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第    參話  再開・交渉

 振り返ると男は血相を変えて螢空のほうへ来た。


 「やっぱり上杉螢空か! どうして勝手に出て行ったりしたんだ! 」


 螢空はこの男のことを思い出せないでいるみたいだ。頭から?が出ている。


 「だ・・・・・・誰・・・ですか? 」

 「俺だよ! 俺! 清田 神流(しんりゅう)だよ! 」


 しばしの間、 固まって螢空はこの男のことを思い出してきた。



               *



 寒い冬の時期だった。周りは真っ白に染まっていて空と地面の区別がつかない。

 螢空は十歳。家と家の間の狭い隙間に半袖で体を小さく丸めて座っていた。体は震えている。相当寒いのだろう。そこに一人の少年が通った。


 「おじいちゃん! ここに子供が倒れてるよ! 早く早く! 」


 子供は急かせるようにいい。おじいちゃんは、 はいはいとゆっくりと子供の元へ行く。


 「おお! 本当じゃ! どこの子だ? 名前は? 家は? 」


 何個も質問を繰り返す。そして、 螢空は口を開きこう言った。


 「ご・・・めん・・・・・・なさい」


 誰に謝っているのかが分からない。


 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


 あまりにもごめんなさいを連発するので二人は固まったままだった。

 そして、おじいさんのほうが口を開いた。


 「家がないならうちへ来なさい。ご飯も食えるし、着物も買ってあげよう。」

 「暖かいの? 外側も、 内側も・・・」

 「ああ。」


 外側は体が寒い。内側は心が寒いと訴えたのだろう。

 この、 優しくしてくれたおじいさんの名前は清田 蛇流(じゃりゅう)(まだら)流派の現当主だ。

 駁流派とは、武士の剣術にはいくつもの流派があり、 その流派によって構え方が違ったり、 技が違ったり、 ときには刀が違ったりもする。木下みたいに刀ではないものを使っている人もごく稀にいる。

 駁流派は名門中の名門。特にその技がすごい。その技の紹介はまた今度・・・

 清田家に引き取ってもらった螢空は駁流の剣術を学ぶが、 自分には剣術はあっていないと悟り独学で体術をやり始めた。そしてその頃、 仲良くしていた子が蛇流の孫。清田 神流なのであった。最初の螢空は笑顔も少なくあまりしゃべることをしなかったがだんだん慣れてきたようでよくしゃべってよく笑うようになった。

 しかし、 螢空は「これ以上、この人たちに迷惑をかけてはいけない」と思いその家を出て行った。



               *



 「神流? 久しぶりだなぁ! 」


 まだ少し納得がいかないような声の響きだった。


 「『久しぶりだなぁ』じゃない! 何で勝手に出て行ったりした! 」


 神流の怒声は俺に響いた。


 「これ以上、 迷惑かけちゃいけないと思って・・・」

 「迷惑じゃない! お前は・・・家族同然だったのに・・・・・・」

 「ごめん・・・・・・おじいさん元気か? 」


 二人とも表情も声も暗くなった。


 「・・・・・・祖父は・・・一年前に病気で亡くなられた・・・・・・」

 「えっ! ・・・・・・そうか・・・・・・おじいさん、 歳だったか━━━━」

 「違う! 」


 神流の大きな声は螢空の声を遮る。悔しげな顔をして話し出す。


 「あれは精神的な問題だった! ・・・・・・幕府が急に駁流に圧力をかけやがったんだ・・・だから・・・流派もつぶれた・・・」


 二人の間に気まずい空気が漂う。そして、 螢空は切り出した。


 「なぁ神流・・・俺と一緒に幕府を倒さないか? 」

 「えっ! 」


 神流が驚ろきの表情を浮かべる。それは誰だって驚く。

 急に下克上をやろうといわれて、 はい、 そうですね。やりましょうという奴は普通の人ではありえないだろう。

 すると、 神流は螢空に確かめた。


 「お前・・・二人で出来ると思っているのか? 」

 「いや・・・木村殿に協力してもらおうと思う」

 「本気か? 」

 「ああ」


 螢空はゆるぎない目をしていた。

 神流が少し考え込む。そして・・・


 「分かった。協力しよう。俺は木村殿とちょっとした知り合いだからな・・・俺も一緒に  交渉してやるよ」

 「ありがとう。協力を感謝する」


 敬語で言ったのは神流に対しての敬意の表れであった。



                   *



 そこはすごく豪華な家だった。木村の家だ。門には門番がいる。


 『普通に通って良いのか?』と螢空は疑問になったが、 その気持ちを察したかのように神流は『大丈夫』と言った。

 「名を名乗れ! 」


 門番が大きな声で言った。

 それにびくりと反応する螢空。

 神流はそれを横目で見やると、 くすりと笑い、言った。


 「清田 神流」


 神流はこういうのには慣れているようだった。


 「清田家のご子息でありましたか。連れの方は? 」

 「警護だ」


 えっ!と言う反応を見せる螢空。


 「ではどうぞお通りください」


 門が開いて二人は進んだ。その途中で螢空は小声で問いかけた。


 「俺はお前の警護の人じゃないぞ」

 「そう言った方が楽なんだよ。それくらい察しろ」

 「分かった・・・・・・」


 申し訳ない顔をしてそれからは無言で歩いた。

 どれくらい歩いただろうか。二十分くらい歩いてやっと木村のいる部屋に着いた。中に入ると中はすごく整っている。男の部屋とは思えない。


 「神流君。久しぶりだね。いろいろと大変だったね」

 「はい」

 「それで用件は何かな? 」


 その目を真っすぐ神流に向けると、 神流は肘で螢空の腹をつついた。


 「あの・・・無理を承知で聞きます」


 螢空はあらたまって言う。


 「なんだい? 」

 「江戸幕府を倒すのに協力してくれませんか? 」


 木村は少し驚きの表情を浮かべたがすぐに普通の顔に戻し、 しばしの間、 考え込んで螢空に問いかけた。


 「それは君個人の考えなのかい? 」

 「はい」

 「君は分かったいるのかい? 誰もが幕府に対して不満を抱いているわけではないことを」

 「はい」


 淡々と答える螢空のその目は覚悟が決まっている目だった。死ぬ覚悟ではない。人々に恨まれる覚悟だ。


 「・・・分かった。私も幕府には不満を抱いていたからね。協力しよう。で、 それを指揮する者は私で良いかな? 」

 「あのここに将棋はありますか? 」


 声を上げたのは螢空だった。

 首をかしげて螢空に尋ねる。


 「あるけど・・・・・・それがどうしたんだい? 」


 首をかしげて螢空に尋ねる。


 「私と勝負をして勝ったら私に指揮権を譲っていただきたい」

 「ほう」


 木村は微笑を浮かべて言った。


 「良いでしょう」


 木村は将棋版を取り出し、 駒を並べ始めた。駒を並べ終わった木村は。


 「では、 始めようか? 」


 螢空はその言葉を聞くとにやりと笑った。

 木村と螢空。将棋での勝負が始まった。

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