城内探索
皇帝レオン、その妹のミュレイ、真竜アラインヘルシャフトと義兄弟となったエヴェイユ。
城の中での自由と部屋など手に入れたので、それらを見て回ることにしました。
謁見の間を後にするときにレオンに呼び止められ、俺とアラインヘルシャフトは、「城内を見学するのであれば、それを首から下げておくと良い。通行証代わりだ」っと、ひとつのペンダントを渡された。
ミュレイからは、「制度は有っても、まだ、誰も身に着けて場内を歩いた人は居ないから、反応が楽しみですね」と、本当に楽しそうに言われた。
俺たちは、ミュレイの案内で城内を1日かけて歩き回った。食堂では料理長がわざわざ厨房から出てきてくれて、俺たちの好みや苦手な食材を聞きに来てくれた。訓練場では、若い騎士に古参の騎士が指導をしているようだった。また、城壁の見晴台の上から眺める街並みは見事の一言だった。どの場所も興味深いのだが、錬金術や付与魔術は、特別な場所で行われているらしく、昼食を取った後に行くこととなった。
城の中を見学する途中で、多くの人に会ったのだが、誰もが俺の目を覗き込むように見てくることに気が付いた。
「なあ、ミュレイ。俺の目って、何か変かな。もの凄く見られている気がするのだけれど」
疑問に思ったことは、聞いてみるか、調べてみて理解するのが俺の信条だ。
「アラインヘルシャフトとエヴェイユは、希少な金色をした目をしているので、皆さんが気になるのでしょう」
そう言われて俺は、隣を歩くアラインヘルシャフトの顔を覗き込む。確かに日本人なら黒目がある場所が金色をしている。それを確認した後、鏡を見つけた俺は、自分の顔を鏡越しに覗き込んでみると、確かに俺の目も金色をしていた。余りじっくりと自分の顔を見る機会もなかったから、前世と同じ黒目であると信じて疑っていなかった。
「我とエヴェイユは、この世界に生きとし生ける者、全てから隔絶した存在として、この世界そのものが認めた者となった。金色の目は、その証だ。我は真竜となったとき。エヴェイユは、魔法を授かった時に目の色が金色となったのだと思うぞ」
「自分が特別だと言われても、この世界の常識が判らない状況では、実感を伴わないですけれど、何となく状況は理解できました。ありがとうございます」
そんな話をしていると、俺とアラインヘルシャフトへと割り当てられた部屋へと着いた。
各々の部屋の前で俺たちは分かれて、扉を開いて中へと入ってみる。
部屋には、物書き用の机と椅子、軽食を取るための四人掛けのテーブルセット、キングサイズ程の大きさがあるベッド、それからクローゼットが置かれていた。部屋の奥に置かれているベッドの脇にある扉を開くと、トイレと湯船が置いてあった。
「昼食後に新しい魔法の開発や錬金術、それから付与魔法を行うための作業所と、御風呂の方も案内しますね。まだ、食事には早いので、部屋で少しゆっくりしていてください。用意が出来たら誰かが呼びに来ると思いますから」
自分たちが城の中でどのような立ち位置に居るのか判らないけれど、俺には分不相応と言うか、元高校教諭としては落ち着かないので、ゆっくりするどころか逆に部屋の中をウロウロとしてしまう。
前世では、出張でホテルに泊まることは有ったし、個人的にも友人と旅行に行ったこともあったけれど、スイートルームどころかエグゼグティブフロアすら足を踏み入れたことのない小市民には、笑い話だが広くて高価な物が置かれた部屋こそ落ち着かない。
そんな感じで落ち着きなくしていると、扉が三度叩かれ、返事をすると見知った顔が入ってきた。
「本日より、エヴェイユ様の専属使用人としての仕事を仰せつかりました。サラと申します。昨夜に引き続き、宜しくお願い致します」
なんと、昨夜泊まった宿は、城の関係者しか宿泊できない施設で、尚且つ仲居さんたちは城の採用人事で派遣されていたらしい。そこで、女中のサラさんが人事異動で城付となり、俺専属の女性の使用人として仕えてくれることになったと言うことらしい。
