Vol.1 聖女はよく頼まれごとをされる
誤字脱字等がありましたら感想にでもふざけんなよって罵倒交じりに書いてくれれば。直したり直さなかったりします。
「はぁ、ゲーム、ですか」
「そう、ゲーム。あなたなら、こう…いい感じに手伝ってくれるんじゃないかと思って」
「はぁ、いい感じに…」
「でも、もし、もしよ?嫌だって言うなら無理強いはしないわ。だって私は誇れる魔女だもの」
ちょっと不安そうに揺れる瞳に相変わらず可愛いなぁ、と思いながら昨日までに届いたSNSでの連絡の数々を思い出していた。
~とあるSNSでの一幕~
お野菜食べろ:お兄ちゃん、ゲームとかって興味ある?
ポテト好き聖女:ジャンルによるかなぁ
ポテト好き聖女:ちなみにジャンルは?
お野菜食べろ:聞いて驚け、なんとMMOだよ
ポテト好き聖女:私、コミュ障なんでちょっと無理ですね
お野菜食べろ:聖女がコミュ障とか世も末だなぁ…
ポテト好き聖女:それはともかく、勉強とかちゃんとしてる?母さん心配してたけど
お野菜食べろ:またぁ?結構いい点数取ったはずなんだけど
ポテト好き聖女:点数ではなく、授業態度が悪いとかなんとか
お野菜食べろ:マ?寝てたのは失敗だったか
ポテト好き聖女:ゲームもほどほどにね。あんまり心配させると今度は私にも被害が
ポテト好き聖女:主にちみの部屋に泊まらせられたりするのは嫌なのだよ、聖女的に
お野菜たべろ:わらう
ポテト好き聖女:笑い事じゃないんだよねぇ…
お野菜食べろ:別にお兄ちゃんなら歓迎だよ
ポテト好き聖女:歓迎されたら職場が遠くなるの。わかって?
お野菜食べろ:まぁ、考えとく。歓迎されたくなかったらゲーム手伝ってね。タイトルがねー…
ポテト好き聖女:どっちに転んでも巻き込まれているのでは…?
お野菜食べろ:むしろ巻き込んだもの勝ちでは?
ポテト好き聖女:さいですか…。まぁ、ほどほどにね
お野菜食べろ:はいよ、おやす
ポテト好き聖女:はい、おやすみ
唐突な連絡だったし内容もわからなかった妹との会話その1。結局心配は父さんにも波及して家に連れ戻すか私を送り込むかの二択になっている模様。なんでさらりと長女の人権を無視するのか。
~とあるSNSでの第二幕~
光の王子:おはよう。春の日差しを感じる今日この頃、聖女におかれましてはどのようにお過ごしでしょうか?
ポテト好き聖女:おはようございます。忙しいので後にしてください。
光の王子:マ?返答はやない?
光の王子:ちょ、既読スルーはやめて?傷つく
光の王子:みてー。ちゃんとみてー。
ポテト好き聖女:私のスマホがピコピコうるさいって神父さんに怒られたので慰謝料ください。
光の王子:マナーモードにすればいいのでは?
ポテト好き聖女:で、なんですか
光の王子:とあるゲームを我が社(王国)が出したのでテスターはやらない?
ポテト好き聖女:仕事して王子
光の王子:これも一応仕事なんだよなぁ…
ポテト好き聖女:テスターとか私じゃなくてもいい案件でしょう
光の王子:広告塔としてはこれ以上ないベストチョイスだと思います、はい。ついでに孤児院の子供に雄姿を見せれば人気も増えるよ
ポテト好き聖女:孤児院の子たちには元から人気なので他を当たってください。
光の王子:なんと!現実の能力も使える!超ド派手アクション!君もその世界を体感しろ!
ポテト好き聖女:嘘くさすぎませんかその謳い文句。教会だってもっとマシなこと言いますよ。
光の王子:たまに君は聖女としてどうかと思う台詞をさらりと吐くよね。
ポテト好き聖女:とりあえず、保留で。一カ月くらい。
光の王子:テスト終わってる時期だよねそれ…。
光の王子:とりあえずやる気がでたら教えてね。タイトルはね…
唐突な話だしやる気もなくてそのままスルーした話その2。そういえばあの後連絡してないままだからどうなったことやら。
~とあるSNSでの第三幕~
聖女好き勇者:聖女、今大丈夫?
ポテト好き聖女:はい、なんでしょう?
