第參拾壹話 弱肉強食
「ここにいましたか…螢空…」
後ろから声がして振り向くとそこには包帯を巻いた籠が立っていた。
「籠…! どうしたんだ…? その怪我……」
「憶えていないのですか? 」
「えっ何が…」
何を覚えてないって言うんだ?
訝しげな表情を浮かべて籠を見ると籠はすぐさま視線をそらして言う。
「いや…何でもないです……この怪我は…ちょっと……けんかしただけです…」
けんかか…
横目で籠を見ると籠は悔しそうな表情を浮かべていた。
「では…先に戻っていますので……」
籠は俺に背中を見せながら歩いて行く。どんどん背中は遠ざかって仕舞いには見えなくなった。その籠の背中はいつもより小さい気がした。
*
「…ふぅ……」
神流の横には山のように人が倒れていた。
「まあまあの味か…」
その横には徳川に報告をしていた白衣を着た女性が驚愕の表情を浮かべて立っていた。それを横目で見ると神流は言った。
「驚いたか…? …それとも…………俺を解剖したいか…? 」
その言葉で飛んでいた意識が戻ったようで口を開く。
「驚きもしたし…………解剖もして見たい……まぁ、 させてはくれないんでしょうけど…」
「当たり前だ…………お前らが解剖する意味が分からん…」
「技術の進歩のためよ…人は進化を続けなければいけない……それにしてもこんな人数…よく食べれたねぇ…」
神流は立ち上がり、 階段の方向に向かって歩きながら女の言葉に反応した。
「食べたって力になるだけだから…何人でも……食べることはできますよ……じゃあ頑張って下さぁい…早く作って下さいよ……不死の薬を…」
タンッタンッと音を立てながら階段を上っていった神流。闇に消えていった神流を見た後、 女は口にした。
「頑張りますよ…自分の身のために……」
女はそれを口にすると、 仕事に戻り、 仕事を始めた。
*
あの目の紋章…あの時ままだった……じゃああいつはまた出てくる…………修行方法を変えなければ……吏雄は重傷で動けない…どうすれば……
万屋に戻りながら考える籠。すると、 誰かにぶつかった。
「あっ! すみませんでした…」
ゆっくりと顔を上げる。そこにはあの殺し屋がいた。
「危ないじゃないか…籠…」
「私を殺しに来たのですか? 雇われ先を間違えた…殺し屋」
殺気立てて言う籠に対して殺し屋は言う。
「そう殺気立てるなよ古松。忠告しに来ただけだ。やめておけよ…明治維新を止めることをお前達にはできない。お前はもう分かっているはずだ…古松…」
人が普通に通り過ぎる中、 二人だけが止まっている。
「弐陌年の空白……お前はもう…感づいているんだろう? 」
古松の頬に汗が垂れる。苦難の表情を浮かべて古松は言った。
「弐陌年に…………お前達は…何をしたんだ……! 」
「…………」
殺し屋は黙ったままだった。そして、 一時してから口を開いた。
「ここで真実を伝えるのが吉か…それとも凶か……人生はみな賭け事のようだな……」
「遊びで聞いているのではありません」
「分かってるって…早まるなよ……お前には言う……口外したら命はないと思え……俺には口外したかどうかを知る能力がある。口外したらそいつら全員、 家族から遠い親戚まで全て皆殺しにしてやる……」
ごくりと息を飲み込む。
「…弐陌年……それは━━━━」
*
「X粒子が発見されて何年経ったか…………ついにやりました……これで…」
白衣の着た女の横の倒れていた大勢の人が立ち上がり出す。
「これで……」
「解放されるか……? 」
白衣を着た奴らは見知らぬ声の方向。闇の中の方向に手元にあった銃を向ける。しかし、 その銃は何かがおかしい。それは火縄銃でもない。すごく小さく黒い銃。
「そう銃を構えるなよ」
「あなたは! 」
驚きの表情を浮かべてすぐさま銃を下ろした。
「あなたでしたか……邪魔でもするおつもりで? 近藤勇……」
「そんなことはしないよ。だが、 喜んでいたように不死ができたんだろう? お前の後ろにいる大勢の人間がそうか…」
「あなたよりも私たちのほうが権力は上です」
「だけど、 強さはこちらが上だ。所詮この世の中は弱肉強食だ。弱い者は死に強い者が生き残る。権力など関係ない」
「けど、 あなただって徳川様の権力に屈しているのでは? 」
すると、 近藤は眉をひそめた。
「それは正気か? あのお方は俺でも傷一つ付けられずに死んでいくよ」
「…………本気で戦わなかったら……ですよね……? 」
全部お見通しと分かり、 近藤は闇の方向へ歩き出す。
「何しに来たんですか……あなたは! 」
近藤は足を止め、 振り向いて言った。
「未来がどうなるのかを見極めに来ただけだ。それと……復旧を━━━━」
「勝手に抜けてきたんですね…面倒くさいから……」
近藤は「はぁ」とため息をついて闇に消えていった。
「あれ……? ここに置いていた薬…」
*
「不死の薬…できたみたいでしたよ」
「そうか…では取りに行かなければな…」
「その必要はないですよ」
近藤は懐から何かの袋を取り出す。そして、 徳川にその袋を手渡した。
「気が利くな…」
袋を開けてその粉を口へと運んだ。




