第四話 ~希少金属を求める旅~
転生してから一年が経過し、新たな旅へと向かうエヴェイユ。
「本格的な研究をするに当たり、自分で材料を取りに行こうかと思っているのですが、廃坑になっているような場所に心当たりは有りませんか」
朝食を取り終えた直後に俺は、義兄である皇帝レオンや義姉であるミュレイに聞いてみた。
「わざわざ取りに行か無くても、研究に必要な材料なら、言ってくれれば用意するぞ」
レオンは気軽に言ってくれるが、俺の為に錬金術や付与魔術に使う希少な触媒や金属を湯水の様に使用で使う訳にもいかないだろう。
「自分の趣味で研究をさせてもらっているのですから、必要な素材は自分で取りに行くのが筋だと思うのです。他にも、どのような場所で取れるのかを把握しておくことによって、思い入れが変わってくれば、成功率や効果の現れ方にも変化があるような気がするので、自分で鉱山へと足を運びたいと思いました」
「エヴェイユがそのように言うのであれば、行かせてあげても良いのではないでしょうか。例えば、グランベルン王国の首都アムルベルン辺りなら、廃坑とは言え個人で使用する程度の量は取れると思いますよ」
有難いことに、ミュレイは即座に賛同してくれた。
「それであれば、我も一旦、国を離れようと思う。進化の際に弱体化した身体も元通りになったので、巣に戻って身支度を整えてくる」
アラインヘルシャフトの突然の発言に唖然としたが、よく考えてみたら、此奴は自由の象徴とも言うべき竜なのだから、勝手気ままに空を飛び回っている方が御似合いかもしれないと思うことにした。
「わかった。二人か国を離れることを許可しよう。但し、アラインヘルシャフトは、魔物の暴走を起こさない為にも、高度を高く保って飛行すること。それから、二人とも無事に私のもとに帰ってくること。いいね」
レオンは、半ば諦めたかのように俺たちに話をしているような気がする。
話が終わって席を立とうかと思ったときに、ふと思い出したことを伝えなければと、再度、席に座った。
「あっそうだ。ひとつ報告をしておきます。この世界の魔法体系について、理解できたことがあります。それは、普段使っている精霊と契約をして、その力を行使する魔法は、力の大半を契約した精霊に委ねることによって、この世界へと影響を与えています」
そんなことは、ここに居る人間なら誰でも知っていることだ。だから、何を俺が話そうとしているのかを楽しそうに三人は見つめてくる。
テーブルに幾つかの付与魔法で使う道具を用意しながら、俺は話始める。
「それに対して、付与魔術は、自然界に存在する自由な精霊の力を集めて行使しているようです。ですから、呼び水となる力が必要となり、それを制御するのが魔墨で描かれた文字や図形であると推測でました。そこで、付与魔術で使用する文字や図形を徹底的に研究したところ、それらの意味するところや役割の大半を解き明かすことが出来ました」
付与魔術で使う様々な図形や文字を、一覧にしたものを広げて説明を続ける。
「また、真金や真銀と言った魔法金属は、自然界の精霊を集める働きが強い為、それが可視化して青白い発光現象が起こるようです。つまり、希少な魔法金属に直接付与を刻み込むという手法を使うと、紙に魔墨で書いた時の様に一回で消失しないので、繰り返し使える魔道具や術具と言った物が出来上がると言う訳です」
俺は、一つの腕輪を見せて、心の中で光の粒をイメージすると、腕輪の上部に光り輝くソフトボール程の大きさの球が出現した。普通、紙や羊皮紙に魔墨で描かれた物は、一回限りの使い切りになるのだが、腕輪が壊れることも、腕輪に描かれた文字や図形が消え去ることも無かった。