「エヴェイユです。此方こそ宜しくお願い致します。どうにも身分不相応な部屋に居心地の悪さを覚えていたので、少しでも見知っている人が居てくれると助かります」
場所を変えた二度目の挨拶を終えると、俺はサラさんに案内されるままに食堂へと向かった。
四人で食事を終えた後、ミュレイの案内で俺とアラインヘルシャフトは、隠し扉から裏庭へと出て、そこにある西洋風東屋へと歩を進めた。そこの壁に隠されている水晶球にミュレイが右手で触れて「研究者が集う、黄昏の箱庭へ」と、合言葉を唱えると、床一面に魔法陣が展開され、俺たちは別の場所へと飛ばされた。
俺たちが飛ばされた場所は、学校の教室ほどの広さがある真っ白な空間だった。その中央にある西洋風東屋へと俺たちは転送された。その周囲には、地面いっぱいに魔法陣と思われる模様が描かれていた。
周囲を見渡すと、一面の壁に三つの扉があり、四面の壁に十二の扉があった。
「これは凄いな。古代文明の遺産を活用しているのか!」
アラインヘルシャフトは、興奮気味に床に描かれている魔法陣を見て言った。
「はい。ここの空間自体が、古代遺跡を攻略した時に得られた魔法によって創られた世界となっています」
少し得意そうに話すミュレイに対して、俺は疑問が湧き上がった。
「古代遺跡を攻略すると、古代文明の遺産として魔法が授けられるのか?」
「正確に言うなら、授かるでは無くて、解き明かすになると思います」
「我も正確に覚えている訳ではないが、およそ千年前には、今よりも個人の魔法が進歩した時代があったと記憶している。その頃は、今のように精霊を行使する魔法は無く、個人の魔力を変換して使う魔法が主だったのだ。だからこそ、お互いに切磋琢磨して技術を進歩させていたのだ」
「それ故に魔物の能力を具現化した魔法や大規模殲滅魔法なども開発され、お互いの国へと侵攻する際に自分たちに扱えない魔法を実験と称して無理やり使用した結果、魔法は理論と異なる力を暴発させ、彼らは自らの文明を終わらせる結果となった。と、遺跡の最奥にあった書物には記されていました」
「そういった魔法の技術が、歴史と共に文献として残されていて、それを解き明かすと言うことですか?」
「そうなります。けれど、危険な魔法や理論の間違っている物も多く眠っているので、安全な場所で実験をしてみる必要があったので、比較的安全な魔法から復刻していき、制御する為の魔法陣の研究にも力を注いでいるというのが現状です」
「当時の人類は、競うように魔法の研究をしたのはいいが、制御する方法や理論の構築を蔑ろにしていたからな。暴発させて村が一つ巻き込まれたり、国の一部が消し飛んだりとかは日常茶飯事だったぞ」
アラインヘルシャフトが可笑しそうに話すのだけれど、俺にとっては悪夢と言うしかない光景に笑うことは出来なかった。ミュレイ達が、かなり危険な魔法を解析していると言う事だけは理解できた。
そんな話をしながら俺たちは、一つの扉の前まで来た。扉には七を示す数字が書かれていた。
「エヴェイユの研究をする部屋をレオンから見繕うように言われたので、この第七の部屋を専用の研究室として使ってください」
ミュレイが扉にある数字に手を翳すと、扉自体が消えてなくなった。
「レオンが渡したペンダントが、西洋風東屋にあった転送装置を起動させるのと、研究室へ入るための共通の鍵となっています。無くされないように注意してくださいね」
くるっと振り返ったミュレイは、笑顔で注意を促してくれた。
堂々とした足取りで行くアラインヘルシャフトとは対照的に、部屋の中へと恐る恐る足を踏み入れた俺は、巨大な室内に圧倒された。床に敷き詰められた煉瓦は、サッカー場を越える広さがあり、壁の高さも十メートルは有るのではないだろうか。
「広い……そして、高い……」
俺はあっけにとられてしまった。
そんな俺を置いていくように、アラインヘルシャフトは元の姿へと変化して、のびのびと寛いでいた。
「誰も居ないのなら、我が過ごしやすい姿でいたとしても文句は言われまい」
豪快に笑うアラインヘルシャフトを見やり、俺も服を脱ぐと魔狼としての姿に戻った。