聖女好き勇者:今こっちで凄く盛り上がってるゲームがあるんだけど、一緒にどう?タイトルが――――っていうんだけど。
ポテト好き聖女:ゲームですか、あまり時間が取れないので気は進みませんが
聖女好き勇者:そっか。まぁあんまり無理しないようにね?
ポテト好き聖女:はい、ありがとうございます。ところで、勇者さん?
聖女好き勇者:ん?
ポテト好き聖女:名前が聖女好きになってて恥ずかしいことこの上ないんですけれど
聖女好き勇者:ああ、つい
ポテト好き聖女:ついで私を辱めるの、やめません?
聖女好き勇者:別に辱めるつもりはないんだけど、日頃から公言しとけば多少は諦めてくれる人増えるかなって
ポテト好き聖女:それ、このSNSで拡散する必要あります???
聖女好き勇者:SNSだからこそだよね。致し方ない犠牲だよ
ポテト好き聖女:せめて自分を犠牲にして???
聖女好き勇者:プロポーズしていいなら、妥協する
ポテト好き聖女:??????
聖女好き勇者:妥協しない場合呟きちゃんの名前も変更します
ポテト好き聖女:あのあの、あの。なんで私脅されてるんでしょう?
聖女好き勇者:とりあえず、近々そちらに行くのでその時はご両親に挨拶に伺います。
ポテト好き聖女:順序おかしくないですか?私にプロポーズをするの先じゃありません?
聖女好き勇者:するよ、するする。大丈夫、安心して
ポテト好き聖女:それはそれで安心できないのですけれど
聖女好き勇者:えぇ…?我がままだなぁ
ポテト好き聖女:これはワガママの内に入るんですかね…?
聖女好き勇者:まぁ、そのうちね。お仕事頑張って
ポテト好き聖女:はぁ、頑張りますけど…。
話が逸れに逸れたどうでもいいけど個人的にはどうでもよくない話3。結局あれから音信不通。にゃろう、どういうつもりだ。いや別にプロポーズをして欲しいわけではなく。
~とあるSNS第四幕~
小腹がすいた魔女:聖女?今大丈夫?
ポテト好き聖女:はい、大丈夫ですよ。珍しいですね、どうしました?
小腹がすいた魔女:ちょっと相談があるんだけど、都合のいい日ってないかしら…?
ポテト好き聖女:相談、ですか。懺悔室ではダメですか
小腹がすいた魔女:懺悔!?私は懺悔するようなことなんてないわ!
ポテト好き聖女:いえ、単純に懺悔室なら特に漏れることなく話せるかなぁ、と思いまして
ポテト好き聖女:相談なんですよね?それとも、そこまで深刻なものではない感じでしょうか
小腹がすいた魔女:深刻といえば深刻だけど、そうでないといえば…。まぁいいわ、明日懺悔室で待ってて頂戴
小腹がすいた魔女:明日はお休みだったとか、ダメだからね?
ポテト好き聖女:平日なのでお仕事ですね…。ええ…。
小腹がすいた魔女:そう、なら明日行くわ。
そして今に至る、と。
懺悔室の暗闇を謎の緑色の発光が照らしだす。
謎の発光?
「ああああ、落ち着いてください!?そんなに動揺するような内容じゃありませんから、魔力が発光してますよ魔女さん」
「べ、べつに動揺はしてないわ。そう、ちょっと不安だから出ちゃってるだけよ」
自分でカミングアウトするのか、それを。
そして不安になった程度で魔力暴走の発光をさせないで頂きたいのですが。
「ちなみに、そのゲームっていうのはなんていう名前ですか?」
「名前?えーと、確か」
エルガリア王国物語。
勇者と、魔女と、魔王と。滅びた王国を巡る争いの歴史。そして、その復興の歴史。
エルガリアの国は燦然と輝く。血を血で洗いながら。決して少なくない犠牲を払いながら。
その中心には、いつも一人の少女がいた。心に涙して。嘆いて。全てをあるがままに受け入れ、慈しんだ、一人の少女が。
偽物だと一瞥するだろうか。フィクションだと一笑に付すだろうか。それとも、現実なのだと嘆くのだろうか。
されど、我々だけは謳うだろう。これは現実に起こった出来事なのだと。その歴史の一幕なのだと。
さぁ、新たな世界の幕開けだ。
勇者は去り、魔女は眠った。魔王は散り、聖女は一人祈る。
天を仰げ、空を見ろ。前を向け、大地を踏みしめろ。
伝説は終わりを告げた。ならば、後は勇敢なるものが紡ぐのみ。我々の歴史を紡げ。
それこそが、栄光たるエルガリアにふさわしい。