表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/31

終わりを望む者、終わりを与える者

ファイとサナは城下町に通る地下水路への入り口を見つけ中に入って行く。

地下水路は恐らく街全体に広がっているようだ。ファイは気配のする方へ躊躇なく歩いていく。

暫く歩いて行くと狭い地下通路がいきなり開け地上からの光に照らされている場所に出た。

ファイとサナは同時に武器に手をかけた。


「パメラ」


そこには壁にもたれかかりすっかり姿が変わってしまった彼女がいた。黒かった髪は白くなりその肌は青白くなっている。ファイはパメラのその姿に呆然とした。


「あら・・・見たことがある顔だわ」


パメラは力無くファイを見ると微笑んだ。その笑みはまるで親しい者に向けられるものだった。ファイはそれには表情を崩さずパメラに近づいて行く。


「なんだその姿は。お前何をした?」


「・・ふふ。ちょっと敵を甘く見てたわ。やはり神を相手にするのは難しかったみたい」


パメラは笑いながら目を閉じた。ファイはパメラの目の前で足を止めるとしゃがんで彼女の顔を見た。

彼女の見た目はあの時のままの若さを保っている。しかし身体の中身はボロボロな事がファイには分かった。


「約束を、果たしに来てくれたのね?」


パメラの言葉にファイは眉を寄せた。そうだ、だがこのままトドメを刺すことをファイは躊躇った。


「お前、何かを奪われただろう?どこで奪われた?」


「さぁ?この国の祭壇には人間の地を縛り付ける神ガルドルムが眠っている。そこで、バルドの娘を攻撃した時反撃を受けて、その時力を奪われた。恐らくガルドルム神に。取り返すのはもう無理ね」


ファイはパメラの身体に触れると顔を歪めた。彼女の魂の形が歪になっている。このまま殺せばその魂が消滅してしまう。それではファイの目的が果たせない。


「ベルグレドという子も、意外としぶとくて。あの子は貴方達と同じ運命を負う者なのね?もっと早くに気付くべきだったわ。貴方達の事があったのに、私も馬鹿ね」


パメラの言葉にファイは目を見開いた。パメラはベルグレドと戦ったらしい。


「ファイ。私の愛しい男は死んだわ。もう、どうでもいい」


「お前は何がしたかったんだ?」


その言葉にパメラは微笑んだ。まるで可笑しそうに。


「復讐よ。分かっているんでしょう?私達を地獄に突き落としたこの世界の予言に、5つの宝玉達に、私達を振り回す神々に」


その為にパメラは周りを巻き込み殺していった。躊躇うことなく。


「イントレンスを壊したかった。その手段を探したわ。でも、私はやっと気が付いた」


「貴方の、その行動さえ、最初から決められたものだった。全てはアーシェとロゼ、そしてファイ達を出会わす為の」


突然サナがパメラに語りかけ、ファイは顔を上げて彼を見た。パメラはサナを見て、笑った。


「貴方、なんて姿をしているの?私といい勝負ね」


「訳あって。久しぶりだな。パメラ・リュー」


二人の会話を聞いてファイは驚いた。この二人は最初から知り合いだったらしい。


「貴方のせっかくのご忠告、結局役に立たなかったわ。ごめんなさいね。でも、後悔はしてないわ。だってバルドが他の女と添い遂げるなんて耐えられないもの」


「では、何故彼の側に居なかった?」


「・・・・・何故かしら。やはり復讐かしらね。だって、あのまま私が側に居たら彼はすぐに私を殺してしまうもの。彼は私とは別に大切なものを作った。そんな簡単に楽になるなんて許せないでしょう?」


