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終わりの始まり

「お前飯が作れるんだな」


サナは意外そうにファイの作った食事に口をつけた。

しかも結構美味しい。


「は?喧嘩売ってんのか?」


ファイ達は幼い頃、大人の庇護を受けず暮らしていた時期がある。その時、散々失敗しながらも習得した腕である。


「いや、素直に褒めている」


今夜はだいぶ冷える。空き家でも休める場所が見つかってよかったとサナは思った。ウィンドレム程寒くないが、こちらには地下がない。野宿などしたら凍え死んでしまう。

二人は食事を終えると、さっさと寝る準備を始めた。寝ている間に火が無くならないよう、薪を増やし魔術で火を持続させる術をかける。するといきなりサナがファイの腕を引き自分に引き寄せた。


「あ?」


ファイがサナを見上げると、すぐ近くにサナの顔がある。


「抵抗せずに大人しくしろ」


そう言って近づいてくるサナに、ファイは目を見開き思い切り殴ろうとして手を掴まれる。その力の強さにファイは驚いた。


「誤解するな、必要な事だ。後で説明する」


何を言っているのか。今、説明しろと口に出そうとして、その口をいきなり塞がれ、あろう事かファイの口の中に舌を入れてきた。怒りで噛みちぎってやろうとした時、ファイの中に何かが流れ込み、身体が急に熱く燃える様な感覚を覚えた。この感覚をファイは知っていた。サナはそのままファイの額に指を当てると唇を離し、軽く何かを描いた。その瞬間にファイの身体が急に軽くなった。


「お前に掛けられていた制約を解いた。もう意味がないからな。俺がお前の所に来たのはこれをするためだ」


「せい、やく」


「お前がシャイアの心臓をもらった時、同時にかけられた制約だ。シャイアに関する情報を漏らさぬ様、術をかけられただろう?もう話せる。そのせいで必要な情報までお前は話せなかっただろう?」


そう。ファイは昔シャイアに命を助けられた事がある。その時、その内容を秘匿する為、シャイアはファイに制約の術をかけていった。そのせいでファイは今まで、あの事件のことも自分の事も一切喋れなかった。


「お前が派手に動いたお陰でその制約は意味を成さなくなった。だから先にそれを解く為、その術が使える俺が来た」


サナはそう言ってファイを振り返るとギョッとした。


「あっそう」


「・・・・ファイ?」


そこには無表情のまま涙を流すファイがいた。サナは驚いて思わず狼狽えた。


「・・・・・・何だ、そんなに嫌だったのか?」


まぁそれはそうだろうが、泣く程嫌がられるとは思わなかったサナは些かショックを受ける。サナはガシガシ頭をかくとファイを覗き込んだ。


「事故だと思え。泣くな」


サナの言葉に全く反応しないファイにサナは困ってしまう。暫く考えサナは抵抗しないファイを抱き寄せそのまま横になった。毛布を掛け目を閉じる。ほって置いたらそのまま朝まで泣いていそうな勢いである。


「ファイ。シャイアはお前に必ず会いに来る」


その言葉にファイは、やっと反応を示した。

それを確認しぽんぽんと背中を叩いてやる。


「あいつには、お前しかいない。余計な心配をするな」


そうだろうか?とファイは思う。シャイアは別にファイが居なくても平気だと思う。


「全く。どうしてこんな事になってしまったのか・・・」


サナはファイと会って初めて愚痴を口にした。そういえばサナが今まで押し付けられたファイに対して文句を言った所をファイは聞いた事がない。彼は会った時からそれが当たり前の様にファイの側にいる。

