第 參拾話 欲
「………………我に所有権を移させたのは……お前か…………」
背中に震えが走る。苦難の表情を浮かべて螢空に殴りかかるのは古松。
こいつ…………
「螢……いや…蛇か? 」
「我は…………」
殴りかかった拳を遮ったのは螢空。
螢空は古松を睨みつけて言う。
「おぬしは……ひよっこ……」
その瞬間に古松の横にいた吏雄の腕が曲がり始めた。
「うっ!! あがぁぁぁぁぁ! 」
よく分からない声を上げて地面に平伏した。バキバキと音を立てながらねじれていく左腕。
「くそぉぉお! 」
吏雄は螢空を睨みつけ、 能力を発動した。螢空に襲い掛かる数多の刃。
しかし、 それも螢空に阻まれる。
「弱き者らよ…………分かった……凰だけにしてやろう」
凰? 何だそれは?
訝しげな表情を浮かべている古松に螢空は助言した。
「凰を知らぬのか? こやつにお前らは凰を身につけさせようとしておったではないか」
凰とは零の能力を差すものようだ。
「吏雄…大丈夫ですか……」
「腕がイッちまってる……もう使い物にはならないな…」
苦難の表情を浮かべ、 苦笑いをしながら吏雄は言う。
「相手は螢空や蛇空を使わないつもりです。一気に片をつけましょう」
古松が螢空めがけて襲い掛かる。
その刹那。
螢空の光の刀が古松の胴体を貫いた。
「ぐわぁ……」
いっ…いつの間に……光刃を…
口から、 腹から血を垂れ流す古松。刀をまだ突き刺さったままだ。螢空はそれを古松を気にせず、 素早く引き抜く。
地面に倒れこむ古松。
その手前に立ち尽くす螢空。
……遠すぎる…
「籠!! 」
その刹那を見ていた吏雄は立ち上がり、 蜂空を発動させて、 螢空めがけて刃を降り注いだ。古松にあたらないようにするのは当然。
刃が降り注ぐ刹那。
螢空はもう吏雄の目の前にいた。
なっ!!!
光の刀で腹を斬る。飛び散っていく血の中で佇む螢空は威圧感が強く、 目の前に立っているだけで蹴落とされそうだった。
腹は深く切り裂かれていた。地面に血が伝っていく。
「…吏…雄……!! 」
驚愕の表情で出来事を見ていた古松は地面の土を掴む。
こいつは……能力を二つ手に入れることで発生…いや…進化した二重人格…………?
「大丈夫だ。弱き者よ。急所ははずしてある」
螢空が古松と吏雄に向かって言うが耳に入っていない。
「こいつは凰を初めから使える。それが何故こいつは使えなかったのか……それは……精神が不安定すぎるからだ。こいつは幼き頃に自らの手で実の母親を殺した。それから精神がおかしくなった………………」
古松は螢空を見上げる。
その瞬間。
螢空は倒れた。
「身体に負荷をかけすぎたな……ここまでのようだ…………さよならだ…弱き者等よ…」
螢空はゆっくりと目を閉じていった。
:
古松と吏雄と桃以外空の一員は万屋にいた。どうやら空の組織の基地は万屋のようだ。そして、 修行のときに広場には見当たらなかった桃は自分の姿を隠して広場の横で能力を発動していたらしい。中の異変に気が付いたのはもちろん桃であった。
そして、 皆に伝えてここに運んだと言うことだった。
「何があった。籠」
桃が問いかけてくる声も今の俺には届いていなかった。
*
「…君は裏側」
あの螢空を出したときに視界が真っ暗になり、 白い世界に来ていた。
『違う……おぬしのおかげで覚醒ができた。私は空だ』
「…ソラ…………? 」
『そう、 そして……おぬしを殺すものだ』
「殺す? 何で君が僕を……」
『今、 力を持っているのは私だ。そして、 おぬしは弱い。弱き者ほど死にたがる』
「違うよ……僕は生きる…生きて徳川を殺してみせる…そして……そのために力が欲しい」
『力を欲するか…螢空……力が全てではないし、 正義でもない』
「俺は正義になろうなんて思っていない。今からの俺の行動は国民から見れば悪だ。だから」
『だから……?』
「……俺は人から恨まれる覚悟はある」
覚悟を決めた目。そんな目を俺はしていたのだろうか。空と名乗るものはため息をつき言った。
『そんな覚悟はあってもなくても同じだ。覚悟という一本の棒があったとしても刃物で切ってしまえばいい』
「俺の覚悟は棒じゃない魂だ」
『そんなことはいい。言い訳はもう聞き飽きた。おぬしが力を欲する限り、 おぬしの周りのものは傷ついていく。そう心得ておけ……螢空…………力の有り方を履き違えるな…』
:
「はっ! 」
目覚めるとそこは布団の上。なんだかお決まりになってきたなぁと思いながら体を上げる。怪我はしていないようだった。
しかし、 螢空を発動してからの記憶が全くといってない。
起き上がって部屋を出てみると誰もいなかった。一人で待っているのもなんなので気晴らしに散歩をすることにした。なんだか久々に外に出たような気分だ。空気が気持ちいい。気流があって涼しい。
長い時間、 歩いていると川についた。小さな川だ。そこで顔を洗う。冷たい水で気持ちがいい。
水面に移った自分の顔が気になった。
「何だこれ……! 」
いや、 具体的に言えば目だ。目の瞳孔に何かの紋章があった。
「何の紋章…」
それは悪夢の前兆であった。




