準決勝開催
闘技祭の予選を勝ち抜いたサラ。
準決勝も勝ち残ることができるのか!
昼食を挟んで午後の部が始まる前に、円形闘技場の舞台には午前中の予選を勝ち残った四名の選手が立ち、それぞれに紹介を受けていた。
午前の部もそうだが、観衆を相手に勝者を当てる賭け事が行われているらしい。
娯楽の少ない世界に置いて、闘技祭は格好のストレス発散の場になっているようだ。
最も票を集めたのは、剣闘士として一年間無敗を誇る死神エンペスティア。 因みにサラさんの倍率は、知名度も何も無かった為か予選の時は断トツの最下位だったようだけれど、死神エンペスティアの一撃を止めたのが効いたのか、決勝では死神に次ぐ二番目の人気となっているらしい。
他の二人についての情報も開示されている。冒険者だと言う一人は、二メートルを超える長身に鎖帷子を着込み、その上に傷だらけの胸鎧を身に着けている。手には巨大なバトル・アックスを持ち、腰に補助用の武器として小剣を挿している。年の頃は、三十代前半と言ったところか。歴戦の冒険者と言った感じが出ていて、こういった場にとても良く似合っていた。
もう一人は、ミュレイと同じ賞金稼ぎだと紹介されていた。標準的な体格にソフト・レザーアーマーに金属の小さな輪っかが縫い付けられた「リング・アーマー」と呼ばれる鎧を身に着けていた。動きやすさと、金属鎧に近い防御力が得られるので、体力に余り自信が無い冒険者等には喜ばれるのだとか。だが、中途半端な防御力と機動力となる為、実践では使い物にならないと酷評される場合の方が多いそうだ。その手には、金属の棒の先端が球状に膨れており、そこに針が何本も生えているメイスと呼ばれる武器があった。そして、反対の手には金属製の小盾が握られている。
どちらも自分流の戦闘方法に絶対の自信があるような雰囲気があり、円形闘技場を支配する熱気にも怯むことなく堂々とした佇まいをしている。
箱の中から同じ色の球を取った選手同士が準決勝の相手となる抽選を行い、サラさんは第二試合で、相手は二メートルを超す巨漢の冒険者となった。
お互いに握手をして各々の控室へと下がっていく。
第一試合は、死神エンペスティアと賞金稼ぎの戦い……っと、言って良いのだろうか。死神エンペスティアが鎌を振るう度に賞金稼ぎの身に着けているリング・アーマーが破壊され、鎌の速さについていけていないので、小盾はまるで役に立っていなかった。苦し紛れにメイスを振るうも、鎌の攻撃範囲の内側に入り込むことができず、有効打となる攻撃の機会がまるで無い。
「これだけ隔絶した実力差があるなら、予選の時の様に素早く倒すこともできるだろうに……」
俺は訝しい思いを口にすると、まるで答えてくれるかのような声が聞こえて来た。
「午前の予選は、早々に決着が付いてしまったのでな。少しは観客を楽しませるように指示を出したのだ。なかなか上手に出来ているではないか」
「流石でございます。宰相閣下の民を思う御心に感服いたしました」
何と言うか、どうしようもない会話に聞こえるけれど、会場の熱はヒートアップしているので、あながち間違えとも言えないのかな。ただ、相対している手加減してなぶられる賞金稼ぎにしてみたら、屈辱以外の何物でもないのだろうけれど。
十分な時間を費やして聴衆を満足させ、対戦相手を肉体的にも精神的にも追い詰めたと実感できたのか、宰相閣下の右手が厳かに上がり振り下ろされた。
それを合図にしたかのように死神の鎌は、弱り切った対戦相手の首を一瞬にして刎ねた。鮮血が噴水の様に上がり、舞台の白い砂を深紅に染めていく。
一瞬の静寂の後、盛り上がった感情が爆発するかのように歓声が巻き上がる。
それに対して、勝ち名乗りを受けた死神エンペスティアは、どこか疲れたような感じで控室へと下がっていった。
俺も席を立って、選手控え質へと歩いて行く。
控室では、サラさんが試作品一号をジェシカさんに手伝ってもらいながら身に着けている最中だった。
何となく着替え中に中を覗いてしまったような罪悪感から、俺は開けたばかりの扉を閉めた。
「別に洋服を着替えている訳ではないので、入っていただいても大丈夫ですよ」
わざわざ手を止めて、扉を開けて話に来てくれたジェシカさんには申し訳ないけれど、何となく入りにくいので、鎧を装着したら入室する旨を伝えた。
