鉱山での仕事
すいません。金曜日に投稿できませんでいた。
良く朝目覚めると、街は朝霧に包まれていた。高温多湿のグランベルン首都アムルベルンでは、気温が下がる朝方に霧がかかることは珍しくないらしい。
俺は朝の身支度を済ませて、宿を後にしようとする時になって、扉を叩く音が聞こえた。
扉を開くと、少し低身長で小太りで豪華な衣装を纏ったガッシリとした男性が立っていた。
部屋の扉前で話をするのもどうかと思ったので、室内に招き入れて話を聞けば、この国の国王その人が、直々に街外れの宿まで来たという。
皇帝陛下の義弟である俺に対して、本来であれば最大限の歓迎を持って迎えなければならないところ、誠に申し訳ないと謝罪されたが、前触れも無く唐突にやってきたのは俺の方であり、逆に気を使わせて申し訳ないと返しておいた。
重ねて門から修練場までのいざこざの話も謝罪されたが、原因は証文の日付が本来なら一か月程度前になるはずが、当日の日付になっていたこと。また、証文自体が皇帝陛下しか使用しない特殊な仕様であったため、末端の門番まで知られていなかったことが原因らしい。
俺は特に問題ないと話して、この件に関しては不問と言うことになった。問題視してしまうと、帝国間の内政の話になるし、門番の兵士だった者や上役の兵士にもお咎めが行くことだろうから、無かったことにした。
全ての公務に優先して、場末の宿へ国王陛下が来たのには、やはり色々と難しい政治の話が絡んでいたかららしいが、手打ち金代わりに俺の求めていた廃鉱を一つ自由に使える権利を頂いた。
そこは、地下水路が坑道まで溢れてしまい、採掘半ばで廃鉱となった場所だと言う事だ。
昨日のうちに上役の兵士に渡しておいた皇帝レオンからの親書にて、俺が求めている廃鉱の条件にもピッタリ当てはまる。
確かに発掘作業ができれば、莫大な量の金が発掘できる場所であるらしいが、発掘が始まって早い段階で坑道の2/3が水没してしまっているので、大地の妖精族であるドワーフ達ですら諦めた場所だと付け加えられた。そして、本当にその様な場所でよいのかと重ね重ね聞かれたが、俺が求めているのが正にそのような廃鉱なのだと伝えて譲り受けた。
忙しい身でありながら時間を最優先で作ってくれた国王に感謝を表し、近日中に正式な謁見を申し入れると、国王は笑顔で応じてくれた。そして、二頭仕立ての馬車に乗り込むと街の中央にある宮殿へと帰っていった。
外出の準備が整っていた俺は、貰ったばかりの廃鉱の権利書を手に現地へと赴くことにした。
そんな俺の思いをくみ取ってくれたかのように、宿の前にでは二頭仕立ての馬車が俺の事を待っていてくれた。
街の大門を潜り抜けて郊外へと向かい、険しいベルン山脈を眺めながら一時間程走ったところに俺が貰った廃鉱があった。
馬車を降りると、御者は「夕方前に御迎えに参ります」と言い残して街へと帰っていった。
俺は廃鉱の真っ暗な入口を眺めて、気持ちを新たにする。
「日光を司る精霊王と契約を交わせし者、エヴェイユの名において、3番目の光の精霊を行使せん。光空間作成!」
呪文を口にすると、洞窟内の壁が薄く発光して、先が見通せるようになった。
「地重を司る精霊王と契約を交わせし者、エヴェイユの名において、12番目の地の精霊を行使せん。地中掌握!」
続いて炭坑内の地図を魔法で把握する。蟻の巣のように入り組んではいるが、何とかなりそうだ。それと同時に埋蔵されている鉱石の場所も感覚的に見つける事が出来た。
「水冷を司る精霊王と契約を交わせし者、エヴェイユの名において、12番目の水の精霊を行使せん。水路感知!」
話に聞いた通り、坑道の大半が水没していることが理解できた。理由は、地下水路と坑道の一部が繋がっているかららしい。これをどうにかできれば、坑道の水問題は解決しそうだ。
三つの魔法を駆使することによって、炭坑内の様子を把握することが出来ると、見知った場所を歩くかのように進んでいく。
「感知を使っていたから理解していたとは言え、やっぱり坑道内は広いね。前世だと東京アクアラインが広さ的には似ているかな」