しかしファイは今それを聞く気分にはなれなかった。

ぎゅっと目を閉じて顔を伏せた。サナは何も言わず黙って目を閉じた。



****



「シャイア?こんな所で何してんだ?」


それはパメラ達が来て、数ヶ月経った頃。暫く集落に顔を出さなかったシャイアをファイは集落の外で見つけた。

シャイアはファイを見つけると、その腕を掴み森の中へ身を隠した。


「お前!何をやっているんだ!」


シャイアは見たこともない様な剣幕でファイを怒鳴った。ファイは何のことだか分からず首を傾げる。


「何って・・・なにがだよ?」


「何故お前達の家に魔人がいる?!」


ファイはシャイアの問いに目を見開いた。そういえばシャイアは魔人を狩ると言っていた。

しかしシャイア達が狩るのは闇に堕ちた魔人だ。パメラとアーシェは親子である。闇に堕ちているとは思えない。


「まぁ成り行きで・・ずっといるわけじゃねぇよ。そのうち出て行く」


「すぐに追い出せ!あいつらは危険だ!」


凄い剣幕でまくし立てるシャイアにファイはだんだん腹が立ってきた。暫く来なかった癖にやっと会えたと思えば何なんだろうか。


「お前さっきから何なんだ偉そうに!何で知りもしないのに悪く言うんだよ!あいつらが魔人だからか?」


「それだけじゃない!ファイ、理由はまだ言えないが、あいつらはお前に害を加える者だ。決して信用するな」


「魔人が嫌いなんだな。だけど私はそうじゃないって言っただろ?」


ファイはシャイアの手を振り払うと睨みつけた。


「そんなに気に入らないなら、あいつらが出て行くまで家に来るな。暫くお前とは会わない」


ファイは言いたい事だけ言うとシャイアを見ることもなく立ち去った。ファイはこの後、それを後悔する事になった。




「ファイ!」


集落に帰るといつもは取り巻きを連れて歩いている少年が青い顔でファイを目指して走って来た。ファイはその少年が自分の名を呼んだ事に驚いた。


「何だ、どうしたんだお前・・・」


「ロゼは?今すぐあいつとここから逃げろ!!」


少年の手はガタガタと震えている。ファイは咄嗟に少年の腕を掴んで死角に連れて行く。


「何で突然。お前ら私達の事なんて嫌いだっただろ?」


「違う。それは父さんや大人達がお前らと関わるなって・・・でも、別に殺したい程嫌ってた訳じゃない」


ファイは目を見開いた。それは恐らく大人達がファイ達を殺すつもりだと言う事だ。少年はポケットから袋を取り出すとファイに渡した。ファイはそれが何なのか分からず少年を見た。


「ファイ、ごめん。今まで。俺馬鹿だから分かんなかった。この村はおかしいよ。まだ大人達は俺達が気づいた事を知らない。今のうちにここから出て安全な所へ逃げろ」


その袋を開くとそこにはお金が入っていた。ファイは驚いて袋を返した。


「こんなのいらねぇ。お前が使え」


「違うよ。それは返しただけだ。俺の親父がお前の家から盗んでた物だから」


少年は泣きそうな顔でファイを見た。


「ファイ、ロゼと生き残れ。お前達はこんな所にいちゃダメだ」


少年はそう言ってファイの背中を押した。


「日が落ちる前にここを出ろ。大人達があの家に押しかけて来る前に!」


それを合図にファイは走り出した。なんて事だ。


(ロゼ!)


ファイは勢い良く家の扉を開いた。しかしそこには誰もいない。


(誰もいない?パメラも?)


この時間。いつまならパメラはまだ家に居るはずだ。

ファイは嫌な予感がした。

まずはロゼを探さなければと踵を返すと丁度帰ってきたアーシェとぶつかりそうになった。びっくりしているアーシェにファイは詰め寄る。


「ロゼは!!あいつ今どこにいる!?」


「ロゼ?さっきパメラに呼ばれてどこかに行ったけど・・・」


なんて間が悪いのか。ファイは舌打ちして出て行こうとしてアーシェに止められた。


「ファイ。どうしたの?教えて」


「ここの村人は私とロゼを今日殺すつもりらしい。今すぐ逃げないとロゼが殺される!」


アーシェはその言葉に驚いた顔をしたがすぐ冷静にファイに言った。


「それは多分、ロゼを生贄にするつもりなんだと思う。それならこの集落にある祠にいるかもしれない」


何かを知っている口ぶりのアーシェにファイは顔を歪ませた。アーシェは困った顔で説明した。


「調べたんだ。ロゼから母親の事を聞いたから。この村の大人達はあの祠でもう何人も人を殺してるみたいだ」


それでは、ロゼの母親はやはり。


「ファイ、パメラは僕の母親だ。だけど僕は、もしロゼとパメラどちらを守ると問われたらロゼを守る」


信じ難いアーシェの発言にファイは頭が混乱した。この青年は自分の実の母親より最近出会ったロゼの方が大事だと言ったのだ。


「な、なんで・・」


ファイの問いにアーシェは憂いを浮かべた。あんなに優しい母親なのに。


「あの人は僕の事なんて愛していない」


ファイは驚愕で目を見開いた。頭の隅でチカチカと警報が鳴っている。心臓が激しく鼓動し手が震え出した。


「パメラはここの人間を皆殺しにしてここに眠っている竜を解放するつもりだ。この世界を壊す為に」


その時ファイの頭の中に彼の声が響きわたった。


ー決して信用するなー


ファイは目の前が真っ暗になった。

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