試作一号
大量の鉱石を持ち替えったエヴェイユは、理想の鎧を作るべく試作品一号へと着手する。
自分の研究施設へと戻ってきた俺が最初に手掛けたのは、試作品を作る事だ。
理論上の作成は終わっており、出来るなら某アニメや戦隊もの等に出てくる超人的な力を授けてくれる鎧の様なモノを作成したいと考えている。
ゆくゆくは真金や真銀を用いた装備一式を創り上げたいと考えているけれど、最初に作成するのに貴重な金属を消費することは出来ないので、鉄に賢者の石を用いて魔力を付与した物を使うことにした。
こうしてできた魔鉄には、多少の魔力保有力が備わり、試作品を作るにはもってこいの素材と言えるかも知れない。
そして、もう一つ大切なことが、筋力増強や防御力増加、それから速度増加の様な魔法は、今使用している俺専用の固有魔法の様な状態から、精霊を行使するタイプの魔法へと処理をしないと付与が出来ないようだ。
魔法処理を施した金属に真銀で出来た筆を使い、魔力を流しながら魔法文字を刻んでいくと、付与が可能となるとは理解しているが、固有魔法は発動に必要な魔法文字へと変換させる呪文が無いのだ。
これからの手順としては、俺が考え出した魔法を精霊魔法として契約することが最初にするべきことだろう。次に魔鉄を作成して鎧を創り上げる事。三番目として鎧の各部位に付与魔術を施すこと。最後に動作確認だね。
俺は魔導書を開いて、白紙のページを覗き見る。そこには、確かに力が宿っていると判断ができた。
そのまま、どうやったら良いのか悩んでいると、俺から漏れ出た魔力を吸って、名も無き精霊が姿を現した。
「お初に御目にかかります。我が主殿。今回の御呼出しによって、我に名前と力を授けて頂けると思って宜しいのでしょうか」
半透明な光の精霊は、恭しい態度で俺に話しかけてくる。
「あぁ。君が担当する魔法が、そのまま君の名前になると思っていいのかな」
質問に質問を返すようで気が引けたけれど、何分にも初めての事なので勝手が判らない。
「その通りで御座います。我が担当する魔法の効果と必要な術式を思い描いてもらい、我が名となる魔法の名を発して貰えれば、それで契約が完了いたします」
「了解したよ。君の名前にして担当してもらう魔法は、誰よりも早く動くための力、速度増加!」
その瞬間、眩い光が精霊から溢れ出し、その表情は歓喜に打ち震えているようだった。
「我が主殿の御役に立てるよう、そして、頂戴した速度増加の名に恥じぬよう、誠心誠意働かせて頂きます」
それだけ言うと、精霊は魔導書に吸い込まれるように消えていった。
そして、先程までは真っ白だった魔導書のページには、必要な術式がびっしりと書き込まれていた。
試しに作ったばかりの魔法を使ってみることにした。そして、思い浮かんだ呪文を唱えようとして笑ってしまった。
「第七の精霊王エヴェイユの名において、速度増加を行使する!」
自分で魔法の調整をするよりも素早く、速度増加の魔法が身体を包み込んだ。
そして、思念によって速度増加の精霊から『初めての使用が主殿で我は幸せです』と、言われたような気がした。
魔法の発動と同時に身体が少し軽くなった様な感じとなり、動体視力に補正をかけて、簡易的に筋肉を保護する膜も張られるようにしている。これは、速度増加単体で魔法を発動させても効果を得る為の処置だ。
俺は使用感を確認しながら、軽く動き回ってみる。
「うん。思った通りに作用しているようで、なかなか良いね」
それから俺は、この日の為に考案していた魔法を次々と契約していく。
その度に魔法の効果を確認していくけれど、中には確認が出来ないものもあった。
それでも俺が考案した魔法なのだから、俺が初めに使ってみるのが筋なような気がしたので、効果が確認できなくても使用することにした。
三つ空きを残している状態で、速度増加を始め十五の呪文をこの世に生み出すことが出来た。
これで、自分の考える理想の武具が作成出来るはずなので、自然と笑みが零れてしまう。
俺はニヤケタ顔で錬成空間を作成して、鉄を賢者の石を用いて魔鉄へと精錬していく。
ちなみに鉄を魔鉄へと精錬しても、その量は余り減ることは無かった。
銀を真銀へと精錬する場合は、十分の一に減る。
更に金を真金へと精錬するのには、百分の一に目減りしてしまう。
