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魔狼転生  作者: 兎月 晃
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錬金術と付与魔術

この世界に来たことに意味を持たせるため、エヴェイユは次々と自分の目的を達成する為の手段を手に入れていく。

次の日から、俺は精力的せいりょくてきに動き回ることにした。


最初に行ったのは、錬金術師れんきんじゅつし制作工房せいさくこうぼうだ。


女中(メイド)のサラさんにお願いをすると、朝食後の始業時間に合わせて工房まで案内をしてくれた。


そこで出会ったのは、霧騎士ミスト・ナイトのアメリアとオリビアの母親であるエイリアであった。


「娘二人が、世話になったみたいだね。私に手伝えることがあったら、何でも言ってくれていいよ」


エメリアは、出会いがしらの開口一番にそう言ってくれた。


「有難うございます。皇帝陛下にも許可を頂いておりますので、錬金術について、色々と教えてください。宜しくお願い致します」


俺は礼をして願い出た。


「ん~じゃあ、最初に()()が出来るかな」


そう言って、無造作むぞうさにエメリアさんは、右手の上に魔力障壁まりょくしょうへきで出来た大き目のシャボン玉のような形を創り出した。


「こんな感じでしょうか?」


俺も真似まねをして右手の上に同じ大きさの魔力障壁を創り出す。


「おっ筋が良さそうだ。サラ。ちょっと錬金を手伝わせるからアメリアとオリビアを呼んできておくれ」


サラさんは「かしこまりました」と言うと、音も無く部屋を後にした。


「その魔力障壁で出来た場所で、基本的には錬金術を行うから覚えておいて。次は、その錬成空間せいれんくうかんに魔力を込められるだけ込めていくよ」


そう言いながらエメリアさんは、自信の錬成空間に魔力を満たしていく。


「わかりました」


俺も自分の錬成空間へと魔力を流していく。ある一定量の魔力を流し込むと、それ以上の魔力を流し込むことが出来なくなった。


「空間に対する総量と言うものは決まっていて、これから扱う全てのモノに共通する認識になるから覚えて」


多分、前世で言うところの飽和状態ほうわじょうたいの事を話しているのだろう。錬金術の基礎講座で、そんな話を聞くとは思ってもみなかった。


「レオン陛下からの話だと、真金(オリハルコン)真銀(ミスリル)を作成したいと聞いているんだけど」


「はい。最終目標としては、それらの素材を用いた武具を一式創りたいと思っています」


「有難う。意思確認をしたかっただけだから」


エメリアさんは、話しながら部屋の奥にある鉱石を幾つか持ってきては、机の上に並べていく。


「最初から賢者の石を用いた錬金を行う訳には行かないので、試し用の精錬素材せいれんそざい触媒しょくばいを用意したから、適当に使いながら講義を進めましょう」


「宜しくお願いします」


俺は素直にお願いして、素材の名前や手順の確認をしていく。


「魔力を十分に満たした錬成空間に、触媒となるモノを入れていくよ」


机の上にある鉱石を一つ左手に取ったエメリアさんが、右手の上に浮いている錬成空間にそれを触れさせると、鉱石は錬成空間に吸い込まれるように入っていった。


そして、炭酸飲料のふたを開けた時のように泡が大量に発生して、鉱石の大半が錬成空間に溶けていった。


「創っている錬成空間に十分な魔力が入っているなら、こんな感じで触媒となるモノは、一気に溶解して溶け切らない分だけが残るから、それは必要ない分なので、錬成空間の外に出しておくよ」


そう言うと、左手を魔力でつつんで錬成空間から鉱石の残りを取り出した。


同じように俺も錬成空間に触媒と呼ばれていた鉱石を入れて、余った分を左手に魔力障壁でおおうイメージを持って取り出した。


「君、錬金術師手としての才能あるよ」


エメリアさんの目が輝いて見えるのは、気のせいだろうか。


「最後だけは、経験と勘が必要になってくるんだけどね。今作っている錬成空間に適する量の精錬素材を入れていくよ。多すぎても、少なすぎても完成品の練度に影響するから、見積もりを誤らないように気を付けてね。まあ、今回はお試しなので、水を錬成空間に満たすだけだけれどね」


