やり残したこと~清算~
ミュレイ達の前に現れた元宰相クピドゥスとの因縁の結末や如何に!
「だからこそ、傭兵王国ライオネルの王妹ミュレイの名において、元宰相クピドゥスの存在を今、この刻を持って、完全に抹殺します」
宣言をしたミュレイが一歩前に踏み出す。
それと同期した訳では無いのだが、俺にかけていた外見変化の魔法が解け、本来の姿である魔狼の姿へと戻っていく。
やはり銀色の毛並みが僅かに発光して、暗闇を朧げに照らし出している。
そんな状態変化に戸惑っている間にも、元宰相クピドゥスは呪文の詠唱と思われる行動をしているのだが、根本的に精霊力を使う事ができない魔界では、魔法自体が発動しない……。
「§〇¨★°±¶ΓΔΦΨ■」
はずだったのに……。元宰相クピドゥスが理解不能な言葉を呟いたかと思った途端、訳の分からない魔法が発動した。それも、生きていた時よりも遥かに高度で威力の桁が二つくらい上がったのではないかと思う魔法だ。
地面が次々と膨れ上がり、そこから腐った死体や骸骨兵が這い出てくる。
古戦場だったのか、際限なく不死系の魔物が湧き出てくる様には、恐怖すら覚えてくる。
「ほほぅ。死人使いの魔法だな」
「使い手も殆どいない、とても珍しい魔法なのだよ」
二人のレイスが感心したかのように見つめている。
「常に戦いが絶える事がないのが魔界ですからね。こんな魔法を使ったら、魔力が底を突くまでアンデットが生産されていきますよ」
案内役の青年の言う通り、既に数百から千近い数の魔物が元宰相クピドゥスの周りに陣取っている。
中には、明らかに魔獣だったと思われる三つ首の腐った死体や巨人と思われる骸骨兵も居るので、アンデットの見本市のようにすら見えてくる。
「これを全部まともに相手していたら、それこそ日が暮れそうだな」
ヴィルゲルムの発言にエンペスティアが苦笑で答える。
サラさんの方も、不死系の魔物の群れに辟易しているようだ。
「死んだ後も死んだ人たちにも本当に迷惑な存在ですね」
エンペスティアが本当に嫌そうに群れの中心にいる元宰相クピドゥスを睨み付ける。
魔狼の姿であることを良いことに、蒼炎乃炎を集団の中へと出現させれば、ある程度は削れると思うのだが、いかんせん数が多すぎて焼け石に水となりそうだ。
「それにしても、最近リッチとなったばかりとは思えんほどの魔力量だな」
「魔法の使い方は、魔族に転生した瞬間から身に着いているので不思議な無いとしても、この異常な魔力量は説明できないのだよ」
二人のリッチが不思議そうに眺めている。
てか、魔法の使い方って、転生した瞬間に覚えているモノなのかよ!
俺は、転生した後に両親から魔法の使い方を習って、その後に練習を重ねて、やっとこさ使えるようになったっていうのに!