少し進んだところで、床から徐々に水没している場所に達した。100メートルもしないうちに天井まで水が到達しているのが見て取れた。
「水冷を司る精霊王と契約を交わせし者、エヴェイユの名において、7番目の水の精霊を行使せん。水中呼吸!」
念のため水中で呼吸をできるように魔法をかけて、魔力障壁を大きめに展開する。
浮力の関係で浮かんでいるけれど、先へと進んでいくと天井に押されて水中へと潜っていくことになった。
水中でも光空間作成がきちんと作用していたので、漆黒の世界とはならず、薄明かりが綺麗な感じに映った。
水中を魔力障壁の膜に覆われた状態で歩いていると、不意に巨大で透明なゴム製の風船に入って水上を歩くアトラクションがあったなと思いだした。
こっちの世界に来て、1年以上が経って気持ちも落ち着いてきたところだったけれど、アクアラインやウォーターバルーンの様な前世での記憶と結びつくことが多いなと苦笑いをしてしまう。
そんなことを考えていると、問題の水路と坑道との接点へと到達した。
緩やかな流れではなるけれど、大量の水が流れ込んできているのが見て取れる。
「凍らせても良いけれど、原因となっている穴を塞がないことにはどうしようもなさそうですね」
最初は小さな穴でも、水圧で巨大なダムが決壊することがあることを俺はしっていたから、どうにか水路と繋がっている大穴を完全に塞ぐ手立てを考えていた。
物は試しと、地重魔法を使って水をせき止めてみようと考えた。
「地重を司る精霊王と契約を交わせし者、エヴェイユの名において、9番目の水の精霊を行使せん。空間閉鎖!」
呪文の効果は劇的で、傷口を塞ぐかのように見る見るうちに大人四人が手を広げて通れる程の大穴が閉じていく。
「地重を司る精霊王と契約を交わせし者、エヴェイユの名において、11番目の水の精霊を行使せん。結合強化!」
閉じた空間を結合させて穴が再び開かないように強く結合させる。そして。
「地重を司る精霊王と契約を交わせし者、エヴェイユの名において、14番目の水の精霊を行使せん。石化!」
強固に結合させた場所を周囲の壁もろとも石化させて、前世のトンネルの様に天井と壁を一体化したコンクリートの壁風にした。
水路からの流入を塞き止めたことによって、後は水が排出されるのを待つばかりとなった訳だが、暇を持て余していても仕方がないので、俺は地中掌握で見つけた鉱石の眠る場所まで潜ることにした。
天井を這うようにして潜っていくと、坑道の最深部に近い場所では、発掘と中途思われる鉱石が剝き出しの状態で眠っていた。
その水中で四方八方から光を浴びて乱反射させる鉱石は、とても綺麗で幻想的に映った。
金や銀や宝石の数々が、宝石箱の中のように洞窟内を輝かせる。
そこで俺は疑問に思った。前世の記憶を辿ると、金は金山。銀は銀山。各種宝石も特定の物しか一か所では取れなかったと思ったけれど、この世界では、ひとつの鉱山で取れる宝石は、一つではなく多様性に富んでいるようだ。
さて、俺は採掘の技能なんて習得していないので、発掘は力押しになるのだけれど、採掘道具すら持ってきていないので、素手で掘り進むことになる。
何も考えていなかったのかと言われると、別にそうではなく、少し強引ではなるけれど採掘する算段は付けてある。
「地重を司る精霊王と契約を交わせし者、エヴェイユの名において、3番目の水の精霊を行使せん。地中を柔らかく!」
範囲を絞って、鉱石のある場所に限定して魔法を発動させる。
そして、筋力強化の魔法を自分にかけて鉱石を引っこ抜いてみる。
思った通り、魔狼としての素の筋力が強いこともあって、鉱石は粘土から石を取り出すような感覚で次々と採掘することができた。
大量の鉱石を掘り出すことに成功した俺は、魔力障壁を広げて、鉱石を中へと拾い上げていった。途中で重さに耐えきれなくなったのか、水底へと沈んでいったが、重力操作を併用することによって、重さを感じることは無かった。
そうして集めた鉱石は、水の引いた区画へと持っていき、一時的に置いておくことにした。