サナも近くまで来るとパメラの様子を確認する。そしてファイを見た。


「どうしたい?」


サナの色素の薄い瞳をファイはじっと見つめた。ファイは立ち上がると来た道を歩き出した。


「ファイ?どこへ?」


「ほっておいてもいずれ死ぬ。今は殺す価値も無い」


そのファイの言葉にパメラは初めて狼狽えた。


「待ちなさいファイ。私を殺して行きなさい!」


そんなパメラの言葉にもファイは足を止めない。パメラは叫んだ。


「私を生かしておいたら、またロゼが危険な目に合うわよ!!アーシェだって!!あの子はまだ生きている!」


「約束は守る。お前は私が殺す」


ファイは静かな声でその言葉を絞り出した。


「パメラ。お前を愛する男の下へ帰してやる」


パメラは目を見開くと驚いたままファイの背中を見つめた。そして、そのまま居なくなるその姿を、何も出来ずに見送った。



****




「・・・・よかったのか?ほっておいても」


サナは外に出ると前を見たままファイに尋ねた。ファイは一瞬黙って考える。

力は奪われ弱っていたが直ぐに死ぬ事はないだろう。あのまま大人しく隠れていればだが。


「ベルグレドに会う。サナ、パメラの動向がお前にはわかるか?」


そう言われてサナは難しい顔になる。


「近くにいれば、離れてしまえば気配では追えない」


「じゃあ、あいつが移動しそうになったら教えてくれ。報酬は血でいいか?」


その言葉にサナはピタリと動きを止めた。ファイは真顔でサナを見た。


「必要なんだろ?定期的に。おかしいと思ってたんだ、力を使うとしばらく使えなくなっていたからな。力を使うには対価が必要なんだろ?」


「施しなら受け取らない」


「報酬だって言ってるだろ?正当な対価だ」


その言葉にサナは怒りを露わにした。ファイの胸ぐらを掴むと自分に引き寄せる。


「なら、違うものを寄越せ」


そう言うといきなりファイの唇に噛み付いた。そのままファイの口の中に舌を強引に差し込む。ファイは抵抗せずにそのままサナのしたい様にさせている。


ファイの身体からサナの身体に魔力が移動していく。かなりの量だがファイは平然と大量の魔力をサナに渡した。

サナはやっと唇を離すとファイを引き離した。


「しばらくお前とは別行動をする。宿屋は変えない、俺に用事があるならそこで待て」


彼はそう言うとファイを置いてサッサと行ってしまった。

ファイはそんなサナをじっと見つめたまま動かなかった。



ファイは数日間ガルドエルムの城下町で身を潜めていた。

あれからロゼと連絡は取れていない。だが、噂でエルグレドが行方不明になったと聞き、上手くやったのだと思った。そのまましばらくロゼとは会わないでおこうとファイは決めた。


(パメラの事が知られると面倒だ。先にベルグレドに会わないとな)


しかし、相手は貴族である。貴族街には一般市民は許可なく入れない。潜んで行くことも出来るが・・・。


ファイは考えながらもう1つの問題を思い出した。サナである。あれから一度も会っていない。


(アイツ、すげぇ怒ってたな)


サナが本気で怒った所を初めて見た。よく考えてみればファイを相手に怒らない者など今までロゼとシャイアぐらいだった。他の者はすぐファイに腹を立てる。


(何に腹を立てたんだ?わからん)


今までサナが寄越せと言ったら拒否してきた。渋々与えたこともあったがファイから進んで渡した事はない。それをやると言ったら怒り出したのだ。解せない。


「意味がわからん」


ファイは溜息をついた。サナが居ないとなんだか落ち着かない。暫く一緒にいたせいだ。ファイは隠れ家のドアを開けた。


「あれぇ?ファイ?」


背後から聞き覚えのある声がして勢いよく振り返ると、そこには何故かリュナがいた。ファイは目が点になった。


「リュナ?なんでお前ここにいんだ?」


「いや、何故ってガルドエルムの様子を見に。ロゼの事聞いてないの?」


そう言われファイはリュナに詰め寄った。


「ロゼがどうした!?」


「いや、ちょっとヘマして動けなくなったみたいで。今はラーズレイに近い所で身を潜めてる。珍しくルシフェルが私に連絡してきたから、よっぽど切羽詰まってたんだと思うけど・・・」


リュナはルシフェルの名前を嫌そうな顔で出した。この二人、実は現在とても微妙な関係である。


「そうか、でも無事なんだよな?」


「ええ、それは大丈夫みたいよ。てっきりファイも一緒にいるかと思ってたわ」


リュナは笑いながら部屋に入って行く。そこはロゼがもしもの時のために確保しておいてくれた場所である。


「動けないロゼの代わりにこの国の様子を見に来たのか?」


「そうね。あと、どうもロゼと一緒にいる男の弟が行方が分からなくなっていたみたいで、それも確認しにね。まだ、どこに居るかわからないのよ」


ファイはピクリと身体を動かした。ベルグレドの行方が分からないらしいと聞いて内心舌打ちした。


「リュナはいつまでここにいる?」


「あと一週間くらいは調査するわ。もしかしたら帰っているかも知れないしね」


ファイがニヤリと笑うとリュナはジト目でファイを見た。


「ファイ・・・また変なこと言い出さないでよ?」


「リュナ。一人じゃ心許ないだろ?私と遊ぼうぜ」


ファイの笑みにリュナは笑ってやれやれと手を上げた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