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第    伍話  間諜

 「反乱分子を始末するのだ! 」


 家に攻撃を仕掛けた奴らの指揮官が声を張り上げた。


 「何で! まだ遺跡のことは報告してないはずなのに! まさか、 あの部下が幕府に漏らしたの! 」


 木下が驚きの表情を浮かべて声を上げているところを部下が冷静に言う。


 「そんなことを言ってる場合じゃないですよ、 隊長! 命令を! 」

 「一番隊は幕府の役人を抑ええて! その後ろに二番隊! 三番隊は東! 四番隊は北! 五番隊は南! それぞれの配置について待機! 」


 部下に指示を出されるなんて・・・私はまだまだ・・・・・・

 木下は内心でそんなことをつぶやきながら指示をしっかりと出していた。


 「了解! 」


 はっきりとした声を上げて木下の部下達は素早く自分達の位置につくため走り出した。



                   :



 「おいっ! 螢空! 俺達も行ったほうがいいのか・・・・・・な・・・・・・」


 勢い良く戸を開けた神流だったがそこにはもう誰もいなかった。


 「行動が早すぎるだろ」


 少し、 悔しそうな顔を浮かべて廊下を走り出した。



                   :



 「春日さん! 僕達はどうすれば・・・・・・」


 疑問気に、 まだ若い二人が目の前の顔がしっかりとした年上に問いかけた。


 「新人の二人か・・・・・・・・・・・・ん? 」


 横の方から足音がしたため年上の男が横に振り向き身構える。


 「お前らは下がっていなさい」


 刀を抜き、 戦闘体勢に入った男の前には螢空がゆっくりと歩いて近づきつつあった。

 そして、 年上の男は螢空の服を見て言った。


 「こんな差別の奴まで中に入れよって、 やはり裏切ったのか。木下の奴らは・・・」


 近づいて来ていた螢空の足が止まった。


 「今、 なんて言った」


 暗い声で男に問いかける。


 「木下の━━━」

 「その前だ」

 「裏切っ━━━」

 「その前だ! 」


 ついに螢空の口から怒声が響いた。後ろの二人は少し震えているようにも見えた。


 「こんな差別の奴まで・・・・・・」


 その瞬間、 螢空は神速ともいえる速さで春日に近づき、 腹を思いっきり殴った。


 「ガハッ! 」


 男は口から唾を吐き出し、 腹を押さえて苦しそうに倒れこむ。刀が手から離れて、 カランッカランッと音を立てて地面に落ちる。


 「刀持ってないからって油断なんかするな。俺は刀では戦わない」

 「なん・・・だ・・・・・・と・・・? 」


 男は腹が痛すぎて声が全然でないらしい。

 螢空は後ろを向いて立ち去ろうとする。


 「敵に後ろを見せるなど・・・・・・言語道断だ・・・」


 腹を押さえながらも落ちた刀を手に取り、 刀を螢空に向けて突っ込んだ。それをいとも簡単に刀をつかんで止めた。

 手からは血が流れている。一滴一滴ポタポタと地面に血が落ちていく。


 「自尊心はないみたいだな。・・・・・・たとえそれが子供だとしても・・・・・・俺は手を抜かない」


 つかんだ刀を無理やり取り上げ、 柄に持ち替え、 春日の首を切る。

 飛び散った血が螢空にも降り注がれる。服が返り血を浴び異様に怖く見える。それをもっと引き立たせていたのは飛び散った血が螢空の目元から頬に流れている様子であった。


 「俺は業の道を進むしかないんだ・・・」


 冷え切った目で下を見て言う。

 その目は悲しそうであった。



                   *



 戦闘はまだ続いていた。しかし、 終わりに近づきつつあった。


 「木下隊長。敵の指揮官を確保して今こちらに向かわせております」

 「ご苦労様。でも、 随分、 早かったわね」


 ほっとしたように木下は答える。


 「あっ、 それは上杉螢空が大半の敵を素手で倒していったのでこちらも楽でした」


 ふと小首をかしげて考える木下に対して木下の部下はそう言った。

 そして、 言葉を続けた。


 「あれは、 すごい速さでした。全然、 目で追えませんでした」


