第五話 「強さを求める旅」
第四話までで、物語の基礎となる起承転結の「起」が終わりました。
今回から「承」の部分へと物語は進んでいきます。
まだまだ、書きたいことを文章へとするのが上手にいきませんが
お付き合いいただけたら嬉しいです。宜しくお願いします。
白子の巫女と言った風な人間の姿で、俺の義姉でもある真竜アラインヘルシャフトが貸し切りにした闘技場の砂の上に立っている。
相対しているのは、魔鉄に付与魔法を施した全身鎧『アルファ』を身に着けたサラさんだ。
「はじめ!」
俺が開始の合図を高らかに宣言する。
最初に動いたのはサラさんだ。砂煙を上げてアラインヘルシャフトへ突進する。
今の状態のサラさんは、速度増加と筋力増強の効果で、百メートルを2.5秒程で走り抜けるだけの速度が出せる。
前世の人間が出せる百メートルの世界記録が9秒58で、地上最速の動物であるチーターが百メートルを5秒95だったことを考えると、試作品一号「アルファ」を身に着けたサラさんがいかに早いかが理解できる。
「ほう。人の身にしては早く走れるじゃないか」
しかし、普段から音速の領域で飛び回る真竜アラインヘルシャフトにとって、その程度の速度では驚くに値しない。
右手を振り上げる。それだけで巻き起こった風圧が、サラさんを後方へと押しやる。
その振り上げた右手の先に火球が生まれ、振り下ろす速度に合わせるかのようにサラさんに向かって飛んでいく。
自身の左側へと動いて火球をかわそうとするサラさんだったが、アラインヘルシャフトの右腕がサラさんの動く方へと振られると、それに合わせて火球もサラさんを追いかけるように動く。
逃げ切れないと判断したサラさんは、左手の五角形をした小さな盾を構えて火球を受け止めた。
想像していたよりも大きな爆発が起こり、粉塵で視界が見通せなくなる。
サラさんの身を案じていたが、直ぐに粉塵から飛び出してきた全身鎧を見て、ホッと息を吐く。
その右手には、先程までは持っていなかった短剣が握られており、真っすぐにアラインヘルシャフトへと向けて突きの姿勢を取っている。
しかし、アラインヘルシャフトの細い真っ白な指は、迫りくる短剣の切っ先を右手の人差し指と中指で、サラさんの突進の勢いごと軽々と受け止めてしまった。
「そこまで!」
俺が終わりの合図を宣言する。
アラインヘルシャフトは、短剣を離してサラさんを見つめる。
「人の身でありながら、我に肉薄するまでに動けるとは、見事だったぞ」
とても嬉しそうにサラさんへと話しかけている。
当のサラさんは、兜を脱いで荒い呼吸をしている。
「ご教授頂き、誠に有難うございます。これからも精進して、満足いただける結果を残したいと思います」
そう言った直後、サラさんは膝から崩れ落ちた。
時間にして1分程度の事だったとは言え、魔法の多重付与を全開にして全身全霊を持っての攻防を繰り
広げれば、魔法の恩恵が無くなった瞬間、一気に疲労が襲ってくるのも仕方がないだろう。
試作品一号『アルファ』の欠点は、鎧の一部でも外すと全身の鎧に付与した魔法が全て解けてしまうことだ。羽のように軽い全身鎧も、元の重さへと戻ってしまうので、サラさんの筋力だと万全の状態であっても自由に動くことすらままならない。
ましてや疲労困憊の状態では、立っている事すら難しいのだろう。
俺たちは、一旦控室へと戻り休憩を取る事にした。
控室では、帝都へ来た時に泊まった宿の女将のジェシカさんが、俺たちの飲み物や軽食を準備してくれていた。それから、戻ってきた俺たち一人ひとりにコップと皿を渡してくれる。
「サラも御疲れ様でした。さぁ、鎧を脱いで、一息入れて下さいね」
ジェシカさんは、サラさんを別室へと連れて行くと鎧を脱がす手伝いをしてくれたらしい。そして、汗を吸った固綿の鎧を脱がせ、濡れたタオルで全身を拭く手伝いをした後、風通しの良い絹のワンピースを着るように指示して、俺たちの居る控室へと戻っていったらしい。
別室から戻ってきたサラさんは、着なれない絹のワンピースのせいか、少し照れた様な表情だった。
