第參拾玖話 暗黒・魔術師
日の明かりが届かない家と家の間の道を黒い布の奴を集中して尾行する。
念のため「結界」を俺の周りに張っているが気付かれる可能性は0ではないので集中した。
俺はまだ結界の能力を使ったことがなかった。
だから、 念には念を入れた。
黒い布を着た奴が抜けたところは家が建っていない空き地のようなところであった。
その空き地にはこいつと同じ格好をした奴が尾行した奴を合わせて十人いた。
そいつらはなにやら物騒な話をしているようであった。
「大丈夫だ。つけられてはいない」
俺が尾行して来た奴が言う。声からして男のようだった。
ここにいる全員、 円形の下に縁がついているものを頭に深く被っていた。
なので顔を確認できない。
「目的は達した。クセル人の奴らはガンドラ人がやったのだと思い込んでいる。そっちは? 」
俺がつけてきた男はこの中で一番背の低かろう奴に質問した。たぶん背は俺と同じぐらいの奴だ。
「大丈夫だ。こちらも達した。ガンドラ人はクセル人がやったと思い込んでいる。阿呆な人種共だ。そして、 復讐心に燃え上がり、 戦争を起こしてくれる。国を私達が乗っ取ることが出来る」
俺と同じぐらいの背丈の奴は黒い布の下から銃を取り出した。
その刹那。
銃を俺の方へ向け発砲した。
螢空を発動をしたおかげで銃弾は俺を避けた。
俺と背丈が同じぐらいの男はチッと舌打ちをして言う。
「阿呆。尾行されているではないか。早く処理しろ」
俺が尾行していた男が右手指先を俺に向けた。
その瞬間。
小さな稲妻が俺に向けて近づいてくる。
「Blade of darkness」
男が違う言語の言葉を言った瞬間、 体が吹っ飛ばされた。
螢空が……効かない…
螢空を発動しているのにその攻撃は何故か喰らってしまった。
激しく地面に叩きつけられた。
男はまた俺に指先を向けて言う。
「Restraint」
瞬間、 体に激しい衝撃が走った。
体が重く、 苦しい。体を動かせない。
「苦しんで死ぬがいい……Cantrip of death」
心臓を握られた感触がする。
このままでは━━━死ぬ━━。
男に視線を向けて思う。
曲れ━━。
男の指先からどんどん拗れていく。
男は右腕の肘のところまで拗れる前に自らの身を退いた。
拗れた箇所から大量の血が流れ出る。
「何者だ……お前も“魔術師”か…………? 」
重く苦しい身体をゆっくりと起こして立ち上がる。
自分の体じゃないみたいだ。
能力が効かない訳ではないらしい。じゃあ何故? あいつの言う魔術師と関係があるのか? 魔術師とは何だ。やはりもっと知らなきゃな。この世界のことについて。
男に視線を向けて言う。
「曲れ━━」
男は何の対処もせずに喰らうはずはなかった。
「Wall of darkness」
黒い煙のようなものが俺の能力を阻んだ。
やはり、 効かない。
考えろ。こいつらを倒す方法を。
まずは━━━
「第壹ノ型…蛇殺」
光の刃は黒い煙に刺さった。だが、 貫通はしない。
刺さることは出来た。なら。
「合成參ノ型…神速光刃」
男の背後に回る。
黒い煙はない。
手に持った光の刀で男を斬った。
だが、 背中には骨などがある。そこまでの重傷を負わせることが出来ない。
だから━━。
刀を構えて男の左足の腱を斬る。
体勢を崩した男は地面に倒れた。
まずは一人。
呆然と立ち尽くす周りの黒い布を纏った奴ら。そいつらに俺は一つ問うた。
「ガンドラ人とクセル人に戦争をさせて二つの力が弱まったところで国を乗っ取るつもりか? お前ら…………? 」
黒い布を纏った奴らは黙ったままだった。俺は構わず言葉を紡ぐ。
「本当…腐った奴らだな。お前ら」
黒い布を纏った奴らは一斉に飛び込んでくる。
あの変な言語を言って発動するのは使わないらしい。それとも使えないのか?