「ここからが本題ですが、真金の方が真銀よりも精霊を集める力が段違いで強いので、同じ量の魔力を流した場合、威力や範囲、持続時間が数倍違ってきます。そして、魔法金属に直接付与を行った場合は、使用者の魔力を流している間は、ずっと魔法が発動し続けることが出来るという特徴がります」
「それなら、精霊石のように魔法力を蓄えて置ける道具と魔法金属を組み合わせれば、魔力の弱い人たちでも活用できると言う事ですか」
魔法に関しては、やはりと言うべきかミュレイが食いついてきた。
「そうなります。そして、欠点としては、自然界の精霊力が弱い場所で使用する場合は、自分の魔力を消費する必要があると言う事です。さっきミュレイが話してくれたように、精霊石や精霊結晶を消費して代用しても良いですけどね」
「つまり、そういったモノも今後は大量に必要になると言う事だね」
流石はレオンだ。俺が言いたいことの要領を得たようだ。きっと、流通を操作して城に留めておいてくれるだろう。
「最後になりますが、面白いモノを一つ、お見せします」
そう言って俺が机の上に広げたのは、同じ大きさに整えられた、藍玉、黄玉、紅玉、金剛石、柘榴石、翠玉、蒼玉、電気石、蛍石、紫水晶、瑠璃といった宝石の数々だ。そして、真銀製の籠手だ。
「俺の思い描く最終形態を創作するための実験として、賢者の石を創り出した後、錬金術を用いて少量の真金と真銀を創り出したのですが、どちらも質量保存の法則を完全に無視して、素材となった金や銀から体積も質量も百分の一程度まで減少しました。そして、ただの鉄にも錬金術にて同じ方法で精錬を行い、魔力を付与することに成功しました。但し、鉄の場合は、魔力を付与してみましたが、高度鋼以上、真銀以下という程度の金属となりましたので、手間暇をかけた割に生体金属よりも性能は若干劣るかと思います」
俺は、机の上に置いてある魔力を付与した鉄で出来た籠手を左手にはめて、手の甲に空いている穴に電気石を填め込んだ。そして、近くの燭台にある一本の蠟燭へ人差し指を向ける。
「電撃」
考えうる最低限の魔法力を流して、魔法を発動させる。電撃は、狙いたがわず燭台に当たり、蝋燭の火を消すことに成功した。
「続いて、こちらに宝石を切り替えます」
今度は、電気石を外して蒼玉を填め込んで同じように蝋燭を指さす。
「水球」
今度は、水球が蝋燭の火を消した。
「凄いな! 宝石を入れ替えるだけで使える魔法が変化するように作ったのか!」
レオンは乗り出さんばかりに食い入るように見つめている。
「元々宝石というのは、地面の遥か下で、超高圧にして超高温で固められた物体だったと記憶していたので、真金や真銀を創り出している時に使えるのではないかと思って実験してみました。そうしたら、宝石ごとに精霊との繋がりがあるらしいことが判明したので、その得意な精霊魔法を付与してみたところ、見事に宝石への魔法付与に成功することが出来ました」
アラインヘルシャフトもミュレイも目を開いて驚いている様子だ。
「魔力を付与した鉄で出来た籠手で実演しましたが、これの素材を真銀や真金に変化させると、魔法の発動時につぎ込む魔法力を減らせる他、最大値としての魔法力をつぎ込める量と魔法の威力の増幅器としての性能がけた違いに跳ね上がるので、まったく別物の魔法のようになります」
「つまり、我の様に精霊と契約をしていないモノであっても、自在に精霊魔法を使うことができると言う事か?」
アラインヘルシャフトの関心は、自分が精霊魔法を使えるかどうかに移ったようだ。
「アラインヘルシャフトの場合、自らの魔力を使うことによって、尚且つ魔法付与された宝石を媒介とすれば、全ての精霊魔法を使いこなすことも可能だと思いますよ」
とても輝いた目でアラインヘルシャフトが見てくるから、今度は彼女の専用装備を一式創ってあげよう。
「他にも何か研究して理解が進んでモノはあるのか?」
レオンとしては、革新的な技術に目を丸くしながらも、更なる技術革新に余念がないようだ。
