ファイの計画
「ふぁっふぁっふぁっふぁ!!!!」
そこは地下の宮廷だった。
宮廷とは言ってもそこまで煌びやかではない。
しかし、建造物は美しく掘られ、その完成度の高さには観た者皆感嘆させられるだろう。
「おっちゃん元気そうだな!幾つになった?」
「そうさなぁ。ざっと千歳くらいかの?」
あっはっはっはっは!!
地下に笑いがこだまする。サナは黙ってその成り行きを見守っている。
「中々顔出せなくてごめんな?どうよ、火山のようすは?」
「お陰様でな。こちらはなんともないぞ。全てはお前の積み重ねの成果じゃな」
どうやらファイがこの国の何かに手を貸しているらしい事がわかりサナはやっとこの歓迎ぶりを理解した。
もしかしたらファイの魔力を火山の活性化に使う手段があるのかもしれない。
「して?今回はどうした?」
「ああ。コイツの修理をしに来たんだ。だいぶ酷使しちまったからなぁ」
ファイが剣を差し出すとドワーフの王はその剣を受け取った。しばし眺めると側近にそれを手渡した。
「これを今のファイに合う様に直せ。後彼女に失礼のない様にな。彼女は我ら火の恩恵を受ける者にとって尊い者だ。決して手を抜くな」
そう言われ側近は真面目な顔で剣を受け取った。
ファイは辟易とした顔をする。
「おっちゃん・・・・そういうのはやめようぜ?」
「こういう事は大事なんじゃ。ちゃんと伝えていかないと皆すぐに大事な事を忘れてしまうからのぉ?」
ファイはそれ以上余計な事は言わなかった。
そして隣にいるサナを王に紹介する。
「おっちゃんコイツはサナ。私の相棒だ」
「お会いできて光栄です」
サナは無難に挨拶した。ファイの様に挨拶する訳にはいかない。
「儂はこの国の王ガゼルじゃ。ファイの相手は大変だろう?大したものは無いがゆっくりしていくがいい」
王も普通に挨拶した。
そして微妙は空気になった。何故だろう。
「おっちゃん。コイツは私と違って真面目だから面白い事は言わないぞ?サナ、持ってきたものを渡してくれ」
ファイが持つと危ないという理由でサナが持っていた荷物を下ろすと、その中から木箱をとりだす。その途端、王の目が輝いた。
「秘蔵品だから味わって飲めよ?特別だからな」
「ファ、ファイよ!!流石儂が認めただけの事はある!気が利いておるなぁ」
それはドワーフ国では手に入らない高級な酒だった。
ファイは満面の笑みでその酒を差し出した。
「と、いう事で修理代はタダにしてくれ!!」
サナと周りの側近はファイの無邪気な要求にギョッとした。しかし王は嬉しそうに頷くとファイの頭を撫でくりまわした。
「可愛い可愛いファイの頼みだからのぉ?勿論じゃとも」
サナはこの国の部下たちに心底同情した。
王との謁見の後、宴が始まりいつまでも終わらない様子だったので、サナはそこを抜け出て地下から地上に登る道を歩いていた。
その先に見覚えのある黒髪がチラリと見えた。
サナはそれを目指して歩いて行く。
「久しぶり」
その人物は楽しげにサナに話しかけた。
サナは無表情で黙っている。
「どうしたの?口がきけなくなった?それとも何故俺がここに居るのか考えているのかな?」
その姿はシャイアに似ていたが、よく見ると全く違う人物である。黒髪だが目の色が黄色い。
「何をしに来た?」
「そろそろ死んだかと思って。心臓を回収しに?」
彼はケラケラと笑っている。しかし、目は笑っていない。
「・・・回収してどうなる。お前では適合しないだろう?他に適任者が現れたのか?」
サナがそう言うと、その男は忌々しそうに顔を歪めた。
「適合ね。そう、それさえなければシャイアなんかにレオンの大事な心臓を渡したりなんかしなかったんだ。ほんと忌々しいよ」
魔女の末裔が代々引き継ぐ心臓は誰にでも渡せるわけでは無い。それを決めるのは引き継がれる心臓そのものである。サナは溜息をついた。
「次の適合者が現れるまで大人しくしていろ。どうにもならん」
「だからさぁ?あの女の心臓をシャイアに戻せばいいんだよ。そうすれば何も問題ないだろ?」
