第貮拾捌話 世界大戦
『君の綻びは今日だったか…』
今度は白い空間ではなく、 暗黒の空間だった。
『君は死んでしまった……僕は君に生きて欲しかったのに…』
「……人には絶対に終わりが来る。それが早くなったところで変わりはしないよ『裏側』…」
裏側の姿は見当たらない。
『君にはがっかりだ。最後まで笑って…そんなに何が楽しい? 』
「さぁ…?…………君は何でまた何で出てきたんだい? 」
『…………』
裏側は何も答えなかった。答えたくないのか答えられないのか、 いじけているのかも分からない。
『君は何者だ? 』
唐突にそんなことを聞かれた。何でこんなことを聞くのか。その意図が分からない。
『徳川螢空か? 上杉螢空か? 他のものか? それとも…………何者でもないのか……』
「徳川…………」
俺はあいつの息子だった…そして、 あいつは…母さんの……
「何で…………俺は……」
何で俺は死んだんだ……
「…………自己満足のために………………」
母さんの敵を目の前にして…
「…俺は………………死んだ…………」
『君は上杉螢空のようだな…』
悔しい……俺は何も成長していない…進歩していない……進んでいない…………生きる価値がない…
『焦りすぎたんだよ……君は…………』
焦っていたのか……俺は…
『君にはもう用はないよ…………だから……』
何かが変わった。暗黒がさらに暗黒になったような気がする。
『君に所有権はない』
所有権? 何のことだ?
『さようなら…………上杉螢空…』
*
瞼を開けた。目から水滴が頬へと流れる。
「……生きてる…………」
空気が吸える。目に映るものが分かる。感覚がある。
生きている。
「…ここは……」
包帯が巻かれているが傷はなかった。
「起きましたか…上杉…いや、 徳川と言えばいいのですか…」
横を振り向く。そこにはあいつがいた。
*
江戸の復旧はまだ終わっていない。徳川は江戸以外の地下を通り、 江戸の地下へ向かう。
「着いたか」
江戸の地下は当然瓦礫に押しつぶされていた。徳川はその瓦礫のところを調べ始めた。
そして、 その調べ物を見つけたらしく、 そこの瓦礫を手で除けていく。
そこには蓋みたいなものがあり、 それを開ける。階段があった。
「亡き上杉螢空……地下はちゃんと残っておったぞ…」
口元を歪めながら階段を下りていく。
螢空が目覚める二ヶ月前の話。
*
「古松……籠…! 」
螢空は身を起き上がらせる。
古松籠…こいつは能力者だ……という事は…『空』の一員か?
「僕のことは聞いているでしょう……そうです…僕は『空』の一員ですよ…」
「俺は……俺は何故生きているんだ! あんなところから落とされたのに……」
「…螢空…君は運がよかったですね……まぁ君がどう思っているかは分かりませんが…君が落ちた先は水の中だったんですよ」
そういうことか……
江戸城周辺には水が流れている。崩れていない水の流れている場所に運良く落ちたのか。
「で━━━…何で…お前が……俺を助けた…………」
それは本当に気になっていたことだ。
「それは…あなたが必要になったからですよ……今まで相手の能力を貰うと言う行為は異例でした…能力者には日本のことについて説明して、 『空』に入ってもらっていましたが…君は死ぬつもりだった…死んだら能力はなくなります…………それを避けるために君から蛇と螢の能力を奪った……
しかし、 それは使うことが出来ませんでした…………どうやら所有者があげることを望まないで手に入れるとその能力は使えないらしいのです」
「だから……俺に能力を返して仲間に入れと? 」
「いや…強制はしません…でも、 この話を聞けば無理にでも入らなければいけなくなる」
古松の声は自信がこもった声であった。
「君は半年間、 昏睡状態にありました」
古松の言うとおり、 昏睡状態にあったようだった。手を動かそうとしても動きにくい。
「その間に薩摩の長州が手を組み、 討幕をしようと今も動いています。真実を教えましょう。江戸時代の後の時代の名前は明治時代。しかし、 それは徳川が裏で動かす時代となってしまうのです」
よく意味が分からない。
どういうことだ?
「詳しく説明しましょう。これから、 薩摩や長州などが中心となって明治維新というものが起きます。それは江戸時代から明治時代になるための維新です。しかし、 明治維新を起こす者たちと徳川は協力しているのです。徳川は自分から江戸幕府を崩すことを望んだ。外国が迫ってきた今、 幕府の力が弱っています。なので、 新しい時代へと乗り換えようと徳川は協力を求めた。それを維新を起こす者たちは受け入れ、 徳川と手を組みました。
そして、 明治になると徳川は地下に潜り、 不死の研究をして不死の軍隊を造る。その不死の軍隊を使って、 徳川は世界の頂点に立つつもりです。その徳川の思惑を止めるにはこの後に起こる戊辰戦争を止めなければなりません」
何言ってんだ…なんでそんなことを知っているんだ……
「何でお前はそんなことを…………」
「このことは最初から決まっていた事だからです。僕達『空』は明治時代にさせないために戦います」
「けど、 地下は俺が壊したはずだ! 」
「徳川が重要なものを君達に見せると思いますか? 地下の下に地下があるのですよ」
地下の地下…そうか……じゃあ俺がやったことは…
「君がやったことは無駄でしたね…………君はまだ零になっていない。僕が教えてあげます。零になる修行を」
「徳川を止めなければ……殺さなければ……世界大戦が起きる」
「そう、 徳川の力を恐れて国どうしは力を求め、 他の国を取り込もうと戦争をする」
今、 徳川を止めなければ…世界は……終わる…
「木下達は江戸幕府を倒そうとしているのですから喜んで明治維新に乗ります。民間人もそうです。真実を知っているのは……止めることが出来るのは…僕達だけです」
そうか…………この話を聞けば…本当に入らなければなくなるな……
「けど、 このことを住民に言えば…」
「こんなこと信じてもらえませんよ」
民間人にとっちゃ俺たちが敵になるな……けど…………
「後で後悔はしたくない…………修行をつけてください…古松殿……」
頭を下げる螢空に対して古松は言う。
「古松殿じゃなくて籠ってよんでいいですよ。螢空」
*
「人は争うのが本能……それは誰かが上に立たぬ限りおさまらぬ…………争いの果てには悲しみか…憎しみか…平和が待っておる」
地下の下の地下の階段を降りながら徳川は言う。
「だが…争いの果ての平和も偽りの平和か………………難しいのォ…世の中は分からないことだらけだ……が━━━…それ故に面白い…」
ハハハと笑いながら階段を下りていった。