「今度の対戦相手は力自慢の様だけれど、俺やアラインヘルシャフトに比べたら、可愛いものだと思うから、失礼のない程度には手を抜いてあげて下さいね」
扉越しに少し大声でサラさんへと伝える。
「……手を抜く程に弱い相手には見えませんでしたけれど……」
少し困惑したのか、サラさんから控えめな返事が返ってくる。
「そう見えるのは、会場の雰囲気と相手の堂々とした態度に寄る所が大きいのでしょうね。実力でいったら、天と地ほどの違いがあると俺は考えています」
「……わかりました。能力は全開にして行動しますが、ある程度は受け手に回るようにしますね」
会話から此方の思惑を察してくれたサラさんは、俺の提案を受けてくれた。
そんな会話をしていると、蝋燭の灯しかないので薄暗い廊下の曲がり角から運営委員会の伝言係が表れて、そろそろ準備が整ったので準決勝第二試合が行われると伝えてくれた。
「では、運用試験の仕上げ、第二弾へと行ってきますね」
サラさんは笑顔でそれだけ言うと、面覆いを下げて顔全体を隠し、舞台へと上がっていった。
その瞬間、割れんばかりの歓声が舞台の入口方向から聞こえて来た。
「さあ、準決勝第二試合の選手が出そろいました。巨漢の冒険者ヴィルゲルムは、その恵まれた体格と長さのある戦斧によって、予選では並みいる強者を全く寄せ付けない強さを見せつけてくれました」
ヴィルゲルム引き締まった笑顔で観客席を見回し、片手で高々と戦斧を掲げて見せる。すると、それに呼応するかのように大歓声が巻き起こる。
「それに対するは、謎の女性選手アルファ。予選では、他の選手を殺さずに素手にて倒していく姿に心奪われた人は多いはず。更には死神と呼ばれる一年無敗の剣闘士、エンペスティア選手の大鎌による一撃を受け止めた姿に驚愕したことでしょう。そんな二人の選手が激突する試合。楽しみで仕方が有りません!」
試作品一号を着たサラさんにも声援が送られる。
歓声が次第に落ち着いてくる。
「それでは、長らくお待たせ致しました。準決勝、第二試合。始め!」
大きな銅鑼の音が、円形闘技場の隅々まで響き渡る。
先に動いたのは、巨漢のヴィルゲルムだ。砂煙を上げながら、試作品一号を着込んだサラさんへと一直線に突進してくる。
「うおぉぉぉ!」
雄叫びを上げるヴィルゲルムが両手で振り上げた戦斧の高さは、軽くサラさんの身長の二倍を超えている。その高さから剛腕を持って振り下ろされる必殺の一撃。
舞台の砂が爆発でもしたかのような衝撃が、波紋の様に円形闘技場全体へと広がっていく。
高々と舞い上がった砂は視界を遮るのだが、その中からは金属が激しく打ち合う乾いた音だけが漏れ出てくる。
それは一瞬の出来事だったのだろうが、視野を奪われていた時間は長く感じた。
霧が晴れるように急に視界が開け、二人はお互いに有利となる位置取りを探るかのように、舞台を走り回りながら斬撃を繰り出していたが、自然と息を整えるために示し合わせたかのように動きを止めた。
巨漢のヴィルゲルムは、見た目からわかる怪力だけでなく、俊敏性も持ち合わせていた。
それでもサラさんを捉えることはできず、かなりの数を打ち合っているにも関わらず、まだ一撃も与えることに成功していない。
それに対して、サラさんは有効打を剣と盾を使って巧みに操って回避すると、試すかのように時々ヴィルゲルムに向かって切りつけてみる。
ヴィルゲルムの額には、既に玉の様な汗が滴り落ちている。集中力を限界まで引き上げて、命のやり取りをしている感覚が楽しくもあり、辛くもあった。
「歳は取りたくないものだな……」
その一言が全てを物語っていた。限界ギリギリまで絞り出した力は、そう長くは続かなかったのだ。
深く息を吐いて、全身の筋肉から余分な力を削ぎ落す。そして、右肩に戦斧を担ぐように構えると、大砲の球の様に飛び出した。この試合で一番の速さを誇る移動速度を出し、剛腕を十二分に発揮する為の弛緩を行っている。理にかなった至高の一撃。
ヴィルゲルムの鬼気迫る一撃に何かを感じたのか、盾を構えて真正面から受ける構えを取るサラさん。
試合最初のあいさつ代わりの一撃も相当な威力があったけれど、今回の一撃は、その比較にならない程の威力を秘めていそうだ。
それを、わざわざ受ける必要など無いのだろうけれど。
「恩に着る」
小さく発せられたヴィルゲルムの言葉が、一人の武人としての全力を受け止めてくれる相手に対する礼儀のようにも感じだ。
