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ファイの秘密

「またシャイアと遊びに行くの?」


それはシャイアとファイがだいぶ打ち解けてきた頃。

その日は仕事に加わらなかったロゼがファイに尋ねてきた。

ロゼは、なんだか気に食わなそうだ。


「ロゼも来るか?」


「いい。私、まだついていけないから」


この頃、ファイの剣の腕はロゼを遥かに上回るものだった。ロゼも訓練はしていたが、ファイ程完成されてはなく、どちらかと言えば魔術の使い方の方が上達していた。


「気にする事ねぇのに。シャイア強くて面白いぜ?」


本当を言うとロゼはファイを取られてしまったような気持ちだった。だがそれを何とか口にするのを我慢していた。

ファイには今までロゼ以外、気を許せる友達が居なかった。それが最近シャイアと交流する様になりとても楽しそうにしているファイを見て、もしかしたらそれはロゼの所為かもしれないと思い始めていたのだ。


「じゃあまた今度。シャイアがいいと言ったら私も仲間に入れて」


そう言うとロゼはファイとは逆の道を歩いて行った。

ファイは訳がわからず首を捻った。


(そんなのいちいち聞かなくてもいいのに)


ファイは訳も分からないままいつもの様にシャイアの下へ向かった。

いつもの様に集落から少し離れた広場に向かうと見覚えのある子供達がシャイアを囲んでいた。ファイは眉間に皺を寄せた。


(なんだあいつら。シャイアと何を・・・・)


「お前ファイを押し付けられてるんだって?大変だなあんな凶暴な女の相手をするなんてよ」


「ファイより強いんだろ?あいつ調子に乗ってるから痛い目見せてやろって皆んなで話してんだよ。お前も加わんないか?」


ファイは腹が立って持っていた棒を握りしめた。

それなのに、そこから一歩も動けなかった。黙って話を聞いているシャイアが信じられなかったのだ。

もしかしたら、シャイアはずっと我慢してファイの相手をしていたのかも知れない。そう考えて落胆している自分がいた。


シャイアは暫く話を聞いていたが一通り聞き終わるとふっと笑った。


「お前達は女一人相手に束になっても勝てないのか?」


その言葉に少年達の顔は見る見る赤くなっていく。

シャイアはそのまま気にせず話を続けた。


「大した努力もせず楽な方法で気に入らない者を蹴落そうとする。お前達みたいな者達が俺達の仕事を無駄に増やす。害があるのはファイではなくお前達だ。それにファイはただの凶暴な女ではない。後数年すれば化ける」


化ける?もっと筋肉ムキムキになると思っているんだろうか?ファイはしばし怒りを忘れ考えた。


「何言ってんだお前?訳わかんねぇ。もういい!行こうぜ!」


子供達はぞろぞろと離れていく。ファイはそれを見送るとシャイアの所へ出て行った。


「いくら私でもこれ以上ムキムキにはなんねぇぞ?」


シャイアは呆れた顔でファイを見ると深く溜息をついた。


「お前今いくだ?」


「6歳だけど、何だよいきなり」


ファイの歳を聞いてシャイアは天を見上げた。想像していたより若かったらしい。


「じゃあ後せめて6年後に俺が言った意味を教えてやる」


「そんな待てねぇよ。今教えろよ」


「じゃあお前の秘密を教えるなら教えてやる」


すかさず返されファイは沈黙した。思わず隣にいる妖精を見る。妖精は面白そうに笑っているだけだ。


「お前のその口の悪さ、生まれつきだろ?ロゼの家族はそんな喋り方はしない。どこで覚えた?」


ファイは正直とても驚いていた。今までファイの言葉遣いの事についてこんな風に聞いてきた者はいない。

そしてその指摘は的を射ていた。


[いいじゃん。教えてやれよ。信じるかどうかはコイツの自由だし]