なにやら理不尽なモノを感じながら、俺は鬱憤を晴らす相手を見定めていた。
「エヴェイユ様も魔界にお越しになられて、直ぐに魔法が使えるようになられたのが、何よりの証拠で御座います」
案内の青年に言われて、ふと気づく。そう言えば、魔界へと落とされて、誰に教わるでもなく当たり前の事の様に魔法が使えた。
「俺は、もともと蒼炎乃炎や瞬間転移の魔法を使うことも出来たからだとは思うけれど、ミュレイは若干の違和感を持っていたようでしたよ」
「それはですね。精霊を行使する魔法しか使ってきていなかったからでしょうね。多少なりとも自分の魔力のみで魔法を発動する術を知っているモノなら、意外と順応できてしまうようです」
そんなモノかと納得していると、ミュレイが此方を振り返って見つめて来た。
「御話し中に申し訳ありませんが、少し魔法を強めに発動してみようと思います。それなので、古のリッチである御二人は、少しの間、離れた場所へと移る事を推奨いたします」
その意味するところは、日光属性の魔法の使用を意味している。
水冷属性の魔法にも攻撃魔法は有るが、対不死悪魔系への必滅の魔法となると日光魔法になるからだ。
必然的にリッチである二人や道案内をしてくれている青年にも影響はでるだろう。
青年も少し長い犬歯や耳が少し尖っているなど、吸血鬼としての特徴を有しているのだから。
「貴方も、少し距離を置いた方が良いかもしれませんね。日光魔法を手加減無しで発動した場合、ミュレイの魔力だと広範囲を浄化してしまうでしょうから」
俺の体躯に任せて結界を張れば、あるいは守りきることも出来るかも知れないけれど、そうまでする義理は今のところ無いし、手の内を見られるのも余り宜しくないだろう。
「そうですね。多分、大丈夫だとは思うのですが、念のために一時避難をさせて頂きますね」
青年は一瞬だけ逡巡した後、二人のリッチを連れて空間転位を行い、俺が感知できる範囲の外まで退避した。
ただ、魔法の目で遠方より此方を覗き見ているようで、ザワザワと毛が逆立つような感じがする。
「さてと、色々と試してみたいと思います」
ミュレイの良い笑顔だ。
……絶対に関わっちゃいけない笑顔……。
「俺たちも非難した方が良いかもしれないな……」
冗談で言ってみるが、目が笑っていないのは判っている。
サラさんもエンペスティアもヴィルゲルムも身体を縮めて、どうゆう状況になっても対応が出来るように力を貯めている。
「梅雨払いが必要なようでしたら、我々が何とかしますが」
エンペスティアが漆黒の鎌を両手で構えながら、俺の方へと進言してくれた。
「おぅよ! 何時でも戦斧を振り回す準備はできてるぜ!」
ヴィルゲルムも意気揚々と武器を振り回している。
うん。準備が出来ているのは、戦闘をする準備だね。
「私に出来る事が有れば、予め指示を御願いします」
サラさんも準備万端と言ったところだろうか。
「では、三人はミュレイの護衛を御願いします。私は、少し派手に魔法を使ってみようと思います」
言うが早いか、私は魔法の構築を始めていく。
『風刃』
普通なら直線に飛んでいくだけの風神を、扇状に広げて威力を増しましに攻撃してみる。
腐った死体には一定の切り裂くことには成功したが、切り裂かれた上半身が蠢いている様子は、正直に言って精神的に宜しくない。
それに骸骨兵には、どうやら意味が無いらしい。魔法で結合している骨は、切り裂かれても瞬く間に再結合をしてしまい、損傷をしているようには見えない。
「さてと、どんどん行ってみようか♪」
俺は銀色の体毛を輝かせながら、次の魔法を構築していく。
『雷乱舞』
一度、思いっきり使ってみたかった魔法を雄叫びと共に全力で放つ。
幾つもの空と大地を結ぶ雷の柱が、放電を撒き散らしながら地上を舐めていく。
腐った死体は、雷の持つ何万ボルトにも及ぶ高熱によって焼けただれて炭化していった。が、やはり骸骨兵には効果がいまいちの様だ。
「エヴェイユ様。少し落ち着かれると良いかと……」
魔法の影響を搔い潜った不死系生物を相手しながら、サラさんが恐る恐ると言った感じで声をかけてくる。
周囲を見渡せば、スプラッタ映画さながらの相手を、エンペスティアの鎌とヴィルゲルムの戦斧が切り裂き打ち砕いていた。
そんな中にあってさえ、俺の表情は、よっぽど獣っぽい表情をしていたのだろう。
……夢中になると、周囲が見えなくなるのは、俺の欠点だな。