人間と言う種族の極限とも言える武人の全身全霊を込めた一撃が、試作品一号を纏ったサラさんへと加えられる。
それこそ大砲でも打ち込んだのかと言うくらいの激しい轟音が円形闘技場の隅々まで響き渡り、観客の何人かは重低音に打たれて気絶する程だった。
結果だけ見れば、サラさんはヴィルゲルムの一撃を受け止め切った。だが、その足元は円形に凹んでいたことからも、ヴィルゲルムが放った一撃が途方もない威力を秘めていたことが理解できた。
同じ性能の鎧を用意したなら、ヴィルゲルムにサラさんは絶対に勝てないのだろうなと思える一撃だった。だからだろうか、俺はヴィルゲルムと言う人物を好ましく感じ、次の鎧製作は、彼をモデルに作っていこうと考えていた。
ヴィルゲルムの必殺の一撃を耐えきったサラさんだが、少し様子がおかしい。
あれだけの衝撃だから、どこか怪我をしていても不思議はないが。
サラさんは、ゆっくりとヴィルゲルムの戦斧を押しのける。すると、戦斧は重力に引かれて白砂の舞台へと落下していった。
ヴィルゲルムは爽やかな笑顔をしているが、その両腕は力なく垂れさがっている。
「もう、腕が上がらん。ワシの負けだ」
どうやら、ヴィルゲルムが放った渾身の一撃は、その威力に彼の両腕の骨や筋肉などの強度が追い付かず、自らの腕を粉砕してしまったらしい。
慌てて運営が雇った救護の者が駆け寄って、状態を確認するが、試合続行不可能と言う判断となり、サラさんへと勝ち名乗りが行われた。
後ほど控え室でサラさんに聞いた話だと、ヴィルゲルムの一撃を受け止めた瞬間、骨の砕ける音や筋繊維が断裂するが間近で聞こえ、身震いしたとこのとだ。
人間は、自らの力の反動で自分を傷つけないように制限をしながら力を行使している。だが、今回のヴィルゲルムの力は、明らかに過剰に力を行使した結果と言えるだろう。
俺はヴィルゲルムの控室を訪れた。
扉を叩くと、直ぐに返事があった。
「自分はエヴェイユと言います。先程の試合を心震わせながら拝見させて頂いた者の一人です。腕の状態はいかがですか?」
「自己紹介痛み入る。ワシはヴィルゲルムだ。ワシの引退試合に心震わせて貰えたなら良かった。この通り、両腕共に完全に動かんし、治療も無理な程に粉々だと言われたよ」
ヴィルゲルムは、力なく垂らした両腕の指先を僅かに動かすのが関の山だと苦笑する。
「では、その両腕の治療の替わりに私の研究に協力してください。っと、言ったら?」
「戦士としての活動ができると言うなら、悪魔にでも魂を売るかもしれんな」
ヴィルゲルムは良い笑顔で答える。無論、提案が戯言だと思っている笑顔だ。
「では、交渉成立ですね」
俺はヴィルゲルムの腕に手を当てて魔法の詠唱に入る。
「第七の精霊王エヴェイユの名において、祈願を行使する!」
この祈願の魔法は、他の魔法とは大きく異なる点がある。
『お呼びでしょうか、我が主よ』
透明な精霊が具現化して、目の前に姿を現す。
「この者の壊れた両腕を元通りにして欲しいのだが可能か?」
『容易いことです』
「では、頼むぞ」
『心得ました。祈願の名において、この者の両腕を完全な形へと治療いたして御覧に入れましょう』
祈願は、その両腕をヴィルゲルムに向けると膨大な魔法力を練り上げて一気に注ぎ込む。
その効果は劇的だった。素人が見ても分かるほど見る見るうちに内出血で赤黒く変色していた両腕は血色を取り戻し、ヴェルゲイム自身も信じられない者でも見るかのように自分の腕を動かして見つめている。
『願いは叶えられましたでしょうか』
祈願が俺に顔を向けて懇願するように聞いてくる。
「十分だ。ありがとう」
俺が笑顔で礼を言う。
『主の役に立てましたこと、至上の喜びに御座います。また、何時でもお呼びください。では、これにて失礼致します』
花が咲くような笑顔をまき散らしながら、気配と共に姿が薄れ、霞の様に消えていく祈願。
「さあ、約束は果たしたぞ。俺の実験に付き合ってくれ!」
俺の差し出した手を治ったばかりの力強い両腕で抱え込んでくるヴェルゲイム。
「我は主君を得ました。この両腕が終ぞ動かなくなるまで忠誠を御誓い致します」
こうして俺は、ヴェルゲイムを仲間に加える事が出来た。
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