これだけの広さがあるからか、部屋の中だというのに、元の姿の俺たちが居ても、狭さは感じないので有難い環境だ。
「では、この部屋で色々と実験をさせてもらいますね。時間の感覚が判らないので、そこだけが少し不安なところですね」
「エヴェイユは熱中しすぎて、食事や睡眠を怠らないようにして下さいね。アラインヘルシャフトも戻の姿が居心地良いか
らと、城の部屋に戻らなくならないようにして下さいね」
どこか母か姉のようだと思いながらミュレイの話を聞いた俺は、さっそく何をどの順番で整理していくのが良いのかを考えていった。
「最初にしたいのは、ミュレイやアラインヘルシャフトの話を聞くことになりそうです。古代文明時代の魔法を詳しく教えて下さい。それを手がかりにして、自分なりの魔法を構築していきたいと思います。その後に錬金術と付与魔術ですね」
俺の頭の中では、すでに最終形態が見えているのだけれど、それを実現可能かどうかの裏付けが欲しいのだ。
俺たちは、時間を忘れて話をした。基本的には、俺が使用したいと考えている魔法について、古代の魔法で存在したかどうか、近い魔法があるならば、それをアラインヘルシャフトが実演できるかどうか……。
結論から言うと、俺が考えている魔法のうち、半数くらいは古代文明時代の魔法として存在していた。そして、さらに半分くらいはアラインヘルシャフトが使用することが出来た。
「エヴェイユは、不思議なことを考えますね」
「我の義弟なのだから、規格外くらいが面白いというものだ」
俺が考えている事を二人には話してみた。そこでの回答は、それぞれ予想通りのものだった。
「どこまで実現可能かは判らないけれど、せっかく環境を整えて貰ったので、全力で実験を行ってみたいと思っているよ」
俺は、次回来るときに持ってきた物リストを作り、城へと戻ったらサラさんに頼んでおこうと考えていた。
どれも高価なモノばかりなのだが、ミュレイに相談してみたところ、城の倉庫にあるとのことだったので、遠慮なくお願いすることにした。
「あっそうだ。賞金稼ぎになる為に登録とかは必要なのかな」
ミュレイが賞金稼ぎとして依頼を受けるときに、斥候としての役割を果たすためには、俺も賞金稼ぎとして登録しておいた方が良いと思って聞いてみた。
「本来なら登録をする為に組織へ行って、諸注意などを受けたうえで認定を受けるのだけれど、エヴェイユは人としての外見が小さいから、もうちょっと大きくなってからの方が良いかも」
どうやら十二歳から登録は出来るらしいのだけれど、あまりにも幼いと依頼が達成できないので、最低でも大人と対等に戦える十五歳くらいからの登録を推奨しているらしい。中には、類まれな才能を有していて、十二歳から賞金稼ぎとして活躍している人も居るらしいが、俺の外見年齢は十歳だ。流石に若すぎるらしい。
「多分ですが、それほど時間も掛からずに外見年齢は追いつくと思うので、その時までに出来ることを全て終えてしまいたいですね。明日から忙しくなると思いますが、お二人ともお付き合いのほど、宜しくお願い致します」
俺は魔狼の姿のまま頭を下げる。
「エヴェイユよ。我が義弟よ。お前がどれだけ突拍子もないことを行おうとも、我は共に楽しみたいと思うぞ」
「私も義弟の我儘を見守るように精霊王様たちより託を賜っているので、出来る限りの協力は惜しみませんよ」
二人にしても、俺が考えている最終形態を実現できた時の面白みに、興味を惹かれているようだ。
こうして、長兄のレオンを仲間外れにして、悪巧み三人衆の暴走が始まったのだった。
素材の吟味、付与する魔法の開発、更に効率よく運営する為の話し合いは、この後、幾度となく行われ、段階的に凶悪さを増して行くのだが、当の本人たちは気が付かない。
この時の俺は、自分たちが、どれだけこの世界に革命を起こすのか、まだ知る由も無かった。
今回も読んで頂いて「ありがとうございます」
また、金曜日の夕方に更新予定です。
次回も来ていただけるように頑張ります。




