球でいうド真ん中ストレートに飛んでくる球のように可視化できます。カッキーンとホームランでも打ちたい気分で眺めていましたが、あんまり目立つ動作はやめておくかなと、そう無感情に考えていた時でした。

 相手の呪術士の方が体勢を維持できず膝を突いたのが見え、万全の体調でもないのに無理しますねぇ......と視線をやって。



 それまで思ってた事全部、一瞬で吹っ飛ぶくらいに、びっくりしました。


 私めがけて飛んでくる呪術より、頭のフードの落ちた相手の呪術士と目が合った事に。

 

 ローブと同色のツヤツヤとした髪がサラサラと風になびいて揺れています。その髪の間から同じ色の耳がちょこんと顔を出し、シュッとした顔つきに可愛らしさを添えています。唸るように歪められた口元から覗くのは鋭い八重歯。肉食獣らしい瞳孔をもつその瞳は蒼いのに怒りに燃えているのが分かるほど、真正面から物凄くにらまれています。その鋭い視線を受け止めているというのに、この高鳴る鼓動はなんなんでしょう!?

 脳の一部が興奮状態で獣人モフモフテンセイキタコレー!と叫んでいますが、ちょっと理解が追い付きません。変な事を叫ばないよう震える手で口元を押さえる理性があっただけでも自分を褒めたいです。前世の記憶を思い出してから今まで、情報を整理し落ち着いたはずの脳内は先ほどの比にならない位に大騒ぎとなり呼吸すらうまくできない程。


 ああっ......!無理です好き!どこを見ても好き、好きすぎてひどい動機と息切れです!


 ダメですもう限界ですそのなめらかなしっぽ、どうか先の方だけでもいいので触らせてもらえませんかっ!10秒、いえ、少々欲を言えば時間無制限で!あの、腕とか足に絡めて貰っても当方まったくかまわないんですがそれっていわゆる求愛行動!?ひゃー!!想像だけで滾るありがとうございますうっぜひお願いしますぅうう!!

 そんな欲に満ちた思考にふけって閉まらない口とよだれを隠し、もう一つの手で鼻血を隠すべきかと頭の片隅で考えている所へ、先生から「大丈夫なのか!?」と心配そうに声をかけられていました。頭の心配ですか?そうですよね、獣人にしっぽ触らせろってセクハラですね、ごめんなさ......

 そこでようやく気が付きます。私に向かって来ていた呪術は......?


 あ、あら?

 私とした事がうっかり、呪術返しに失敗しちゃってました。



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