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第貮拾貮話  黒船来航

 死。死とは何なんだろう。何も感じないこと。痛みも触った感覚も…

 死とは息をしていないこと。手の温度が分からないこと。自分の存在に実感がわかないこと。



                   :



 暗く、 暗く、 広い空間から声が聞こえてくる。


 「よぉ…之翠……やっと来たか…」


 だんだんとそこに近づいていく自分の足。そして、 声の存在が分かる。


 「父上…………母上……久しぶりです」


 父と母が座っていた輪に之翠も同席する。


 「早かったんじゃない? 」


 母上が質問してくる。それに縦に首を振って応じる。父上も口を開く。


 「さぁ…これまでの出来事を聞かせてくれ…」

 「うん……」


 暗い暗い空間の中、 楽しそうな会話が響き渡る。



                   *



 「何…殺人……?」

 「新撰組が来てるらしいよ…」

 「うわっ…大丈夫かな……」


 そこは多くの人が集まっていた。そして、 その人たちが見ていたのは言うまでもない。

 昨日、 新撰組・土方歳三の手によって葬られた久保の血だらけの屍が転がっていたからだ。久保の周りは多くの人と多くの鴉に取り囲まれていた。



                   *



 布団の上で腰を浮かしたまま螢空はムスっとしている。


 「つまらん」


 寝てばかりで何もすることがないのだろう。

 そして、 体が布団に倒れこむ。そのままじっと天井を見上げたままだった。



                   *



 「はぁ〜〜〜〜〜!」


 大きなあくびをしながら目をこするその男は女から吏雄と呼ばれていた。


 「着いたか……」


 頭を掻きながら中へと入る男と数名。


 「ご注文は? 」

 「空を欲するなら森羅万象を知れ」

 「…どうぞお通りください」


 この会話前にも聞いた事がある。そう、 ここは先に古松が入って行った万屋なのである。

 廊下の先へ進み、 戸を開ける。


 「遅い! 」


 中に入ると速攻、 古松の怒鳴り声が聞こえてきた。


 「ああ…分かった分かった……頭痛いからガンガン言うのはやめてくれ…」


 吏雄という男を睨む古松は吏雄が椅子に座ると口を開いた。


 「二日酔いですか…? 」

 「いやいやいや…違いますよ……ただ頭が痛いだけで昨日は酒、 ちょっとしか飲んでませんよ……」


 あせるように声を上げる吏雄。それを見てなんて表に出やすい人だと小声で呟く。


 「いいでしょう…しかし、 これからは酒を飲まないようにしてください…大事な仕事があるんですから」

 「はいはい…………桃…酒」

 「……」


 桃と言う女は黙ったままであった。


 「あなたは言ってる傍から…………もういいです……それにここには酒ないですし」

 「はぁ? 酒ねぇのかよ……」


 吏雄はがっくりと肩を落とす。


 「あっても飲むなといっているのです吏雄」



                   *



 空……一体何を考えておるのだ? だが、 螢空が攻めて来た後に動くじゃろう…

 戦闘をするつもりじゃな……江戸ではなく……江戸を守る…いや…次の時代にさせないためか……

 しかし、 現実とは時に残酷なものだよ…

 徳川は何かの書類を見ながら内心で呟く。

 来たか…………5,6年早くしといてよかったな……


 「さぁ、 これからだ…全ての駒、時間は今、 動き始める」


 ドンッ

 地響きのような音がした。

 そして、 浦賀にペリーが来航する。

 後、 五日後の話。



                   *



 気付くともう朝であった。やはり昨日もつまらなかった。もう立っても支障がないくらいまで回復している。 


 「行こう」


 布団の横においてある着物を腕や腹に包帯をしたまま羽織る。

 そこに神流が現れて言う。


 「俺はお前を補助しないからな」

 「分かってる。自分のことは自分で出来るよ」


 そして、 一緒に廊下を歩き出すとそこには木下とその部下達がいた。


 「随分、 回復に時間を使ってしまったわ。早く行きましょう」

 「はい」


 俺と神流が返事をしてここを出て行く。そう言えばここの建物が何なのかは聞いていなかった。外へ出て看板を見ると宿泊施設のようだった。

 江戸へはまだある…………そして、 その途中で(ゼロ)になるんだ…

 次は絶対に負けない…



                   *



 江戸を目指して歩いて行く。一日、 また一日と過ぎていって、 もう四日目の夜となってしまった。

 前の日と同じように宿場を決めてそこで寝泊りをすることになる。

 もう埼玉県まで来ていた。明日でもう江戸に着く。


 「くっそ〜〜!! 何で一人もいないんだ! 」

 「項垂れるな! お前の感覚のせいかも知れないんだぞ! それか本当にいなかったのか…」

 「そこまで現実は甘くないのか…………」


 がっくりと肩を落とす俺を見て神流も少しへこんでいた。

 あと一日か……江戸にいるのかもしれないな……

 そして、 風呂に入ってすぐに寝た。



                   *



 1647年。

 本当にこの年かなんて誰も分からない。誰が基準で誰が決めたかも定かではない。

 翌日。俺たちは今日も朝早くから出発をする。

 昼ごろになるともう江戸には入っていた。何故かと言うともう埼玉県の端っこに来ていたからである。

 そして、 思いもよらない出来事が俺たちを襲う。


 「何かにぎやかね。さっきから人が行ったり来たりしてるわ」


 なんだかこの場の雰囲気に俺たちが合っていないような気がする。

 それは皆が走り回っているからだ。


 「何かあったのか? 」


 疑問を口に出したのは神流。俺も同じ疑問を今、 抱いている。


 「あの! 」


 木下が一人の女を引き止めた。


 「何でそんなに急いでいるの? 」

 「あなたは木下隊長ですか? 」


 珍しそうに木下を見る女性。それを相手にせず、 女性に質問する。


 「何でそんなに急いでいるのですか? 」

 「…えっ……ああ! 大変なんです! 黒船が! 黒船が! 浦賀に!! 」

 「何…………黒船って……欧米の船…………」


 驚愕の表情を浮かべる木下。その瞬間木下の口元が歪む。


 「これは…………好機ね……」


 木下が口元を歪めた理由(わけ)が分かり、 俺も自然と口元が歪んだ。

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