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ファイの過ち

その日シャイアと別れて家に帰ったファイを待ち構えていたのは家の前に群がる村人達と呆然と立ち尽くしたロゼだった。ファイは最初またロゼが大人から難癖でもつけられているのだと思い憤怒して足早に駆け寄って行った。

しかし、その中心に近付くにつれ、ロゼの青白い顔がハッキリと確認出来ると、嫌な予感でファイは嫌な汗が吹き出た。

心臓が激しく鼓動している。

そしてファイがそこにたどり着くと人々の中心には血塗れで息がないロゼの母親の姿があった。


「・・・・な、なん・・・」


「お前、ファイ!!今までどこに行っていた!まさかお前の仕業ではあるまいな!!」


その集落の村長はすごい剣幕でファイの服を引っ張った。ファイは呆然とロゼの母ローダリアを見つめた。

今朝まで彼女は何事もなく笑って過ごしていた。それなのに今彼女はひどい姿で目の前に晒されている。


「・・なんで・・誰がこんな事・・・」


「とぼけんのか!!お前がやったんだろう!?」


男はファイがやった物と決めつけている。しかし背後からそんな男に声がかけられた。


「ファイは先程までうちの弟子と一緒におりましたよ。その子が犯人ではない。それにそんな小さな子供に大人をここまでめった刺しにできるものですかな?」


そこにはいつもシャイアと共にここに訪れる商人の男が立っていた。隣にはシャイアもいる。男は忌々しそうにファイから手を放すと踵を返した。


「犯人はこちらで探す。お前達は余計なことをするなよ!」


せっかくの女手がなどと悪態をつきながら村人はその場から離れて行く。誰も彼女の死を悼んだりなどしなかった。

ファイはローダリアに駆け寄ると、その頬を両手で包み込んだ。


(何故、何故こんな事に・・・)


ファイの中のもう一人の自分が問うている。ファイが知る限りこの村の役割を果たす為には彼女が必要不可欠だった筈だ。ここにはこの世界に必要な物が眠っている。ロゼとローダリアはそれを守る為の一族である。これではその役割を果たす事が出来なくなってしまう。

ファイはハッとロゼを見た。そこには未だかつて見たこともない様子のロゼがいた。


「・・・ロゼ」


「このままでは可哀想だ。ちゃんと弔ってやらないと」


男は弔うつもりの無い村人達の代わりに全ての準備をし、ロゼの母親を埋葬してくれた。

その時ふたりは僅か8歳。大人の庇護が無ければ生きていけない歳である。しかし二人がここを出る事を村の代表者達は決して許さなかった。ロゼがこの村の人間だったからだ。この集落の掟で、ある一定の歳になるまで、外で暮らしていけないというものがあったのだ。


二人はその日から幼くして二人で生活する事になった。

幸い商人の男がロゼの装飾品を定期的に買い取ってくれた為生活費はギリギリ何とかなったが、その日から集落の人間達の二人に対する態度は酷い扱いになった。


元々ロゼの母親をよく思っていない者達がその鬱憤を晴らすかの様に二人を虐げ始めたのだ。しかしロゼとファイには常人ではあり得ない程の魔力があった為、あまり手を出すと危険だと学んだ村人達は、今度は二人を徹底して無視し始めた。


ロゼの心は目に見えて荒んで行った。

ファイはそれを止める事が出来なかった。ファイだけでは彼女の心を救ってあげる事が出来なかった。それでもファイだけにはロゼは心を開いた。ロゼにとってファイはあの頃全てだった。そしてファイもロゼだけに心を向けようと決めていた。それなのに、奴等はやって来た。