露出していた鉱石をある程度集め終わったころ、約束していた時刻が近づいていることに気が付き、その日の探索は終わりにして、出口へと向かった。
坑道を満たしている水は、少し量を減らしたとは言え、まだまだ無くなるまでには時間がかかりそうだ。
俺が坑道から外へと出ると、昼間の御者の方が馬車を停めて待っていてくれた。
俺は馬車へと乗り込むと、街へと帰っていった。
その夜は、魔法を立て続けに連発したせいか、何時もより深く眠ったような気がした。
次の日、朝早くから馬車を待たずに自分の鉱山へと向かい、地中掌握にて見つけた鉱石の在りかをしらみつぶしに発掘していく。
「地重を司る精霊王と契約を交わせし者、エヴェイユの名において、15番目の水の精霊を行使せん。分子分解!」
魔法が発動すると、目的としている場所まで一直線で空間が開ける。
崩落などを防ぐため、石化の魔法で坑道内を強化していくことも忘れずに行った。
一週間の間、そのような生活を繰り返していたら、鉱山の中にある資源をあらかた掘りつくしてしまった。
眠っていた鉱石の数は、とてつもない量に上り、新たに空間作成で創り出した体育館程の広さを金銀財宝が埋め尽くしていた。
「さてと、これ以上掘ると、隣近所の鉱山まで浸食しかねないから、そろそろお暇する準備に取り掛かるかな」
そうして俺が取り掛かったのは、空間転位をする際の目標となる魔法陣の作成だ。
俺の魔力で紡いだ魔法陣は、体育館程の空間の床と壁、そして天井を埋め尽くした。
そして、俺は魔法陣に囲まれた金銀財宝共々、帝都にある自分の実験室目掛けて空間転位を行った。
帝都にある自分の実験場は、サッカーグラウンド程の広さがあるので、幾らか実験道具や素材があると言っても、それほどの量ではないので、体育館程度の量を運び入れても余裕があるはずだ。
空間転位と同時に魔力障壁を展開しているので、そのまま実験室に降りる前に重力制御もして、ゆっくりと地面に金銀財宝を下ろしていく。
当面の実験で必要な量が確保できたことに胸を撫でおろしていると、ミュレイが慌てて部屋へと入ってきた。
「エヴェイユですよね。おかえりなさい」
「ただいま戻りました。そうは言っても、無断で帰って来たので、もう一度、戻らないといけないのですが」
「そうですか。膨大な量の魔力を感知したので、気になって駆け付けたのですが、エヴェイユなら納得ですね」
そう言って微笑むミュレイを見て、帰ってきたと実感できるくらいには俺も馴染んできたようだ。
部屋を見渡すと、俺が持ってきた量と同じくらいの財宝の塊が部屋の隅に積み重なっている。
不思議に思った俺が聞くと、アラインヘルシャフトが戻ってきたときに「巣にため込んであったモノだから、エヴェイユに渡すために持ってきた」と、こともなげに話していたことが聞けた。本人は、賢者の石を渡すときに話していた約束を守っているだけだと言いそうだが、鉱山一つ分の財宝を持ってくるなど、本当に規格外の生物だ。
こうして、俺は目的の量をはるかに超える実験材料を手に入れる事ができた。
俺は、一旦グランベルン首都アムルベルンにある鉱山へと空間転位で戻り、一つの魔法を試してみることにした。
「暗夜を司る精霊王と契約を交わせし者、エヴェイユの名において、7番目の闇の精霊を行使せん。魔法解除!」
坑道内をくまなく行きわたる量の魔法力を乗せて放った魔法解除は、微光を消し去り、石壁を土壁に戻し、塞いだ穴を再び開け、坑道内を俺が来た時の状態に戻していった。
坑道の入口からは、大量の水が流れる音が響いてきた。
何となくだが、俺が居た痕跡を残さない方が良いような気がしたので、こういった方法を取る事にした。
俺は、御者を務めてくれた人や門番の上司に話をして、国王へは手紙を渡してもらえるようにお願いをした後、郊外まで出たところで空間転位にて帝都まで帰還した。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次回は、鉱石を使った実験をお送りさせて頂きたいと思います。
……金曜日の夕方に投稿できると良いなと思いながら。
頑張って書き上げますね。