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第貮拾伍話  真実

 臭いがする。煙の臭い。意識が飛んでいきそうだ。けど、 飛ばしちゃいけない。ここで飛ばしたら負けだ。暗い…暗いと思い出してしまう……あの時のことを…



                   :



 「やめて! お願い…だから! どうして…どう…し……」


 言葉の意味が分からない。単語単語だけ発しているからだ。俺はどうして刃物を持っているのだろう。どうして母さんは血だらけなのだろう。どうして俺は血を浴びながら楽しんでいるのだろう。

 どうして俺は母さんに刃物を振り下ろしたのだろう。

 グチャッグチャッぐちゃッぐチャっ

 母さんは何も抵抗をしなかった。声を上げたりしなかった。

 刃物が手から落ちていく。目から何かが垂れてくる。水?


 「アハハハハハハハハハァァァァァァァァァァァァァ」


 俺は笑いながら泣いていた。心が泣いていた。



                   :



 殺し屋の言葉が頭の中から聞こえてきた。


 『お前は感情を捨てなければ俺には勝てない! 非常になれ! 』


 非情…感情を捨てるってこと? 何で感情を……

 その瞬間、 重い体を持ち上げる。そして思った。

 非情になんて━━━━なれっかよ! 

 その目は横を見たりせず真っすぐに定まっていた。



                   *



 「そういえばお前誰かの死体をここへ連れてこなかったか? 」


 徳川が男に対して問う。その男の足元には本当に屍があった。


 「はい。 ちょっと見つかってしまいましてね。殺しました。螢空の道しるべにもなるでしょう? 」

 「殺したのか…」


 徳川はその屍を少しの間、 じっと見てそして、 外を見た。

 火が逼って来たな…

 外は夜なのに明るかった。



                   *



 周りを警戒しながらしばらく歩いていると血の跡を見つけた。その横には部屋があり、 そこから吐きそうになるくらいのもの凄い鉄の臭いがしてきた。

 うっ

 と思い口元を手で塞ぐ。おそるおそるその部屋を見るとその光景は凄まじいものだった。

 壁のいたるところに血が付着しているのだった。

 目の前の光景に驚きすぎて言葉を失う。

 そして、 集中が切れて地面に手を着く。すると、 妙な音がした。

 ビチャッ

 暗くてよく見えなかった血が廊下に続いていたのだった。よーく目を凝らさないと見えない血の跡だ。

 この血の量。誰かがここで戦ったんだ。そして、 その血が廊下に続いている。傷を負いながらも必死に逃げようとした証拠だ。

 とっさにそう理解して立ち上がり、 血の跡を辿って行く。

 一つの部屋にたどり着いた。さっきの部屋とは違いちゃんと戸がしてあった。

 その戸をそっと開けていく。

 部屋は暗かった。蝋燭に火が灯されていない。

 誰もいないのか? と思い辺りを見回す。

 すると、 不意に女性の声が聞こえた。


 「ここから先へは行かせぬぞ」


 俺は身構えて目を凝らして辺りを見る。

 そして、 直感する。

 二人いる。

 そう思った刹那、 蝋燭の灯りが灯される。


 女性はきれいな着物を着て畳にに座っていた。もう一人は男性で刀を抜こうと横で構えていた。


 「立ち話もなんだから座れ」

 「えっ……!」


 何を言ってるんだこの女。

 そう思って余計、 身構える。


 「早く座れ。おぬしにも時間がないのじゃろう? 」


 それはそうだけど……

 少し戸惑うがしぶしぶ座っていしまう。

 女性はさっきから表情を一切、 変えていなかった。美人と言えば美人だ。


 「おぬしが上杉螢空か? 」


 女性は淡々と質問をしてくる。

 はいと答えると女性はそうかと質問を繰り返す。


 「上杉の姓は母方のか? 」


 そんな質問をされると思ってもいなかった。


 「……はぁ…………よく…ご存知で…」


 母のことに触れられると反射で声が小さくなった。


 「父は誰か知っておるのか? 」


 まだ質問を繰り返すのか? と思い答えが雑になり始める。


 「知りません」

 「だろうな」


 だろうな…だと……俺の父親の事知ってるのか? こいつ…

 螢空がこいつ、 何者だという目で見ながら、 螢空が女性に問う。


 「何かご存知なのですか……?」

 「まぁな……聞きたいか? 」


 女性が問い返してきたとき、 男が会話に横は入りする。


 「その事を話してもよろしいのですか? ××様」


 女性の名前はよく聞き取れなかった。


 「よい……別にどうでもいいことじゃ…………おぬしの父親は……」


 思わず息を飲み込む。


 「徳川 家康様じゃ」


 えっ! 

 その言葉を疑った。俺は大きく目を見開き言う。


 「ちょっと待て!! 徳川家康って四十年位前に死んでるぞ! 」

 「そうじゃ。しかし、 それは表での話…………だが裏では違う。家康様はまだ生きている。不老の薬を飲んだからな」


 何言ってんだこいつ不老? 不死? 何言ってんだよ


 「不老とは不死とはまた違う。心臓を刺されれば死ぬし、 殺せるのは殺せる。だが年はとらない。何も危害を加えなければ一生、 生きれる」

 「そんなことありえるわけないだろう! しかもそんな大事なことを何で俺に! 」


 あっ!

 俺は気付いてしまう。それを察したようで女は言った。


 「そうじゃ…お前はここで私が殺す。もう一つ教えてやろう。不老の薬を作るには実験が不可欠だった。家康様は大勢の女性と付き合い、 子を産ませた。そして、 その子供は全て差別の住民にして、 公開処刑にはその地区の差別の住民が全員参加するように命じた。

  もう分かったのではないか? おぬしが母親を殺したのは薬の実験のせいだったんだよ」


 えっ? 母さんを殺したのは…あいつの……あいつの……

 そして、 足が勝手に動き出し、 奥の戸へ向かう。


 「何処へ行く気じゃ? 」


 女の横を通ったときに聞かれる。


 「徳川を惨殺しに」


 女はフンッと言い、 俺の腕を掴んだ。

 何だ…この女……力が…強い…


 「行かせはせぬと━━━」


 その刹那。女が刀を抜く音がする。


 「━━━言ったであろうが! 」


 刀が俺に向けて振り下ろされた。

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