そう言われファイはロゼにさえ話した事がない自分の秘密をその日シャイアに打ち明けた。




「前世の記憶がある?」


シャイアはファイの告白に落ち着いて聞き返した。今、二人は高い木の上に腰掛けながら話をしている。

ファイは足をプラプラさせて頷いた。


「コイツはプリィティシア。妖精の姿をしてるけど精霊だ。コイツはその頃からずっと私といた」


その妖精プリィティシアはニヤリと笑った。シャイアはこれにも落ち着いて頷く。


「前世の記憶は生まれた時から私にあった。その時の記憶が男のものだったから、自然とこんな口調になった。よく気付いたなお前」


「6歳にしてはお前は出来上がりすぎている。ロゼもそうだがお前はそれ以上に子供っぽくない。6歳には見えなかった」


そうだろうか?とファイは首を傾げる。そんな事気づかれた事もないが。


「それを言うならお前も年相応に見えねぇよ」


ファイの言葉にシャイアは頷いた。

シャイアは見た目は12歳くらいに見える。


「俺は人間じゃないからな。お前達とは歳のとり方が違う。子供に見えてそうではなかったりする」


「え?お前人間じゃねぇの?」


ファイは驚いて目を見開いた。

全然気が付かなかった。と、言う事は。


「もしかして、魔人?」


ファイの表情が瞬く間に暗くなる。

しかしそれにはシャイアは首を振った。


「まぁ近いが、そうではない。魔人から生まれた突然変異とも言うべきなのか・・・・俺達は魔人が闇に落ちた時、それらを処理する為に存在する者達だ」


「そんなの聞いたこともないぞ」


「ここ数百年程の間に誕生した一族だ。魔人の力は強すぎる。一度暴走してしまえば止められる者はそういないからな。魔人と匹敵する力を持つ俺達に与えられた使命だ」


ファイの表情は暗いままだ。シャイアは首を傾げた。


「何だ。何か気に入らないのか?」


「魔人が悪い訳じゃない」


ファイは吐き出す様に呟いた。シャイアは目を見開いてファイを見つめた。きっと前世に知り合いがいたのだ。


「そうか?騙される奴も悪い」


シャイアは辛辣だった。ファイはその台詞には少し理解を示した。


「それはまあ、馬鹿だとは思うけどよ」


ファイは自分ではない自分の記憶を思い返す。


その頃のファイには仲間が沢山いた。

そして、その中にはロゼもいた。

ファイは初めてロゼに会った時の心の震えを今でも忘れられない。愛しくて愛しくてたまらなくなった。

遠い昔、目の前で守れなかった命。


「それで?化けるって何だよ?」


「お前、前世の記憶がある癖に、そこはわかんないんだな」


シャイアは可笑しそうに笑った。ファイは初めてシャイアの笑い顔を見て見入ってしまう。シャイアは面白そうにファイの顎を掴むとファイに顔を近づけた。


「お前は将来美しく成長する。誰よりも」


ファイは衝撃的過ぎて目が点になったままシャイアを見つめ続けた。この青年は一体何を言っているのだろうか。


どう反応していいのか困っているとシャイアはそのままファイの頬に唇を当てた。驚いて押し返すとシャイアは素直に体を離した。ファイは頬を手で押さえて彼を睨む。


「だから、6年後に言うと言っただろうが」


それ以上シャイアは余計な事を言わず聞きもしなかった。

しかしファイはもう話をまともに聞いている余裕が無かった。シャイアは6年後、と言った。そんなにも長くファイといるつもりがある、という事の方が今のファイには衝撃的な事実だった。



「ファイ?どうしたの?変な顔して」


帰って来ると、ご飯の支度をし終えたロゼ達が出迎えてくれた。ファイは思わず自分の頬を押さえた。


「変?」


「・・・なんか、嬉しそう?」


ロゼの言葉にロゼの母親はにやにや笑いながらファイを撫でた。


「なぁに?彼氏が出来たの?やるわねぇファイ!」


「え!?ま、まさか!違うよねファイ!!」


そんな二人に挟まれファイは呆然とシャイアが言っていた事を思い出した。


ーお前は将来美しく成長する。誰よりもー


ファイは頬を赤くして、その場にしゃがみ込んだ。


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