だが、 それを使わないのなら…
「曲れ」
バキボキバキバキ
骨が折れて拗れていく音がする。
俺は視点を奴らの腹部に集中させた。
全員腹部が拗られ背骨で下半身と上半身が繋がっているだけの状態となった。
生きている奴は数名しかいまい。
息がある奴も立ち向かう意志はもうないだろう。俺がその意志を殺ぎ取ってしまったのだから。
言葉にならない声を発する。余程、 苦しいのだろう。
だが、 こいつらに戦争を指図された国民はもっと苦しい。前は同じ国民だったのだから、 情は完全には捨てきれない。
「はは!! はははは! 」
その笑い声は上から聞こえた。
すぐさま上を見る。
そこには同じように黒い布を体に纏って円形の周りに縁があるものを頭に被った奴が屋根の上に立っていた。
「君、 強いね。服装を見るからに異世界のものかな? そして、 あの石盤に書かれていたRed eyes。君は殺しておかなければならないね。だが、 また今度にするよ。私の仲間が瀕死の重傷を負わされているからね。じゃあ、 また会おう。次、 会った時には殺すからね」
被り物の間からそいつの目を少し見ることが出来た。
その目は暗く、 怒りに満ち溢れ凄まじいものだった。
瞬間。
屋根に乗っている奴は消え去った。
そして、 俺が能力を使って殺した奴らもいなくなっていた。地面にあるのは夥しい程の血の跡。鉄の臭い。
俺は奴らの中の数人を殺してしまった。
殺すということは魂が削られていくと言うことだ。
一人の人間ごとに少しずつ魂が削られていく。
人を殺すには覚悟が必要となるのだ。
「だから━━━」
━━━あいつらのせいで人が殺されるところなんて見たくもない。
この真実を信じるものは誰一人としていないだろう。それは当たり前だ。俺は部外者なのだから。
あいつはそれを見越して俺を見逃したのだ。真実を知られても焦らなかったんだ。
怒りを持つ。復讐をする者達は我を忘れ、 目的を見失う。それは一番俺が良く分かっている。だから━━━
「止めてみせる。俺一人でも…」
「もう一つの真実を教えてあげようかい…? 」
!?
背後から声が聞こえ、 身を構えて相手との距離をとった。
そいつは男で白髪、 目の色は青だった。背は俺より少し高い。
「大丈夫。何も危害を加えたりはしないよ。僕は傍観者だからネ」
「傍観者が関わったりして……教えたりしていいのか…………」
俺が質問をすると男は「失敬だな」と言い言葉を紡いだ。
「僕はただ独り言をしているに過ぎないよ。それをたまたま君が聞いただけだ」
こいつは何を言っているんだ。
いつでも能力が出せるよう、 目の色を赤くした。
「あれはガンドラ人が暗殺したんじゃないんだ。ギルダンド・ベリストリナを暗殺したのはあの黒いマントを纏った奴らさ」
「マント? 」
首を傾げて知らない言葉を繰り返した。すると男は「そういえば異世界者だったネ」と説明をする。
「マントというのはあいつらが纏っていた黒い布のことだよ。で━━━僕が言った事に驚かないのかい? 」
ちょっと待てよ。それじゃ、 本当に無意味な戦争をしているのか?
白髪の男はその場を去ろうと歩き出した。
「待てぇ!! 」
その男を呼び止めた。男はこちらを振り向いて「何? 」と言う。俺は一つ質問をした。
「お前は誰なんだ…」
男は「はぁ」とため息をついて去り際に言う。
「私達は組織です。世界の行く末を見る傍観者。裏の組織。影の組織。Onlookerとでもよんでください」
男は日の届かない暗い路地に消えていった。




