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ファイの役割

その日、集落にギルドからロゼの父親の知り合いという青年が訪れた。その青年は銀髪で美しい顔をしていた。通り過ぎる村人はその青年とすれ違うたび彼を振り返っている。ファイはロゼの母親とその青年が何やら真剣な表情で話しているのをじっと遠くから見ていた。

とても、嫌な感じがする。


「あ、ファイ!こんな所に居た!お母さんが呼んでるよ」


ロゼは何も気付かずファイを引っ張って行こうとする。

しかしファイはあそこにロゼを連れて行きたくなかった。

ロゼの腕を掴むと逆側に引っ張って行く。


「え、え?ファイ?どうしたの?」


遠ざかって行く二人を銀髪の青年とロゼの母親は黙って見ていた。そしてロゼの母親は目を閉じ指を組んで何かに祈った。


「ファイ」


ロゼを無視してファイは集落を出た森をズンズンと歩いて行く。ロゼは困った顔のまま集落の方を見た。日が沈みかけている。


「ファイ!とにかく止まって!あまり遠くに行くのは危ないよ」


絶対に良い知らせではない。聞きたくない!!


「ファイ!!!」


ロゼの声にピタリと足を止める。ロゼはファイの背中の服をぎゅっと握って俯いている。


「ファイ・・・・大丈夫だから・・・帰ろう」


もう、半年もロゼの父親は帰って来なかった。こんな事は今まで一度もない。彼はベテランの冒険者である。

三人は今までずっと信じて待ち続けていた。


「多分、悪い知らせだと思う。でも大丈夫だよ」


ロゼは俯いたまま二度ファイの服を引っ張った。


「いつか、こういう日が来るってわかってた」


嫌だ。認めたくない。


「ファイ。いつか、ここを出て行こう」


ファイが振り向くとロゼは笑っていた。ファイは泣いていると思っていたので少し拍子抜けした。


「父さんね。もし、自分が帰って来なかったら探しに来いって言ってた。だから一緒に行こう」


彼女の瞳を見つめるとファイは安心する。

ファイも笑ってロゼを抱きしめた。


「ああ!行こうぜ!約束だ」


二人はいつだって二人でいた。

その数年後離れ離れになるなどこの時二人は想像もしていなかった。



****


「ったく!鬱陶しいな!」


ファイとサナは今、全速力で走っていた。パラドレアの東地区に足を踏み入れた途端に魔物が襲いかかって来たのだ。それも村の中である。村人達がいるのでファイは魔術を使えない。間違って村全体が燃えてしまってはいけないからだ。