言い終わる頃を見計らったかのように、研究室の扉が開いて、アメリアとオリビアが入ってくる。


二人は俺たちが錬成しているところを確認すると、丸底フラスコに水を入れて、躊躇ちゅうちょなく俺たち二人の錬成空間に水を注いでいった。


「さあ、一気に混ぜるよ」


言うが早いか、錬成空間の水を魔力で一気にかき回し始めるエメリアさん。


俺も錬成空間の中の魔力を洗濯槽のようなイメージでかき回す。


ある程度すると、一瞬だけ青白い光が錬成空間から発せられ、エメリアさんはかき混ぜるのを止めた。


俺も青白い光が発生した段階で、同じようにかき混ぜるのを止めた。


ここで、アメリアとオリビアが先ほどの丸底フラスコを双方に差し出してくれる。


「ゆっくりと錬成空間の底に穴を開けるイメージを持って、少しずつフラスコへと注いでごらん」


エメリアさんの助言を元に俺も錬成空間に小さな穴を穿うがってみる。すると、中から微かに青白く輝く液体がフラスコへと注がれていく。


「初めてとは思えないくらい順調に出来たね。これが錬金術の初歩『ポーション作成』になるから、自分の研究部屋に戻ったら練習しておきな。後は、鉱石や金属の組み合わせなんかは、研究ノートに書いてあるから持って行って読むと良いよ」


「有難うございます。色々と試してみますね」


多分、俺の顔は、初めての錬金術に喜びがあふれていたと思う。


「外見通りの年齢じゃないと聞いているけれど、素直な子じゃないか」


そう言ってエメリアさんも相好そうこうくずして、俺に向き合った。


「これを言うべきか迷ったけれど、エヴェイユなら、話しても慢心まんしんしないと信じて、伝えておくね」


エメリアさんの発言の意図が判らない俺とは対照的に、アメリアさんとオリビアさんは驚いた表情を作っていた。


「実は、私に教えてあげられるのは、ここまでなんだ。『ポーション作成』が初歩と言ったけれど、君が創ったものは『上級ポーション』なんだ。錬金術を十年行った人が辿たど」り着けるかどうかの境地きょうちに、君は一足飛びに初手で到達しちゃったんだよ。ここから先は、()()を備えた我が子たちに手伝ってもらえば、分量や手順を誤ることも無いだろうから、存分に研究にはげんでごらん」


微笑ほほえんだエミリアさんの顔を真正面から見つめ返し俺は礼を言うと、研究ノートと触媒を少し分けてもらい、自分の研究部屋へ戻って反復練習を行った。その間、アメリアさんとオリビアさんが交互に来てくれて、俺の手伝いを行ってくれた。どうやら、最後の精錬素材を正確に入れる目利きは、この双子ふたごが一番上手なようで、エメリアさんが手配してくれたらしい。それからしばらくの間は、寝る間もしんで、俺はポーション作成に励んだ。



ちなみにポーションは、初級・中級・上級・特級と四段階あるらしい。


初級のポーションは、かすり傷や簡単な打ち身を治す程度。中級になると少し深い切り傷や思い打撲が治るそうだ。上級になると骨や臓器まで達している外傷や骨折なんかも一瞬にして直してくれるらしい。最後の特級になると、切り離された腕をくっつけたり、上級までで治る傷を一気に回復させたりできるらしいが、触媒として使う素材が貴重らしく、滅多に出回らないらしい。更に上位にエリクサーと言う回復薬が有るらしいが、これを作るには賢者の石が必要らしい。効果は、失った器官の再生と完全回復と言われている。今度、作ってみようと思う。


それと、真眼しんがんが何か気になったので聞いてみたら、「錬成をするときの手順や分量が正確に判る眼です」と、言う回答を貰った。すごく助かる特性を持っている双子だったみたいです。



数日間、ポーション作成に没頭ぼっとうしていたある日。


「準備が整いましたので、付与魔術の学習を始めることが出来ますが、如何いかがいたしましょうか」と、サラさんに唐突とうとつに言われた。


余りの脈絡みゃくらくの無さに俺が固まっていると。


「レオン陛下とミュレイ様から、付与魔術の技術をエヴェイユ様に教えて惜しいとの依頼を受けましたので、準備を進めていたのですが、御話を伺っておりませんか」


「申し訳ない。全然、話を聞いていなかったので、驚いてしまいました。多分、俺を驚かせるために黙っていたのだと思います」


「そうでしたか。では、改めてお伝えいたしますね。本来、付与魔術は盗賊ギルドが管轄している技術になります。中でも暗殺者と呼ばれる者たちの手によって、厳重げんじゅに伝授する相手は選ばせて頂いております。なぜなら、この技術によって盗賊や暗殺者は、万が一の時に追ってから逃げることが可能となっているからです」


