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魔狼転生  作者: 兎月 晃
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竜の進化

賢者の石を創り出した次の日、魔物の暴走にあった一行。

魔物を追い立てる原因が舞い降りる。

突然、物凄ものすごい圧力と共に巨大な闇そのものが空から降ってきた。


それが、巨大な翼を持った漆黒しっこくの身体のドラゴンだと判明したのは、警戒している我々の目の前に砂煙すなけむりを上げて降り立った後だった。


俺の背後では、皇帝陛下からミュレイの護衛を担っている霧騎士ミスト・ナイトの皆さんが、全員で肉の壁を作りミュレイを背後へと隠すだけで精一杯になっていた。誰も抜刀をしていないところを見ると、戦闘行為とドラゴンにみなされないように力の限り自制を働かせているのだろう。


魔狼としての俺よりドラゴンの方が全体的に二倍以上大きいから、体積比だと俺の四倍を超えそうだ。


「濃厚な闇の宝玉が我を呼んでいたので、千里を飛んできたのだが、矮小なる人間どもよ、何か心当たりは無いか」


そんな恐ろしいドラゴンを前にして、俺の頭の中では、1里が3.9kmだから千里だと3900kmになるよな。俺の元居た日本の北海道から沖縄が約3200kmだったはずなので、とんでもない距離を一晩で飛んできたのかと感心していた。


それにしても、これだけの距離で賢者の石が創造される気配を感じられるって事や一晩で千里を飛んでくることにも驚きだった。


そして、理解できたことがある。暗黒竜の気配に怯えた魔物たちが恐慌状態に陥って、追い立てられるように、竜の進行方向で会った我々の方へと押し寄せたのだ。これが今回の魔物の暴走(スタンピード)の正体だったのだろう。


ただの人間だったなら、こんな状況で冷静にしてはいられないだろうけれど、魔狼として生活してきた今の俺にとっては、幻想世界(ファンタジー)の世界の代名詞とも言えるドラゴンと出会えた幸運の方が恐怖に勝っていた。


そして、闇の宝玉にも心当たりがあった。俺が昨夜創造した“賢者の石”の事だろうと。ミュレイも同じことに行きついたようで、魔封箱を手にして何かを思案するかのように俺を見ている。俺は頷きミュレイの方へと歩み寄る。


「それは、多分()()のことではないでしょうか」


俺は賢者の石が入った魔封箱をミュレイから貰うと、それをドラゴンの方へと放り投げた。地面に落ちると魔封箱の上蓋が開き、僅かに青白く発光する賢者の石が転がり出て、漆黒の竜の足元へと到達する。


「これ程の闇を蓄えるとは……」


漆黒の竜は、驚きを隠さずに賢者の石を見つめている。そして、


「これこそ我が長年探し求めていた闇の宝玉よ! 我の財宝、その全てと引き換えに譲る気はないか?」


魔物からも動物からも逃げ出すほど恐れられるドラゴンが問うてきている状況だけれど、これって拒否権無くないですかね。俺は独り心の中で愚痴を言っていた。


「誠に光栄な御申出。闇の宝玉は、貴方様へと献上いたします。その見返りの財宝は、我々の足ではあまりにも遠く、取りに行くことも叶いません。ですので、別の事を御願いしたいと考えております。要望を御聞きいただけますでしょうか」


「闇の宝玉が我の物となるならば、何なりと要望を申してみよ」


声音が高くって、早口になったように感じるのは、ドラゴンが喜んでいるからだろうか。恐ろしいドラゴンであっても浮足立っている様子というのは、何だか可愛らしく見えるから不思議だ。


「では、此処に立っている者の誰かが貴方の助けを必要としている時、一人に一回だけ御助力いただくことは可能でしょうか」


俺は振り返り、ミュレイと霧騎士ミスト・ナイトの面々の顔を見ていく。どの顔も俺が言い出したことに驚いている様に見える。けれど、漆黒の竜に委縮してしまって、誰も声を出すことが出来ない。


「良かろう! 今ここに契約は成された!」


漆黒の竜が宣言すると、各々の下に魔法陣が輝き、全員がその輝きに一瞬だけ包まれた。


「古の魔法契約により、我は闇の宝玉を譲り受けることを条件に、この場に居る全員の願いを、可能な限り一つ叶えることを誓おう。願いが決まったならば、我が名を呼ぶがよい。我が名は独裁の王アラインヘルシャフトなり」


