第參拾肆話 覚悟
憶えていない…何のことだ……俺が…俺が檜都を……
目覚めると神流の姿はなく、 路地裏にあるのは血の跡と…。檜都の亡骸にそっと近づく。
「本当に……俺が…」
目から涙が溢れる。
俺が殺した……俺が……俺が……
『おぬしが殺した』
頭の中から不意に声が聞こえ、 自分を殴りそうになる。
「お前が!! お前が殺ったんだな!!! 」
頭の中で声が聞こえると言うのに普通に叫んだ。
『…………』
「答えろ!! 」
すると、 そいつはあはははと笑いだした。怒りが込み上げる。それに比例して涙が出てくる。
「ふざけるな!! 」
『ふざけてなどおらんよ……言った筈だ。何度も忠告したはずだ。力を欲すれば、 おぬしの周りの者が傷つくと…その結果があの肉塊だろ? 』
「肉塊なんかじゃない!! あれは……あれは…」
『肉塊だろ? おぬしが人間じゃなくしたんだ』
「くそぉぉぉ!! 」
螢空は壁に腕を叩き付けた。何度も何度も腕が血だらけになろうとも。
「畜生……俺は…無力だ……前仲間だった奴の一人も救えねぇ……」
涙が流れる。悔しい。雨が降り始めた。濡れていく。
体も……心も……濡れていく…。
「俺は……強く…なりたい…」
『何の為にだ? 』
下げていた顔を上げて、 涙を流しながらも真っすぐな目で言う。
「人を傷つける為じゃなく。人を傷つけない為に。人を殺すためではなく。守るために」
『力の有り方が分かったか……』
「人を傷つける痛みを知った。人を犠牲にして一歩踏み出した。けれど、 これからは人を犠牲にせずに前に進んでいきたい。そして、 失った命、 犠牲になった命のためにも俺は生きる!! 」
『分かった。それが君の覚悟なら、 その覚悟に誓い、 力を与えよう。しかし、 これは君の力だ。我の力と勘違いするなよ』
生きるんだ、 俺は! 人を守るために。大切なものを守るために
*
「やられたな……強かったか? 」
神流を背中に担ぎながら、 徳川は裏道を行く。途中から雨が降り始め、 少し雨宿りをすることとなった。
ぽつぽつと雨が音楽を奏でる。重傷だった神流の傷口は塞がっていた。零の能力・凰に回復させるのがあるのだろう。
「わしも少し、 欧米の言葉を学んだのだ」
神流は徳川の言葉を黙って聞く。
「お前のように“魂を食う者”は“ソウルイーター”と言うらしい」
「……そうですか…………ソウルイーター…変な名前ですね」
そして、 少しばかり雨宿りをして、 今度は神流は歩いて傘も持たずに進んだ。
「本当に死ぬおつもりで? 裏で動くより表で動いた方がやりやすいのでは? 」
「決めたことだ。そして、 表よりも裏の方が動きやすいこともあるんだよ。そういうのを判断するには経験が必要になってくる。お前はまだ、 経験が足りんようだな」
「……はい」
「もうすぐ戊辰戦争だ。その時に螢空、 空が来れば、 そこで奴らは終わりだ」
*
「それは……!! 」
驚愕の表情を浮かべる籠。それに対して殺し屋は言う。
「全てが本当だ。信じる信じないのはお前の自由だが、 信じるのなら戊辰戦争には参加するな。だが、 来るなら場所を伝えておこう。江戸城下だ。復旧が進んでいる江戸、 その周りの千葉や埼玉にも被害が及ぶだろう。すごい戦争になるからな。お前達が来るのなら…………雨が降ってきそうだ……俺は帰る。来るなよ。戊辰戦争」
殺し屋が雨が降りそうだと言った空を見上げる。空は曇天。本当に今にも雨が降りそうだ。
万屋に帰る。
すると、 吏雄が俺を待ち構えていた。
「…吏雄……」
部屋に戻ると皆、 正座で座っていた。
「どうしたんですか……皆さん…」
「籠、 座ってくれ」
そう言われてその場の空気で正座で座る。
吏雄を見ると、 中途半端にくっついていた左腕は取ったようだった。
「…左腕……」
「ああ…大丈夫だ……能力に支障はない…」
「そうか…」
本当にこのまま戊辰戦争に参加していいのか? 無駄な犠牲が増えるだけじゃないか。それにあの殺し屋が言っていたこと……本当のことにしか思えない。どうすればいいんだ。私は…
「迷ってるのか……籠…」
「えっ! 」
意表を突かれて声が出てしまう。
…迷っていることは皆にはバレバレだったのですか…
「俺たちはお前についていく。何があっても。たとえ不死が相手だったとしても。俺たちはお前についていく。お前が迷ってちゃ、 俺たちは終わりだ。威張って俺たちに「ついてこい」って言えばいいんだよ」
「皆…………戊辰戦争、 参加しましょう」
「当たり前だよ! 」
良かった! 俺が迷っていてもしょうがなかったんだ。皆、 私を信じてくれてる。子供なんて関係なく。地位なんて関係なく。俺のためなら命を投げ出してくれるというんだ。精一杯やっていかないと。
*
「失敗したな…あいつら戊辰戦争に参加するのか……それなら、 言った通りにするぞ……古松。お前は判断を間違えたんだ」
雨がポツポツと降ってくる中、 傘も差さずに進んでいく蘇鷺。




