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魔狼転生  作者: 兎月 晃
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迷宮への挑戦

ダンジョンへの攻略が決まったエヴェイユ達、その準備が始まった。

夜になると俺は城を抜け出して、ミュレイから聞いた迷宮ダンジョンのある場所へと来ていた。

人目に付くと面倒なので、空間転位テレポートを駆使して、夜空を飛んできたのだ。

普通に歩けばある程度の時間が必要な場所だが、自分一人だけで、しかも気軽に魔法が使用できるなら、大した距離ではなかった。

迷宮ダンジョンの入口は、話に聞いた通り主要な街道からは大分離れている。逆に、どうやってこの場所を見つけたのかを知りたいくらいだ。

そう思いながら、暫く迷宮ダンジョンの周囲を散策していると、面白い事が判った。

迷宮ダンジョンを守るように人型の魔物の集落が点在していたし、巨大化した昆虫の魔物が闊歩していた。

「多分、明確な位置を把握していたわけではなく、こういった情報から、時間が経過した迷宮ダンジョンが近くにあると判断されたのだろうな」

魔物モンスターの動向から迷宮ダンジョンの存在や発生からの時間までを予測できることに感心しながら、俺は気配を殺して探索を進める。

迷宮ダンジョン内部の様子も見ておきたいところだけれど……。流石にこれだけの魔物モンスターが徘徊していると、倒さないで先に進むのも難しいよな」

当然ながら、迷宮ダンジョンの内部には、外周よりも多くの魔物モンスターが徘徊しているのだろうから、倒して歩くのも面倒くさいし、明日来た時に魔物モンスターの死体ばかりと言うのもどうかと思う。