因みに重さは、それぞれ十分の一、百分の一となり、硬さは十倍、百倍となるので、軽くて丈夫、尚且つ魔法の伝達率が良い金属が出来上がるのだ。
今回使用する魔鉄は、真金や真銀にあらゆる面で劣っており、魔法の伝達率などは普通に発動させるときより低下するほどではあるのだが、紙に付与した場合は一度しか使えない魔法を、永続的に効果を持続させる事が出来る。その一点に置いてだけ優れているので、失敗する可能性の高い試作品を作るには適している。
問題は、作成する魔法を付与した鎧を誰に使ってもらうかだ。
実際に使用した感想を聞かないことには改良も出来ないので、運動を得意としていて魔法は不得意といった人が適任だとは思うのだが……。
正に打って付けの人が側に居るではないか!俺は、何時も側に居て俺の面倒を見てくれている優秀な人材に目を向けた。
彼女は、今も部屋の隅で必要な物は無いか目を光らせて居た。
「サラさんは、鎧とか欲しいと思ったことってありませんか」
俺は出来る限り平静を装い、笑顔を作って話しかけた。
「どうされたのですか不思議なお顔をされて。私の鎧でしたら、動きやすいように軽量化を施した革鎧が一式在ります。金属鎧と言う点でしたら、動きを阻害されるのと重量がかさむので必要性を感じたことは無いですね」
理想的な返事が返ってきた。彼女なら、これから作成する鎧の試作品を試してもらうのにとても適しているだろう。
「これから全身鎧を一式作成するので、それをサラさん専用にカスタマイズしようと思っています。是非、使用感など感想をお聞かせいただきたいのですが、お願いできないでしょうか」
彼女は不思議そうな顔をして、諦めたかのようにため息を短く吐く。
「わかりました。どのような意図が有るのかは、私の理解の及ばないところですが、御協力させて頂くことが、私の仕事と関係するのでしたら、お断りすることは有りません」
これで本人の了承を得る事が出来たので、俺は本格的に作業に取り掛かることにした。
サラさんには、鎧の下に着る固綿で出来た鎧を持ってきてもらった。
それを錬成空間で包み込んで、賢者の石を中に入れて精錬する。
多少でも魔法の伝達率を良くするための処理だ。
その後、魔鉄を部品に分けて精錬空間内で魔力を用いて形成する。
兜、胸当て、肩当て、肘当て、手甲、腰当て、膝当て、脛当て、小型の盾、それから短剣だ。
ある程度、形を作ったら、固綿の上からサラさんに当ててみて、微調整を行っていく。
その状態で一度装着してもらう。
飾り気のない金属の全身鎧は無骨極まりないけれど、魔法付与の前と後を比べて貰わないと、しっかりとした意見が聞けないからね。
「やはり金属鎧は重たいですね。私の筋力だと殆ど自由に動くことが出来ませんね」
そう言って動いてくれたが、動き自体はロボットの様にぎこちない動きになってしまっていた。総重量三十キロ近い鎧を着て、普段と同じように動ける方が異常だろう。
「では、此処からどの様に変化していくのかを楽しみにしていてください」
俺は、サラさんから装備を外していき、一つ一つの部品を丁寧に机の上に置いていく。
そして、真銀製の筆を持ってきて呪文を書き込んでいく。
側ではサラさんが興味深そうに見てくるけれど、俺が付与魔法を解析したものに独自で精霊文字と魔法文字を組み合わせたような文字を取り入れ、更に幾何学模様を織り込んでいるので、知識が有る魔導士ですら解読することは難しいかもしれない。
鎧の原型が出来てから約一週間は、魔法の付与に費やした。手書きで呪文を丁寧に刻んでいく作業は、思っていたよりも体力と精神力を消耗したので、休憩をはさみながら間違いが無いようにゆっくりと行った。
最後の仕上げとして、魔晶石を錬成空間で短剣の鞘へと精錬して形作れば完成だ。
魔晶石の鞘には、鎧の魔法を発動させて維持させる為の魔力を十分に充電しておく。
全ての準備が整ったので、場所を移して動作チェックを行うことにした。
サラさんには、一週間前と同じように固綿の鎧を身に着けた上から、俺が創った全身鎧を纏ってもらった。
外見上は、前回と変わりないけれど、表面に呪文を書き込んでいるので、鎧としての雰囲気は良くなっていると思う。
「身に着けてみて、前回との違いなど感想を頂きたいのですが」
