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第  拾玖話  零

 「あ〜暑い〜」


 だらけた声を上げながらだらだらと先頭を歩いているのは木下。

 部下の前でそんなだらしない声とだらだらとした歩きかたを見せてもいいのか? と思うが気力がなく、 声が出ない。

 しかし、 地下は少しずつではあったが涼しくなってきていた。

 それは時間が夕方になったために気温がどんどん下がっていった為であろう。

 もうすぐこの暑さともおさらばだと思いながら歩くと楽しくなってきた。

 しかし、 その楽しさも長くは続かない。



                   :



 それから五分が経った。

 木下の歩き方は依然と変わりはない。

 しかし、 そのだらだらとした歩き方が不意に足を止めた。


 「やっぱり予想は適中したわね…」


 俺達が進む方向に影が一つあった。

 その影は俺達に気付く様子を見せても立ち上がろうとはしない。

 それを確かめるなり、 皆、 武器を手に取る。

 当然、 武器を手に取らないのは俺だけだった。


 「来たか……一つ問う…お前達はここを通りたいのか…」


 影が俺達に対して問いかける。声からして男であることは確かだ。


 「通りたいですね…通してくれませんか? 」


 木下は男に問いかける。すると男は笑いだした。


 「はっはっはっはっ! 通してくれないか? だと? 当たり前なことを聞くなよ…通すわけがない。どうしても通りたいと言うのなら…俺を殺していけ」


 その声は凄まじかった。身を退きそうになったほどだ。

 男はまだ座ったままだ。

 木下が目で合図をおくり、 いっせいに男へと突っ込んだ。

 しかし、 それでも男は座ったままでそのうえ目も閉じていた。

 そして、 その目が不意に開く。


 「”しんりょく”を極めていないのか…お前ら全員…………死ぬぞ」


 男に突っ込んだ一瞬の時、 その言葉は確かに聞こえた。


 「第壱ノ型…蛇殺(じゃせつ)


 男の前から光りの刃が風の様にこちらに向かってきた。

 それは一本ではない。二本、 三本…。無数の刃がこちらに向かってくる。

 手足や体の至る所が切れて行き、 体勢が崩れ、 皆倒れていく。

 舞い散っていく血。

 その最中、 何にも動じずに座っていた男は覇者のようであった。



                   *



 「ハァ…ハァ……駄目だ…先にいる奴と戦っちゃいけねぇ…」


 壁によっかかりながら進んでいた琴遂はそんなことを呟いて一生懸命に先へ先へと進んでいた。

 琴遂が進んだ後の地面には何滴もの血の跡。


 「あいつらは……怪物だ……お前ら全員死ぬぞ……」


 追いつけないのは理解していたがそれでも足が勝ってに動いていた。

 前へ前へと動いていた。



                   *



 全員地面に叩きつけられた。

 皆、 体を何箇所も切られていてそこから血が垂れていた。服は所々が引き裂かれてぼろぼろだ。


 「あいつ…能力者……」


 木下が息を切らせながら言う。

 能力者か? 

 俺も一瞬そんなふうに思ったがあいつの目は何の異変もない、 とその線はないと判断した。


 「能力者じゃなさそうですね…あいつの目は変な風になってないようだし…」


 潤璽と言う人も俺と同意見のようだ。


 「そう…ね……じゃあ何なのよ…この力……」


 木下が悔しそうな表情を浮かべて言う。

 しかし、 その気持ちは皆同じだ。表情を表に出すのはあまり隊長としてよくないと俺は思う。

 だが、 そんな事を心で呟いている俺も悔しかった。


 「”しんりょく”」


 男は不意にその単語を言う。

 何の事だ? と首を傾げると男を説明を始めた。


 「人には生命の力が循環している。それは感情に伴って増えてり、 減ったりする。しかし、 それを操るのは不可能だ。それを操るために”心力(しんりょく)”がいる。

  俺達のように生命の力を操るものを”(ゼロ)”と呼んでいる。

  そして、生命の力のことを俺達は”(ひゃく)”と呼んでいる」


 頭が追いつかない。

 こんなものを信じる人って一体、 何人中何人ぐらいいるんだろう…

 けど、 受け入れるしかないのか…


 「それにしても…なんであんたがそんなものを使えるの…」


 木下が男に質問をする。

 こんな状況で敵に質問するのは勇気のいる行動だ。


 「新撰組の上位の奴らは全員、 (ゼロ)を使える。あとは…空の奴らも使えるな…」

 「私は何であなたが使えるのか聞いているんですけど…」

 「俺は殺し屋だ。幕府に雇われた」


 殺し屋! そんな職業聞いたことないぞ…裏の人間ってことか…


 「俺からも一つ質問いいか? 」


 男が言い、 木下は首を上下に振る。


 「そこの君は武器を持っていないけど…素手で戦うの」


 武器を持っていない…俺か!! 


 「え…ああ…」

 「そうか…じゃあ俺と一戦交えてみようよ。俺も素手で戦うんだ…大丈夫、 零の能力は使わないから」


 こいつ…どういうつもりだ……

 俺は完全に舐められている


 「いいよ…木下隊長たちは先に行ってください」

 「いければの話だがね」


 男は立ち上がると着物の砂をはたいてそのまま突っ立った状態になった。


 「木下隊長…俺があいつの方向へ走ったら木下隊長たちもいっせいに走ってください」

 「…分かった。追いついてくるのね…」

 「はい」


 俺も立ち上がり身構える。そして、 地面を勢いよく蹴り、 男の方へ走った。木下たちも同じ間合いで走っていった。


 「甘いよ…俺はこいつには零の能力を使わないといったんだ…」

 「余所見をするな」


 俺は素早く男の背後に回り、 背中に蹴りを入れた。しかし、


 「第弐ノ型…龍殺」


 キィーン

 なっ何だ…

 それは耳鳴りにも似た音だった。しかし、 音のでかさが違う。

 そして、 周りが真っ白になった。急に男の周りが光ったからだ。


 「うわぁ! 」


 その衝撃で後ろに吹っ飛ばされる。



                   :



 あれ…俺…気絶してたのか…

 目を開けて起き上がる。

 うっ! 頭が痛い…頭を打ったようだな…立ち上がらなくちゃ

 グフッ

 …え……? 

 立ち上がろうとした時、 口から血が出てきた。そして、 腹の方に激痛が走る。

 腹の方を見ると…

 何だ…これ……

 何か刺さってる光の刃みたいなものがそして、 地面には血が…

 そういえば皆は…無事に行けたのか━━━

 周りを見渡して見ると驚愕した。そこには血だらけの人たちが倒れていた。


 「雅琥…檜都…雲駕…廼斬…潤璽…吾陀…木下…界慟……」

 「何が起きたか分からなかっただろ…能力使ってお前も傷つけちまったし、 それは俺の魂が許さない…だから見逃してやるよ。じゃあな、 お前ら。まぁ生き残ってることを願ってる」

 「はぁ…? ふざけてんじゃねぇよ…」


 精一杯に体を持ち上げて、 立ち上がろうとする。そのせいで傷口がさっきよりも開き、 血がぼたぼたと地面に落ちていく。腹に刺さった光の刃を手で割る。その欠片は地面には落ちずに空中へと消えていった。


 「俺との決着はついてねぇだろ…」

 「ついてるさ」


 ふらふらとしながらも男に襲い掛かる。

 しかし、 それも簡単に受け流された。


 「もう終わりだ…小僧…」


 俺の首にすごい手刀を浴びせる。

 その瞬間、目の前が真っ暗になった。

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