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第貮拾漆話  江戸崩壊

 傷が塞がっていたのは女に受けた傷で殺し屋に受けた傷はまだ残っていた。もう、 ほとんど人はいないだろうと思うが警戒は怠らない。

 しばらく歩いていると一つの戸に辿り着く。部屋の中は暗いようだった。

 戸をそっと開けると予想通り暗かった。

 しかし、 窓の外はすごく明るかった。火がすぐそこまで迫ってきているのだ。

 部屋には誰もいないのか? そう思った瞬間であった。窓外の明かりで人の影が一瞬見える。

 それを見るなり、 目を大きく見開いて、 勢い良くその影に殴りかかる。


 「とぉくぅがぁわぁぁぁぁ! 」


 すごい怒声を上げて、 徳川に襲い掛かる。しかし、 徳川に向けた拳は隣の男に阻まれた。


 「!? 」

 「邪魔をするな! 」


 俺は男を投げ飛ばそうと力を入れるが逆に投げ飛ばされてしまった。

 ドスンッ!

 と言う大きな音が部屋に鳴り響く。床が今にも壊れそうだ。

 この男……力が強い……

 床に倒れた俺はもう一つの床の何かに気が付く。

 ……死……体…………?

 男の足元には確かに一つの屍があった。しかし、 それは屍と言うより肉塊であった。

 指は全て逆の方向に曲がっていた。腹は引き裂かれ、 中から内臓が出てきている。目玉は飛び出て、 首は引き裂かれ、 腕は皮の下の肉までもが剥がされて骨が見える。

 思わず口を手で塞ぐ。腹の中のものが口へ出て行く。何回も嘔吐を繰る返す。

 嘔吐がおさまり、 俺の様子を見ていた徳川は言う


 「哀れだの……螢空。反逆などという馬鹿なことをするのが悪いのだ。潔くわしにこき使

われていれば良かったものを。本当……人とは哀れでならんわ…なぁ━━━━」


 窓の火がボウッとなって近くまで来る。その時、 徳川の横にいた人物の顔が見えた。


 「━━━━清田 神流」


 俺を哀れむ目でこちらを見下ろす神流。


 「ほんと…哀れだな……上杉螢空」


 何だ…その呼び方……俺を見下した……徳川のようなしゃべり方…


 「裏切ったのか! 俺を……俺を裏切ったのかぁぁぁぁぁぁぁ! 」


 大声で叫んでも神流は表情を変えない。その目は…

 非情の目…


 「ここらが潮時だ。しかし、 お前には真実を教えてやろう。「俺が生きている」とまで聞いたそうだな…けれど、 これには続きがある。今の将軍は家光ではない。ずっとこのわしがやってきたのだ」

 「………………フフフフ…………ハハハハハッハッハッ! 」


 不敵に笑い出す螢空を見て、 初めて表情を変える神流。


 「馬鹿かお前はこの俺が気付いていないとでも思ったか? フフ…ハハハハッ! 嘔吐が出る。俺の父親の癖に頭は悪いんだな。将軍が初代から変わっていないなど分かっていたさ…一人の人間が考えることは順序が決まってくるからな」

 「だがここまではよめなかっただろう。城なんていうものは標的に過ぎないということに本当の江戸城は江戸全体の地下にある。ここを破壊しても無駄だ」


 徳川は感情を抑えきれないでいた。


 「クックックックッ」


 小声で笑い、 顔に笑みを浮かべて言った。


 「それくらい知っている。お前は知っているか? 江戸の住民には明日の午後まで非難していろと命じてある。江戸に人はいない。そしてもう一つお前は知らない。俺と一緒に城に侵入したのは全部で十人しかいないということを」

 「なっ…なんだと! しかし、 通達では二百を超えていると……まさかっ……お前! 」


 神流はこんなことまで報告はしていなかったらしい。

 徳川は意表を突かれたように目を見開いた。


 「そう、 木下の部下がそう通達した。そして、 八人は無事脱出したと思われる。残ったのは俺と清田 神流だけだ。そして、 そいつは裏切ったから、 反逆者は俺一人」

 「…………お前俺と一緒に死ぬつもりか! …………しかし……死ぬのはお前だけだ! 」


 徳川が俺に跳びかかろうとする。

 その刹那、 地面が揺れ始め、 大きな音がする。

 ドンッ

 何か大きなものが崩れていく音。


 「なっ! 何だ! 」


 徳川は窓から外を見た。

 その光景はすごいものだった。

 江戸の町が沈降していき、 火がそれを包み込む。江戸の町は火の海と化していた。


 「お前……地下を爆破させおったな! 」


 怒りの怒声を上げる徳川。それとは正反対に螢空は笑みを見せる。


 「フフフ……さぁ俺と一緒に死ぬがいい…徳川 家康」

 「クソォォ! わしの計画がぁぁ! 」


 徳川は螢空の胸倉をつかんで揺らしながら言う。


 「わしのぉ! わしのぉ! ………………殺してやる…………殺してやるぅ! 」


 胸倉をつかんでいた手が首元にいく。俺を窓の壁に押し付けて、 手に力を入れ始めた。


 「殺してやる殺してやる殺してやるぅ! 」


 その刹那。俺を窓から落とした。下へと降下していく。


 「ハハハハァァ! 馬〜鹿! ハハハハハハッハッハッハハハハ………………」


 この声は江戸中に響いた。



                   *



 「あ奴めぇ…わしの計画が……狂ってしまったではないか……」


 無念の声を上げる徳川に対して神流が言う。


 「大丈夫ですよ。あいつは知らない。地下の地下があると言うことを…」

 「そうか……壊したのは…………上層だけか…………フフフ…ハッハッハッハッハッハッ! わが息子よ…どうやら勝ったのは……わしの方であったな……」


 徳川の顔はにやりとしていた。神流の顔は━━━━。


 「…………徳川様…早くお逃げにならなければ……」

 「それは無用じゃ……恵みの雨が降ってきた」


 その瞬間。ポツポツと雨が降り出し、 それが大粒になって、 大雨になって火の海に降り注ぐ。


 「さぁ…これからだ……これからが…本番だ」


 火の海が段々と治まって行く様を江戸城の上から見下ろしながら笑みを浮かべる。

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