呪文の詠唱すら無く、あの一瞬で全員と魔法契約を行ったらしい。俺の固有魔法である蒼炎の柱(そうえんのほのお)空間転移テレポーテーションの様なものなのだろう。


漆黒の竜は、賢者の石を手に持つと何やら呪文らしきものを唱えた。すると、徐々に賢者の石の青白い発光は、賢者の石から竜の腕、胸、胴、頭に反対の腕、そして足へと広がっていった。漆黒だった竜の身体は、今や全身が眩く光り輝く鱗の塊と変化していた。


その直後、竜は力なく地面に向けて丸まっていった。そして、全身へと広がっていた光が身体の中央へと集まってゆき、そこから漆黒の竜だった時とは比べ物にならない物凄い力の胎動が感じられた。そして、背中部分がひび割れると、圧縮された光の玉が飛び出してきた。


神々しい光が収まると、そこに居たのは、白磁の鱗と薄く青白い輝きを纏った柴犬のほど大きさをした小竜だった。


「素晴らしい! あの闇の宝玉一つで、我は古代竜から真竜へと進化を遂げることが出来たのか!」


小竜の声音は犬の鳴き声並みに高くなり、さっきまでの威厳あふれる重低音と同じ話口調だと違和感が半端ない。


「古代竜から真竜へと進化されましたこと、誠におめでとうございます。矮小なる我が身ではありますが、微力ながら御身の進化に携わることが出来ましたこと、大変光栄に思います」


後ろを振り返る事無く気配を探ってみると、ミュレイも霧騎士ミスト・ナイトの皆さんも片膝を地面に付いて、控えているのが判った。


真竜へと進化したことにより、漆黒の古竜だった時にあった圧迫感や恐怖心は拭い去られている。今感じているのは、神々しいまでの姿に対する畏敬の念だ。


「我はこれから、三度目となる幼竜時代を送ろうと思う。暫くは巣に帰ることもままならぬが、暗黒竜時代よりも膨大な力を秘めておるから、時間と共に使いこなしてみせようぞ」


真竜アラインヘルシャフトが上機嫌で宣言している姿は、大きさは柴犬くらいしかない小竜の為、可愛らしさが半端ない。


だが、小竜の後ろには巨大な竜の抜け殻があった。俺は、その抜け殻と目が合った気がして、アラインヘルシャフトに声をかけてみる。


「この抜け殻は、どうするつもりでしょうか」


「ただの抜け殻じゃ。好きにするがよい」


「畏まりました。では」


俺は言うが早いか、おもむろに空間転移テレポーテーションで暗黒竜の抜け殻もろとも、ミュレイと過ごした洞窟まで飛んだ。


そして、洞窟の中を満たしている氷乃棺アイス・カスケートを解除して、その中へ暗黒竜の抜け殻だけを転移させた。魔法障壁で囲っているので、万が一土壁と接触しても抜け殻は損傷が無いようにしているけれど、丸まった体勢をしていても流石はドラゴン大きさは洞窟ギリギリだった。そして、抜け殻を氷漬けにするように封印する。


「水氷を司る精霊王と契約を交わせし者、エヴェイユの名において、14番目の水の精霊を行使せん。氷乃棺アイス・カスケート


これで、万が一土壁が破壊されても、中から氷漬けの巨大な竜が見下ろす形になるから、滅多な相手では寄り付かないだろう。


「面白い事を考えつくものじゃな。我の抜け殻を氷漬けにするなど」


俺は独りで愉しくなってきていた。だから、気が付かなかった。背後に真竜アラインヘルシャフトいることに。


「どうやって、こちらまで……」


不意打ちの言葉に俺が戸惑っていると。


「なに。ソチが我の抜け殻と空間転移テレポーテーションしようとしているのが判ったのでな、面白そうだと思って追いかけたまでよ」


どうやら、空間転移テレポーテーションに紛れ込んできたようだ。


「では、心配しているでしょうから、急ぎ戻るとしましょう」


再び空間転移テレポーテーションで、みんなの所へ戻ると、やはり心配されていた。


「「いきなり消えるのは、心臓に悪いので止めてください」」


アメリアとオリビアの双子の姉妹にかなり本気で言われた。少し自重しよう。


その頃になると馬たちも気が付きだした。流石は訓練された軍馬だけあって、真竜となったアラインヘルシャフトを見ても平気な顔をしていた。やはり以前の時の圧力は、だいぶ削がれたようだ。


