第參拾漆話 異世界
“年に一度 満月の夜 闇の中 一筋に光るところに現るは 赤い眼を持ちいて 異なるものを着いる者 その者は 万物の全てを救う 万物の全てを滅ぼす 存在 世界の全てをこの者に懸け 神という存在であることをここに記す”
神…か……
茶色のマントを羽織り、 その下に着物ではなく、 服を着た少年が石盤に記された文字を見ながら思う。
少年は12、3歳くらいだ。
ここは教会のような場所でもう廃止されている感じであった。明かりは灯っていないが月の光で十分な明るさだった。石盤は入り口から真っすぐのところにあり、 角は欠けてぼろぼろだ。何年前ぐらいからここにあるのだろうか。
石盤を見つめていた少年が立ち上がり、 石盤にそっと手を置いた。
「こんなものを信じているから……俺は…」
石盤に置いた手を文字に近づけて、 意味もなく文字をなぞった。
その時、 石盤全体が光り出し、 地面が揺れ始めた。
地震か……? それとも……
身を少し縮めた瞬間、 先よりも強く石盤が光った。あまりにも眩しく、 少年は手で光を遮る。
光が治まり、 手を退けると石盤の前に普通くらいの長さの髪を揺らしながら変な服を着た少年? いや、 自分から見れば年上の男が現れた。
男はきょろきょろと周りを見て俺の存在に気付く。そして、 男は俺に聞いてきた。
「ここ……どこだ? 」
どうやら本気で言っているらしい。
この石盤の書かれている通り、 年に一度、 満月の夜の日にこの石盤がある教会には異次元の者が来るようになった。三十年ぐらいこれが続いている。それなのに誰一人として神、 戦争を止められる者はいなかった。皆、 こんな教会の事なんてもう信じてはいない。役に立たない奴に世界を懸けたって……。
すると、 ふと気付いた。
そういえば、 赤い眼の奴なんて一人も来た事がない。だから戦争を止めることはできないのか……。
男の目を見るが赤くない。このまま放って置くのも可哀相だから一応、 助言はした。
「お前の後ろの石盤……それを読んでみればだいたいは分かる」
男は後ろを向き、 膝を付いて石盤を読んでいた。読み終わった後も何かを考えている素振りを見せていた。
男は不意に立ち上がり、 振り向いて俺に質問をする。
「ここは……違う…世界なのか……? 」
俺はその質問に対して首を縦に振って言った。
「お前にとっては異世界だ。だが、 俺達にとっては普通の世界。毎年、 ここには異世界のものが来る。そいつらのいた世界のことはそれぞれ違っていた。世界と言うのは複数存在するらしい」
男は「そうか」と返答して、 顔を下に向けた。すると、 何かに気付いたらしく、 急いで石盤の文字を見た。
そして、 ゆっくりとこちらを振り向いたその顔は驚愕の表情を浮かべていた。
「この……赤い眼って……」
そんなことに驚いたのかと呆れてながら話す。
「赤い眼の奴なんて一人も来たことなんかねぇよ…………お前も赤い眼じゃないようだからな……」
俺の言葉を聞いた男は恐る恐る言った。
「俺…………赤い眼になるんだけど…………」
「へぇ…赤い眼にねぇ…━━━━えっ!! 」
一瞬聞き流したがこいつは確かに言った。けど、 本当なのか? 目が黒い奴が赤になるのか? その男への疑いが何個も湧いてくる。そして、 一つのことでまとまった。
「その証拠はあるのか……? 」
男は首を傾げながら考え込み、 俺に目を見せつけて本当に赤い眼にして見せた。そして、 目を大きく見開かせて俺は言う。
「お前……じゃあ! 俺達の救世主なのか!! 」
俺への期待に耐えかねた男は身を退けて自信なさげに言う。
「この石盤の…………通りなら…」
「よっしゃー!! 長年の戦争が終わる! 」
これで……これで…!!