前世で言うところの“火遁かとんの術”とか“風遁ふうとんの術”みたいな、忍者が逃げる時に使う術みたいなものかな。


「すいません。その理論で言うと、サラさんは盗賊ギルドの構成員として、かなり上位の権限を有する方と言うことになりませんか」


「一応、六人の幹部の一人として、役職を頂く立場にありますが、付与魔術以外は取り得がありませんので」


謙遜けんそんしているけれど、サラさんの足音を聞いたことないし、気配も無く部屋に居たり、部屋から消えていたりしていたのは、そういう理由があったからだと、思わず納得してしまった。


「そうでしたか。改めて、ご指導の程、宜しくお願い致します」


俺が頭を下げようとすると、サラさんが軽く制するように俺の方を抑えた。


「ダメですよ。皇帝陛下の義弟ぎていとなったのですから、無暗に頭を下げてはいけません。本来なら、私のような使用人には、礼すら必要ないのですから」


「そうは言っても、今の俺は教えをう立場なのですから、せめて付与魔術を教わる時だけでも礼をさせて下さい」


サラさんは困ったように「研究室の中だけですよ」と、応じてくれた。


付与魔術に必要な材料は、サラさんが俺用にそろえてくれていたので、直ぐに実技に移った。


「実は、材料と手順だけ知っていれば、付与魔術は至って単純な術なのです」


そう言って、サラさんがテーブルの上に並べてくれたのは、七夕の時に飾る短冊のような形と大きさをした白い紙と、同じ大きさの羊皮紙だ。それと、淡く発光する墨汁ぼくじゅうと銀色の毛先を持つ筆のようなもの。


「私たち盗賊ギルドに所属している者にとって、精霊に認められる程の魔力を保有しており、魔術を自在に扱えるほどの実力者は、憧れの存在と言って良いでしょう。なぜなら、私たちは、魔力をほとんどど有していないからです」


「だから、切り札として発達したのが、付与魔術と言う訳ですね」


「その通りです。魔墨まぼくと呼ばれる魔法力を溶かし込んだ液体を使って、真銀(ミスリル)で作成された筆で、決められた手順を用紙に記していくのです。後は、任意のタイミングで発動させる為の少量の魔力を流し込めば、描かれた魔術が発動します」


サラさんは、説明をしながら紙にすらすらと書き込んで、書き込まれた紙を手にする。


「これは、見本用に作成した『光の粒(ライト・ボール)』の呪文が書き込まれた紙になります」


それを俺に渡す。


光の粒(ライト・ボール)の呪文を思い浮かべて、発動させてみてください」

俺は言われた通り、ライトの呪文を思い浮かべながら、()()な魔力を流してみた。


すると、マグネシウムリボンを燃やした時のような強烈な光が辺りを照らして、思わず目を覆ってしまう程だった。


「……ウソでしょ……」


サラさんにも素が出るほど強烈だったらしい。


「素人考えになりますが……」


そう前置きをしてから、俺の考えをサラさんに伝えることにした。


「多分、微弱な魔法力で魔法が発動するように、増幅装置のような役割をする箇所があるのかも知れないですし、魔墨自体に何かしらのそういった効果があるのかも知れませんね」


そこからは、条件を一つずつ変更した対照実験を繰り返し行った。


そこから導き出されたこととして、紙などの魔力が通っていないモノに付与をする場合は、魔墨のような触媒が必ず必要なようだ。それも、文字を刻み込む際に真銀(ミスリル)を用いないと、上手に魔法が発動しないことも分かった。どうやら、文字を刻み込む時に真銀(ミスリル)を通して自分の魔力を注ぎ入れ、魔法力の通り道として作用しているようだ。

他にも中央の模様が魔法の種類を決定しており、外周を囲む文字が範囲を決定している。他の文字に関しては、威力や手順を表していることが判った。


他にも魔力のこもっていない金属への付与、紙への付与と同じように作用していることも分かった。


最後に実験したのは、少量の真金(オリハルコン)真銀(ミスリル)への付与がどの様になるかだが。これには、魔墨が必要なかった。直接付与する為の文字を刻み込むことによって、普通に発動させることが出来た。これによって、魔法の発動媒体と言う考え方が出来上がった。特定の魔法を発動させるなら、希少魔法金属に直接付与を施した方が、効率的だったからだ。



このように錬金術の練習と付与魔術の創意工夫を繰り返しているうちに、俺は、この世界へとやっていてから一年を迎えようとしていた。俺の外見も十代前半程度まで成長して、青年と言っても良い年頃となった。


第三話を最後までご覧いただき、ありがとうございます。

次回から、第四話をお送りいたします。

また、金曜日の夕方にお会いできるのを楽しみにしております。

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