 感動のような感情を込めて部下は言い、 それを木下は黙って聞いていた。



                   *



 戦闘は終わり、 情報を得るために指揮を行っていたものを拷問することにした。

 すると、 男は自ら口を開き始めた。


 「お前らは鎖国の真実を知らない」

 「鎖国の真実? 」


 その場にいる全員がその言葉に疑問を持って反応した。


 「鎖国はキリスト教を広めないための政策ではなかったのか」


 木村がいぶかしげな表情を浮かべて男に問うた。

 部屋には複数の人がいた。螢空と神流、 木下と木村もいた。


 「キリスト教の勢力が上がったところであまりあのお方は気になさらない。キリスト教を広めないなどというのは表に理解されるための仮面でしかない。本当は外国にあれの存在を知られるのが嫌だっただけだ」

 「あれとは? 」


 部屋の中に沈黙がはしる。

 そして、 男は少しの間を置き、 口を開き始めた。


 「麻薬だ。ここまで言ったんだ。命だけでも助けてくれ。俺達は脅されたんだ。木下を殺さないとお前らの家族を殺してやると」


 男は声を震わせながら言い、 その顔は怯えきっていた。


 「麻薬・・・・・・なんで麻薬なの? 」


 木下が男に向かって問う。


 「奴らは不死の研究がとか言っていた。お願いだ! 助けてくれ! 」

 「お前名前はなんて言う」


 厳しい声で男に問うのは神流であった。


 「蔵沢です。お願いだから助けて!! 」


 木下はしばし考え込んでからこう言った。


 「分かった。ただし、 ちゃんと働いて、裏切らないかどうか見張りをつける」

 「ありがとうございます」


 男は笑みを浮かべて木下に応じた。



                   :



 ちゃんと部屋に見張りを置いて出てきた。木下と木村は資料を取りに木村の自室へと向かった。一方、 螢空たちは螢空が寝ていた部屋へ行き、 そこで話をしていた。


 「お前さぁ・・・何であの時あんなところで座ってたんだ? 」

 「・・・あの時って? 」


 急に問われて茫然とし、 そして、 逆に神流に問う。


 「俺達が初めてあったとき」

 「そういえばお前に話してなかったな」


 部屋に静けさが漂ってそれから螢空は語り始めた。


 「俺はな、 あの公開処刑を見たんだ」

 「公開処刑? ・・・・・・ああ、 あの、 あれか・・・」


 言葉では言い表されていないようだったが頭では理解しているようなので俺はかまわず話を続けた。


 「それがトラウマになって、 公開処刑のことをお母さんに聞かれたんだ。封印してた感情が一気に頭の中に流れ込んできて、 近くにあった包丁でお母さんを滅多刺しにしたんだ」

 「・・・・・・」


 神流を横目で見て、 話を続けた。


 「そして、 その状況から逃げ出した」


 沈黙が辺りを包み神流が口を開いた。


 「そんなこと聞いて悪かったな・・・・・・」

 「いいよ。言ってなかった俺も悪いし・・・・・・・・・・・・もう俺は人を失いたくはないんだ・・・」


 それから、 神流はそっとその部屋を後にして自分が居座る部屋へと戻った。



                   *



 「見張りの人!! 俺の仲間だった奴をちゃんと見て来たいのですが・・・・・・中には死んだ奴もいますし」


 蔵沢は見張りの者に意見を言った。


 「いいだろう。しかし、 俺もついていくからな」

 「はい。ありがとうございます」


 二人が外へ出ると辺りには人がたくさん転がっていた。だが、他の人の気配は一切なかった。それが分かると蔵沢は見張りの者を隠し持っていた短剣で素早く首を斬って、 門を出て行った。

 門の先には一人の男が立っていた。


 「作戦には成功したようだな」


 男は蔵沢を見もせずに言った。


 「はい。予定通りです」

 「木下の様子は? 」

 「そちらのほうも予想通りです」

 「では、 引き続き間諜を頼む。この事は古松隊長に知らせておく」

 「はい」


 男は門の前からすぐさま立ち去り、 蔵沢は門の中へと素早く戻った。

 木下の状況は幕府側に少しずつ洩れていた。

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