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魔狼転生  作者: 兎月 晃
14/30

鉱山を望む街

希少金属を求めて炭鉱都市へとやってきたエヴェイユ。


普通に馬車を使うと、およそ一か月かかる所を、魔狼となった俺は一日で走破してしまった。理由は、物理耐性強化(プロテクション)で肉体を保護し、筋力増強(ストリングス)によって魔法的に肉体強化を施した後、速度増加(ヘイスト)を乗せることができたからだ。これによって、俺は驚異的な速度スピードを出すことが出来るようになった。


木々の間を風のように走り抜ける。人間世界での乗り物に例えるなら、新幹線の最高速度で森の中を走っているようなものだ。肉体改良が完全に出来たからこそ出来る芸当と言えるだろう。


こっちの馬車は、人間が普通に歩くよりも少し早いくらいの速度で走る。なぜなら、車輪タイヤが木製であったり、車軸にスプリングが無いので路面の凸凹でこぼこ直接ダイレクトに乗り手に伝わってしまったりするからだ、だから、それ以上の速度を出すと乗り心地が最悪になってしまうのだ。


そんな訳で、早朝に出発した俺は、夕方の大門が閉まる前に目的地へと到着したのだった。


「次、通行証を提示しろ」


平和な街の兵士の役割は、門番や治安維持が多くなるのだろう。


そして、そんな役割を快く思わない兵士は、常に不機嫌な事を隠そうともしない。


俺は義理の兄である皇帝レオンが用意してくれた通行証を提示する。


「ん? なんだコレは?」


あれ? レオンから通行証替わりだと言われて渡されたのだけれど、何か違うものを渡されたのかな。


俺が悩んでいると、「ちょっと、こっちへこい!」と言われ、不機嫌な若い兵士に俺の腕を掴まれて、何処かへと連れて行かれそうになる。


……が、俺は重力操作で体重を変化させているとはいえ、それでも軽く成人男性よりも重くしてあるから、子供を連れて行くような軽く引っ張る程度の力では、ピクリとも動かない。


「抵抗するのか? こんな偽物で街へと入ろうとしたヤツの分際で!」


兵士は子供に抵抗されたのが気に障ったのか、青筋を浮かべて口調も荒く言い寄ってくる。

これによって、周囲の人たちの目線が俺たちへと集まっていく。街の入口で揉めていれば、当然他の兵士も集まってくる。


何か偽物と判断される要素があったらしいが、そもそも本物の通行証にしたって、俺は見たことが無いので判別することができない。


さて、面倒なことになってきたなと思っていると。


「どうした。何か問題があったのか」


上役の兵士だろうか。それとも通りかかった騎士だろうか。普通の兵士よりも意匠いしょうらした鎧をまとい、馬にまたがり腰には細身の剣を挿している。


「あぁすいません。このガキが通行証を偽造して通ろうとしやがったので、少し裏で教育してやろうかと思ったんですよ」


門番の若い兵士は、幾分熱を下げて上役と思われる綺麗な鎧を着た人物へと話をしているけれど、口調が頭悪そうな感じにしか聞こえない。


「そうか。どれ、俺に見せてみろ」


綺麗な鎧を着た上役は、頭の悪そうな兵士から俺の通行証を受け取ると、見る見るうちに顔面を蒼白に変えていく。


「陛下の御親族の方とは知らず、部下が大変失礼致しました。門番の方へは、追って厳しい処罰を下します故、どうか御許し下さい」


上役と思われる兵士は、下馬して片膝を地面に付き、頭を垂れて許しを請うてきた。


「確かに謝罪を受け取りましたので、頭を御上げください。そして、往来の真ん中ですので立ち上がって下さい」


騎士然とした大人の男性が、十代半ばの男の子に許しを請う姿というのは、理由の如何に関わらず悪目立ちしてしまう。俺がそれを嫌っているのを雰囲気で察したのか、上役の男性は立ち上がり、もう一度、今度は感謝を述べて来た。


当然、それが気に食わない奴もいる。門番の兵士だ。


「隊長! 何故ですか! 何故、隊長が平伏して謝罪を口にして、俺が罰を受けなきゃならないのですか! 子供とは言え、偽物の通行証で街へと入ろうとした詐欺師ですよ、此奴は!」


