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魔狼転生  作者: 兎月 晃
24/30

迷宮の主

中層フロアを攻略したエヴェイユ達一行は、遂に迷宮下層へと足を踏み入れた。

そこで待つ魔物とは。

中間フロアを攻略した俺たちは、迷宮ダンジョンの下層へと降りて行った。

上層と違い、床が石材で綺麗に舗装されている。その道の左右に悪魔の形に作られた石造が並んでおり、更に奥の壁際には、巨大な兵士の格好をした石像が道の先まで並んでいる。

「何だか見られているようで落ち着かないですね」

ヴィルゲルムが巨体を縮めて話しかけてくる。

「そうですね。多分、正解です」

俺はこともなげに返答する。

「よくわかりましたね。エヴェイユ。手前の石像が|悪魔を模して造られた石造ガーゴイルで、奥の大きな石像が魔法使いによって創られたゴーレムだと思いますよ」

ミュレイも慌てたところは無い。多分、次の相手の動きが判っているのだろう。

「先程、何となく嫌な予感がして、歩きながら悪意の発見(ディテクトイービル)を使ったら、全部の石像から私たちに向けた殺気にも似た悪意が見て取れたので、気が付きました」

「どちらも魔法生物ですから、魔力を纏った武器じゃないと傷一つ付かないハズですよ」

エンペスティアが意外と博学な意見を言う。

「皆さんの武器なら、宝玉を入れないでも魔力を纏っているので、攻撃は通りますよ。なんだったら宝玉を入れて、宝玉の威力をヴィルゲルム以外の二人も試してみると良いと思いますよ」

俺があくまでも武器の性能チェックをしたいと言う発言をすると、全員から乾いた笑いと溜息の入り混じった声が聞こえてくる。

「くるよっ!」

周囲の気配を探っていたサラさんが、短く気合を入れた声を上げる。それと同時に黄色い宝玉を短剣にはめ込む。

エンペスティアもサラさんの声に答えるように鎌に漆黒の宝玉をはめ込み、両手で鎌を構えると臨戦態勢へと移行した。同じくヴィルゲルムも紅の宝玉をハルバードの柄にはめ込み、縮こまっていた身体を伸ばし武器を構える。

こうして、ミュレイを囲むように円陣が出来上がった。

そんな中、俺は一人、散歩をするような足取りで敵陣の真っただ中へと突っ込んでいく。

醜い狼の顔にヤギの角、それに蝙蝠の翼を生やした瘦せこけた人の像。俺がガーゴイルを見た感想だ。

ゴーレムの方は、前世で言うところ、大柄なプロレスラーのような体形の人が鎧を身に着けて両手持ちの長剣を構えている感じだ。

両方とも目が真赤な血の色をしていて、前世の俺なら見ただけで気絶しそうなくらい、とても雰囲気がある。

数体のガーゴイルが、蝙蝠の羽で飛びながら、鋭い手の爪で切り裂こうとしてくる。

俺はガーゴイルの攻撃を躱しながら、呪文の詠唱に入る。

「地重を司る精霊王と契約を交わせし者、エヴェイユの名において、15番目の地の精霊を行使せん。分子分解ディスインテグレイト!」

ちょうど頭から体当たりをしてきたガーゴイルの頭を右手で受け止めると、お返しとばかりに魔法を叩きこむ。

十歳位の子供の大きさながら、速度の乗ったガーゴイルの重量は半端ない。だが、魔狼となった俺の体重程には重量が無いので、人の姿はしていても押し負ける事は無かった。

そして、押しとどめられたガーゴイルは、分子分解ディスインテグレイトを食らうと、頭から足先までが一瞬にして砂となり、地面に崩れ落ちた。

これを皮切りに、次々と攻め込んでくるガーゴイルとゴーレムの集団。

短剣に雷を纏わせて、ガーゴイルの攻撃を躱しざまに右手を切り落とし、返す刀で石像をバターでも切り裂くように真っ二つにしていくサラさん。

「魔法を纏っているからなのか、単純に短剣の切れ味が良いのか……。魔法生物の恐ろしさが微塵も感じられませんね」

ガーゴイルやゴーレムと言った魔法生物は、本来は強敵と言って良いだろ。それをあっさりと切って捨てているので、随分とリラックスした話し方だ。

エンペスティアの漆黒の闇を纏った鎌は、痛みを感じないはずの石の巨人(ゴーレム)に攻撃を加えた瞬間、まるで痛みに屈したかの様にゴーレムが膝を付く。そうして差し出された首を漆黒の鎌は容赦なく刈り取っていく。