俺だけがはしゃいで男が置いていかれていることに気付き、 一つ質問をした。
「お前の……名前は? 」
男の顔が不機嫌な顔になった何か悪いことを言っただろうか。その不機嫌な顔のまま男は口を開く。
「人に訊ねる前に自分から名乗るのが常識なんじゃないかな…? それともこっちの世界では違うのか? 」
そんなことで不機嫌になったのかと呆れはしたが言っている事は正しい。
「そうだな……俺の名前はナレイル・ミストリアスです」
「は? 水鳥明日? 」
首を傾げながら俺の名を呟くが間違っている。
「ナ・レ・イ・ル・ミ・ス・ト・リ・ア・ス・です!! 」
親切にゆっくり俺の名前を教えてやったと言うのにまた首を傾げる。少しイラついたので男の名前を聞くことにした。
「もういい! で、 お前の名前は? 」
「ああ、 上杉螢空」
「ウエスギ・ケイクウ? 」
変な名前だなァと?を付けて名前を繰り返したら、 男が声を上げた。
「お前も分かってないじゃないか! 」
そういうことで怒るのかと納得して、 俺は話を進めた。
「どうせ泊まるとこなんてないんだろ? 家に来いよ。お前のことについても知りたいし石盤のことが本当ならお前は神だしな」
そして、 俺は男の腕を引っ張って強制的に連れていった。
*
「どういうこと…………螢空が…消えた……」
籠は愕然とした表情を浮かべながら必死に立ち上がろうとする。しかし、 背後から刺された傷から血が出すぎていた。
そんな籠を哀れむ目で見ていた徳川と蘇鷺。その中、 蘇鷺が口を開いた。
「教えたはずだがな…………空白の弐陌年についてと俺の能力」
こいつ…能力を……
籠は悔しい表情を浮かべ右拳を強く握る。
「上杉の場合はしょうがなかった。ああしておかなければこちらに損害が及ぶからな…。だからここでお前達はとばさない━━━が、 他の約束は継続させる。もう一度良く考えろ」
その広場から去っていく徳川と蘇鷺。その二人の背中を止めれなかった。
*
俺はミストリアスに引っ張られながら教会のような所を出た。
外は一面、 砂漠だった。
それに驚いてる暇もなくミストリアスに茶色い大きな布上から着せられ、 引っ張られていく。
夜の砂漠は砂が舞い、 視界がほとんど閉じたようだった。ミストリアスがくれた茶色い布のおかげで砂の嵐は防ぐことが出来たし、 手を引っ張ってくれたおかげで迷子にならずに済んだ。
砂漠はすぐ越えた。それから芝生とか何やらを越えてやっと家がたくさんある所に着いた。
しかし、 家は木で出来てはいなかった。最初の教会もそうだったが何やら硬いもので出来ていた。俺はミストリアスにそのことを訊ねる事にした。
「なァ…………ミストリアス…さん……」
そう言えばこいつの名前を呼ぶのは初めてだ。ミストリアスは態々足を止めて「なんだ? 」とこちらを振り向く。俺は質問を続けた。
「この家って何で出来てるんだ? 」
「ああ。お前の所は“ダイキカ”でできてないのか? 」
そんなもの知りもしないので首を傾げる。ミストリアスはそうかと言い、 説明し始めた。
「“ダイキカ”っていうのは砂漠地帯の深い地下で取れる硬石で熱したら冷やしてを何回も繰り返していくとすごく硬いものになるんだ。この町の家や建物は全部“ダイキカ”でできてる。加工もしやすいからな。他にも武器や道具なんかでも使われてる」
へぇーと関心し家の壁に触れてみる。つるつるしていた。そして、 もう一つ気になることがあり、 それも訊ねた。
「あのさァ…………あのでっかい城みたいな建物は? 」
そう、 家が並んでいる先に崖があり、 その崖の上に立つ大きい城のような建物。
ミストリアスはそのことについて話を始めた。
「あれは宮殿だよ。詳細は後で教えてやる」