物凄い剣幕で隊長へと言い寄る門番の若い兵士。


隊長さんは、深いため息を吐くと、振り向きざまに拳を若い兵士へと叩き込もうと言う素振りを見せたが、俺がそれを察知したので止めに入った。


「公衆の面前での問題行動トラブルはこれ以上。それよりも、街の見学がてら修練場へと行きたいのですが、そちらの門番の兵士さんと御一緒に御案内頂けないでしょうか」


かしこまりました。その様におっしゃられるのでしたら、御案内させて頂きます」


隊長さんは門番の兵士を一瞥すると、先導するように歩き出した。


物作りで賑わう街中は、蒸気があちらこちらから立ち昇り、つちを振るう音が響き渡る活気のある街だった。


そんな中を無言で歩き続けるのだが、隊長さんが途中から色々と説明をしてくれた。


特に面白かったのは、「この街の金属加工では、火は起こすのではなく、溶岩を用いているので、一定の温度を維持していのですよ」と言うことだ。不思議な加工方法だが、溶岩を使って金属を溶かすなど、一体誰が思いついたのだろう。


ちなみに鉄の融解温度は確か1538°だけれど、溶岩の地表での温度は低いところで900°高いところで1200°程度だったと記憶しているので、たぶん完全な溶解ではなく半溶解の状態で加工しているのだろう。


街を流れる溶岩を見ると、水が流れるようにサラサラと滑らかなので、前世と同じなら高温の溶岩だと思われる。


また、周囲の山々には、まだ雪が積もっているのに、街は溶岩の川が流れている影響か半袖一枚で外を歩けるくらいには温かい。


その環境を活かして「熱して叩いた鋼は、雪解け水で冷やされて鍛えられる」と、言う話も聞くことが出来た。雪解け水で剣を鍛えるとか、なんて夢のある方法だろうと心が躍ってしまった。


「俺も武具の作成を生業なりわいとしているので、是非、今回の滞在中に一度工房を訪ねさせて下さい」


「王家や騎士の防具を作る工房へ御案内することを御約束致しましょう。工房の者も喜ぶと思いますので、声をかけてやってください」


俺たちが和やかに話をする後ろで、目つき悪く付き従っている門番の兵士は、黙々と歩いていた。


そうこうしているうちに大門から一番近い、街の外れにある冒険者や下級兵士が使う一般の修練場に着いた。これの他にも決闘や闘技大会が行われる闘技場コロッセオや騎士以上が使うことを許されている城内の修練場なども有るらしい。


「さて、修練を行いましょうか。見極め人は、隊長さんがお願いします」


「心得ました。お互いに致命傷となりそうな場合は、止めに入るように致します」


状況を理解できなかった門番の兵士は、怪訝けげんな顔をしていたが、理解が追い付くと、俺をおおやけに殴れると思ったのか、薄気味悪いネバついた笑顔を見せて来た。


「修練ってことは、武器を使っても良いんだよな」


ニヤニヤとした顔で聞いてくるので、爽やかな笑顔で「もちろん」と返してあげた。


門番の兵士は、修練場に置いてある刃を潰した長剣を腰に挿し、槍を手に取ると俺に向き直った。


それに対して、俺は無手で対峙していた。


「はじめ!」


隊長さんの声が修練場に響く。


修練場には夕方と言うこともあって、冒険者や兵士などの姿は少数だが、皆が手を止めて何事かとこちらを眺めている。


門番の兵士が初めて取った行動は、中距離から槍の刃が付いていない石突の方で殴りかかる事だった。


繊細せんさいさも大胆さも無い、力任せで技の欠片もない攻撃方法に、俺は残念な思いを隠せず落胆してしまった。ひょっとしたら、こういった脇役っぽい役人が、意外と戦いでは凄いヤツって展開を期待していたのだが、それは無いらしい。