「本当ですね。エヴェイユさんが鎧に付与して下さった魔法の恩恵が大きいのではないでしょうか」

ハルバードを構えたヴィルゲルムは、次々とガーゴイルやゴーレムをしている。

「何だか張り合いが無いのぉ」

多分、石像を破壊した数は、ヴィルゲルムが一番多いのだが、淡々と作業を進めるかのように手を動かしている。

動く石造の数は多いが、それを上回る戦闘力がある我々の方が、混戦極まる状況にも関わらず有利に戦いを進めていた。

「日光を司る精霊王と契約を交わせし者、ミュレイの名において、10番目の地の精霊を行使せん。聖なる光の矢ホーリー・ライト・アロー!」

時折、ミュレイの狙いすました光の矢が石造の胸を打ち抜く。コアを正確に打ち抜かれたゴーレムは、内部にある魔法的な情報操作が上手く伝達できなくなり、次々と動きを止めていく。

「確かゴーレムには、“EMETH”真理の文字がどこかに刻まれていて、そこから“E”の文字を消して、“METH”死の文字へと変える事で、簡単に倒すことが出来るのだったかな」

どれ程の時間が経過しただろうか。既に大半を倒した後に、前世で読んだ物語を思い出した。

「でも、これだけの数のゴーレムを製造するとなると、大変だと思いますよ。ゴーレム製作には、魔法による特殊な工程が多いと聞いていますから」

壊れて動かなくなったゴーレムを見ながら、ミュレイが感慨深そうに話してくれた。

「どのような工程なのか、御存じなのですか」

その話題に、エンペスティアが食い付いていった。

「いいえ。私の知っていることは、そこまでなの。詳しいことは、ゴーレム製作を生業とする魔導士に聞いてみないと判らないわ」

なるほど。今の話から、ゴーレムを創り出すには、特殊な方法が必要という事は理解できた。そして、何となく創り方に心当たりがあった俺。もう後は、自分の頭の中にある工程が正しいのか試すだけだが。

「多分の話になりますが、地重魔法の仮初の身体(テンポロリィボデイ)で器を作り、付与魔術を使って、魔法的な回路を全体的に施し、闇夜魔法の憑依ポセッション生贄サクリファイスを使って、原動力となる魂をコアの中に入れているのだと思います」

ミュレイの話と実物を見たことによる俺の見解だ。当然ながら、今すぐに試してみるつもりはない。制御機構としての回路の作成が大変そうだから、帰ってから、ゆっくりと実験室で研究してみたいものだ。

そんなことを考えていると、コツーン、コツーンと石畳を誰かが歩いて向かってくる、乾いた音が迷宮ダンジョン内を木霊する。

「何やら騒がしいと思って来てみれば、よくもまあ壊しに壊したものだ」

闇から姿を現したのは、赤紫の髪に陶磁器のように白い肌、そして、赤いシャツに濃い桃色をした高そうなスーツを着込んだ、中性的な雰囲気を持つ青年だった。ただ、その頭には二本の牡羊の角が生えており、背中には蝙蝠の羽が折り畳まれていた。明らかに人間のそれでは無い。

その横には、黒くて大きな体躯をした犬が、炎の吐息を吐きながら紅蓮の瞳を此方に向けている。

そして、その背後からは、百足むかでの身体に蟷螂かまきりの手である鎌を付け、ありの頭を乗せ、更にはさそりの尻尾を生やした異様な生物も付き従っていた。

「まったく……。何十年もかけて密かに迷宮ダンジョンを成長させて、あと一歩で我が主である魔神デーモンを、こちらの世界へと顕現けんげんできると言う状況まで来たと言うのに……。邪魔をされるのは、非常に不愉快です」

何で悪役って、色々と聞いてもいないのに話してくれるのでしょうね。

「私の名前は、エヴェイユと申します。お騒がせして申し訳ありません。先程の御話ですと、貴方様は魔神デーモンの配下であるという事なので、悪魔デビルと認識して宜しいのでしょうか。それと、隣に居るワンちゃんは、地獄の黒犬(ヘルハウンド)でしょうか」

ダメもとで話しかけてみる。もともと返答があるとは思っていないし、何か聞き出せたならラッキー位の感じだ。

「ほう。色々と正解だ。我らを見ても委縮もせず、少しは知識を披露できる人間が居ると思ったら、姿かたちは似せているが……。其方は人間で無いし、エヴェイユと言う名も真名マナでは無いな。()()()()()()()()()()()。面白い存在だな」