軽い調子のその男にサナはうんざりした。このやり取りももう何回目だろう。
「彼女を死なせる訳にはいかない。彼女はこの世界に必要な者だ。俺達よりもな」
そう。実はサナは仲間に追われていたのではない。
確かに足止めされてはいたが彼等は逃げるシャイアを説得する為つきまとっていたのだ。サナはそれがファイに知られるのを妨害している。事実を知れば彼女は躊躇いなく心臓をシャイアに返すだろう。そしてファイは死ぬ。
「ふぅーん?そんなに大事なんだ?あのちんちくりんが」
「お前。今まで俺の話をちゃんと聞いていたか?」
何故サナの周りには人の話をまともに聞く者が居ないのか。サナは頭が痛くなる。最初にファイを見つけたのもこの男だった。本当に煩わしい。
「あのチビ意外と頭が切れるだろ?気づいてるんじゃない?」
一瞬考えサナは首を振った。きっと、まだ隠し通せている筈だ。
「そうならない為にさっさと消えろ。邪魔をするならお前でも殺す」
サナは物騒な事を口にする。男はやれやれと体を起こし出口に向かって歩いて行く。
「俺は諦めた訳じゃないよ?」
その姿が消えるまでサナはそこから目を離さなかった。
****
「おい」
男が宮廷からこっそり出ようとしていると突然何処からか声をかけられた。彼は驚いて周りを見渡したが誰もいない。
「どこ見てんだよ。上だ上」
顔を上げるとすぐ上の崖の影から見覚えのある女が声をかけてきた。男は顔を引きつらせた。
「お前サナの仲間だろ?って事はシャイアを追ってる奴だよな?」
彼はどうしようかと思案した。サナに釘を刺されたばかりだ。今日は大人しく帰ろうとしていたのだが。
「やっぱ。シャイア死にそうなのか?」
ファイはサラリと確信を突いてきた。男は誤魔化すのを諦めた。
「お前。どこまでわかってるんだ?」
「・・・・・全部?」
男の体は前のめりになる。この女信じられない。
と、言う事は全て分かった上ですっとぼけているのだ。
「シャイアにさ、心臓返すって言ったらすげぇキレられてさぁ?やり方を教えてくれねぇから別の手を考えてたんだ」
「なるほどね?それで俺?」
ファイはニヤリと笑うと崖から降りてきた。
「その姿では初めてだな?マルコだっけ?」
ファイに正体を見破られマルコは更に笑みを深めた。
「すげぇや!いつ気が付いた?」
「ん?最初から人間じゃねぇとは思ってたぜ?サナがお前と頻繁に接触してたのも知ってる。気配は隠してたみたいだが近くに居たからな。私は子供の頃から親父に気配を追う訓練を受けてたから後を付けるのなんて朝飯前だぜ?」
そんなファイにマルコは両手を上げて降参した。ファイは手招きしてマルコを誰にも見えない位置へ誘導する。
「お前。方法を知ってるな?それは私でも出来るか?」
「いや。出来ない。俺達じゃなきゃな」
ファイはしばし考え、とんでもない事を口にした。
「じゃあお前、今から私を誘拐しろ」
「・・・・・は?」
マルコは目が点になった。彼女の言った意味が理解出来ない。
「シャイアを誘き出す。来なければ私を殺すと言え」
とんでもないファイの要求にマルコは眩暈がした。この女本当にとんでもない。
「後。万が一私の心臓が止まって私が死んだ時なんだが、その時は私の身体をここへ持ってきて欲しいんだ。転移装置を持っているからお前に渡しておく」
「・・・お前。お前はそれでいいのか?生きたくないのか?」
マルコの言葉にファイは笑った。
「私はもう、充分過ぎるくらい生きた。私の役目は仲間をあるべき場所へ導いて、その身をこの国の火山の糧にする事だ。それを果たす為、元の自分に戻らないといけない」
彼女の言葉にマルコは笑みを消した。
彼は、彼女の事をずっと我儘で自由な、シャイアを振り回しているだけの人間族だと思っていた。しかしそれは誤解だったと分かったのだ。
「きっとシャイアは苦しむだろう。今度こそ嫌われるかもな。それでもアイツの死だけは見送りたくない」
ずっと彼女は皆を見送って来た。
孤独の中、たった一人で死を迎えてきた。
「愛してるんだ。シャイアを」
だからこそ。
彼だけは嫌だった。




