第 零ノ壹話 序章
駄目だ……
口の中は鉄の味しかしない。
『お前は俺を蹴ろうとしたとき、一瞬、戸惑った。俺に情が移りでもしたか? 上杉螢空』
お前に情を移してなんていない……なのになんで俺は戸惑った。
悔しさが込み上げてくる。
俺はいつまで経っても中途半端だ。
額の傷から出る血は止まることを知らない。
でも、そのおかげで冷静に考えられたのかもしれない。
◆
「やめて! お願い……だから! どうして……どうし……て……」
どうしてってお前が狂わせたんだ。
――俺は何も悪くないんだ。
俺は自分の母親に刃を振り下ろした。
これしか方法はなかったのか。それは分からない。
カランッ
俺の手から刃物が落ちる。
刃物は赤い液体で染められていた。
俺の手も同様。手は赤かった。
俺はその赤く染まった手で顔を覆い――――
「アハハハハハハハハハァァァァァァァァァァァァァ」
眼から涙を溢しながら――。
◇
『お前は感情を捨てなければ俺には勝てない! 非常になれ!』
先言われた言葉を思い出す。何故あんな奴の言葉が俺を歪めるのか分からないだけど、俺は――――非情になんてなれないと思うから。
人である限り感情を捨てることなんてできないと思うから。
ゆっくりとその場から立ち上がる。
頭が痛い。視界が悪い。
でも、やらなければ……
――――――――奴を殺す