俺が石突をかわすと、今度は石突で連続して突いてきた。全て紙一重の状態でかわして、最後の一撃だけ顔面に当たる直前を右手で掴み、槍の動きを完全に止める。


どんなに力を入れてもピクリとも動かない槍を門番の兵士は諦めて手放すと、腰から長剣を引き抜き両手で持ち、上段から切りかかってきた。


刃を潰しているとは言え、木剣と違い2kg程度の重さがある鉄の塊が勢いをつけて振り下ろされるのだ。当たれば軽い怪我では済まない。


それでも、門番の兵士が振るう長剣が俺に当たることは無い。何度も振るわれる長剣がくうを切る。暫くすると異常を感じた周囲の見学者からささやき声が漏れ始めた。


それも仕方がないことだろう。俺の体型は、この世界の標準から見ると貧弱と言うか、痩せすぎだからだ。とても武術が出来るとは思えなかっただろう。ましてや正規の兵士の攻撃をかわし続けることが出来るなど。


「なんで当たらないんだ!」と、わめきながら長剣を振り続けていたからか、肩で息をするくらいに疲れが見え始めた門番の兵士は、喚くのを止めて息を整えると、忌々(いまいま)しそうに俺を見据え、全力だろう一撃を俺に振り下ろしてきた。


頃合いだろうと考えた俺は、左手で長剣の刃を受け止めると同時に右拳こぶしのカウンターで門番の兵士の顎を打ち抜いた。


門番の兵士は、両膝から崩れ落ちて行き、修練場の砂の大地に突っ伏した。


俺は、左手に残された長剣を隊長さんに渡した。


「それまで。御手数をお掛けしました」


隊長さんは、修練の終わりを告げると、長剣を受け取り俺に向けて礼を取った。


その瞬間、修練場に居合わせた冒険者や兵士から歓声が上がった。


後から聞いた話だと、門番の兵士は色々とやらかしていたらしく、余り評判が宜しくなかったようだ。それでも正規の兵士に面と向かって苦情を言える訳も無く、泣き寝入りしていた冒険者や下級兵士が多かったらしい。


その後は、皆さんからおめの言葉をたまわり、話がしたいと酒場へ連れていかれることとなった。少し早めの夕食は、門番の兵士への愚痴と、倒れた時にスカッとしたという歓声に包まれながら、十分な量の肉と酒でお腹と心が満たされた。


その日は王城の門が閉まってしまっていたので、隊長さんが取ってくれた宿に御厄介になった。


一人で泊まるには、少し広すぎる様な気もするけれど、天井も普通の宿屋に比べれば高かったので、フロントには入らないように伝えて、俺は魔狼の姿でしばらくつろいでいた。当然ながら、扉には地重魔法である魔法の錠前(ウィザード・ロック)をかけてある。


すると、扉が叩かれて「すいません。少し御話を御聞かせ願えないでしょうか」と、廊下から声をかけられた。


すぐさま水冷魔法の外見変化ポリモルフで外見を変化させて、重力操作を行う。


「どうぞ、お入りください」


俺は、そう言って地重魔法の魔法の開錠(ウィザード・ノック)を発動させる。


廊下に立っていたのは、修練場で徹底的に赤恥をかかせた門番の兵士だ。


「この度は、度重なる御無礼を申し訳ありませんでした」


門番の兵士は、ゴンっと言う音を立てて頭を床にぶつけながら、土下座をしてきた。


「過ぎたことですし、貴方には相応の罰を受けて頂いたので、気にしないで下さい」


俺は何を言ったら良いのか迷ったが、無難ぶなんと思われる返答をしておいた。


「俺は、自分の力と心が不足していたことを実感したので、おひまを頂いて、一介いっかい修練者しゅうれんしゃとして森へ入り武者修行むしゃしゅぎょうをしようと考えています。その前におびを言いたくてお寄りしました」


そう言って、一度上げた顔をまた床に押し付ける。


「貴方の実力ですと、森の魔物は手強い相手となるでしょうから、少しずつ森の奥へと分け入ることをお勧めします。頑張ってくださいね」


俺はにこやかに微笑みかける。


許されたと思ったのか門番の兵士だった者は、少しだけホッとしたような表情をして「失礼しました」と言って、部屋を後にした。


性根は悪いヤツでは無かったらしい。立場が人の性格をゆがめてしまったのだろう。本当に頑張って心も身体も強くなって国の為に戻ってきてもらいたいものだ。


その後は来客も無く、俺は眠りについた。


第四話の第二部をお読みいただき、ありがとうございました。

何とか夕方までに書き上げることが出来ました。

来週も頑張って、投稿できるように書き進めますね。

また、来週の金曜日にお逢いしましょう。

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