「先程は醜態を晒してしまい、申し訳ありません」
「何を言っている。自分の全てを出し切れるまで動けたことを誇るが良い」
サラさんの開口一番の謝罪をアラインヘルシャフトが一蹴する。
「そうですよ。私の研究に全力で協力して頂いているのですから、感謝しかありませんよ」
数度の実戦形式を重ねていく度に、人間の限界をサラさんが越えていくところを、俺とアラインヘルシャフトは、楽しくなっていたのだ。
「そう言っていただけると助かります」
サラさんは恐縮しているが、人型の俺やアラインヘルシャフトと対等に闘える存在は、試作品一号『アルファ』を身に着けたサラさんだけなのだから、もっと誇っても良いと思うのだが。
既に俺が魔狼である事やアラインヘルシャフトが真竜であることを、サラさんには伝えてある。
隠し事が苦手な俺らが勘の鋭いサラさんに隠し通せる未来が見えなかったので、協力を仰ぐ際に全てバラしてしまった。
流石に驚いていたけれど、俺らの人とのなりを既に知っていたし、皇帝レオンやミュレイの計らいもあって、今までと同じ対応をしてくれている。
因みに女将のジェシカさんも俺らの秘密を知る数少ない人物だ。
皇帝であるレオンの親戚であり、色々とお世話になっているので、唐突にバレるよりは、先に話しておいた方が良いだろうとの考えで、サラさんと一緒のタイミングで話をした。
「我は、エヴェイユと手合わせをしてくるので、サラも一息ついたら来るが良い」
アラインヘルシャフトは、自分が動き足りなかったのだろう。でも、俺の了承も無しに行動指針を決定するのは止めて欲しい。
「まあ、良いけど。少し熱くなりすぎないようにしないとね……」
そう言うのも、この間の手合わせでは、人型で危うく俺もアラインヘルシャフトも本気を出しかけたので、闘技場の外では何事かと騒ぎになってしまった。
もちろん、水冷魔法の幻影作成と俺のオリジナル魔法である魔法遮断を併用して、それらを広域に張って目くらましはしていたのだけれど、漏れ出た魔法の余波と衝撃だけで騎士団が出向く事態となってしまったのだ。
「前回は、レオンにもミュレイにも怒られたからな。今回は、魔法を使わずに体術だけで訓練するとしよう」
余り自重する気の無いアラインヘルシャフトの声に苦笑していると。
「そうですね。レオン陛下から、お二人が真面目に鍛錬をするようなら止めるように言われておりますので、程々になさってくださいね」
ジェシカさんにも釘を刺されて、少しだけ神妙な顔をするアラインヘルシャフトであったが、興奮したら手加減なんて忘れるんだろうな。
俺とアラインヘルシャフトは席を立ち、闘技場へと軽口を叩きながら戻っていく。
闘技場に入るなり、俺は幻影作成と魔法遮断を強めに発動させて、外界から闘技場を隔離した。
軽く柔軟体操をして、右足のつま先で地面を二度叩く。
その瞬間、弾かれたようにアラインヘルシャフトが俺に向かってくる。
一瞬にして間を詰められ、豪快に振られる右腕は既に俺の目前に迫っている。
その右腕が当たるのを紙一重で右に躱し、左手でアラインヘルシャフトの右手首を抑え、右手でアラインヘルシャフトの右腕の付け根部分を抑え、テコの原理と慣性の法則を応用して投げ飛ばす。
背中から砂の地面に叩きつけられるアラインヘルシャフトだが、即座に起き上がって、今度は左右の拳を交互に至近距離で乱打してくる。
どれも、普通の人間なら一撃でKOさせる事が出来る。それだけの威力を持っている打撃なのだが、俺は半身になって、身体の前に突き出した右手の手のひらと手の甲でそれを弾いていく。
その合間に相手に近い右手を握り、軽い打撃を入れるのだが、当たり前のように躱されてしまう。
幾度かの攻防が終わると、お互いに一歩後ろへと身体を引く。
この距離なら脚がでる。
物凄く綺麗なアラインヘルシャフトの前蹴りを、両腕を胸の前で交差させて受け止め、同時に後方へと軽く飛ぶことによって威力を殺す。
空中で姿勢を整えながら、痺れた腕を開いていく。