悪魔デビルと思われる御羊の角を生やした青年は、あごに右手を当て、暫く考えた後、俺の方を向いて口を開く。

「我は魔神デーモン配下、第十三位の悪魔デビルで名をハナズオウと言う。エヴェイユよ、我の下に来ないか。なんだったら、この場に二本の足で立っている人間たちが一緒でも構わないぞ。何不自由ない生活を保障しよう」

ハナズオウと名乗った悪魔デビルは、俺に向けて爽やかな笑顔を向けて、右手を差し出しだしてくる。

だから、俺も出来るだけ笑顔を彼に向けて話始める。

「とても魅力的なお誘いですが、私は今の段階で十分満たされております。これ以上、何を望みましょうか」

ハナズオウは顔を曇らせ、差し出していた右手を下げた。

「面白い存在だと思ったのだが……残念だ」

そう言い切った瞬間、押さえていたのだろう殺気が魔力と相まって、まるで闇夜魔法の恐怖フィアを周囲にまき散らすかのように、迷宮ダンジョンを覆いつくすように広まっていく。

それに便乗するように地獄の黒犬(ヘルハウンド)も唸り声をあげながら身を屈め、何時でも俺たちに襲い掛かれる態勢を取った。

「第七の精霊王エヴェイユの名において、魔法遮断アンチ・マジック・シェルを行使する!」

咄嗟の判断で、仲間全員を囲うように魔法遮断アンチ・マジック・シェルを起動する。

後ろを振り返れば、声を出す事すら出来ず、必死に荒い息をしている仲間たちが居た。

精神防御マインド・ガードを施している俺の仲間たちですら、その殺意だけで窮地に追い込まれている。もし、何の対策もしていなければ、全員殺意だけで、死に至らしめられたことだろう。

「なるほど。爵位の替わりに階位を持つ大悪魔、世が世なら世界を滅ぼしかねない存在ですか」

「我など、まだまだよ。上位七柱の存在とは、比べることすらおこがましい程の力の差があるからな」

そう言って、自嘲気味に笑う悪魔デビルハナズオウ。

「まるで、七つの大罪ですね」

俺の心の声が、思わず呟きとして漏れる。

「本当に面白いヤツだな、エヴェイユは。戦闘中でも構わないぞ。我が下へと着くのなら、何時でも言ってくれ。くれぐれも地獄の黒犬(ヘルハウンド)昆虫と悪魔の融合体(サイデル)に簡単に殺され(やられ)ないでくれよ」

感心したような、呆れたような顔をするハナズオウは、魔力で禍々しい椅子を創り出して、そこへ優雅に座る。それは、戦闘に参加せずに傍観すると言う意思表示だろう。

その証拠であるかのように、先程まで空間に充満していた殺意は鳴りを潜めて、今は魔法遮断アンチ・マジック・シェルが無くとも、全員が普通に呼吸できるようになっているようだ。

「鎧の性能チェックには、もう少し、楽な相手だと嬉しかったのですがね。ハナズオウさんが参戦しないと言うだけでも有難いと思いましょう」

俺は至って普通に話を振る。

「不甲斐ないところを見せたな。もう大丈夫だ」

ヴィルゲルムは、そう言って戦斧を構えて、一歩前へと出る。

「簡単に殺されてなんてあげないんだから」

サラさんも戦意喪失には、至らなかったようだ。気持ちを持ち直して、臨戦態勢を取っている。

昆虫と悪魔の融合体(サイデル)は、僕が引き付けておきましょう。その間に皆さんは、地獄の黒犬(ヘルハウンド)を御願いします」

エンペスティアも呼吸を整えて、鎌を両手に持ち、何時でも切りかかれる状態にしている。

「ここからが本番ですよ。皆さん、頑張りましょう!」

鈴が鳴るようなミュレイの声は、折れそうになった心に染みわたり、元気をくれるような気がするから不思議だ。

「では、準備も出来たみたいだし、そろそろ始めようか」

第十三位の悪魔デビルハナズオウの掛け声で、地獄の黒犬(ヘルハウンド)昆虫と悪魔の融合体(サイデル)が動き出す。

今、地上の誰も知らない、迷宮ダンジョン最深部での戦いが始まった。


次回から、第七話が始まる予定です。

出来るだけ、金曜日に更新出来るように頑張りますね。

今回は、新型コロナウイルスのワクチン接種や地震に負けずに更新出来て良かったです。

またのお越しを、心よりお待ち申し上げます。

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