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魔狼転生  作者: 兎月 晃
4/30

魔法を使い始める

異世界に“魔狼”として転生した“元教師”は、魔法契約に成功して、様々な魔法が使えるようになった。

次の旅へと出る前に、少しだけこの二か月間の話をまとめておこうと思う。


最初の一か月は、ミュレイに魔導書を読んでもらうことが多かったが、少しずつ文字を覚えてからは、自分で魔法を使うことも増えてきた。


そして、約二ヶ月のミュレイのとの湖畔での生活は、魔獣として異世界での生活に慣れ始めていた俺にとって、人間としての感性を取り戻すきっかけとなった。


文字を覚えた俺が、最初に行ったのは、住居の確保だ。ミュレイは、簡易テントを持ってきていたので、風雨をしのげる場所を確保していたけれど、魔狼の姿の俺は、テントどころか辺り一面で入れそうな洞窟すら無かった。そこで、


「この辺りで良いかな」


ミュレイにお願いして人の姿になった俺は、周囲を散策して、ちょっとした崖を見つけたので、“魔法”を使って巣穴を掘ることにした。


左手に魔導書を持ち、右手で壁に軽く触れる。


「地重を司る精霊王と契約を交わせし者、エヴェイユの名において、8番目の地の精霊を行使せん。空間作成スペースクリエイション!」


呪文を唱えた瞬間、俺の触れていた壁に穴が開き、壁一面へと一気に広がっていく。


俺の目の前に出来上がったのは、たて5m、横5m、高さ5mの正方形をした空間だった。


「これは、すげぇな……」


「本当に凄い威力ですね」


どうやらミュレイもこの魔法を見るのは始めてらいく、とても驚いていた。


壁際まで歩いて行った俺は、壁を叩いてみるが、物凄く硬い。


「これだけしっかりしていれば、下手に強化しない方が良さそうだな」


どうやら、中央にあった土は、周りに押しやられる際に圧縮されているようで、壁はかなりの強度があった。


「出入口が広すぎる気がするのですが、土壁か何かで調整できそうですか?」


「どうだろう。やってみますか」


洞窟の上部へと手を向けて、俺は呪文を唱えていく。


「地重を司る精霊王と契約を交わせし者、エヴェイユの名において、4番目の地の精霊を行使せん。土壁アースウォール!」


すると、洞窟の入口上部から壁が作られ、地上から2m程度まで下がってきた。


「これで、風の強い日でも安心ですね」


形状に満足したミュレイは、自分の荷物を簡易テントと一緒に洞窟へと運び入れた。


何となく予想していたから、何も不思議に思わないけれど、魔狼と一緒の洞窟で眠れるなんて、強靭な精神しているのだろうな。


他にも、バラバラに破れてしまったミュレイの服を拾い集めて、針と糸で縫い合わせれば、下着と簡易的な服の出来上がり。直ぐに成長するだろうから、大きさには余裕を持たせて作った。


「きちんとした裁縫なんて出来るのですね」


洞窟の中、暖炉代わりのき火の向こう側で、ミュレイが縫物をしている俺を見て感心している。


「これでも独り暮らしが長かったから、最低限の裁縫さいほうや調理は出来るつもりだよ」


俺は苦笑と共に答えた。なぜなら、高校教諭と言う職に就いて、実家を出て独り暮らしを始めたけれど、教師としての仕事が忙しすぎて、結局、彼女は出来なかった。だから、独身貴族を貫いている期間が長くなり、副次的に身に付いた技術だったからだ。


「それは嬉しい誤算です。調理も出来るなら、調味料を少し持ってきているので、何か作っては頂けないでしょうか」


ミュレイが簡易テントから取り出してきたのは、ガラスのびんに入った調味料らしきものが小分けにされたものだった。俺は、それを少量ずつめて味を確認していく。


「これは塩。こっちは胡椒こしょうか! それに乾燥させたニンニクと唐辛子もある」


異世界こっちにきてから、本格的な調味料と出会ったのは、もちろん初めてだったので、それだけで少し興奮してしまった。


さっそく俺は、適当な動物を狩り、木の実や果物を集めて来る。


木の枝を2本使って、少し大きめの肉に刺して、それを焚火たきびあぶりながら塩と胡椒こしょうで味を調えていく。最後に焼けた肉にニンニクと唐辛子を潰して振りかければ、焼肉の出来上がり。