防御した腕を通り越して、身体にもハンマーで叩かれたような衝撃が届いて、一瞬だが息が詰まった。
更に距離が出来たことによって、魔法の射程圏内に入ったので、お互いに反射的に呪文の詠唱に入る。
「そこまでにしましょうね」
薄い氷の刃を首筋に当てられた様な声で、俺たちは一気に熱が冷めて完全に固まった。
「まったくもう。アラインヘルシャフト様もエヴェイユも、熱くならないようにと、前回あれ程申し上げませんでしたか?」
水冷魔法の全方位凍結呪文によって、自信の周囲の空気と地面の砂を凍らせながら、客席から降りて来たのはミュレイだ。
危ないと判断した時には、問答無用で二人とも凍り付かせるつもりだったのだろう。
真剣な顔を見せるミュレイ。
「そう怖い顔をするなミュレイ。気分は晴れたから大丈夫じゃよ」
そう言って、ミュレイの頭を軽く手で叩き、闘技場を後にするアラインヘルシャフト。
俺とミュレイは肩を並べて、その後姿を見送った。
そして、もう一人。
「私が不甲斐ないから、アラインヘルシャフト様は、気分を害されたのでしょうか」
申し訳ないような、悲しいような顔を見せるサラさん。
俺はサラさんの方を向いて、目線を合わせると微笑みかけた。
「どうちらかと言うと、逆でしょうね」
サラさんが不思議そうな顔をする。
「彼女は、今以上の力を有することが出来ませんが、サラさんは格段に強くなりました。それこそ、彼女へ剣の切っ先が届くほどに」
話を聞いていたミュレイは得心がいったようだ。少し緊張したような険しい顔が軟化する。
「賢者の石を用いて真竜へと進化を果たしたアラインヘルシャフトは、既に強さの絶頂へと到達しているのです。それに対して、サラさんは魔鉄を纏ったに過ぎないのですよ」
「つまり、真銀や真金で創られた鎧へと質を上げたなら、その力は真竜アラインヘルシャフトにも届いうると言うことですね」
ミュレイが話を続けてくれる。
「そうです。だから、彼女も俺も真面目に技を磨くことにしたのです」
やっとサラさんにも全容が見えて来たらしい。
「それは、結果的に私のせいでは……」
「何を言うのですか。人間という個の力では最弱の生物が、真竜という絶対的強者に焦りと次へ進む決意を覚えさせたのですから、誇るべきところですよ」
だからこそ、俺は次へ段階へと研究を進めるのだけどね。
サラさんの頬が紅い。きっと褒められることに慣れていないのだろう。
うつむいていているので、目を見ることは出来ないが、きっと喜んでいるのだろう。
「エヴェイユの研究の助力があったとはいえ、サラは本当に強くなったものね。だから、次の闘技祭に申し込みしておきましたからね」
何か流れるように自然な感じで言われた。
「私が闘技祭へと参加するのですか?」
当然のように困惑するサラさん。
「はいっ♪ 試作品一号を身に着けて、参戦して頂きます。これは、兄レオンの意思でもあります」
皇帝陛下の勅命とあれば、受けなければならないだろう。
此方を見てくるサラさんに頷く。
「畏まりました。私サラが闘技祭へと参加して、試作品一号の実用性を証明して御覧に入れます」
真っすぐにミュレイの瞳を見つめながら、決意を伝えるサラさん。
その瞳に宿る決意に満足するミュレイ。
俺は密かに最後の実地訓練として闘技祭を考えていたので、少し早いけれども良い時期かなと思うことにした。
「では、一週間後、場所は今いる闘技場で行われますので、楽しみにしていますね」
俺もサラさんも神妙な面持ちでミュレイの言葉を聞いた。
一週間後に試作品一号のお披露目と実地訓練が行われるのだ。
それまでは、サラさんには体調を整えて貰い、軽めの訓練にしてもらおう。
「俺も楽しみです」
「私も自分の実力を試す良い機会だと思いますので、全力で取り組ませて頂きます」
こうして、一週間後の闘技祭への参加が確定した。
最後までお読みいただき「ありがとうございます」
これからも毎週金曜日に更新できるように頑張ります。
……たまに土曜日や日曜日にズレ込むことも有りますが。
今後とも「魔狼転生」を宜しくお願いします。