「それはそうと、先ほどのアラインヘルシャフト様の言葉に少し違和感があったのですが、

ひとつお聞きしてもよろしいでしょうか?」


何やら思案顔のミュレイが、答えの出ない疑問に悩むより、直接本人へと疑問をぶつけた方が良さそうだと判断したとばかりに疑問を口にする許可を求めた。


「我の事に関してなら、何なりと聞くがよい」


アラインヘルシャフトも気前よく答える事を前提に小さい身体を反らして威厳を出そうとしているが、何分にも身体が小さすぎて威厳が欠片も感じられない。


「では、先ほど『闇の宝玉一つで進化することができた』と、かなり驚いているご様子でしたけれど、通常ですと闇の宝玉一つでは、進化することは出来ないのですか?」


「それに対する答えは難しいが、大きさや内包する闇の量によって異なってくる。以前に我が下位のドラゴンから上位のドラゴンである暗黒竜へと進化した際には、小粒の闇の宝玉しか見つからず、進化のきざししが出てから年数にして500年余りと闇の宝玉を50個ほど必要としたのを覚えておる」


日本の全長を半径とする距離で賢者の石の気配を感じられる暗黒竜時代のアラインヘルシャフトですら、10年で1個の割合でしか見つけることが出来ず、それも小粒って事だから、俺が作り出した“モノ”がいかに規格外だったかが、改めて認識できた。


「お答えいただけたことに感謝いたします。やはり、それだけの価値があるものだったのですね」


ミュレイの応答には、何やら含みがあったが、聞こえなかったことにしよう。


「因みに暗黒竜から真竜へと進化する為に必要な闇の宝玉の量は、通常のドラゴンから上位種へと進化するときの10倍ほど必要だぞ」


そう言って豪快に笑うアラインヘルシャフトだったが、俺の頭の中では、進化に必要な闇の宝玉と呼ばれる賢者の石が500個だから、年数換算ねんすうかんさんすると5,000年も必要じゃないかと突っ込んでいた。


「何となくの思い付きで、創ったらいけない“モノ”だったんですね……賢者の石って」


と、小声でつぶやいた。


「やっと賢者の石の価値が判っていただいたようで、私たちとしても一生懸命にお話をした甲斐かいがあったと言うものです」


と、アメリアが言えば。


「それをいくらでも創り出せる錬金術師れんきんじゅつしなんて、この世界には存在しませんので、エヴェイユさんの存在自体が貴重なのですよ」


と、オリビアが重ねてくる。


俺はかわいた笑いしか出てこない。自分の価値を再認識さいにんしきすると、どうしても国家にとって大変な危険にしか聞こえてこないので、冷や汗が流れてくる。


「さてと。これから何処へ行くつもりか知らぬが、我も同行する事としよう」


真竜アラインヘルシャフトが宣言すると、誰もが目を点にして固まった。それと同時に反対意見など誰も言えないとさとっていたから、それからしばらくの時間、霧騎士ミスト・ナイトの皆さんは対策に頭を悩ませていた。


俺とミュレイとアラインヘルシャフトは、早々に会議の和から離脱りだつして、これから帝都へと行くことや皇帝陛下との謁見がある事などを伝えた後、ミュレイからの帝都でのおすすめの店や食事の話でにぎわっていた。



こうして、昨夜は、賢者の石を創造してしまい、今夜は魔物の暴走(スタンピート)と暗黒竜の襲来しゅうらいがあったので、結局のところ誰もが睡眠不足気味だったのだが、皇帝陛下との約束があるので、仮眠をとった後、帝都へ向けての旅は、夜明けと共に波乱万丈はらんばんじょうよそおいをかもし出しつつも再開される手はずとなった。

今回の話は如何でしたでしょうか。

これで第二話が終わります。

次回から第三話が始まります。

また、金曜日の夕方にお待ちしております。

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