二人は剣で敵を倒しながら魔物を村の外へ誘導して引きつけ敵を村から引き離している最中である。


「何で行くとこ行くとこ魔物が出んだよ!!匂い袋でもつけてんのかお前!!」


そう。サナと旅する様になってから魔物との遭遇率が高くなった。明らかにサナが原因だとファイは確信している。

二人は程よい位置まで来ると足を止めて詠唱した。


「援護する」


サナは指先で円を描くと光る輪の中に手を入れてファイの放った炎に自分の聖魔法を被せ起動修正させる。炎は的確に魔物に直撃し弾けた。


二人がだるそうに魔物の残骸を確認していると二人が走って来た方向から誰かが走ってくるのが見える。


「うわぁ!もう倒しちゃったんですね!凄い!」


村から追いかけて来たのか明らかに冒険者の青年がにこにこしながら二人に話しかけてきた。どうもこの青年もあの場に居たらしい。


「何だお前も冒険者か?」


「はい。すぐ追いかけたんですけど、お二人のスピードが速すぎで追いつけませんでした。ベテランの冒険者ですよね?」


人の良さそうな青年は笑顔のままファイに近づいて行く。

サナは同時にファイを自分に引き寄せる。


「僕はマルコ。今パラドレアの現地調査をしている所なんです。何か有力情報があれば教えて頂きたいのですが」


ファイは青年を見て首を傾げる。何故冒険者がパラドレアの調査などしているのだろう。


「ああ!この国、僕の故郷なんです。数年前からこの国に起きている異変を調べてギルドを通してこの国に売っているんですが・・・原因が中々掴めないんですよね」


話を聞くと他にも数人そんな冒険者達がいるらしい。

ファイはそれを聞いて確信を深めていた。それは自分達の存在の事。そして。


「だろうな。原因があるとすれば今の所一つだ」


ファイは歪んだ笑みを浮かべてとんでもない事を口にした。


「この世界は終わりに向かって動いている。次々に起こる異変はその前兆だ」


ファイの言葉に青年はおかしげに笑みを作ったが、サナは眉を寄せてファイを見た。


「信じようが信じまいがどうでもいい。それ以上の情報はない」


ファイは信じていない青年と非難めいたサナを放って歩き出した。青年は慌ててファイの背中に声をかけた。


「待ってください!貴方名前は?」


「聞いてどうする?」


ファイの言葉にマルコは笑みを消し真剣な顔をした。


「もし、貴方の言った事が本当なら、いずれ貴方とまた会う事になります。その時名前が分からないと困ります」


ファイはやる気が無さそうに振り返るとダルそうに名乗った。


「ファイだ。二度と会わない事を祈ってるんだな」


そう言うと今度こそ、その場を立ち去った。

サナはファイを睨んだ。


「お前、何を知っている?何故この世界が終わりに向かっていると?」


「何故?私が産まれたからだよ」


ファイは知っていた。自分が何なのか。本来ならそれを仲間に伝える事、それがファイの役目だった。


「普通、人は死と生を何度も繰り返すらしい」


突拍子も無いファイの言葉にサナは彼女の話の意図が掴めない。しかし彼女は構わず歩を進めながら話し続ける。


「だが、私は恐らくこの世界の終焉、その危機が迫るタイミングにしか生まれて来ない。神の御子の記憶を残すものだからな」


きっと何度も生まれ変わると膨大すぎる記憶を留めておけない為、ファイは生まれ変わりのタイミングがいつも同じなのだ。


「シャイアから聞いてるんだろ?私が5つの宝玉だと」


ファイが当然のように言ってくるのでサナは観念した。


「何故分かった?」


「何でって、お前所々で私の発言に警告を出してるだろ。事情を知らない人間がいちいち気にするかよ」


ファイが余計なことを言わないか気にしているサナにファイはずっと気づいていた。

シャイアはファイの事実を知っている唯一の人物である。きっとサナは、シャイアが最も信用している者なのだ。でなければファイに近付けるはずがない。


「お前はもっと自衛を心掛けろ。初めて会った人間にペラペラ教えてやる必要など無い」


「信じるかよ。大体は笑い飛ばして終わるさ。あいつはどうかな」


ファイは愉快そうに笑っている。

もしかしたらそうやって試しているのかも知れない。


そんな話をしてるうちに次の村らしき場所に着いた二人は、その村に入ると辺りを見回した。人の気配が全くしない。恐らく廃墟の村だ。


「まだ使わなくなって間も無いな。建物が綺麗だ」


村をあらかた見て回ると、まだ使えそうな空き家に二人は入って行く。今日はここで休むしかなさそうだ。

ファイは外から薪をいくつか拝借すると、暖炉と釜の下へ放り込み暖炉の薪に火を放った。


「水を汲んで来る。お前は使えそうな毛布とか探しとけよ」


有無を言わせず出て行くファイを見送りサナは溜息を吐いた。


(さて、これからどうするかな・・・・・)


今まで黙ってファイと行動して来たがそろそろ事実を話さなければとサナは思っている。サナは確かに狙われている。しかし事情はファイに説明したものとは少し違う。


(先ずは先にアイツの制約を解かなければ。話はそこからだな)


彼は全て知っていた。だがそれを口にするつもりは今の所ない。彼女がそれを必要になるまで。


(馬鹿な女だ。全く)


サナは微かに笑って部屋を漁り始める。今夜あたりファイと揉めそうなので逃げ出さない様に準備しておかなければとサナは気持ちを切り替えた。


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