鎧を身に着けても何も言葉を発していなかったサラさんへと俺が声をかける。
「私は、本当に鎧を身に着けているのでしょうか?」
不思議な疑問形で返答が返ってきた。もちろん、彼女は俺が作成した鎧を身に着けている。
「それは、どういった意味でしょうか」
疑問形となっている真意を聞きたくて俺が問い返す。
「鎧を身に着けている時には、前回と同じように確かに重さや動きにくさを感じていたのですが、一式全てを身に着けた途端に鎧の重さが消失したように感じました。その後は、鎧を身に着ける前より身体が軽く感じますし、とても動きやすいです」
予想通りの効果が発揮されたと理解ができる、理想的な返答が返ってきた。
俺は軽く拳を握りしめ、実験の成功を実感した。
「それが、この鎧に付与した魔法が正常に作用している証拠です」
俺は次の性能チェックへと段階を移すことにした。
「では、これから魔法を幾つか放ちますので、指定した防御行動を取ってください。宜しくお願いします」
顔が隠れるタイプの兜にしているので表情は見えないけれど、軽く首を縦に振って了承してくれた。
「では、始めたいと思います。最初は精神攻撃系の魔法になるので、身構える必要はありません。兜に施した精神防御の魔法が守ってくれるはずです」
俺は左手で魔導書を開いて、右手を完全武装したサラさんへと向ける。
「闇夜を司る精霊王と契約を交わせし者、エヴェイユの名において、12番目の闇の精霊を行使せん。混乱!」
魔法は完全に動作している。後は、精神防御が弾いてくれているかどうか。
「どうですか」
俺は恐る恐る聞いてみる。自信は在っても、実践は初なので緊張する。
「特に何も変化は無いですね」
「よし! 成功です! 次へと行きますね。今度は盾を構えてください」
自分が創り出した魔法が正常に作用しているのを確認できるのは、とても嬉しいことなのだと少し感動してしまった。
「爆炎を司る精霊王と契約を交わせし者、エヴェイユの名において、1番目の火の精霊を行使せん。火球!」
俺の目の前に炎の球が出現し、サラさんへと向かって弾かれたかの様に飛んでいく。
サラさんは言われた通りに五角形の少し小ぶりな盾で火球を防ぐと、それは勢いそのままに四散した。サラさん自体は、一歩も下がる事無く衝撃に耐えきった。
「多少の衝撃は来ましたけれど、火球を防ぐなんて凄いですね」
サラさんの口ぶりから、幾分興奮しているような気がする。
「盾には魔法遮断の魔法を限定付与してあるので、殆どの魔法は、盾に当たった瞬間に今の様に四散するはずです。今度は、マントで火球を受け止めて貰えますか」
「マントですか? わかりました」
当然ながら、マントにも細工をして魔法付与を施してある。
同じく火球をサラさん目掛けて発動させる。
今度は、右手でマントの端を掴み、それで火球を受け止める。
火球はマントに阻まれて、それ以上、直進することが出来なくなり、見る見るうちに小さくしぼんでいく。
「これは、闇夜魔法の魔力吸収を応用したもので、攻撃魔法の衝撃を受けた時、それを分解して魔法力として鎧全体に供給するシステムになっています」
俺が説明すると、サラさんは動きを止めて、兜を脱いだ。
「鎧の一部でも外すと、全体の魔法が解かれるようですね」
鎧としての重さが一気に圧し掛かり、現実に帰って来たような気になったのだろう。
「でも、本当に凄いです! 私の様に魔法が使えない者からすれば、理想的な防具に仕上がっていると思いますよ!」
笑顔のサラさんが見られたので、努力した買いが有ったなと思った。
「もう暫く動作確認をしたら、今度は実戦形式で最終確認を行いたいと思います。色々と助手の様にお手伝いをお願いしてしまって申し訳ないのですが、これからもよろしくお願いしますね」
出来るだけの笑顔を返しながら、俺はサラさんに礼をする。
「こちらこそ、宜しくお願いします」
二人で見つめ合い、何となく笑ってしまった。
こうして、試作一号『アルファ』が出来上がった。
これにて第四話「希少金属を求める旅」は終了です。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
この四話までが、大きな流れで起承転結の起に当たります。
次回から承の部分に入りますので、ご期待ください。