その時、俺の脳裏に天啓にも似た閃きが舞い降りた。

俺は、即座に外見変化(ポリモルフ)重力操作(グラビティ)を解除して、本来の魔狼の姿となる。

「あれ。俺の体毛が綺麗な銀色になってる。それに、何だか青白く発光してないか」

自分の体毛が濃い灰色から銀色へと変化し、魔法金属の様に闇夜で淡く光っていることに気が付いた。

「まぁいいか。こういうのは、気にしたら負けって言うしな」

俺は切り替えて、先程の思い付きに従うことにした。

魔導書グリモワールは、首に巻いたミスリル銀のネックレスにペンダントトップを取り付けて、その中に入れてある。

俺は洞窟の側まで歩いて行き、そこで魔力を周囲にまき散らす。そして、十分に行きわたった、その魔力に被せる様に魔法を発動させる。

「暗夜を司る精霊王と契約を交わせし者、エヴェイユの名において、4番目の地の精霊を行使せん。恐怖フィア!」

突然現れた魔狼の姿に混乱していたようだが、恐怖フィアの魔法を放った瞬間、蜘蛛の子を散らすかのように、人型の魔物も昆虫型の魔物も俺の目線の先から姿を消した。

予想した通りの結果に満足する俺。始めて使う魔法だったけれど、十分な威力を発揮してくれた。

「うん。やっぱり魔法は使い何処だよね」

俺は満足して無人の野を闊歩かっぽし、洞窟へと足を踏み入れた。ただ、奥へは行かず、入口の所で立ち止まって、魔法を口ずさむ。

「地重を司る精霊王と契約を交わせし者、エヴェイユの名において、12番目の地の精霊を行使せん。地中掌握アース・ロケーション!」

魔法が効力を発揮すると、頭の中にアリの巣の様な図面が浮かび上がった。そして。

「風雷を司る精霊王と契約を交わせし者、エヴェイユの名において、11番目の地の精霊を行使せん。風の探知ウインド・ロケーション!」

続けて放った魔法で、洞窟内に居る魔物の姿や風の動き等が図面に追加される。

洞窟内は割と広いのだが、相当数の魔物が居る事が判った。更に大型の魔物も居るので、なかなかに試作品の実地練習の場として優秀そうだ。

そこまで確認すると、俺は振り返って洞窟の入口まで戻ると、地面に付与魔法の要領で魔法陣を刻み付ける。

その後、空間転位テレポートを発動させ、城の自室へと帰ってきた。明日が楽しみだ。

部屋に戻って、魔狼の姿から人の姿へと変化し、衣服を身に着けると、不意に声がかかった。

「お帰りなさいませ。こんな夜更けに何処へ行かれていたのですか」

振り向くと、メイド服を着たサラさんが、気配を消して壁際に立っていた。

サラさんと目が合った俺は、これは嘘をついてはダメなやつだと悟って、素直に白状することにした。

「実は、明日の下見をしに迷宮ダンジョンまで行ってみました」

「暗殺者として名をはせた私を、ものともしない貴殿なら問題はないと思いますが、万が一と言うこともあります。少し御自重ください」

「次からは、一声かけてから出かける事にしますね」

「出来るなら同行させて頂けると助かります」

俺は同意すると、ベッドへ向かい就寝準備に入った。

これからは勝手気ままに動くのは、やめておこうと心に誓うのだった。


翌朝、予定通り全員が城の広間に集まった。

「皆さん集まりましたね。では、これから迷宮ダンジョンの方へ向かいたいと思います。工程としては、行きに三日、ダンジョンの攻略に一週間、帰りに三日の全体で十三日を予定しています。食料など必要な物は、馬車の方に予備も含めて入れてありますので、行がてら確認をしてください。また、不足がある場合は、途中の村で補充を行いましょう」

ミュレイの提案に皆が頷いている。

「それなら、行きと帰りの工程は削除してもらって良いですよ。ダンジョン攻略に集中しましょう」

「どうゆう事ですか、エヴェイユ」

とても不思議そうにミュレイに聞かれてしまった。

「理由を口頭で説明するよりも、実践した方が早いでしょうから、馬車の所まで移動しましょうか」

俺を先頭にして、全員が馬車の所まで移動してきた。

予め馬車での移動を念頭に置いていたので、魔法陣を描いておいた場所で、魔法を発動させる。

すると、魔法陣の上の何もない空間に、魔法文字と幾何学模様が刻まれた馬車すら余裕で通れるような、大きな扉が表れる。

「この先が迷宮ダンジョンの入口に繋がっています。昨日、夜に扉だけ繋げに行ってきました。同じ印が向こうにもあるので、相互通行が可能な転移門ワープ・ゲートとなっています」

「エヴェイユには、何時も驚かされますね。魔法の新たな可能性を教えてくれるので」

ミュレイは、転移門ワープ・ゲートを見上げて感嘆の溜息を吐く。

他の人たちは、理解が追い付いていないらしく、顔から表情が抜け落ちている。

「さあ、転移門を潜れば、敵陣営のど真ん中へと出ますので、十分に準備をしてから、行きましょう」

意気揚々としている俺とは対照的に、他四人の表情は、冴えない。

そして、今回の探索に行くことの出来ないレオンとアラインヘルシャフトが声に出して笑いだしている。

サラさんは紫色に着色をした鎧と短剣を、エンペスティアは漆黒の鎧と鎌を、ヴィルゲルムは深紅に染め上げた鎧に戦斧を、それぞれ装着して、初っ端から全力での戦闘が出来るように武器も抜刀状態で身構える。

ミュレイは水色のローブを纏い、魔法力の増幅と指向性を持たせるための杖を握っている。

「ミュレイ。お試し装備で、ちょっとした護符を創ってみたのですが、マントの裏側にでも付けといて貰えませんか」

俺はミュレイの了承を得ると、彼女のマントの内側に四枚の護符を張り付けた。その内訳は、常時発動型の物理耐性プロテクション速度増加ヘイストそれから精神防御マインド・ガード、そして、緊急時に物理的な攻撃から身を守る障壁として、自動発動するようにプログラムした魔法の盾(マジックシールド)が、それぞれの護符に付与されている。

過保護に思えるかも知れないが、万が一にもミュレイに何かあってはまずいので、万全を期すことにした。

それから俺は、馬車の御者台に乗り、最後尾に陣取った。

「では、行ってまいります」

ミュレイが言うと、レオンが頷いて返す。

「それじゃあ、我も少しだけ様子を見てくるかな」

転移門を開いた瞬間に一番乗りで門を潜ったのは、留守番をするはずのアラインヘルシャフトだった。

彼女を追いかけるように次々と門を潜る後続の面々。

そして、異様な雰囲気オーラを纏った強者の群れが、興味津々に門の前に群がっていた魔物たちを押しのけるように転移門を潜って出てきたのだから、魔物たちの方がたまらない。