「これは、まだ研究段階の話になるのですが、無属性魔法の開発を行っています」
「無属性魔法とは、どういった魔法なのでしょう?」
この世界では、精霊魔法が一般的な魔法なので、精霊が関与しない魔法にかんしては、ミュレイの知識をもってしてもたどり着けないらしい。
「俺の前世で一般的だった魔法というのは、精霊を行使する魔法よりも、肉体を強化したり、魔力そのものを変化させたりする魔法が主でしたので、その知識を使った魔法を考案しています」
ミュレイが何やら考えているが、理解が追い付かないらしい。
「何か実演できる魔法は完成しているのでしょうか?」
「そうだな。実演をしてもらうのが一番分かりやすいのだが。何かないのか?」
ミュレイとレオンがお互いに示し合わせたかのような感じで聞いてくる。
俺としては、この場で話をするつもりが無かったので、実演を行うための事前準備が全くない状態ではあったのだが、期待されると応えたくなるのが人のサガと言うものだろう。
「今から行うのは、速度加速と呼ばれる魔法になります。まだ微調整は終わっていないのですが、肉体へ付与する魔法と考えてください。この他にも筋力増強や物理体制強化なども考えています。では」
そう言うと、俺は自分自身に集中して魔力を操作し始めた。体内に流れる魔力を思い描く通りに変質させて行く。そして、体内に留めて効果を身体の隅々まで行きわたらせる。
「我が求めるのは速度。ただ一時、誰よりも早く動く身体へとなれ。速度加速」
呪文の効果は、身体へと流した変質させた魔力を固定させる為のものだ。これによって、短時間ではあるけれど、魔法の効果が発動する。
「「消えた!?」」
レオンとミュレイの声が重なる。ただ一人、アラインヘルシャフトだけが俺の動きに付いて視線を動かしてくる。魔法によって加速された俺の動きでも、アラインヘルシャフトにとっては、捉えることが出来る範囲内だったらしい。
「なかなかの速さだったぞ。自然界において、今のエヴェイユと同じ速度を出せる者はいないだろうからな」
そう言いながら、アラインヘルシャフトは、速度増加の魔法をかけている俺の腕を掴んできた。
「流石に規格外ですね」
俺は嬉しくなって、アラインヘルシャフトへ笑いかけた。この人を越える事が最終目標となりそうだ。まだまだ遠く及ばないけれど、身近に目標となる人物がいることは、研究者としての意欲を掻き立てられる。
実際に俺が創り出した無属性魔法は、速度増加と筋力増強、そして、物理体制強化がそろって始めて十分な効果が発揮される。
なぜなら、筋力増強が無ければ速度増加での加速はたかが知れているからだ。そして、筋力増強によって無理やり筋肉に負荷をかければ、断裂や肉離れの危険があった。だから、物理体制強化がなければ始まらないのだ。
そういった理由から、研究段階となっている魔法なのだ。
「まだまだ、これからの魔法ですので、期待半分で成果を待っていてください」
「十分に驚かせてもらった。初見であれば、今のままでも必殺の手段となるだろう」
レオンには何か無属性魔法の先が見えたようだ。
こうして、俺の研究発表会が終了した。
手早く荷物をまとめた俺は、直ぐに出かけることにした。同じく、アラインヘルシャフトも早々に準備を整えて、一緒に城を後にすることになった。
俺たちは、お互いに共を連れず、身軽に動けるようにして出発した。
城が見えなくなると、俺たちは森の中へと分け入って、本来の姿に戻って、それぞれの目的地へ向けて全力疾走していった。
俺が目指すのは、グランベルン王国の首都アムルベルン。
投稿が遅くなって、本当にすいません。
来週は、夕方までに投稿できるように頑張ります。
では、また来週の金曜日にお会いしましょう。
次回は、「鉱山を望む町」です。