第 拾漆話 海
地下であったことを全て話してもらった。驚愕した。新撰組も動いていて、 古松 籠は隊長たちに隠し事をしていた。頭が全てを受け入れられない。
「常識なんて通じないわ…………さて、 紹介を始めましょう。こいつは上杉 螢空。戦闘を見ていた通り、 螢空を使えるわ」
「あ、 あの……」
「何? 上杉君」
唾をゴクリと飲み込んで言う。
「俺…いや…僕…螢空使えなくなりました」
ここに入る全員の顔が驚愕して木下が声を上げる。
「何で!! 」
「分かりませんが…使えなくなりました」
あいつらに奪われたと思うけど…その話を持っていくとややこしくなるからなぁ…
「そう…残念ね…………続けるわ…上杉君、 右から雲駕君」
「どうも」
その人は全然、 汗を掻いていなかった。生まれは北海道ではないのだろう。
「雅琥君」
「よろしく」
その人は頬に切傷を負っていた。目がその人が強いことを語っていた。
「潤璽君」
「初めまして、 上杉君」
その人はいかにも紳士的な人だった。目は糸目だ。しかし、 その目は一瞬開き俺を一瞬睨みつける。この人も強い。
「檜都君」
「……」
その人は座っている円の中には入らず、 立ってこちらの様子を見ていた。その眼差しが俺に一礼させる。
「琴遂君」
「よろしくな」
その人はいかにも軽そうな性格だ。腰に差している刀の数は二本であった。
「廼斬君」
「どうも」
その人は右目に眼帯をしている。右が死角。
「吾陀君」
「こんにちわ」
その人は薙刀を持っていた。こんな昔の武器を使っているのは珍しい。
「そして、 界慟君」
「…どうも」
この人はあまりつかみ所がない。強いのか弱いのかも語らないその目はすさまじい。
「さぁこれで自己紹介も終わったところだし先に行きましょう」
「ちょっと待って! 隊長…」
声を上げたのは琴遂であった。
「誰かが前の方から来る」
その瞬間、 全員いっせいに武器を手に取る。武器を手に取らないのは俺だけ。
「手荒な歓迎だな…」
前から来たのは新撰組鬼の副長・土方 歳三であった。
「新撰組? 何故ここに!! 」
木下が声を上げる。
「ここの護衛を頼まれた、 『そこを通って木下が来る』ってな。だから、 てめぇらを始末しに来たってわけだ」
「そう…じゃあわた━━━━━」
「いや、 僕が行きますよ隊長。二刀流がどこまで通じるのかが知りたい」
木下の声を遮りでてきたのは土方の存在に気付いた琴遂であった。
「ああ、 二刀流…いいじゃねぇかかかって来い。血祭りにしてやるよ」
「なめるなよ…鬼の副長…………他の奴らは先に行けよ。必ず追いつく」
「そんな無茶━━━━━」
木下の声を遮ったのは自己紹介の時間ずっと立っていた檜都だった。
「隊長…男の覚悟に手を出すな……追いつくって言ったんだ。男に二言はない」
その言葉でしぶしぶ理解して先を進むことになった。
「お前は運がいい」
「何で」
その声には殺気が十分と言うほどこもっている。
「そう殺気立てるな。先に行ったあいつらは終わりだ。あいつは人を殺めるのが好きじゃないが非情」
「言ってる意味がわからねぇよ」
右手の刀を振るうがあっさりよけられる。そして、 土方は刀を抜いた。
「理解できないか…哀れだな…」
「哀れ見るなよ鬼の副長。思いっきり遊ぼうぜぇ」
「ふん…馬鹿が」
片方の眉を上に上げ琴遂が言う。
「馬鹿? おめぇもだろ? 」
土方が琴遂を睨み言う。
「もういい。おしゃべりは終わりだ」
刀を構え琴遂に向かっていく土方の速さは尋常ではなかった。
キンッ
土方の一太刀を片方の刀で防ぐが、 その時
ピリッキシキシッパリンッ
「なっ! 刀が……折れた……」
空中に舞い散る刀の破片。琴遂が驚愕の表情を浮かべる中、 土方はにやりと微笑む。
*
「あっさりと先に行かせたと言う事は…」
木下が走りながら独り言を言う。
「この先にも誰かがいるってことね」
しかし、 三十分経った頃。
「先に光が見えてきた! 」
声を上げたのは先頭を走っている木下。
その光はどんどん近づいてくる。そして、 光の向こうには…
「これは……」
*
「螢空…この世にはね。空くらい広くて空よりも青い海と言うところがあるんだよ」
「うみ? 」
「そう、 ここからは遠くていけないけど絶対にいつか行くんだよ」
「うん、 行く! 母上も一緒にね」
「分かった…約束よ」
母上は小指を立てて右手を俺に差し出す、 そして、 俺も同じように右手を差し出し、 両方の小指を絡ませる。
「うん!! 」
その手はすごくすごく大きかった。
*
「…これが……海…」
海がこっちに来たり、 遠ざかったりしてザザーンと音が鳴る。海は本当に青く、 青く、 太陽の光が反射して輝いていた。
それを見て感動して目から涙がこぼれそうになる。それを着物でぬぐいもう一度海を見る。
海は本当に輝かしいものであった。
「母上……約束…………守れなくて…ごめん……」
声に出す気は全然なかったが勝手に出てしまう。木下たちは俺を見るなり、 一時その場に座って海を眺めていった。