咄嗟に臨戦態勢を取るモノ、逃げ出すモノ、泡を吹いて倒れるモノ……。千差万別の反応を示しているが、最早、数の暴力を活かすことも出来ず、烏合の衆と化す魔物の群れ。

そこを準備万端で攻め入ったサラさんとエンペスティア、ヴィルゲイムに攻め立てられ、ものの数分で地上にいた魔物の戦力の大半を殲滅させてしまった。

「ワシらが強いのか、ここの魔物が弱いだけなのか……」

一気呵成に攻め立てたヴィルゲイムは、余りにも簡単に魔物の群れを殲滅出来たことに驚きを隠せない様子だ。

それは、他の面々も同じで、自分たちの力を試すのには、ちょっと物足りなかったのかも知れない。

何故なら、三人とも武器に宝玉を入れずに付与エンチャント無しで戦っていたからだ。俺としては、付与魔法の効果を見たかったので、若干、消化不良を起こしていたけれど、まだまだ序盤にも差し掛かっていない場所なので、今後に期待することにした。

「我が先陣を切ったからこその成果であると心得るがよい」

何もしていないが、最初に転移門を潜ったことにより、魔物たちを混乱のドツボに陥れた張本人は、胸を張って威張っていた。

「そうだな。アラインヘルシャフトが一番に門を潜っても、魔物の大移動(スタンピート)が起こる前に殲滅できた良かったよ」

俺が皮肉交じりに言うが、本人は気にした様子も無く笑っている。

「さてと、俺たちは迷宮攻略を始めるから、転移門も閉じておきたいし、アラインヘルシャフトは戻ってくれよ」

「ん?なぜだ。我も一緒に行ってはいけないのか?」

さも当然という風について来ようとするのは止めてもらいたい。

「貴女が付いてくると、他の魔物の動きが予想できなくなるので、今回は留守番をしていてくださいね」

「戦力としてみてくれて全然構わないのだが」

「他の三人の実地研修ができないでしょうが!」

そんなやり取りを暫くしていたのだが。

「そう言えば、美味しい茶葉とお菓子が手に入って、少量なので私たちが留守にしている今日にでも食卓に上がると兄が話していましたが、こんなところにいて宜しいのですか?」

ミュレイが、とても優しい顔でアラインヘルシャフトに話しかけている。

何かを察したアラインヘルシャフトは、そそくさと転移門の方へと移動した。

「では、我は美味しいお菓子とお茶が待っているので帰るとしよう」

そういって、転移門の向こうへと姿を消した。

「ほんとうに楽しいお方ですね」

ミュレイの形の良い整った笑顔から、機嫌の良い笑顔へと変わった。

彼女の真顔での笑顔は、誰にも反論を許さない力があると思う。

「それでは、気を取り直して、迷宮攻略へと行きましょうか」

「ちょっと待ってください。ミュレイが先行してどうするんですか!」

何食わぬ顔で、当たり前のように先陣を切ろうとするミュレイ。あなたもアラインヘルシャフトのことを言えないと思ったのは、内緒にしておこう。

「戦闘は俺が行きます。一応、斥候と言うことで、このメンバーに加わっているのですから、役割を果たさせて下さいね」

俺は先頭に移動すると、後ろを振り返る。

「それと、これからは喋りやすい言い回しでお願いします。あくまでも探検や冒険をしている時は、対等な立場と言う事で、それ相応の話し方をしてくださいね」

お互いに顔を見合わせて、何を言っているんだという顔をするのは止めてもらいたい。

「とっさの時に、言い淀んで対応が遅れたとか嫌なので、出来るだけ仲間内に使う言葉を城に戻るまでは使って下さい」

「それが依頼なら、()()()は文句ないよ」

サラさんが暗殺者ギルドでの話し方をし始めた。対応力が高い。

「ワシは元々、構えた話し方なんぞできんからな」

ヴィルゲイムは、畏まらないといけないときにしか敬語使えないもんね。

「それじゃあ、()も、今だけは気軽に話をさせてもらおうかな」

意外とエンペスティアも周囲の状況に対応してくれるようだ。

俺は背負い袋(バックパック)から自分用に松明トーチとほくち箱を取り出して、火をつける。そして、ランタンにも火を移して、そちらはミュレイに持ってもらう。

こうして準備を整えて、俺を先頭に真っ暗な迷宮ダンジョンへと全員が足を踏み入れていく。




※本来は、迷宮ラビリンスですが、地下牢ダンジョンだと感じがでないので、此処では迷宮ダンジョンとルビを振らせて頂きました。ご了承下さい。

次回「魔物部屋」で書き出していますので、暫くお待ちください。

出来るだけ、毎週金曜日に更新出来ればと思っているのですが、新型コロナワクチンを打ちましたら副反応が辛かったです。

ご期待に出来るだけ答えられるように頑張ります。

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