「やっぱり調味料があると味が違うなぁ」


俺が嬉しそうに頬張ほおばっていると、ミュレイもニコニコしながら肉にかぶりつく。


「本当に美味しいです」


「木の実も軽くいためておいたので、よかったらどうぞ。他にも食べられそうな果物もあるので、適当に手を伸ばして下さい」


こんな簡単な料理でも褒めて貰えるのは嬉しいものだ。



後は二人で雑談をしながら食べていたのだが、ふとミュレイから疑問が飛び出してきた


「狼さん……んー……、人間の姿の時は、エヴェイユと、呼んだ方が良いのでしょうか」


「別段、自分の呼ばれ方にこだわりは無いから、好きに呼べば良いんじゃないかな」


「では、エヴェイユ。水球ウォーターボールてのひらの上に創り出して下さい」


食事を終えて、満足した気持ちで心が満たされていた俺は、ミュレイの意図が判らない状態だったが、魔導書を手に取り、指示に従って魔法を発動させる。


「水冷を司る精霊王と契約を交わせし者、エヴェイユの名において、1番目の水の精霊を行使せん。水球ウィーターボール!」


俺の右手の掌の上には、拳大の水球が浮いている状態で創り出された。


「ありがとうございます。では、次に発動させるときには、水球に“大きくなれ”と意識しながら魔力を大量に流して発動させて下さい」


既に創りだした水球は、洞窟の入口へと向けて打ち出した。そして、新たに水球を今度は言われた通りに“大きくなれ”と念じながら、大量の魔力を注入して創り出す。


「水冷を司る精霊王と契約を交わせし者、エヴェイユの名において、1番目の水の精霊を行使せん。水球ウィーターボール!」


……どうして、こうなった?


俺の掌の上には、直径2m程の水の塊が浮いている。


「やはりそうなりましたか。エヴェイユの魔導書を見せて貰った時、自分の魔導書との相違点に気が付いたのです。特に範囲と威力を決める外周に細工がしてある風だったので、少し確かめさせてもらいました」


ミュレイは、目の前の巨大な水球に驚きながらも、自分の推測が正しかったことに納得していた。


「何も気にせずに魔法を発動させると、他の術者と同じような基準で威力も範囲も決定するようですが、意識して魔法力を調整することによって、威力も範囲も思いのままにすることが出来そうですね。それでも、これ程にも大きくなるとは、思いませんでしたけれど……」


どうやら、ミュレイが考えていたよりもはるかに巨大な水球が出来上がっていたようだ。


そして、俺は困っていた。直径2mの巨大な水球を手に持つ外見7歳児。


悩んだ挙句、俺は水球を持ったまま、洞窟の外へと出て、湖に水球を投げ入れようとした。


その時、どういう思考をしたのかは定かではないが、ふと、思いついたのだ。


「水球に魔法力で圧力をかけて、小さな穴をあけたら、勢いよく水が飛び出す、とかしないかな」


「魔法を発動中にそのようなことが出来るかは判りませんが、出来そうなら行ってみるのも良いかも知れませんね」


ミュレイの同意も得られたので、巨大な水球を包み込むように魔法力を展開してみる。


次いで、魔法力で巨大な水球を超圧縮するイメージをするが、水はいくら圧力をかけても見た目に変化が現れないので、どれだけ力を入れたら良いのか判らず、今の状態で出来る限界まで魔法力で圧力をかけてみた。最後に水球の湖に面している方の一部に穴を空けるような想像をする。


その直後、下から上にぐ様に、巨大な水球から水の槍が湖に打ち込まれる。


余りの威力に水面が割れて、水底まで見える。


一瞬だけ脳裏に描かれたのは、キリスト教の聖典である聖書に書かれていた、モーゼが海を割る場面だ。


唖然としていたミュレイが大声を出して笑いだす。目の端には、涙すら浮かべている。


「魔法って素晴らしいですね! こうした創意工夫次第で、誰も思い描けなかった、新しい可能性が切り開けるのですから!」


そう言うが早いか、俺の隣でミュレイも拳大の水球を創り出して、魔法力での圧力をかけて、水鉄砲を楽しみだした。


その楽しそうな姿を見ながら、発想力が豊かにならないと、まだ2つ残しているという新しい魔法の創造は難しいだろうから、こういった柔軟な発想が、ミュレイの創作の役に立てば嬉しいなと俺は考えていた。


それからしばらくの間は、魔法の練習と創意工夫に費やす時間が増えた。


後で聞いた話だが、魔導書に描かれている魔法陣と詠唱によって、誰が唱えても一緒の魔法になり、魔法力の消費も同じらしいのだけれど、自分で魔法陣を描いたり、詠唱を工夫して唱えたりすることによって、威力や範囲を大幅に修正することが出来るらしい。


そして、どうやら俺の魔導書には、全体的に威力や範囲の箇所が自分の自由に調整できるように魔法陣が描かれているらしい。そして、調整する為の魔法力は、俺自身が消費することによって、単純な攻撃呪文でも使い方次第では、極大魔法並みの威力を発揮することが理解できた。