そうこうしている間にミュレイの方も魔法の構築が終わったらしい。
「望まない復活を強制された全ての方へ、安らかな眠りを再び与えましょう」
『死者鎮魂』
注ぎ込めるだけの魔力を注いで、千にも届くかと言う不死系生物を覆いつくせるだけの魔法範囲を確保したらしい。
巨大な鐘が厳かに鳴り響き、天使の羽が舞い降りてくる。
下位の不死系生物は、鐘の音だけで存在を搔き消され、残った中位や上位の不死系生物も天使の羽に触れた瞬間に蒸発するかのように世界から浄化されていった。
更に言うのであれば、浮上の大地であったのであろう、不死系生物の温床となっていた大地も、ミュレイの魔法によって浄化されていった。
「「「凄まじい威力ですね」」」
三人の声が綺麗に重なった。
見える限りの不死系生物を塵に返したミュレイは、次なる一手を打つべく声を掛ける。
「元宰相クピドゥスを幾ばくかの時間留めておいてください。次の魔法の構築へと移ります」
ミュレイの言葉に三人が頷き、すぐさま元宰相クピドゥスへと切りかかる。
ミュレイは、再び瞼を閉じて魔法を創造している。
今度は、俺がミュレイと元宰相クピドゥスの間に魔狼の巨体を活かした壁となり、目隠しの役割も果たしている。
結論から言えば、不死系生物と化した元宰相クピドゥスは、生前よりも遥かに強かった。
サラさん達、三人の猛攻に耐えるだけでなく、時折ではあったが反撃の魔法を放つ余裕すらあったのだから。
近接戦闘のエキスパートである三人には、人間の姿なら俺でも対処が出来ないだろう。だからこそ、人間が魔物となった時の化け方に恐怖も覚えた。
三人に与えてある防具の性能が無ければ、三人ともミュレイを守るどころの騒ぎではなく、元宰相クピドゥスに跡形もなく存在を消されていただろう。
そう思えるだけの実力が確かにあった。
俺もイシツブテの魔法や火球の魔法を放って牽制を試みてみたが、元宰相まで上り詰めたクピドゥスの変異した魔物であるリッチは、流石と言えるほど咄嗟の魔法攻撃にも関わらず、闇夜魔法の魔法吸収などで面白いくらいに魔法を防いでくる。
これ以上、攻撃力の有る魔法だと、近接戦をしている三人を巻き込みかねないので、俺はあくまでも牽制とミュレイを守る盾に徹していた。
他にも面白いのが、痛み・恐怖・幻覚・呪い・金縛り・混乱などの闇夜魔法の真骨頂とも言える精神攻撃がクピドゥスから飛び交ってくるが、俺たちは精神攻撃に対する対策として、俺のオリジナル魔法「精神防御」によって無効化している。
長い時間を戦っていたような気がするが、実際の時間は、それ程経過していないことだろう。
そんな事を三人の戦闘を見ながら考えていると。
「ライオネル王国、元宰相クピドゥスよ。汝を裁く用意が整いました。罪を犯していなければ、不死の魔物と成り果てた汝の肉体であったとしても、この魔法は汝を傷つけることは無いでしょう。但し、汝の犯した罪に比例して、この魔法の威力は何処までも強大になっていくことでしょう」
俺はミュレイの壁としての役割を終え、二人の為に道を開ける。ミュレイはクピドゥスを見つめ、他の三人にもクピドゥスの成れの果てから離れるように指示する。
『今こそ裁きの時です! 裁きの光!』
積層型の光のリングがクピドゥスを拘束していた。そして、真っ暗な魔界の空を切り裂いて、眩いばかりの光の柱が僅かばかりの抵抗すら許さず一匹のリッチを飲み込んだ。
懺悔の時間も受け入れがたい現実を直視する時間も与えない。裁きの光。
光の渦に飲み込まれたクピドゥスは、先程までの善戦空しく、光の柱が消え去った時には、影も残さずに世界から消滅していた。
「……終わりましたね」
ミュレイの一言に全員が息を吐いて、全身の強張った筋肉を弛緩させた。
「きっと、この為に運命の女神は、我々を魔界へと呼び込んだのかも知れませんね」
無神論者の俺だけど、今だけは運命の女神の存在を信じても良いと思っていた。
他の面々も自身が信奉する神への祈りを捧げている。
これで、片が付いたと思って良いのだろう。少し疲れたが、皆爽やかな顔をしている。
「さあ、13番目の魔王ハナズオウに会いに行こう」
俺たちは吸血鬼の青年たちと合流して、魔王城へと歩みを進めた。
更新が遅くなり申し訳ありません。
一応、考えていた流れは、此処までになります。
今後の展開は、不定期に載せられればと思いますので、もう暫くお待ちいただくと共にお付き合いいただければ幸いです。