「身体を休める為暫くこの村に滞在したい?」


「はい。主人を探して旅をしていたのですが、私が途中身体を壊してしまいまして。子供もおりますので、どこか部屋をお貸し頂けないでしょうか?」


子供連れのその女は珍しい黒髪で赤い目をしていた。シャイアと同じだ。しかし連れの青年はブラウンの髪にブラウンの瞳だった。父親似らしい。


「この村には宿など無い。空いてる部屋もない」


「そこを何とか、部屋の隅でいいのです」


ファイは今でも後悔している。何故自分はその二人を見つけてしまったのか。


「貸してやろうか?金を払ってくれるなら部屋を貸してやるよ」


「ファイ!テメェガキは黙ってろ!!」


「あら?親御さんは大丈夫なのかしら?」


ファイは首を振ると男を睨みつけた。


「親はいない。ここの村の誰かに殺されたからな」



「ーーーな!!」


絶句する男を無視してファイは自分の家を指さす。女は怒っている男の手に何かを渡すと、笑顔で何かを囁いた。


「なるべくご迷惑をお掛けしないよう過ごしますので。出来るだけそっとしておいて頂けますか?お約束いただけるなら、毎月この村に心ばかりですか寄付させて頂きます」


その男の手にあるのは普通なら手に入らない様な宝石である。

男は引きつりながらも、その女の誘惑に抗い切れず笑みを浮かべた。


「まぁ、大人しく過ごすなら」


離れていく男を見送ると、女は優しく笑って名を名乗った。


「私はパメラ。この子は私の子供のアーシェです。暫くお世話になります」


「敬語はいい。家は子供しか居ない。どう過ごそうが勝手だが、少しでも怪しい動きを見せたらすぐに追い出す。余計な事はするなよ」


ファイはこの時、きっと何かきっかけが欲しかったのだと思う。ロゼが少しでも変わるきっかけが。

家の扉を開け、中にいるロゼに事情を説明すると、ロゼは渋々了承してくれる。部屋の中に通し二人が挨拶を交わした時。ファイは僅かなロゼの変化に気がついた。


「初めまして。私はロゼ」


「僕はアーシェ。よろしくね?」


ファイの時には黙っていた青年は、ロゼが挨拶すると僅かに笑顔を見せ、ロゼに手を差し出した。その様子に隣のパメラは少し驚いた様だった。ロゼも僅かに微笑むとパメラにもそのまま手を差し出した。パメラもそれに笑顔で応える。


「暫くお世話になります。よろしくねロゼ」


その柔らかいパメラの笑顔に、ロゼはあの日以来、始めて嬉しそうに微笑んだ。ファイは堪らなくなって目を伏せた。

その日からロゼは昔の様に笑顔を見せる様になったのだ。


「ロゼどこ行ったか知ってるか?」


「まぁ、また何処かに行ってしまったの?」


あれから一ヶ月程たって、パメラ達がいる生活にも慣れた頃。ロゼは頻繁に外出する様になった。ファイはその理由に気づいていたがパメラには黙っていた。

きっとロゼはアーシェと一緒に居るはずだ。


「そういや、パメラ具合は良いのかよ」


「ええ、最近は大分安定しているわ。ありがとうファイ」


パメラがここに住むようになり、二人は大人が家に居るという安心感を改めて感じる事がある。やはり子供二人だけの生活は精神的にも身体的にもかなり負担がかかるものなのだと改めて知った。ファイは内心パメラに、このままここにいて欲しいと思っていたが、言い出せなかった。


「別に、部屋貸してるだけだし。うぜぇ大人達も来ねぇからこっちも助かってるし」


村の大人は油断出来ない。様子を見るふりをして金銭になりそうなものを盗っていくのだ。この集落はとても貧しい。仕事も周りにない為、食べていくのに一苦労なのだ。


「こんな小さい子猫のような貴方達を虐げるなんて本当にどうしようもない人間達ね」


パメラは笑ってファイを手招きした。ファイは素直に近くまで行くとパメラはファイの頭を優しく撫でた。


「なんだよ?」


「別に?髪が乱れていたから、直しているだけよ?」


悪戯っぽく微笑まれファイはそれ以上何も言わず、されるがまま頭を撫でられている。パメラは最近よく、こうやってファイの頭を撫でるのだ。ロゼにはしないのに、ロゼが居ないこんな時だけファイを甘やかす。


「ファイはここの人間達を殺したいと思う?」


パメラの言葉にファイは考える。そう思った事は何度もある。しかし実行しようとした事は、ない。


「雑魚相手に手を汚す気はないね」


ファイの言葉にパメラは微笑んだ。ファイはパメラといるといつも変な気分になる。彼女はファイを叱らない。

どんなに口汚い言葉を吐こうとそれを諌めた事はない。

彼女はいつもその奥の彼女の真意を察してくれる。


「こんなにも優しいのに。本当に見る目がない大人達なのね」


ファイはパメラが人間じゃないと気付いていた。パメラも気付かれていると分かっていて隠さなかった。

それは二人の間だけの隠し事になっていた。

ファイはパメラがいつか、ここから居なくなる日が来ると覚悟していた。だから彼女がなんであろうと、この穏やかな日々を与えてくれた彼女達の助けになりたかった。


今でも思う。何故自分はあんなにも彼女を信じてしまったのかと。


そして、何故あれ程、自分を想ってくれたシャイアの言葉を信じなかったのだろうと。

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