また、逆もしかりで、ミュレイによると18番目の精霊を行使する魔法は、天変地異かと思えるほど、どれも威力が大きく、効果を及ぼす範囲も広い魔法らしいのだが、その魔法力を絞り込むことによって、極小まで小さくすることもできた。


ミュレイから18番目目の魔法についての話を聴いた俺は、どうしても“その威力”が知りたくて、湖の上で極小の魔法力を込めるだけに命一杯注力して、実験をしてみた。


「爆炎を司る精霊王と契約を交わせし者、エヴェイユの名において、18番目の火の精霊を行使せん。無限大インフィニット爆発エクスプローション!」


湖の上に俺が生み出した直径1m程の小さな打ち上げ花火は、その空間の中で、互いに爆発しあい、一気に荒れ狂う炎の乱舞となった。


これを普通の大きさや、魔法力を限界まで込めて発動させたなら、その威力は恐ろしい程に膨れ上がるだろうと、容易に想像ができた。



他にも思念伝達テレパシーに頼らず、音声で会話をするように心掛けた。これがなかなか難しくて、既にくせになっているようで、ついつい思念伝達を使ってしまう。その都度、ミュレイに指摘されて口頭で言い直すようにしていた。最終的には、思念伝達と口頭で話すのを同時に行うと言う、使いどころのない技を身に付けた。


それから、俺が作ったものとしては、原始的な日時計を作った。それによって、時間感覚を取り戻すことに成功した。こっちの世界に来てから、日が昇ったら動いて、日が沈んだら眠るみたいな原始的な生活をしていたので、元現代人としては、どうしても欲しかった物の一つだ。また、日時計が有る事によって、俺が生体変化ポリモルフの持続時間も大まかに知る事が出来た。


思念伝達テレパシーを拡散さっせずに指向性を持たせれば、目標にだけ意志を使えられることが解かり、ミュレイと会話をしている時に湖畔の鳥たちを怯えさせることも無くなった。更に副次的なものだったけれど、魔法力に指向性を持たせることによって、魔狼の姿であっても、魔導書に前足を付いて思念を飛ばすことによって、魔法の発動にも成功した。これによって、ミュレイに頼らなくとも自分の力で外見変化ポリモルフを行うことが出来るようになった。


この恩恵は凄まじく、ミュレイの魔法力の節約にもなった。この2ヶ月の間に聞いた話だと、自分にかける魔法は、魔法力が一定だけれど、他人に仕掛ける魔法は、対象によって消費する魔法力に差が出るらしい。特に俺の場合は、多大な魔法力を消費していたようだ。


それからは、ミュレイに光と水の魔法の組み合わせを実演してもらい、自分なりに他の魔法でも工夫できないかと考えてみる。


そんな中で、判明したことがある。それは、支援しえん魔法と元居た世界で言われていた魔法がほとんど無い事だ。単純な筋力増強や防御力強化、それから速度増加などだ。ミュレイに聴いたところ


「そのような魔法は、この世界には存在しないと思いますよ」


っと、答えられてしまった。


また、物に魔法を付け加える、付与ふよ魔術と言った概念も無いらしい。まれ迷宮ダンジョンと呼ばれる下層へと続く遺跡を探索すると、何かしら効果を持った武具や装飾品が出土することはあるらしいが、人工的に作り出す技術は無いらしい。新しい魔法の形態としてミュレイに提案したところ、非常に興味を持ったらしく、かなり詳細に考えることになってしまった。


そこで考えたのが、単純な支援魔法を開発して、それを付与魔術で鎧に付け加え、魔法力を流せば一気に強くなる……そんな、アニメの世界を再現できないかということだ。


色々と可能性が多い事を嬉しく思いながら、少しずつ形にしていこうと、これからの手順を考えていく。


まずは、既存の精霊魔法を使いこなせるようになること。次に支援魔法の開発。最後に付与魔術を創り出す。ただ、付与魔術が可能かどうか、既存の魔法を使って試してみることは、先に確認したいところだ。



そんなミュレイとの共同生活は、気が付けば2ヶ月と言う月日が経過していた。


何もすることが決まらず、何となく安定収入を求めて教員になった俺の人生は、唐突に実にあっけなく終わりを迎え、神様の恩恵によって魔狼として転生して、こうして数多くの魔法を使えるようになった。異世界に来て、魔狼となって、ミュレイと出会って、俺の人生……。いや、俺の狼生は、今、大きく動き出した。


第一話「二度の旅立ち」 四部構成は、いかがでしたでしょうか?

少しでも楽しんでいただけたなら、嬉しく思います。

次回より、第二話「帝が治める国」を始めたいと思います。

毎週金曜日の夕方に更新予定ですので、また、御覧になってください。

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